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【ろくりんぴっく】貫け! 君の想い!

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【ろくりんぴっく】貫け! 君の想い!

リアクション


第2章


 競技開始前。
 ヴァイシャリー湖の中央にある、丸い台の上ではいつもの服を着ているホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)と、エレキギターを持った咲夜 由宇(さくや・ゆう)、気が付いたら巻き込まれて応援になった高峰 結和(たかみね・ゆうわ)、チアの格好をしているサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)、少し恥ずかしそうにレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が立っていた。
 台の下の空間では他の応援する人達と一緒に閃崎 静麻(せんざき・しずま)クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)服部 保長(はっとり・やすなが)の応援の演出を買って出た人達が慌ただしく動いていた。
 ホイップ達の耳には小型イヤホンが付けられている。
 勿論、前日までに調整は終わっており、きちんと使える状態になっている。
 客席に設置してある音響設備や撮影装置も前日までに準備が完了している。
 イヤホンから静麻の声が聞こえてきた。
「準備は良いか?」
「うん!」
 5人が同時に頷く。
「ボート競技の開始を華々しく飾ろうか!」
 静麻がそう言うと、由宇は超感覚を使用し、コウモリの羽を背中から出してエレキギターを弾き始めた。
 曲はろくりんぴっく公式ソング。
 ちょっとアレンジが加わり、テンポが早くなっている。
 他の音は静麻が用意したものを流しているのだ。
 曲が始まるとざわざわしていた客席が静かになった。
 ホイップと結和、レイナが歌い出し、サフィが舞台全体を使ってダンスを披露した。
 ホイップの歌は相変わらず可もなく不可もなくな感じだが、結和の歌はもう少しおどおどした感じになるかと思われたが、腹をくくったのか結構声が出ている。
 レイナも歌詞を間違えず、綺麗な声を響かせた。
 歌が無事に終わると、客席から拍手が起こった。
 丸い台の中央部が下がっていき、ホイップ達は回収された。
「き、緊張したー!」
 舞台から完全に降りると、ホイップがそう呟いた。
「お客さんもしっかり聞いてくれたし、最高の舞台だったと思います〜」
 由宇は満足そうに言った。
「まさか……客席で応援するだけにしようと思ってたのに、こんな形で参加することになるなんてー!」
「でも、凄く歌えてたよね!」
 結和の腕を軽く叩きながら、ホイップが言う。
 それを受けて、結和は顔を赤くしながらうつむいてしまった。
「そうそう! 良かったわよね!」
 サフィも楽しそうに言った。
 華麗にダンスを披露していたので、息が上がっている。
「サフィさんのダンスも可愛かった!」
「ありがと〜」
 ホイップがサフィに賛辞を贈ると、嬉しそうに返した。
「さ、応援はまだまだこれからです。気合いを入れていきましょう」
 レイナの言葉に皆が頷く。
 競技前の前座はこれで終了した。


 湖の上では東を黄色いカヌーが、西を青いカヌーが並んでいる。
 カヌー後方の競技者は櫂を持ち、前方の競技者は水鉄砲を構え、スタンバイが完了している。
 実況席に置いてあるデジタル時計を確認し、キャンディスがピストルを空に向けた。
 ピリリと張りつめた空気が漂う。
「よーい……」
 キャンディスは自分の左手で左耳を押さえた。
 競技者と観客の心臓、両方が鼓動しているのが聞こえてきそうだ。
「スタート!」
 マイクに向かって叫ぶと同時に、ピストルが撃たれ、ろくりんぴっくボート競技が今――開始となった。

『ここからは実況のキャンディスがお伝えします』


■□■□■□■□■


 ピストルが鳴ったと同時に飛び出したのは黄色いカヌー……いや、黄金に輝くカヌー。
 エル選手と蒼也選手の2人組みネ!
 どうやら黄金色に輝いて見えるのはエル選手の衣装のせいみたいヨ。
「うおぉぉぉっ!」
 2人の雄叫びが聞こえてくる。
 青いカヌーの群れへと突っ込んでいく!
 エル選手は始まって早々にパワーブレスを発動させ、腕力を上げているようだネ。
 早い、早い、早いネ!
 どこよりも早く西陣に到着。
 2人の前に立ちはだかるは透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)選手と璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)選手のペア。
「飛んだら反則負けだからな……いいか璃央、絶対に飛ぶなよ!」
「わかっております。万が一の際は、潔く水に濡れましょう」
 透玻選手の情報として入っているのは、人混みが苦手で水上なら大丈夫なはずと参加を決めたようネ。
 だけど……泳ぎも苦手みたいネ。
 せいぜい落ちないように、がんばヨ〜。
「なんか……やる気がなくなる実況だな」
 透玻選手、何やら言ってますが、ミーの耳には届きません。
「ええい、揺れでぶれて狙いづらい!」
 周囲を確認しつつ漕いでくれている璃央選手に対してと湖に文句を付けてるネ。
 撃っても、撃っても黄色いカヌーのポイにはかすらない。
「こっちも撃たせてもらうぜ」
 蒼也選手が撃つ!
 が、これも当たらないー!
 色々なところで開始されている戦闘によって、湖面が大きく揺れているのが原因のようネ。
 この中、狙いを定めるなんて大変ヨ。
 おおっと、ここでエル・蒼也選手のポイに水鉄砲の攻撃が当たりそうになる!
 なんと、エル選手、カヌーの向きを反転させ、ここで逆走ネ。
「くっそ! もう少しなんだ!」
「透玻様、追いますか?」
「ああ、頼む!」
 それを追撃する透玻・璃央選手。
 どこまで追うのか、この選手ー!
 しかし、パワーブレスは使えるネ。
 追い付かれずに、漕げてるヨ。
 それと、他の選手が助けに入ろうとしたのをエル選手が氷術で氷塊を作って浮かべたから進路の妨害になってるヨ!
 ちょっとずつ離されるが必死に食らいつく透玻・璃央選手。
「くっ……しまった」
 なんと、なんと!
 とうとう東陣の中まで来てしまったヨ!
 そして、黄色いに囲まれる青いカヌー一隻……絶体絶命ネ!
 逃げられない。
 一斉に水鉄砲の攻撃を浴びせられ、無残……透玻・璃央選手のポイは破られたネーー!
「もう終わりか……」
「終わりが早かったですが……透玻様と競技に参加出来て嬉しく思います」
「璃央……そうだな!」
 爽やかに退場となったネ。


「エルさん達はうまくいったようですね! こちらも頑張りますよ!」
「いくでござるよ!」
 おおっと、またも突っ込んでいく黄色いカヌーがあるネ。
 スノーマン選手が漕いで、漕いで漕ぎまくり、前方ではクロセル選手が格好付けたポーズで水鉄砲を構えているヨ。
「格好付けているのではありません! 格好良いのです! お茶の間のヒーローですから!」
 実況に返事をするだけの元気が有り余っているようネ。
「食らえでござる!」
 おーっと、近くに来たと思ったらスノーマン選手がブリザードを西選手のカヌーを巻き込んで、湖ごと凍りつかせた。
 これでは、身動きが取りづらい。
 どうする西チーム!
 うまくいったところで、クロセル選手が格好つけながら、近くにいるクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)選手とエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)選手のポイを狙う。
「申し訳ありませんが、取らせてもらいますよ!」
 絶対絶命のピーンチ。
 クレア選手とエイミー選手は氷に足を取られて身動きできない。
「くっ……」
 クレア選手、悔しそうだ。
 おや?
 クロセル選手達のカヌーの後ろの水が盛り上がっていく。
 どうしたことネ!
 なんと!
 湖の中から出てきたのは潜水していたクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)選手と島本 優子(しまもと・ゆうこ)選手ネー!!
 映像を確認したところ、ブリザードを使用した瞬間、必殺技『サブマリンアタック』を発動させ、湖の中を一時的に潜れるようにしたようヨ。
「なん……ですと!?」
「そんな……でござるっ!」
 驚きの顔を見せるクロセル選手とスノーマン選手!
「はぁあああっ!!!!」
 優子選手、掛け声とともに水鉄砲を撃ったー!
 放たれた水はポイを貫通し、和紙を破いたヨ。
「さすがだな」
 クレーメック選手が優子選手に声を掛けると、実に嬉しそうな顔を見せているネ。
 クロセル選手とスノーマン選手はここで脱落ネ。
 助けられたクレア選手とエイミー選手が氷を櫂で壊しながら進んでクレーメック選手達に近寄っている。
「助かった」
「何かあったら今度はオレ達が助けるからなっ!」
 クレア選手とエイミー選手が手を差し出すとクレーメック選手と優子選手は手を握り返した。
 競技を通して友情が生まれたようネ。
「食らうがいいわっ!」
 おっと!
 ここで妨害者の攻撃が入ったー!
 翼で飛んでいる三田 麗子(みた・れいこ)妨害者は何か袋を投下している。
「何をす……へっくしょい!」
 クレーメック選手の頭上に落ちた袋が破裂すると中から、何かの粉が出た。
 情報によると、小麦粉と胡椒が入っているようネ。
 目の前が白くなるし、クシャミが止まらないし、ここの4人はえらい目にあっている。
 クレーメック選手と麗子妨害者はパートナー同士であるにも関わらず、容赦がないネ。
 えーっと、麗子妨害者が競技に参加する前に呟いていた言葉は……
『一体、この私の何処が不満だってのよ! まったく、あんなに人を見る目の無いヤツだったとは思わなかったわッ!』
 だそうネ。
 …………どうやらカヌーに一緒に乗れなかった事を怒っているみたいネ。
 さ、ここは置いといて、次の場面にゴー! ヨ。


「兄貴、感動の再会は後回しだよ。今は……勝つことだけを考えて、突っ込むよっ!」
「いや、別に感動はしてないけどな……行くか」
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)選手の指示に従い、葉月 ショウ(はづき・しょう)選手が東チームの方へと突っ込んでいく。
 情報によると、この2人は双子の兄妹だそうネ。
「その前に……」
 なんと、動く前にショウ選手は自らのポイに氷術を掛けた。
 これで水鉄砲からポイを守ろうという作戦ネ。
 エリィ選手とショウ選手の後ろに居るのはガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)選手とエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)選手のカヌー。
「ふふふ、楽しめると良いわよね」
「えっと……よ、よろしく」
 エレナ選手は妖艶な笑みを浮かべているが、ガッシュ選手はおどおどしていて対照的ヨ。
 4人が捕まえた東チームの選手は清泉 北都(いずみ・ほくと)選手と白銀 昶(しろがね・あきら)選手。
「昶、無闇やたらと撃たないようにね。味方に当たっちゃうかもしれないし」
「わかってるって」
 昶選手、早くもショウ選手達のカヌーとガッシュ選手達のカヌーに攻撃を仕掛けた。
 ショウ選手の必殺防御『オールガード』が発動!
 手にしていたオールで水の矢を弾く。
 昶選手の水鉄砲の水が切れたー!
 この瞬間、エリィ選手の必殺技『バレットダンス』が発動ヨ!
 踊るように水鉄砲を乱射していく。
 これに対して、北都選手は華麗にオールを操り、船首の方向を変えてポイを死守。
 水の補給をすませた昶選手は、激しい動きの中、エレナ選手とガッシュ選手のカヌーへと攻撃を加えていく。
「わわっ! エレナさん、どこに攻撃すれば良いと思う?」
「そうね……あれなんか良いんじゃないかしら? あちらにぶつかれば……面白そうですわ」
「うん」
 エレナ選手の助言通り、ガッシュ選手が攻撃をする。
 しかし、その攻撃相手は……上空を飛んでいる麗子妨害者ヨ!
「な、何す……きゃぁーーーっ!」
 麗子妨害者は水によってびしょびしょネ。
 残念ながら、狙い通りにはならなかったようネ。
 怒った麗子妨害者は無差別に近くにいるカヌーに小麦粉胡椒袋を投げつける。
 これによって、この辺りの視界がかなり悪くなってしまった。
 これでは実況が出来ないヨ!
 この小麦粉の中へと入っていくカヌーがある。
「助太刀に行きますよ」
「うん! おにーちゃんっ!」
 影野 陽太(かげの・ようた)選手とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)選手のカヌー。
 撃ちあっているような水の音が聞こえてくるが、全く中の様子がわからなヨ。
 ん?
 聞こえてくるのはそれだけじゃないネ。
 ノーン選手の歌声まで聞こえるヨ。
 これは……ろくりんぴっくの公式歌ネ。
 やっと、少し風が出て来て小麦粉が晴れてきた。
 さぁ、どうなっているのでしょうか!
 生き残っているのは…………ショウ選手とエリィ選手のカヌーだけネーーー!
 陽太選手達はカヌーが転覆しており、ノーン選手が陽太選手を持ちあげて飛んでいる。
 中では何があったのでしょうか。
 確認VTRが届いたので、見てみるネ。
 最初、場所が分からずにとりあえず撃ちまくっている3選手。
 ここで、陽太選手達が乱入ネ。
 ショウ・エリィ選手のポイに攻撃が当たりそうなのを見て、自らのカヌーを昶選手達のカヌーとの間に入れて攻撃を防いでいる。
 昶選手の攻撃はエレナ・ガッシュ選手のポイには直撃した。
 ノーン選手、ここで乱れ撃ちー。
 北都・昶選手のポイに当たり、この時点で失格。
 しかし、カヌーの動きが止まらず、陽太・ノーン選手のカヌーにぶつかり、陽太選手達のカヌーが転覆。
 素早くノーン選手が翼を展開、陽太選手を持ちあげ飛んでいる。
 ここで小麦粉が晴れてきて今の状態になったヨ。
「もうちょっとやりたかったなぁ」
「そうですね、ちょっと残念ですが……西チームが生き残ったんですからヨシとしましょうよ」
「うん! そうだね!」
 陽太選手を持ちあげているノーン選手、そのまま岸まで行って、退場となった。
 ガッシュ・エレナ選手、北都・昶選手もカヌーを岸まで無事に辿り着いた。