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狙われた村

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第2章 動揺

「捕まえられるものなら、捕まえてみなよっ!」
 不寝番で眠気に抵抗しながら、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は盗賊達を引き付け、暴れていた。
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と一緒に、大好きなドーナツを作りに来ていて、事件に巻き込まれてしまったのだ。
 美羽は村の外に向かって飛んでいった知り合いの少女のことが気になっていた。
 だから、あえて彼女がいた方ではない場所で、盗賊達と派手に戦っている。
「もういい、邪魔をするのなら殺せ」
「とことん邪魔してあげるんだから!」
 近づく盗賊達を美羽はバーストダッシュで躱す。
 倒れている子供を連れ去ろうとする盗賊の姿が見えた。
「子供たちまで無差別に巻き込むなんて……」
 美羽はブライトマシンガンを撃ち鳴らしていく。
「あんたたち、やり方が卑怯すぎよ!」
 でも、彼等のように殺そうとはしない。
 盗賊達の足を撃ち抜いていく。
(ミルミが助けを呼んだはずだから。私はひきつけて、捕まえられるようにしておかないと!)
 美羽は息を切らしながらも、辺りを駆け、バーストダッシュで飛びまわって、盗賊達の気を引いていく。

「地球なら、電話やネットで警察に連絡が出来るのに……」
 実家への土産として、赤ワインを購入するために村の北方面に訪れていたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)も、異変を感じ取っていた。
「これで……限界かな……っ」
 フレデリカは眠っていた男性を、ワインが保管されている倉庫に運び込んで、ドアを閉める。
 ここならば、撒かれてたと思われる薬の影響を抑えられるだろうと考えたのだ。
 フレデリカの誘導で、眠っていなかった村人や旅行客が十数名、その倉庫の中で怯えていた。
 確かに、その倉庫は空調設備もあり、外の空気を遮断することもできていた。
 しかし……。
 薬を撒いた盗賊達の目的である、ワインという収穫物が保管されている場所でもある。
「誰か……くる」
 フレデリカは、嫌な感覚を受ける。
 ディテクトエビルと殺気看破、両方で迫り来る盗賊の気配を感じ取った。
 ここにいる人々の中で、戦えるのは自分だけだ……。
 ガタン
 乱暴にドアが開かれて、盗賊達の姿が現れた途端。
「出て行って!」
 フレデリカは杖を振り上げて、チェインスマイトで盗賊達を打っていく。
「まさか再び目覚める日がくるなんてね」
 そう声を発したのは、フレデリカではない。
 彼女が纏う真紅の騎士服風魔道衣グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)だ。
「こんなところで倒れさせないよ。さっさと魔力もスタイルも成長してもらわないとね! 距離をとれ、ドアの外へ吹き飛ばせ」
 グリューエントは、無駄な動きの多いフレデリカに指示を出していく。
 フレデリカは指示通りに動き、破邪の刃でドアの前に固まる盗賊達を打っていく。
 しかし、その後ろから現れた小柄な男に倉庫に侵入されてしまう。
「きゃあっ」
 農家の女性が盗賊に切りつけられる。
「やめてっ! 降参します。だからやめて!!」
 すぐにフレデリカは武器を捨てて降参する。
「早くワインを運べ、この女は俺が連れて行く」
 金になると思ったのだろう。
 盗賊はフレデリカを殺そうとはせず、手を伸ばしてきた――。

 突然、強い光が弾けとんだ。
 光はワイン倉庫の中でも弾けて、盗賊達の手が止まり、眩んだ目を押さえだす。
「お願い、みんな!」
 声が響いた直後、獣が倉庫の中に飛び込んでくる。
 アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)が野性の蹂躙で呼んだ魔獣だ。
「なんだ!?」
 目が眩んでいる盗賊達には事態がよく分からない。
「外へ逃げるのである! 東の入り口に向かうのである!」
 加速ブースターで倉庫の中に飛び込んできたプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が、盗賊に襲われていた村人と、フレデリカの腕を掴んで、外へと出していく。
「こちらですわ。この方向に進んでくださいませ」
 倉庫の外では、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が、飛び出したフレデリカや村人達を誘導していく。
 地図や風向きなどから、侵攻ルート、薬の散布位置などを分析し、エレンは村人達を比較的安全と思われる道へと導いていた。
「白百合団員もそろそろ到着しているはずですわ」
「ありがと、皆しっかり!」
 フレデリカは村人達を逃がし、その後に続いていく。
「くそっ!」
 飛び出てきた盗賊の前に、エレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)がサイコキネシスで浮かせた農具が飛びまわる。
 払いのけて足を踏み出した盗賊達は、エレンがトラッパーの知識で仕掛けた簡単な罠に足をとられて転倒する。
 そこに、強烈なバニッシュが放たれ、盗賊達の体を打ちのめす。
 桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の魔法だった。
「エレンさん達は引き続き村の人々を誘導し、救護班の元へ向かって下さい。私は民家の方に向かいますわ」
 そう言い、鈴子は民家が立ち並ぶ方へと走っていく。
「そちらは、大量に薬が撒かれている方向だと思いますけれど……」
 エレンは一応そう声をかけるが、白百合団の団長である彼女ならば自分自身は守れるだろうと、止めはせず指示通り誘導に協力することにする。
 賊の目的は村人の殺害ではなく、収穫物を盗むことだ。
 ならば、逃げる人々よりこのワイン倉庫の方をとるはず。
「あっちの方に若い子がいるである」
 プロクルはメモリープロジェクターで、人物を投影していき、盗賊達の注意を逸らさせる。
「でも、残念ですけれど助けてる余裕ありませんわ」
 エレアはサイコキネシスで物音を発生させる。本当に人がいるかのように。
 そし起き上がった盗賊達がそちらに注意を向けた隙に、エレン達と共に東に向かって駆け出す。

 木で出来た簡素な椅子に腰掛け。
 飾りも何も置かれていないテーブルについて。
 採れたてのぶどうを食べていた四条 輪廻(しじょう・りんね)は……今、静かに怒っていた。
 眠気に抵抗するため、銃で自分の腕を撃ち抜いたため、腕からは血が流れている。
「アリス、キュアポイゾンとヒールを定期的に使え、少しは時間が稼げるはずだ」
 パートナーのアリス・ミゼル(ありす・みぜる)に言いながら、すくりと立ち上がる。
「シロ、物陰に隠れろ」
 大神 白矢(おおかみ・びゃくや)にはそう言った後、遠くに目を向ける。
「この規模、この現象、確実に集団の犯行だ、すぐにここにも敵が来る」
「白米……ようやく、白米以外が……食べられる予定でござったのに」
 諸事情により、輪廻も白矢も長期間白米以外の食べ物を口にしていなかった。
「そして、そいつらは、我々の食事を邪魔した人間だ」
 輪廻は低い声で続ける。
「……死 す ら 生 ぬ る い
「なるほど……つまり、食事の邪魔をした人間に、生きていることを後悔させてやればいいのでござるな」
 白矢は目を血走らせながら、忍びの短刀の刃に触れた。
「ひっ」
 痛いほどの殺気を感じ、眠気も吹っ飛びアリスは思わず小さな悲鳴を上げた。
「……あわわわわ、二人ともなんか怖いですよぅ」
 そして、言われた通り、眠っている人々の側へと駆けつけていく。
「あはは……それじゃあ、僕は隠れて皆さんの回復をしてるですね」
 眠っている人々を物陰へ隠し、アリスは治療をしていくのだった。
 輪廻と白矢は、休憩所の柱の後ろに息を潜め、溢れ出る殺気を押し殺し、隠れるのだった。

「眠そうだけど大丈夫?」
 その近くのテーブルで、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が、目を擦っている如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)に尋ねた。
「ちょと……ねむい、かも……」
 大好きな千百合なと遠出したのに。大切な時間なのに、眠くて眠くて仕方がなくなっていた。
 楽しみで、昨日眠れなかったからだろうか。
「今日の……デート……楽しみ、だった、から……」
 ゆっくりとそう口にした後、日奈々は千百合に寄りかかって眠ってしまった。
「あれ?」
 千百合は眠ってしまった日奈々を支えながら、違和感を覚える。
 日奈々だけではなく、近くにいる人達も皆眠そうで……いや、多くの人が眠ってしまっている。
 そして、自分も軽い眠気に襲われていることに気付く。
「これってやばくない?」
 千百合は日奈々をどうにか背負い、周りを見回して収穫したぶどうが保管されている倉庫へと歩いていく。
 その途中にも、村の人々やぶどう狩りに訪れていた人々が倒れていたけれど、千百合には日奈々を守るだけで精一杯だった。
「日奈々、眠ってるだけだよね。大丈夫……大丈夫だから」
 自分にも言い聞かせながら、千百合は倉庫に入って隅に日奈々を下ろした。
 隠れながら殺気看破で警戒すると――すぐに、嫌な気配を感じる。
 バタバタと足音と、それから乗り物の音も響き、男達が現れる。
「獲物が2人入ったはずだ。一緒に持ち帰るぞ」
 男の一人がそう言い、柄の悪い男達が倉庫の中を探していく。
(見付かってからじゃ……逃げられない)
 千百合は意を決して、隅の物陰から前へ躍り出る。
「出て行ってよ!」
 固まっている男達にバニッシュを放つ。
「ぐ……っ、取り押さえろ!」
 衝撃で膝を床につきながら、リーダーの男が指示を出す。
「もう一人はこっちか」
 盗賊が千百合の後ろに回り込む。
「日奈々には手を出すな!」
 千百合は光条兵器を取り出して、男に光の刃を打ち下ろした。
「……あっ」
 男の体を大きく切り裂くと同時に、千百合の背も別の男により傷つけられていた。