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リアクション
『アポクリファ・ヴェンディダード』
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい。私こと『アポクリファ・ヴェンディダード』を御覧あれ。えっ、長い、だったら、『除魔書の外典』と呼んでくださっても結構ですよぉ。とにかく面白いんですぅ。古今東西の禁じられた宗教、祭礼などをまぜこぜにしたゾロアスター教の経典『アヴェスター』の内の『ヴェンディダード(除魔書)』を元にした本ですよぉー。読んでも損はさせないですよぉー」
まるで、八百屋の呼び込みのように、アポクリファ・ヴェンディダード(あぽくりふぁ・う゛ぇんでぃだーど)が叫んだ。
「そんなつまらない本よりも、わたくしの『アカシャ・クロニカ』の方が面白いですわよ。可能でしたら、『アカシャ年代記』とか、『アカシックレコード』と呼んでいただいても構いませんわ。わたくしの本体は『知りたいと望む事柄を示す』本です。ですが、相応の能力がないと白紙にしか見えませんのであしからず」
負けじと、アカシャ・クロニカ(あかしゃ・くろにか)も声をあげる。
「こらこら、二人とも。お前たちは、どちらも私の自慢の魔道書たちだ、どちらが偉いかなんて低次元の争いはするでない」
困ったもんだと、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)が二人に釘を刺した。
「だってぇ、アカシャには負けないですよぅ」
「アポクリファなんかには負けません」
注意されても、二人とも一歩も引こうとはしなかった。
「やれやれ、あちこちぶっ飛んだ内容の本が多いものだ。どれ、次はこの本を読ませてもらおう」
そう言いながら現れたエリオット・グライアスが、『アポクリファ・ヴェンディダード』を手に取った。
「わーい、ありがとうございますですぅ」
「がーん、そ、そんなあ……」
にこやかに微笑んで勝ち誇るアポクリファ・ヴェンディダードとは対照的に、アカシャ・クロニカがエリオット・グライアスに詰め寄った。
「どうして、どうしてなのですかあ?」
「はっ、単純に読みやすそうだったからなのだが。少し疲れたので、読むのに労力のかかるような本はちょっとな……」
「そ、そのくらいの手間。なんでもないはずですわ!」
エリオット・グライアスに顔を近づけて迫ろうとするアカシャ・クロニカを、夜薙綾香が謝りながら引き離した。
「世間の評価は絶対ですぅ」
しょんぼりとするアカシャ・クロニカに、アポクリファ・ヴェンディダードが勝ち誇って言った。
「私は、何かしてしまったのか!? 面倒ごとは嫌いなのだがな」(V)
エリオット・グライアスは、訳も分からず戸惑うだけであった。
「さあ、何か競争していたみたいです。あっ、次は私にも見せてくださいね」
きょとんとしながらも、ナナ・ノルデンがエリオット・グライアスに言った。
『月夜の晩のカルテット』
「みんなー、幻のラノベが今日は読めるよー、こんなチャンス二度とないんだもん」
「ちょっと待て、もなか、こんな所で何やってるんだ!?」
読書会に来ていた春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)は、予期していなかった小豆沢 もなか(あずさわ・もなか)の姿を見つけて驚いた。
「別に。まつりんには関係ないんだもん」
とぼける小豆沢もなかの肩越しに、春夏秋冬真都里は背後の様子をのぞいてみた。ちょうど本を読み終わったのか、オープン・ザ セサミ(おーぷんざ・せさみ)が文庫本を閉じたところだった。透明なカバーのかけられたその文庫本には、「まつりんは閲覧禁止、むしろ視界に入れるの禁止!」と大きくマジックで書いてある。
「あれって、もなかの魔道書だよな……」
「ち、違うもん」
なんとも分かりやすく小豆沢もなかが否定する。
「違うのか。ならいい」
そう言うと、春夏秋冬真都里はぷいと振り返った。
「ち、違うもん。表紙を見るぐらいだったら……」
無視されたのが分かって、逆に小豆沢もなかは春夏秋冬真都里にしがみついて彼を引き止めた。
「は、放せ。俺は、うちのおバカの魔道書よりも立派なよそ様の魔道書を読ませてもらうんだ!」
なんとか小豆沢もなかをふりほどくと、春夏秋冬真都里は他の魔道書の所へと行ってしまった。
「なかなか面白かったのに……。まつりくん、これをまだ読んでないのね」
もったいないと言いたげに、オープン・ザ セサミ(おーぷんざ・せさみ)がつぶやいた。
「うん。まつりんにはそのうちね」
小豆沢もなかはそう言って、ごまかした。
魔道書の方は、今は茅野菫が食い入るような目で見ている。
「わあい、次のお客様だ。サービスしなくちゃだよね」
そう言うと、小豆沢もなかは、茅野菫に近づいていった。そして、読書に夢中になっている茅野菫の耳許に唇を寄せる。
「君の瞳に映る、オレの瞳に映る君はダイヤモンド……by快音」
「わっ!」
いきなり耳許でささやかれて、茅野菫が悲鳴をあげた。
「びっくりするじゃん。突然何をするんだよ!」
「えっと、サービスなんだもん」
しれっと、小豆沢もなかが答えた。
「最低〜。どうせなら、もっとちゃんとした日本語でささやけよ」(V)
茅野菫の怒りももっともである。悪文の見本のような台詞をささやかれても、欠片も興味はわきはしない。活字中毒の茅野菫にとっては、キャラ中毒の思考とは微妙に次元が違うという、なんとも複雑怪奇で奥が深いんだかななめっているんだか分からない理論があるのだ。
「とにかく、サービスなんかいらないから、ちゃんと読ませなよ」
そう言い返すと、茅野菫は読書に戻っていった。
『エイボンの書』
「ふふふ……こいつはよい。我の欲しい情報が多く記載されておるわ」
両肩にそれぞれ猫を乗せているフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が、『エイボンの書』を前にしてほくそ笑んだ。
自らの『無銘祭祀書』と肩を並べる旧支配者の稀覯本に見いだせる価値は、他の者よりも遥かに多い。
「きゃー、『無銘祭祀書』が『エイボンの書』を読んでいるなんて、すごい、すごい! これに『ネクロノミコン』が加わったら、三すくみだよね!」
フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』を見て、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が叫んだ。クトゥルー学科としては、至福の光景らしい。
「以前ヒラニプラのなんたら市で手に入れた『ネクロノミコン』はとんでもないインチキ本で、なんの役にもたたなかったし……」
「あれは写本に写本を重ねていますから、第何版かで価値が違いますものねえ。もちろん、わたくしはそんなことはありませんわよ。ガスパール・ドゥ・ノルドが中世フランス語に訳す前の物です。よろしければ、解説してさしあげましょうか」
「ぜひにだもん!」
エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)の言葉に、カレン・クレスティアは嬉々として答えた。
「大丈夫ですか? 我らを読んで正気を保っていられるとは限りませんが……」
読んでいる途中にパニックになってもらっても困ると、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が言った。
「では、読む前にSANチェックをいたしましょう」
「そういうのはバッチリよ。えへへっ、天災少女のアダ名は、ダテじゃないよ〜! さあドンとこいだわ」(V)
エイボン著『エイボンの書』の言葉に、カレン・クレスティアは胸を張った。
「では、一分以内に三のつく四文字熟語をできるだけあげてください。はい、スタート」
「三チェック!?」
唖然とするカレン・クレスティアがしどろもどろで答える。とりあえず、一応の数値が出たらしい。
「はい、では、回答に見合った分だけ解説させていただきます。まずはツァトゥグアについてですが……」
「ちょ、ちょっと待って。何かメモは……。あ、これでいいわ」
そう叫ぶと、カレン・クレスティアは近くにあった分厚い本を手にとってメモを書き込もうとした。
「きゃー、勘弁してください。わらわの本体は、メモ帳ではございませんわ!」
あわやマジックでメモ書きされそうになって、白乃自由帳が悲鳴をあげた。
「だって、ページ、真っ白じゃない。それに、『ぱらみたじゅうちょう』って書いてあるし……」
「見えなくても、本当は有益な魔道の解説がびっしりと書いてあるのですわ!」
必死に自分の本体を取り戻すと、白乃自由帳はその場を逃げていった。
「騒がしいのう」
シュリュズベリィ著『手記』が、迷惑そうに言った。エイボン著『エイボンの書』が口頭で説明を始めたため、読む者のいなくなった『エイボンの書』を手に取ったのだが、ここは環境が悪そうだ。そのままラムズ・シュリュズベリィのいる所まで移動すると、シュリュズベリィ著『手記』は黙々と『エイボンの書』を読み進めていった。
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