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それぞれの里帰り

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それぞれの里帰り

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 ようやくにティセラ一行が店内から出てきた。「遅いよ」と出迎えたロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に、一同は頭を下げたが、すぐに再びに言い争いを始めそうになって−−−ロートラウトが叱りつけた。
 向かいの道へと渡ると、こちらは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が出迎えた。パートナーたちと共に朝からイベントに参加していたようだ。
「あれ? セイニィは一緒じゃないのか?」
「それが、ちょっとしたトラブルがありまして」
 ティセラは、カメラ小僧たちから逃れるために散り散りになって逃げた、という事実を何でもないといった口調で話した。よほど買い物が楽しかったのだろう、今もずっと嬉しそうである。
「まぁいいや、せっかくだから案内してやるよ」
 歩道に面した広場と言っても、会場はステージを設置すれば小さなライブイベントすら開催できるであろう程の広さを有している。決められた通路の脇には幾つものテントがブロックを成して並んでいた。
「ティセラさん、ティセラさん!!」
 その中の一角のテントから、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が呼び止めた。長机にはサークル名【田中わーくす】と書かれた紙が張り付けてあった。
「これ、これなんか、どう? 新刊だよ」
 手に取り眺めるティセラに、正悟は見開いたページを見せた。
「今回は 『空賊戦争』 を題材にしたんだ。戦闘シーンも多いけど、やっぱり見所はラストの 『告白シーン』 かなぁ」
「告白…。成功するのですか?」
「それはもちろん−−− って! 言えませんよっ、面白さ半減で買ってもらえなくなるじゃないですかっ!」
「ふふっ、そんな事ありませんわ。私は是非、一冊いただきます」
 改めて見た表紙の文字にティセラは首を傾げた。
「フラグ…王?」
 タイトルには 『俺が☆フラグ☆王だ』 と書かれていた。 確か空賊戦争が題材だと仰っていませんでしたっけ?
「如月」
「閃崎さん、どうでした?」
 額に汗を輝かせながら閃崎 静麻(せんざき・しずま)が爽やかな笑顔で掌を見せた。
「ばっちりだ。その奥の場所を使ってくれて構わない」
「よぉおし、これで売り上げ倍増だぜ」
 引っ張りだした段ボールからは、まだまだ同人誌が出てきた。時は金なりと言わんばかりに慌ただしく準備を始め、「今度、是非いっしょに合同本を出しましょう」と言い残して去ってしまった。
「心配ない、長机を取りに行っただけだ、すぐに戻ってくる」
 レジ前に立った静麻は、正悟の代わりをするのかと思いきや、携帯電話を取り出した。本部への定期連絡と売り子の応援要請をするのだという。
「実行委員みたいな事しちまってるからな。ずっとここに居る訳にはいかないんだ」
「実行委員? この即売会のですか?」
「あぁ。今時は、ずさんな運営管理じゃ、どこも場所だって貸してはくれない。土地の使用料交渉に、備品の調達方法、スタッフはもちろん参加者の管理に、警察への申請と警備依頼。この規模のイベントでも、やることは山のようにある」
 一つのテントの中に、幾つものサークルが店を出している所もある。それでも20ほどのテントが建っている光景や、そこに並ぶ客や群がる客の多さを見れば、下手な企業の告知イベントよりは、ずっとずっとに盛り上がって見えた。
「まったく、休む暇もない」
「その割には、楽しそうに見えますけど」
「そうか?」
 秋葉原の道すがらの広場が活気と笑顔で溢れている。中規模なイベントといえ大したものだ。
「あら?」
 少し離れた先のテントの中、サークル名【ワン・オフ】と書かれたテントの中に、見慣れた服を着た少女を見つけた。売り子をするリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)セイニィのコスプレをしていた。
「すてきな格好ですね」
「ありがとうございます。って! ティセラさん?!」
 デニムに白シャツ姿のティセラに、リリィは瞳を丸くして驚いた。コスプレのような衣装では目立ちすぎるので仕方なく着替えた、と説明すると、彼女は思わず笑ってしまった。
「ゴメンナサイ、つい。あっ、だったらここも早く離れた方が良いかも。さっきまで、あたしを撮ってた人も居たから」
 ブラキャミにホットパンツ姿は、やはりここでも盛況なようだ。カメラ小僧たちの間に彼女たちの画像データが出回っている以上、距離を置けるなら置いた方が良い。
「それでは、私は行きますわね」
「あっ、ちょっと待って」
 リリィは、木彫りで作った 『十二星華全員分の3頭身人形』 を、1つ、2つ、3つ4つ5つ6つ……… と、一式を手渡そうとしたが、さすがに気が引けたのか、ティセラは、「ティセラ・セイニィ・パッフェル」の3体を受け取ると、嬉しそうに礼を言ってから去っていった。
「はぁ〜、大変なんだなぁ。というか、本当に 『お忍びの芸能人』 みたいだね」
 人混みに消えてゆく彼女の背を見つめて、リリィは彼女たちが静かに合流できる事を小さく願った。
 セイニィの格好をしたリリィではなく、学ラン姿のセイニィも会場に間もなく到着するという所まで来ていた、のだが……。
「ねぇ…… 結局、目立ってない?」
 セイニィが不満の声をあげた。目立たないようにと学ランに着替えた訳だが、人の目は感じるし、距離は取っているものの既に数名がついて来ているのが見えた。
「そうですねぇ」
 メイド服姿の次原 志緒(つぐはら・しお)も辺りを見回した。
「確かに、妙に視線を感じます。何故でしょうか?」
「原因は………… あなたでしょっ!!」
 セイニィは、ビシッとツッコんだ。そりゃあ目を魅きますよ、こちらも美少女がメイド服を着ているのですから。
「っていうか、意味無くない? あたしだけ着替えた意味無くない?」
「そんな事はありません。とても良くお似合いですよ」
「そういう事じゃなくて……」
 これ以上目立つのはマズイ。人が集まってくれば、駅前で起きたような騒ぎに発展する危険性もある。騒いだり、大きな声を出したりせずに、静かに−−−
「見ぃ〜つけたよっ! ケバブ!!」
 バタバタ走りながら手を振りながら、天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は駆け寄ってきた。ん、まぁ志緒のパートナーだし、今まで行動を共にしてきたんだから、駆け戻って来る事に文句は無いわ……でもね。
「ちょっと、結奈! そんなに大きな声出さなくても良いでしょ!」
「あっ、セイニィちゃん! 見て見て! ケバブだよっケ、バ、ブ〜!」
「わかった、わかったからっ」
「はぁい、セイニィちゃんにもおすそわけ〜」
「申し訳ありません、結奈はケバブが大好きなのです、大好物なのです」
「でしょうね! 見れば分かるよっ!」
 ケバブを受け取り、一緒に食べ始めれば静かになるとお思いだったのでしょう。甘いです! ケバブはケバブ好きを呼び寄せるのです。
「あっ、ちょっ、あれっ! 美味しそう〜!」
 ケバブに喰らいつくセイニィのケバブを見つけて、アルマ・オルソン(あるま・おるそん)が喰いついた。
「ねぇねぇ沙耶、あれっ、あれだよっ!」
「アルマ! 指さしちゃダメでしょ」
「はっ! もしかしてあれが 『秋葉原と言ったらやっぱりケバブでしょ』 のケバブじゃない?!」
「えっ、そんなの聞いたこと無−−− ちょっ、アルマっ!」
 アルマに腕をグイッと引かれて倒れそうになって………… 倒れなかった。引かれた腕とは反対の腕をクローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)が握り支えていた。
「ちょっと、アルマ! 沙耶が痛がってるでしょ! 離しなさいよ!」
「クローディアこそ離してよっ! ケバブが、ケバブと思われし魅惑の食べ物が…」
「そこはもう 『ケバブ』 で良いでしょう?!」
「逃げるっ! 早くしないとケバブがぁぁ〜」
「逃げる訳ないでしょ! あなた、人が食べてるものを指さしてたのよ! その人が食べきるか、その人がランナウェイ以外には 『ケバブは逃げる』 にはならないのよ」
「じゃ、じゃあ、その人ランナウェイで」
「どこがよ! 思いっ切り幸せそうにケバブ喰わえてるじゃないのよ!」
「お2人とも、少し冷静になって下さい」
 シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)が2人の間に入った。沙耶にとっては正に助けの舟、引っ張られたままの両腕はもう限界で−−−
「よくご覧下さい、あの方の幸せそうな顔を。あまりの美味しさと満足感に陶酔している、心ここに在らず、すなわち、心ランナウェイな状態なのです」
 ボケに加わった?! しかも良く分からないボケを……
「冗談はさておき、2人とも沙耶の腕を放して下さい。そんなに引っ張り振っても沙耶の腕パーツは取れないですよ。獲るなら根元から丁寧に、いぇ、もいでしまわなければ―――」
「もがないで!! って、痛いんだってば! いい加減に離しなさいっ!!」
 ちょっと力技で抜けようとして。なぜか2人はその手を離すまいと抗って。いつもは絶妙名仲介役はなぜか3人の押し引きに混ざるフリをしていた。
「お、お願いだから騒がないで…… ん?」
 会場に入ってゆくパッフェルの姿をセイニィは見つけた。他の生徒たちも居るみたいだけど…… !!! パッフェルの服装! メイド服のままじゃない!!
「ちょっとパッフェル! そんな格好でいたら−−−」
 って、言ったそばから、売り子に声をかけられてる! いわんこっちゃない−−− って、あれ? 売り子は、OK?