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リアクション
歌とお弁当と動く木と 2
ふよふよと、箒で低空飛行をしながら、朱宮 満夜(あけみや・まよ)はお弁当を盗む木を探していた。
「風が気持ちいいです。空から眺める紅葉も、乙なものですね」
箒の先から、紐でお弁当箱をぶらさげて飛行する彼女の様子は、ある意味トローリングかもしれない。果たして、動き回るお弁当に木が食いつくのかはわからない。
「おい、あまり遠くに行くのではないぞ」
少し強い口調で、上空の彼女に声をかけるのはミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)だ。
「わかってます」
「わかっていれば、いいのだがな……」
ちらちらと、満夜の様子を見ながら、ミハエルは落ち着かない様子だ。
「……まぁ、空から監視するのはいい手だろうとは思う。思うぞ、しかしアレでは餌に木が食いついたら危ないではないか」
聞こえない程度の小さな声で、ぶつぶつとミハエルのは言う。
「さっきから、色々なところ回ってますけど、なかなか食いついてこないですね」
彼女がぶら下げているお弁当は、無料で配られているものではなく、自分で用意したものだ。中身は、かなり高級な食材がふんだんに詰め込まれている。正直、餌に使うには勿体無いレベルである。
「ずっと飛び回ってるので、少しお腹が空いてきましたね。一旦降りて、ミハエルと一緒にご飯でも……」
と気が抜けていた彼女のもとに、少し遠くから「泥棒ですーーーっ!」という、アリヤの声が聞こえてきた。
「聞こえましたかっ?」
「ああ、聞こえたぞ。あっちからだ」
二人が、声の聞こえた方に向かおうとすると、今度は後ろからも地響きのような足音と、追いかけているであろう人の声が聞こえてくる。
「え? きゃっ!」
後ろから大勢の人を引き連れていきなり現れた。
ミハエルは即座に飛びのいて避けた。満夜も同じく避けたはずだったが、ぶら下げているお弁当の分が頭に入っておらず、そこが引っかかってそのまま木に連れていかれてしまった。
「くそっ、なんということだ」
悪態をついて、ミハエルはその木を追う。
既に何十人という人に追いかけられている木だったが、かなり足が速く、そのうえスタミナが無尽蔵にあるのか一向に衰える気配が無い。
しかもその木は、一回捕まって逃げ出したのか、縄が巻かれているようだ。
「捕まえたのなら、きちんと捕まえておいてほしいものだ。全く、満夜がひっかかってなければ……」
木はもの凄い速さで逃げていく。
とにかく今は、見失わないように追わなければならない―――。
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、もっていた双眼鏡から目を離して、視線をミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に向けた。
「さっそく、大騒ぎになりましたねぇ」
「きちんとした作戦もなく、思い思いに行動してたんだから、必然よね」
「そうですねぇ。とりあえず、今動いている木はどうやら二本のようですよぅ?」
大騒ぎになっている場所は二つあった。それぞれ、木が縦横無尽に駆け回り、それをみんなが追いかけているというような状況だ。
あれだけ人が居るのだから、誰かが待ち構えれば捕まえるんじゃないか、と思うだろうし実際にそれを行った人も少なくない。が、みんな弾き飛ばされていた。
「あれを、真正面から捕まえるのは厄介そうですねぇ」
「かなり早いし、あのぐらいの木だと相当重そうね」
「重いものが早く動く、それだけで怖いですねぇ。それで、他に怪しい木はありますか?」
ミスティは首を振る。
「悪意は感じないし、動くものも人だけね」
「そうですかー。それでは、今なら厄介な巡回さんに文句も言われ無さそうだし、この混乱に乗じるふとどきものが出るかもしれませんので、作戦通りに餌を配置してきましょう」
「ええ、わかったわ」
「そうしたら、とりあえずあっちの木を追ってみましょうかねぇ。頃合を見て、餌の方を確認、ということで」
一匹見たら、三十匹。というわけではないが、今動いている木が全てある保障はどこにも無い。もしかしたらもっと多くの木がお弁当を盗んでいるかもしれない、というのが二人の考えである。
その為、餌のお弁当を広範囲に配置しようと考えていたのだが、普段どおりに巡回している生徒に目をつけられ、景観がうんぬん、ゴミの片付けがうんぬん、と言われて作業を邪魔されてしまったのである。
最も、今はその巡回も動き回る木に気づいて、追い掛け回す集団の仲間入りをしている。この状況なら、餌を配置するのを邪魔されることはないだろう。
「ま、お弁当泥棒があの二本なら、それに越したことはないんですけどねぇ。お弁当を食べる口があるなら、きっと喋る口もあるでしょうし、あの二本を早く捕まえれば仲間の事を喋ってくれるかもしれませんし、とりあえずあの木を捕まえてしまいましょうか」
「そうね。でも、普通にやっても止めるの難しそうよ」
「大丈夫ですよー。あちき達はしませんでしたが、あの木を捕まえるために罠を作ってる人がきっといるはずですぅ。穴を掘ったり、ね。まず、そんな努力家さんを探しましょう。そういう人が見つかれば、あとはうまく誘導するよう追いかけてる人に頼めばいいんですぅ」
「わかったわ。まだ一般の人の避難も済んでないみたいだし、当分魔法は使えそうにないものね。それじゃあ、餌を配置しながら、罠を作ってる人を探してみるわ」
「よろしくお願いしますですぅ。最低でも二つ以上罠をみつけないといけませんからねぇ。あちきも頑張りますよぅ。ではミスティ、またあとで」
「ええ、気をつけてね」
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