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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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 ホイップが料理を作っている横で口を挟んでいるのは茅野 菫(ちの・すみれ)だ。
「その調味料、大丈夫なの? 高くない?」
「えっと、この厨房の中にある調味料ならどれを使っても構わないって言われてるから、去年みたいな事にはならないよ? ……って、去年はいなかったよね?」
「じゃあ、大丈夫かな。去年のジャタ松茸の時に高級調味料とかワインを使っちゃって、借金が増えたっていうののは風の噂で聞いたのよ」
 菫は念のため、調味料がどこのメーカーのものか見る。
 やはり普通に売られているような調味料ではない事を確認すると、調味料のある棚の方へと足を運んでみたが、棚にあるのはどれもこれも高そうな調味料ばかりだ。
 ホイップが言っていたどれを使っても構わないというのは本当だと思うが、いささか心配になる。
「ま、でもこれだけ使って良いって言われてる棚に高いのばっかりなんだし、大丈夫よね」
 棚から戻るとホイップは鶏のひき肉を作り終えて、レンコンを摩り下ろす工程に入っていた。
「ところで何作ってるの?」
「ああ、これはシャンバラ地鶏とレンコンのもちもち焼き」
 ホイップはレンコンを摩り下ろし終わると、生姜の皮をむき、これも摩り下ろす。
 ひき肉、レンコン、生姜、片栗粉をボールの中に入れ、よくこねる。
 こねたものを小さな小判型に成型して、温めたフライパンの中へと入れていく。
 全てを焼き終えると大皿に盛り付けていく。
「そんな並べ方じゃ、ドロウさん満足しないんじゃない? 味はともかく、盛り付けも料理のうちよ?」
「そっか、んー……こんなのはどう?」
 盛り付けを菫に指摘され、綺麗に盛り付けし直す。
 2回ほど、ダメだしを食らって、ようやくオッケーを貰えた。
 小皿に醤油とからしを入れて、1品目が完成した。
 ホイップは次の秋刀魚の煮付けを作り始めた。
 秋刀魚の頭と尾、内臓を取り、綺麗に洗い、3等分して、斜めに切れ目を入れる。
 鍋に水と日本酒、醤油、蜂蜜、薄切りにした生姜を入れ、煮立ったらところで秋刀魚を入れた。
 あとは火を強めにして、10分ほど煮ていく。
「ねぇ、ホイップってさ」
 今まで、ホイップが無駄な動きをしていないかを見ていた菫が突然、口を開いた。
「ん? なに?」
「好きな人が何人もいるわけ?」
「えーっ!? ど、どうしてそんな……」
 唐突な質問にホイップがずっこけそうになった。
 だが、今までと違って真剣な表情での質問にホイップも真面目になる。
「もちろん……1人だよ?」
 ホイップは腕に付けているブレスレットに目を落とし、触れながら答えた。
 ブレスレットの贈り主を知っている菫はその仕草を見て、名前までは言わなくても納得した。
「でもさ……あんまり優柔不断な態度取ってるとその人が不安になっちゃうよ?」
 ホイップは優柔不断な態度と聞いてもぴんとは来ていないようで首を傾げた。
「ま、良いや。さ、料理、料理!」
 菫はこの話しを切りあげて、ホイップとの料理に戻った。
「そう言えば、菫さんは料理出来るの?」
 煮物をチェックしながら言うと、菫は待ってましたと言わんばかりに魔法少女の衣装にチェンジした。
 菫色のゴスロリ系ドレスが眩しい。
「みらくるレシピでお茶の子さいさいよ!」
 菫は先ほどホイップが作った鶏のひき肉とギンナンを使って、がんもを作り始めたのだった。
「うまそうだな」
 ホイップと菫が一緒に料理をしている姿を見て、大佐はカメラのシャッターを切った。


「ホイップと一緒に料理をしなくて良いのか?」
 リリは2人で料理をしているホイップと菫を見ながらグランに言った。
「ボクは……確かにホイップちゃんが好きです。でも、ホイップちゃんが好きなのはボクじゃない事くらい知ってますよ」
 グランは少し俯き、その表情はよくわからない。
「それでも……付き合っているのがボクじゃなくても……いつかは振り向かせてみせたいと思います。あの人も……本当はちゃんと話しをしなければいけないのがボクではなく、ホイップちゃんだと気づいてくれればいいのですが……」
「そんな、敵に塩をおくるような事を言っていて良いのか?」
「ええ、別にホイップちゃんを悲しませたいわけではありませんから」
「うむ……」
 リリとグランはもう少しだけホイップを見つめて、上の階へと上がっていった。


 ごそごそと隅の方でシャンバラ地鶏をさばいているのはイレーヌ・クルセイド(いれーぬ・くるせいど)だ。
 地鶏を綺麗にさばき終ると、バットに部位ごとに並べ、秋月 葵(あきづき・あおい)の元へと歩いて行った。
 葵に地鶏を捌いているのを見せたくなかったようだ。
「お待たせしました……っと、談笑中でございましたか」
 葵の元にはカメラを持った大佐がいたのだ。
「料理を開始するのなら、その様子を撮らせてもらうとするか」
「うん〜! 写真が出来たら送ってね!」
 大佐は任せろと言い、後ろへ下がった。
「ねぇねぇ、何作ればいいのかな?」
 わくわくとしながら葵はイレーヌに聞く。
「では、葵ちゃんにも出来そうなもの……そうですね、炊き込みご飯にしましょう」
「うん!」
 イレーヌは少しずつ葵に指示を出していく。
 シャンバラ地鶏の皮を火で炙ってから、大き目にカットをする。
「まだ動いてるー!」
「本当にパラミタには地球にはない珍しい食材が多いですね」
 踊るシイタケがうにうにと蠢いているのを見て、互いに感想を言い合った。
 シイタケは舞茸やエリンギと一緒に食べやすい大きさに切り、ニンジンは紅葉の形に切って地鶏と一緒に炊飯器の中へと入れた。
 味付けは素材の味を活かす為にちょっと薄味になっている。
「出来たよー! って、いつの間にそんな料理作ってたの!?」
「秋月家のメイドたるもの、この程度のことは造作もないことです」
 葵が報告に来ると、なんと先ほどまでは何もなかったのに、イケイケ秋刀魚の塩焼きとシイタケを使ったお吸い物が完成していた。
 勿論、作っている様子を大佐はばっちり撮影している。
「あとで、そのビデオ見せてー!」
「ああ」
 葵は大佐が了承すると嬉しそうにした。
「そんな……恥ずかしいです……」
 なんて事を言いながら、イレーヌは喜んでいるようにしか見えない。
「そういえば、先ほど調味料を見てきたのですが、変わったものが多いようですね。あとでドロウさんにどこで手に入るのか聞いておきましょう。葵お嬢様には美味しいものを食べてもらいたいですから」
「イレーヌちゃん、楽しみにしてるね!」
「はい」
 互いに笑い合うのを大佐はそっとカメラに収めたのだった。


 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は名もない料理人として潜り込んでいた。
 趣味の薬学研鑚で新種の薬草を求めて旅をしていて、ふらりと立ち寄った街で美食家のドロウさんが大規模な厨房を作ったという噂を聞いてきたようだ。
 弥十郎は以前、ドロウさんがジャタ松茸を欲していた時に料理人としてきていたのだが……高級調味料に気づいていた数少ない1人だったのだ。
「美味い物を料理したら、失敗しない限り美味しいよね」
 弥十郎はイケイケ秋刀魚を見ながら呟くと、オスとメス両方を手に取った。
 自分達の場所へと戻ると、首を捻る。
「食材がどういう風に食べてもらいたいのかを考えてごらん」
 それを見た真名美がそう助言すると、もうしばらく考え、行動に移した。
 その様子を真名美は嬉しそうに見ていたが、自分もと料理を開始した。
 弥十郎の方は調味料のある棚に行くと、2種類の塩を手にした。
 キマク産の岩塩とパラミタ内海の塩だ。
 それを持って、秋刀魚の元に戻る。
 メスの秋刀魚にはキマク産の岩塩を振り、すぐに火に掛けた。
 しばらく焼いていると、皮が焼け、少し破けると中の白いふっくらとした身が見えてくる。
 焼けたところで、火からおろし、皿に載せるとスダチを半分に切って横に置き、付け合わせとした。
 次に取りかかるのはオスの秋刀魚だ。
 メスとは違い、普通の秋刀魚と同じなので、同じ焼き魚にすると味にどうしても差が出てしまう。
「った」
「ほら、眉間に皺!」
 真名美がデコピンをした。
 眉間に皺が寄ってしまっていたのだ。
「感情とか思いは料理に出てしまうよ? 美味しいものを食べてもらいたいのなら、そんな難しい顔はしない! ねっ?」
「ああ、気を付けるよ」
 おでこをさすりながら、弥十郎はふんわりと笑った。
 一緒に真名美も笑う。
 そして、料理を再開する。
 弥十郎はオスの秋刀魚にパラミタ内海の塩を振ると、30分放置し、水分を出して、身を引き締めた。
 火に掛けると、片時も目を放さず、魚の骨に近い部分に火が通ったギリギリを見逃さないようにする。
 焼けた瞬間を逃さず、皿へと移し、付け合わせとして大根おろしと醤油を添えて完成した。
 弥十郎の様子を見ながら、真名美の方も料理をしていた。
 シャンバラ地鶏の胸肉と手羽先を使用し、栗、ゴボウ、中華クワイの下準備をする。
 それ以外にもシメジと舞茸を使い、炊き込みご飯を作っているのだ。
 出汁として、乾燥シイタケを戻したものと昆布、醤油とお酒に人参ジュースを混ぜたものを使用。
 研いだお米の中へと入れて行く。
 1時間ほどで炊きあがり、炊き込みご飯も完成したのだった。