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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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第5章



 厨房に入ると、早速料理を開始したところからリズミカルな包丁の音や下ごしらえの音が聞こえてくる。
 美食家のドロウさんが作った厨房は屋敷から渡り廊下を使って別の建物へと移動する。
 地下1Fの食糧庫の更に下、地下2F全体を使っており、屋敷と面積が一緒の広さがあるので相当だ。
 冷蔵庫や流しなどは全て特注で、オーブンや食材を切る場所、コンロはそれぞれ20か所以上ある。
 このお屋敷にも本来の厨房(こちらも全て特注)があるのだが、これは相当な人数で調理が出来るように作らせたものだ。
 まさに今回のようなイベント用なのだろう。
 この厨房の中を調理もせず、手伝いもせず、カメラ片手に撮りまくっているのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)だ。
 動画も写真もばっちり準備万端。


 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はまず、オスのイケイケ秋刀魚を1匹まな板の上へ載せ、包丁を入れていく。
「良い感じに脂がのっているな」
 大名おろしで秋刀魚をさばいていくと、皮と身の間が綺麗なピンク色になっているのが見えた。
 包丁にも秋刀魚の脂がつき、テカっているのがよくわかる。
 3枚におろし、食べやすい大きさに切っていき、皿へと丁寧に盛り付けていく。
 盛り付けが終わると、生姜を摩り下ろし、小皿へと入れ、秋刀魚の刺身が盛られた大皿の側へとおいて、醤油を別の小皿に入れ、秋刀魚の刺身が完成した。
「ふぅ……これだけでも美味しそうだけど」
 そう言うと、今度はシャンバラ地鶏へと手を伸ばした。
 どうやらルカルカ達が獲ってきたもののようだ。
 もも肉を大き目に切り、大根も同じくらいの大きさに切った。
 そして、まだうにうに蠢いている踊るシイタケをまな板の上に置き、石づきを取る。
 カサの部分にバツ印を入れ、鶏肉と大根と一緒に鍋の中へと投入。
 醤油、酒、みりんを入れ、強火で煮込んでいく。
 この間に違う鍋に水を入れ、切ったシイタケを入れ、沸騰したら味噌を入れ、味噌汁が完成。
 煮物の鍋の食材に火が通ったら、火を止め、味が染み込むようにする。
 香の物として大根の浅漬けを簡単に作ると今度はデザートへと移った。
 梨の皮を剥いて行く。
 白いご飯をよそい、味が染み込んだ煮物の上に結和からもらった銀杏をあしらいとして盛り付ければ、秋の和定食が完成だ。
「食材が良いからな」
 完成した定食を眺めて、実に満足そうだ。

 涼介の隣ではヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が持ち込んだジャンボ七輪を使って、鶏肉、秋刀魚、しいたけ、銀杏を炭火焼にしていく。
「煙がなるべく他の人のところに行かないようにな」
「あ! ごめん! もしかして煙たかった?」
 一応、考慮して換気扇の出力を最大にしてやってはいるのだが、やはり、少し煙が流れ、周りの人達の方へと行ってしまっていた。
「んー……もう少しで終わるから! ごめんね!」
 アリアクルスイドは謝ると、焼けたものを網からおろしていく。
 最後に鶏肉が焼け、急いで炭火を消す。
「うん! これで……オッケー!」
 陶板を出し、料理が出されるそのときまで温めておく。
 料理を持って行くときには温めた陶板の上に炭火焼した食材を載せ、陶板焼きにして出すのだ。
 2人が作った料理を大佐が撮影し、ここの料理は完全に終わった。


「おぉ……珍しい食材だ……腕が鳴るぜ!」
 ホロケゥ・エエンレラ(ほろけぅ・ええんれら)が腕まくりをしながら言うと、北郷 鬱姫(きたごう・うつき)パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)もその横で目を輝かせた。
「俺が料理している間、何かやらかすなよ?」
「私も……手伝いたい」
「やるー、やるー、やるーーーっ!」
 ホロケゥは鬱姫とパルフェリアがどうしても食い下がってくるので、とうとう折れた。
「わかった、わかった! んじゃあ、おまえらにも何かやってもらうから」
 そう言われ、鬱姫とパルフェリアは嬉しそうにこくこく頷く。
「作るのは銀杏おこわとシイタケと地鶏のスープ、焼秋刀魚だ。鬱姫はそうだなぁ……とりあえず、ご飯を研いでくれるか?」
「うん……やる」
 鬱姫は指示された通り、お米を計量し、研ぎ始めた。
「パルフェは――」
「ふふふ〜ん♪ シイタケ胞子に秋刀魚肝♪ 銀杏果汁に地鶏のとさか〜♪ わさびにんにく赤ワイン〜♪」
「……パルフェは洗い物係な」
「えーっ!? 私だってちゃんと料理できるのに!」
「不安がいっぱい過ぎる」
「ぶぅー! ぶぅー!」
「手伝わないのか?」
「むぅ……やるもん」
 結局、メインで料理を作るのがホロケゥで、その助手が鬱姫、洗い物係という食材に触らせてもらえない雑用係をパルフェリアが担当することになった。
 パルフェリアは少し頬を膨らませ、面白くなさそうにはしているが、ちゃんと使ったものを洗ってくれている。
「米を研いだら、こっちに持ってきてくれ」
「……うん」
 鬱姫は研ぎ終わったお米をホロケゥへと手渡す。
 ホロケゥは炊飯釜をセットし、結和からもらった銀杏を入れ、出汁や醤油で味付けをし、スイッチを押す。
「これであとは炊けるのを待つだけだ。次はあっちのスープ鍋の方を見ててくれ。かき混ぜてくれてると助かる」
 ホロケゥが大きな鍋に入れておいたのはシイタケと地鶏のシンプルなスープだ。
 言われた通り、鬱姫は真面目にかき混ぜていく。
 ホロケゥは指示を出し終えると焼秋刀魚の準備に取り掛かった。
「……はちみつ、練乳、バニラエッセンス」
 かき混ぜ始めたと思ったら、近くにあった甘い調味料に手を伸ばし、全部を左腕に抱え、右手ですくいとり、なめ始めてしまった。
 さて、こちらは大人しく洗い物をしていたパルフェリア。
「もう洗い物出てこないし……つまんなーい!」
 手持無沙汰になってしまったので、周りを見渡す。
 その目に後ろ姿の鬱姫が入った。
 悪戯っぽく笑うとそーっと足音を忍ばせて、鬱姫に近づく。
「鬱姫ーっ!」
 ガバッとパルフェリアは後ろから抱きついた。
「あ………………どうしよう」
 その瞬間、手にしていた甘い調味料達が全て鍋の中に落ちてしまった。
「あ……えっと……私、しーらないっと」
 それを見て、パルフェリアは慌てて自分の持ち場である流しへと戻ってしまった。
 鬱姫はいそいで容器を取りだしたが、スープからは先ほどとは違う甘い香りが漂ってくるようになってしまった。
 真剣に秋刀魚と向き合っていたホロケゥは全く気が付いていないようだ。
 しばらくして、秋刀魚が焼き上がる。
「そっちのスープはもう良いだろう。火を止めてくれ」
「う……うん」
 あわあわしながらもホロケゥの指示に従う。
「どうした?」
「……ううん……なんでもない」
「そうか?」
 こうして、銀杏おこわと焼秋刀魚、そして甘ったるそうなスープが完成してしまった。


「厨房広っ!」
「うんうん〜。これは料理のしがいがあるよ〜」
 西表 アリカ(いりおもて・ありか)は今まで見た事のない広さの厨房に目を丸くし、廿日 千結(はつか・ちゆ)は目を輝かせている。
「さて、何を作ろうか。珍しい食材が色々あるが……俺達じゃ活かしきれないし……ん?」
 無限 大吾(むげん・だいご)が何かに目を付け、食材が置いてある台に近寄る。
 おもむろに手にしたのはシャンバラ地鶏のモモ肉。
「よし、コレを使おう!」
「うん、良いかもね〜」
 大吾が言うと、千結が覗きこんだ。
「メニューは、そうだな……なんか変に凝ったものにしようとしても難しいし、う〜ん……そうだ! チキン南蛮にしよう! ……千結、作り方教えてくれ」
「うん〜、勿論良いよ〜。よ〜し、みんなで美味しいチキン南蛮つくろうね〜」
「皆に喜んでもらうために頑張るぞー!」
 握り拳を高々と掲げたアリカが一番やる気満々かもしれない。
 千結が必要な材料を指示し、それを大吾とアリカで準備する。
 全ての材料が揃ったところで料理開始だ。
「今日のメイン材料はこちら! シャンバラ地鶏のモモ肉!」
「先ずは、食べやすい適当なサイズに肉を切ってねぇ〜」
 千結が自分も切りながら、2人に指示を出す。
「切り終わったら、塩と胡椒をしてよくなじませてね〜」
「はい!」
 大吾とアリカの声が揃う。
「うんうん〜。ばっちりだね〜。そしたら今度はそのお肉に小麦粉をまぶすよ〜」
 全体にまんべんなく付くように小麦粉をまぶしていく。
「小麦粉をまぶせたら、油で上げていくよ〜。この溶き卵にお肉をくぐらせて、油の中にダイブ〜」
「良い音がするな!」
 大吾は千結が次々にお肉を入れていくのを見て呟いた。
「あつっ!」
 鍋をじっと見ていたアリカの腕にはねた油が少しだけ掛かってしまった。
「あ、ごめんね〜。大丈夫〜? 油がはねる事もあるから気を付けてね〜」
「うん! 大丈夫! すぐに水で冷やしてくるね!」
 アリカは流しへ直行し、蛇口を捻って水を出し、腕に当てる。
 そんなに掛かったわけではないので、すぐに復活した。
 アリカが戻ると、千結がお肉を見ながら、大吾に次の指示を出していた。
「甘酢タレはお鍋に醤油と砂糖と酢を入れて煮立てて〜。一緒に小口切りにした唐辛子を少し入れてね〜」
「あ、ボクが唐辛子やるー!」
「任せた!」
 戻って来てすぐに、アリカが唐辛子を切り、調味料を入れた鍋の中へと投入していく。
「煮立った〜?」
「おう!」
「じゃあ、今揚げたばかりの鶏肉をその鍋の中に入れるよ〜」
 熱々の鶏肉をどんどん入れていき、30秒ほど漬け込む。
「浸けこんだら、これをお皿に盛りつけて〜」
 大吾とアリカが菜箸で鍋から鶏肉を取り出して大皿に盛り付けていく。
 その横で千結がタマネギとピクルスをみじん切りにして、茹で卵も同様に細かく切っていく。
 それをボールに入れるとマヨネーズ、ケチャップ、塩、胡椒、レモン汁、粒マスタードも入れて、かき混ぜタルタルソースを作りあげた。
「盛り付け終わった鶏肉の上にこの手作りタルタルソースをたっぷりかけて〜……出来あがりだよ〜」
「おお〜!!」
 出来あがりの声を聞き、大吾とアリカの声がハモッた。
「美食家さん達にどこまで通用するか分からないが、俺達の自信作が出来たな!」
 大吾の言葉に2人も満足そうにうなずいた。


「今年は変わった食材が集まったもんだな。去年はジャタ松茸だけだったのに……よし、今年もキノコを使った料理にするか!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は去年を懐かしむと、踊るシイタケを手に自分達のスペースへと向かって行った。
「ふふ……今年こそベアを血祭りに上げてやるわ」
 厨房スペースでは悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がケイが持ってくる食材を待ちながら、不敵な笑みを浮かべていたのだった。
 ケイはシイタケの他にもエノキ、舞茸、エリンギを手にしていた。
「今回は踊るシイタケをメインにキノコの和風パスタを作る」
「わらわも手伝うぞ」
 まずは大鍋にたっぷりの水を入れ、火に掛ける。
 沸騰する間にパスタソースの下ごしらえをしておく。
 包丁の腹でニンニクを潰し、キノコの石づきを取り、食べやすい大きさにカットしたり、割いたりしておく。
 さらに、ベーコンも食べやすい大きさに切った。
 カナタの方は何故か持ってきたイケイケ秋刀魚をグリルに入れ、焼き始めた。
 ケイは水が沸騰したら、パスタを入れ、タイマーをセットする。
 パスタを茹でている間に、フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、ゆっくりと温める。
 油が温まったところにベーコンを加え、下準備をしたキノコ達を投入。
 炒め合わせていくと、色々なキノコの香りが立ち上って来る。
「良い匂いだ」
 ここで、セットしておいたタイマーが時間を知らせた。
 茹であがったパスタをフライパンの中へと入れ、炒め合わせ、醤油を鍋はだから回し入れる。
 よく混ぜ合わせればキノコの和風パスタの完成だ。
 ケイは皿に1人前ずつ盛り付けていく。
 その隙にカナタがフライパンからパスタをボールに取り、自分が焼いていたグリルの方へと向かった。
 グリルから良い感じに焼き上がった秋刀魚を取り出し、身をほぐす。
 ほぐした身をパスタの入ったボールの中へと入れ、一緒に混ぜ合わせた。
 ついでに何故か謎料理を発動させている。
「ふふ……アレンジを加えたこのパスタはさしづめベアを完膚なきまでに叩きのめす一振りの大鎌……キノコと秋刀魚の和風パスタといったところか」
 カナタの料理も少し不安だが完成したようだ。


 対して、こちらはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)
「ケイの方はパスタを作ってるみたいですね。こちらは鶏肉と椎茸の炒め物を作りましょう」
「あいつらと同じものを作ってたんじゃ勝てないからな」
「別に勝つ必要はないんですよ!?」
「さーて、俺様が華麗に炒めるからご主人がソース作りな!」
「聞いて下さいー! ソースは作りますけどー!」
 こうして2人の調理は開始になった。
 ベアはフライパンで1口大に切った地鶏を皮がパリッとするまで焼き、その横でソアが醤油をベースにイルミンスールの森で採れたローズマリーなどの香草と、赤色やどどめ色した薬草を入れたソースを作っている。
 フライパンの中の鶏が良い感じに焼けてきたら、食べやすいサイズに切った踊るシイタケとタマネギを入れて少し炒める。
「ご主人、ソースが完成してたらいれてくれ」
「はい! ばっちりですよ! 味見もしましたが、美味しくなる事間違いなしです!」
 ソアがボールに作っていたキャラメル色のソースをフライパンの中へと流し込む。
 フライパンの中でしっかりと食材と絡めていく。
 ソースが火によって温められ、春の森の中にいるような爽やかな香りが辺りを包みこんだ。
「踊るシイタケとシャンバラ地鶏のみらくるソース炒めが完成だ!」
 火を止め、皿へと盛り、ベアが胸を張って名付けた。