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狙われた村

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狙われた村

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第3章 牧場

 村の西側には、牧場や厩舎が存在している。
 ここでは、乳搾り、チーズ作りの体験などが行われていた。
 こちらの方には盗賊は訪れていなかったのだが……。
 風に乗って、薬はこちらにも届いており、孔子や子馬、小動物達が眠りについていく。
「これは……人の手によるものだな」
 荒野の孤児院の子供達に、新鮮なミルクを飲ませてあげようと訪れていた瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、超感覚と博識により早い段階で異変に気付く。
「マリザ、空から確認を」
 言って、コウは水でハンカチをぬらして自分の口を塞ぐ。
「ええ」
 返事をして、パートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)は羽を羽ばたかせて飛び立った。
(毒も含まれているようだが、ここまで届いているのは微量か。動物達の暴走が心配だがバイクを取りに行く時間がないな……)
 コウは眉を潜めつつ、周囲の様子を探る。

「温かくて気持ち良いですねー。なんだか思わず眠く……」
 絞った牛乳を運び終えたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、丸太に腰掛けてふんわり笑みを浮かべた。
「ここで毎日働くってのも大変な仕事だよな。仕事の苦労なんかも聞いてみたいところだが、昼寝の時間のようだな」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、うつらうつらしている農家の人々を穏やかに見る。
「……っていかん、なんだか俺様も眠くなってきたぞ……ぐーすかぴー……」
「ん、んんっ、ベア!? なんだかおかしいです!? いくら何でも皆一緒に眠くなるはずが……ベア、ベア!」
 ソアは隣に座っているベアを揺すっていく。
 ベアは、ハッと目を覚ます。
「いや、寝てないぜ!」
 そう言って、バッとベアは立ち上がった。
「風に乗って、眠くなるガスのようなものが流れてきているようです」
 ソアは辺りを見回していくが、ガスの発生源のようなものはなかった。
「なんだか良く判らないが、異常事態のようだな。村の人を倉庫の中に運ぼう」
「はい、急ぎましょう」
 ソアとベアは朦朧としている村人達に声をかけて起こし、倉庫の中に入るように言う。
 眠ってしまった人は一緒に担ぎ上げて、運んでいく。
 ナーシングで看病をして、村人達の状態を診るが、今のところ危ない状態ではないようだった。

「眠いのか、そうかそうかー」
 天津 麻羅(あまつ・まら)は子牛を嬉しそうに撫でていた。
 彼女は乳搾りよりも、動物達とのふれあいを楽しみ、牧場の中でほのぼのと過ごしていた。
「ん? あれ……!?」
 少し離れた位置で、そんな麻羅の様子を微笑ましげに見守っていた水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)だが、麻羅が撫でていた子牛が眠りに落ちたことで、ようやく異変に気付いた。
 その子牛だけではなく、多くの牛、そして人々もふらふらと倒れていく。
「麻羅、何か変よ」
 緋雨は麻羅の側へ駆けつけて、周りを指し示していく。
「何じゃ? 眠っておるぞ。運ばれている者もおるな?」
 倉庫の方にいる少女とゆる族――ソアとベアが、倒れた村人を倉庫の中に運び込んでいる。
「薬が撒かれているようです。吸い込まないで下さい!」
 ソアの警告を聞き、2人も事態を理解する。
「発生源があるはずよ。空から近づくのは危険かしら……」
 緋雨は少し考えるが、首を振り、麻羅に目を向ける。
「とりあえず状況を知りたいわ、ヒポグリフをお願い」
「了解じゃ!」
 麻羅がヒポグリフを呼び、2人はその背に乗って、空へと飛び立った。

「手作りバターか。それにしてもこんなに牛を集めて、どれだけ作るつもりなのだ?」
 牛小屋に沢山牛を集めて、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は大量の牛乳を搾ったのだった。
「お土産にも沢山持って帰りたいんだ!」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)にそう答えて、とても楽しそうにカレンはバター作りを続けていく。
 氷術で氷漬けにした大きなタライに、生クリームを入れてとにかく混ぜる混ぜる混ぜる。
 かなり大変な作業だが、カレンは頑張って作業を続けていく。
「やっと一杯分しぼれたぞ!」
 同じ牛小屋で乳搾りをしていた童子 華花(どうじ・はな)が嬉しそうな声を上げる。
「そう、良かったわね」
 パートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はそう答えて見守る。
 自分と他のパートナーは既に乳搾りを終えており、幼い華花が終えるのを椅子に腰掛けて待っていた。
「どうしよう。今飲んでみようか、それともドーナツと一緒に飲もうか〜! よし、もう1杯分頑張るぞ」
 華花は、目を輝かせながら作業を続けていく。
「牛乳も、ドーナツも沢山作って、皆で食べたらおいしいだろうな。バターももらえるのかな?」
「うん、出来上がったら交換しよう!」
 目を向けてきた華花に、カレンも楽しそうにそう答える。
「ん? なんだかおかしな成分の空気が流れてきているぞ?」
 作業を見守っていたジュレールだが、牛小屋の入り口から流れてくる空気に違和感を覚える。
「牛の様子もおかしいようだ」
「そういえば……なんだかだんだん眠くなってきた……」
 目を擦って、生クリームで顔を白くしながら、カレンは窓の外に顔を向ける。
「んん? なんか来る? こ、これは非常事態かも!?」
 遠くに妙なマスクをつけた男達の姿がある。こちらに向かってきているようだ。
「よし、君をリーダーとする! 行くよ!!」
 ビーストマスターのカレンは一番体格の良い牛にそう言うと、突如その背に乗っかったのだった。
「しっかりするのだ!」
 ジュレールは具合の悪そうな牛にキュアポイゾンを使っていく。
「なんだ? なんだ?」
「ハナはここにいなさい」
 華花にそう命じて、リカインは牛小屋を飛び出す。
「たまには静かに過ごせるかと思っていたが……」
 リカインのパートナーのキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)はため息をつきつつ、リカインに続く。
「どうやらうちの連中ではなさそうですね。お嬢、深追いは決してしないで下さい」
 もう1人のパートナー、野牛の獣人のヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は注意深く盗賊を見ながら、牛小屋の外へと走り出た。

「牛さん、お馬さん……!」
 南西風 こち(やまじ・こち)が、村の北西にある厩舎に駆け込んで来る。
「眠っているだけみたいねぇ」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、倒れている馬をナーシングで治療する。
 2人は偶然この村を訪れており、桜谷鈴子達とは顔を合わせてなかった。
 それでも、白百合団が沼の向こう側に訪れていたことは知っていたけれど……。
 白百合団の方に気をとられるリナリエッタを見て、東ではなく、こちは奥の厩舎の方へ駆け込んだのだった。
 リナリエッタは最近鈴子と仲良くしており、白百合団にまで入った。そして、活動に時間を取られていき、自分を見てくれる時間が減った……かのように思えていて。
 こちは嫉妬して、不機嫌になっていた。
 リナリエッタはこちの心中には気付いていなかったが、不機嫌であることは感じており、機嫌が直ればとも思って、この村を訪れたのだが……。
「こっちに盗賊が向かってるみたいよぉ。起きている人は村の外へ避難するか、隠れててねぇ」
 リナリエッタは村人達に声をかける。
 そして、牧場に出ている馬を、厩舎へと入れていく。
「こちも、お仕事……します」
 こちもリナリエッタを手伝って、馬を厩舎へと誘導する。
「さて、来たみたい〜?」
 馬を全て厩舎へ入れた後、リナリエッタはこちと共に南へ走り出す。

「奴等は撤退してきたメンバーだ。逃がすな」
 北側から周りこんできたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、向かってくる盗賊の前へと立つ。
 子供や盗品が入っていると思われる袋を担いだ盗賊達は、牧場の中に入り契約者達を避けて荒野の方へ逃げようとする。
「馬に注意しろ」
 逃亡に馬が使われる可能性が高い。レンは馬小屋を背にして盗賊の元に走る。
「そうね。馬の足は傷つけたくないわね」
 リカインはそう答えて、ラスターエスクードを持ち盗賊に迫る。
「あなた達自身にたっぷり喰らわせてあげる」
 シーリングランスで全体に攻撃を加えた後、パワーブレス、ヒロイックアサルトで力の上昇させ、ドラゴンアーツを叩き込む。
 声も上げることなく、吹っ飛んだ盗賊はそのまま泡を吹いて倒れる。
「薬の匂いが近づいてきますね……」
 ヴィゼントは超感覚で注意を払っていく。
「牛さん、馬さんも守らなきゃな!」
 結局ついてきた華花は、ヴィゼントの背に張り付いている。
「離れないで下さいよ。人質にされるようなことになれば、完全にお手上げですから」
 ヴィゼントは華花が必要以上に前へ出ないよう、手で制しながら周囲を見回す。
「相殺は出来ないだろうか」
 キューはアシッドミストを放ってみる。
 盗賊達にダメージを与えるが、漂う薬が消えることはなかった。
 続いて、氷術を放って盗賊達の体を凍らせ、逃走を阻んでいく。
「このブルライダーのカレン様が成敗する!」
 ドドドドドドドドドド……
 軽く地面が揺れて、音が響く。
 ビーストマスターのカレンが牛の背に乗って、盗賊達の下に突進していく。
「成敗ー!」
 猛牛達が手負いの盗賊達を蹴り飛ばし、跳ね飛ばしていく。
「恐るべき、食べ物の恨み。しかしなんというか……愉快痛快!」
 その後に、ジュレールも続いていく。
「う、牛さん……?」
 華花はヴィゼントに守られながら唖然とするばかり。
「怪我、ないですか……」
 こちが駆け寄って、群れから離れた牛に恐々と近づく。
「コウ、こっちよ!」
 マリザに導かれて、コウもその場に駆けつけた。
「よし、オレも行こう!」
 暴れている牛に、コウは近づいて飛び乗る。
 暴れ牛と共に、カレンと合流をする。
 ドドドドドドドドドド……
 ドドドドドドドドドド……
「まだいるのかー! 恨みを思い知れ〜!」
 カレンは野性の蹂躙で、次々に逃げる盗賊達を弾き飛ばしていく。
「さあ、賊を蹂躙するぞ!」
 コウは伝説の狂戦士の如く、暴れ牛に乗って暴れ回り、賊を散り散りにしていく。
 更に、銃撃や氷術で弾き飛ばされた賊に追い討ちをかけ、倒していく。
「怒らない、で、ください。牛さん、牛さん……」
「あらあら〜」
 こちの声は暴走している牛達には届かない。
 リナリエッタは黒薔薇の銃を構える。
「怪我はさせないようにねぇ〜。賊はこれ以上先に行かせないわぁ」
 シャープシューターで狙い、起き上がろうとする盗賊達を撃っていく。
「……なんだか、凄いことになってるわね」
 空から見下ろすマリザは困惑気味だ。
 とりあえず、悲しみの歌で沈静化を図っていく。
「どうやら、あの装置が散布機のようです」
 ヴィゼントは、消火器のような機器を背負って走ってくる男に指を向けた。
 男は噴射口を暴れる牛達に向けていく。

「あそこ、何か撒いてるわよ!?」
 ヒポグリフの背に乗って、状況を探っていた緋雨と麻羅も、その男の存在に気付いた。
「麻羅、注意を引いておいて、私はこそっと近づいて元を壊すから」
「了解じゃ」
 後方に回りこみ、低空飛行する。
「それじゃ、私はここで降りるわね」
 緋雨はヒポグリフから飛び降りると、男の後方から近づく。
 麻羅は低空飛行のまま、男の前方に出て飛び降り、噴射口から出る薬をその身に浴びていく。
 いや、風の鎧を発動しているため、彼女は薬の影響を受けなかった。
 炎も起こして上昇気流を発生させたいところだが、戦闘中にそこまでのことを行う余裕はなかった。
 ヒポグリフに翼を羽ばたかせてもらい、薬を男達の方へと吹き返していく。
「どけっ!」
 武器を手に男達が麻羅に飛びかかろうとする。
「そこまでよ!」
 背後から近づいた緋雨が男の肩を打ち、散布機のベルトを外す。
「お前は衝撃を受けるじゃろう!」
 気を取られた男に、麻羅の崩落する空による攻撃が降り注いだ。
「お休みなさい」
 ドスの利いた声が響き、リカインが突進する。
 男達をシールドバッシュで弾き飛ばして倒していく。
「粉が飛び出したら大変だ」
 すぐに、キューが駆けつけて、噴射機を応急的な措置として氷術で凍らせておく。
「だ、だ大丈夫ですかっ」
「おい、しっかりしろ!」
 ソアとベアも慌てて駆けてきて、その付近で眠っている村人達を救助する。
 幸い、牛に蹴られたりもしていないようだった。
「牛さん、戻りましょう……」
「ま、他の牛もそのうち戻ってくるでしょ〜。牛よりも、操り手が落ち着いてからだけどねぇ」
 こちは、群れから逸れた牛を宥め、リナリエッタと一緒に牛小屋の方に連れて戻っていく。
「……やはりこちらから逃走を計るか」
 レンは厩舎から縄を持って来て、盗賊達を縛り上げはじめる。
「さーて、洗いざらい話してもらうぜ!」
 ベアは意識のある盗賊の前に仁王立ちして、腕を組み見下ろす。
「見りゃわかんだろ。泥棒に来ただけだよ。寝てる奴等には手を出さねぇつもりだったのに」
「……眠った女の子を連れてる仲間もいたようだが?」
 そうベアが言うと、盗賊は黙り込んで目を逸らす。
 その後も、尋問を続けた結果、結構な規模の盗賊グループの犯行だということがわかった。
「幸せな時間を返せよ」
「でも、こちら方面は怪我人も出ていないようで、良かったです。……牛さんや、南側の方々が少し心配ですけれど……」
 猛牛達が暴れている音は、依然南の方から響いてくる。
「制御できなくなってたりして」
 マリザが苦笑する。
 ……事実そうだった。