天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション公開中!

S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション





02:警備して 仲間の応援 オーディション(その1)




 橘 カオル(たちばな・かおる)は教導団制服を着て武断的な雰囲気を周囲に振りまきながら会場の警備を行っていた。
 主に生身で、イコンが入ってこれないところなどを見回っていたのだが、ちょうど大きな通りの花壇に目を向けたところ、草花の影に隠れるように置かれていた木箱が目に入った。
(これは――)
 明らかに不審物であった。しかし自分ひとりでは対処を謝る可能性もある。そこでカオルは無線で味方に応援を求めた。
 一番最初に駆けつけてきたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)であった。
「ルカルカ……どう思う?」
「怪しいわね。でも、蓋を開けて調べるってこともできないような構造だし、爆弾だった場合振動センサーが仕掛けられていることも考えられるし、かと言って爆発物の処理の専門家や専門の機械はないし……ダリル、どう?」
 ルカルカの問いかけにダリルはこう答える。
「氷術などで凍結し、オレのサイコキネシスでアネックス海京の外の十分な距離まで飛ばしてから、雷術や火術で始末してしまうのがいいだろう……」
「なるほど。幸い氷術と雷術なら使える。すぐに凍らせよう。<氷術>」
 カオルが術を発動すると箱はすぐさま凍りついた。
「……よし。ふん!」
 ダリルが十分に距離をとってサイコキネシスで箱を浮かせる。
 ルカルカが周辺の人々に警告して回りながら進路を開ける。
「オーケー。進路クリア」
 ルカルカの合図でダリルは箱を一気に外に飛ばす。
 カオルはそれを確認すると雷術を放つ。
 すると信管に電気が流れたのか箱は明らかに雷術によるものとは違う爆発を起こして砕け散った。
「……ふー。やはり爆弾だったか。これは、この爆弾一個だけとは見ない方がいいな。他にも大勢を巻き込める場所に爆弾が仕掛けられているに違いない。ルカルカ、ダリル、他のものにも連絡を回して爆弾の撤去だ」
「了解」
 ルカルカがそう言って爆弾のことを呼びかけるとすぐさま捜索が行われ、いくつも爆弾が発見された。しかし氷術を使える者の数が限られていたため、処理は遅々として進まなかった。だが、時限式と想定されるそれらの爆弾の大半は、幸いにも人で溢れてしまう前にすべてを凍りづけにすることができた。そしてここは超能力学院。サイコキネシスの持ち主は多かったため一斉に撤去が行われる。アネックス海京の外に爆弾が出ると火術と雷術で処理が行われる。
「いやぁ、何とかなったね……」
 ルカルカが脱力しながら言う。
「まだ爆弾がないとは限らんが、それは見回りの者に任せるとしよう。我々は監視に戻らねば」
 ダリルがそう言うと、ルカルカは「そうだね」と言って、会場中枢にいる人物の監視に戻るために去っていった。そしてカオルはさらに見回りを続けることとなる。

「さて、これでよし……ですね。あとは武器のエネルギーチャージをやっておきましょうか」
 神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)はパートナーの水鏡 和葉(みかがみ・かずは)の乗るイコンの整備を行っていた。
 ビームライフルとビームサーベルのエネルギーをチャージする。
「やあ緋翠!」
 と、チャージが終わった頃に和葉がやってきた。
「ああ、和葉、調度良いところに来ましたね。武器のエネルギーチャージも終わりましたよ。いつでも出れます」
「そっか。ありがと。ちょうど【パープル小隊】から呼集がかかったから【パープル小隊】に参加するよ」
「そうですか……本当はすごく嫌ですけれど、イコン搭乗時の補佐はルアークに任せます。……ただし、怪我をさせたり泣かせて帰ってきたときは、容赦しませんからね?」
 緋翠はルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)に向かってそう言う。
「当然でしょー?」
 ルアークは余裕の笑みを浮かべる。ちなみにこの二人、犬猿の仲である。
 二人がイコンに乗ってカタパルトデッキに行くと、【パープル小隊】の面々が揃っていた。
「ようこそ、私が【パープル小隊】の小隊長【パープルリーダー】。TACネーム【ファング】の綺雲 菜織(あやくも・なおり)だ。皆、今回はよろしく頼む。この小隊は外で哨戒任務につくことになる」
 菜織がそう挨拶すると、
「哨戒任務ですか? それは良いのですが、何故、緋山が此処に居るんですか!」
 とパートナーの有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)がガーガー口撃する。
 それを受けた緋山 政敏(ひやま・まさとし)
「うっせーな。居ちゃ悪いかよ」
 と軽く悪態をつく。
「俺はアイドルには興味ねーが、みんなが一生懸命やってるんなら、それを守りたいんだよ」
「む……緋山にしてはまともな答え。さては熱でもありますね」
「ないわ!」
 無線を聞いていた一同が大受けする。
「こちらリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)。聞こえますか?」
 管制室に向かったリーンが放送をいれる。
「聞こえるよ、リーン」
 正敏が答える。
「よかった。聞こえなかったらどうしようかと思いました。管制ルームのレーダーには敵影はありません。オーバー」
 リーンがそういったところで、女装姿のフレイ・アスク(ふれい・あすく)がやってきた。
「みなさん、お疲れ様です。警備に出られる方のために事前投票を承っていますけどどうなさいますか?」
 7オクターブの声が出るフレイは自然な女声でそう呼びかけた。
 そうすると、皆が誰それに投票するというのをフレイはメモし、「わかりました〜」と言って去っていく。
「あれは誰だ?」
 菜織がそう言うと、御空が
「主催のフレイさんですよ」
 と言う。それに対し菜織は
「あれが? どう見ても女だろう?」
 とさらに尋ねると御空はこう答えた。
「どうも普段は女装しているようで。それと、7オクターブの声が出る両声類とか言ってましたね」
「両声類?」
「男性でありながら女性のような声が出ること、あるいはその逆の人を言うようですが、ディープな世界なのでよくわかりません」
「そうか……不思議なものだな」
「それより、出撃しましょう、綺雲さん」
「了解だ。では、【パープル小隊】、各機発進。【ファング】出る!」
 菜織は美幸に機体を制御させると、自分はビームライフルとビームシールドを装備して万が一の遭遇に備えた。
「【パープル2】、【ぐーたら】出ます!」
 正敏のパートナーカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)がそう言ってカタパルトから発進する。
 正敏はアサルトライフルを装備すると、カチュアは周囲を警戒しながらリーンの管制に従ってイコンを動かした。
「【パープル3】、【ゼノパス】の林田 樹(はやしだ・いつき)出る!」
 樹も正敏同様イコンは初搭乗である。操縦はパートナーの緒方 章(おがた・あきら)がやっており、通信はゆる族のパートナーで身長35センチの林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が行っている。
「こちら【じぇのぱす】。いじょうはありましぇん」
 レーダーに異常はない。初搭乗のイコンはまだまだ操作が不慣れで、少々揺れるので、コタローは少し酔いそうになりながら他機との通信を行っていた。
「【パープル4】、【蒼炎】、出る!」
 蒼灯 鴉(そうひ・からす)師王 アスカ(しおう・あすか)のパートナーのマホロバ人である。鴉が機体を操縦し、アスカはアサルトライフルを装備する。ちなみに鴉はアスカに告白しているのだが、その返答はまだ保留となっている。アスカ自身は、今もまだ悩んでいるらしかった。
「【パープル5】、【ホークアイ】出る!」
 御空も機体を発進させると、奏音が
「御空、私はお腹がすきました」
 と言ってくる。
「こんな時にかよ。乾パンとスポーツドリンク置いてあるからそれで我慢してくれ」
「わかりました。仕事中ですしそれで我慢します」
 カノンはしぶしぶといった様子で乾パンの袋を開けると中身をバリボリとむさぼる。
「なにかこう――乾パンで食事というのは兵士らしいですね」
 実際にパイロットというのは兵士の一員であるのだが、奏音もそれを自覚し始めてきたようだった。
「【パープル6】、【ヴァイスハイト】出る!」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がビーム式のアサルトライフルを装備してカタパルトから発進する。
「こちら【ヴァイスハイト】。現在のところ異常なし」
 パートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が索敵しながらそう告げる。メガフロート周辺はまるで嵐の前の静けさのような静寂に包まれていた。
「【パープル7】、【ミッシング】、出ます!」
 和葉がそう言うとルアークがイコンを操作する。和葉のイコンはビームライフルとビームサーベルという標準的な装備だった。
 コームラントが樹、御空。イーグリットが菜織(ビームライフル、ビームシールド、ビームサーベル)、正敏(アサルトライフル実弾ver×2+ビームシールド)、アスカ(アサルトライフルビームver)、真司(アサルトライフルビームver、ビームサーベル、ビームライフル)、和葉(ビームライフル、ビームサーベル)という編成である。
 分散するには数が中途半端なので、菜織は<指揮>と<軍事訓練>持ちの樹に相談を持ちかける。
「んー、【ヴァイスハイト】と【ミッシング】は経験者だから別の班。【ホークアイ】と私はコームラントだから必然的に別の班。【ファング】が【ミッシング】と組んで【ぐーたら】を入れる。で、【ヴァイスハイト】が【蒼炎】と【ホークアイ】を入れる。私は【ファング】の班で。そうすれば経験者の【ファング】と【ミッシング】が【ぐーたら】と私の未経験者二人をカバーして、【ヴァイスハイト】と【ホークアイ】が未経験者の【蒼炎】をカバーする。こんな感じでどうだろう?」
「ふむ……3対4か。だが悪くない。その案もらった。では、私たちの班が右回り、【ヴァイスハイト】の班が左回りとしよう。半周して合流し、何事もなければさらに半周。それを繰り返す。万が一敵と会った場合は応援を呼びつつ足止めをすること。絶対に突出しないことだ」
『了解』
 菜織の言葉を受けて樹の決めた班編成に分かれ、イコンは左右に分かれて飛んでいった。

 ――一方
 イコンで会場内を警備するグループは……
「名前は、何と言う? 代理とは言え神、個別に名前が付いてはいないのか?」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はイコン起動時にコクピットの中でそう囁いてみる。もしこれがイコンの真の力を引き出す鍵になれば――と考えたのだが、イコンからの反応はなかった。コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)校長もイコンは真の力を引き出していないと言うがその真の力がなんなのかということは話さない。それがなんとも嫌らしく感じるエヴァルトであった。
「だめか……」
「まがりなりにも神なら機晶姫みたいに人格が備わっていてもおかしくないと思ったんだけどなぁ……」
 パートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)も落胆の色を隠せない。
「むう……」
 その時、会場のステージにいるはずのコリマ校長からの思念波が届いた。
(契約者よ……まだ時ではない……)
「うお!」
「ひあ!」
 ふたりとも思念波を感じたらしい。
「んー、これってまだフラグが立ってないってこと?」
「だろうな。イコンと超能力にも何らかの関係があるのかもしれん」
「そうだね。とりあえず、足元の人を踏み潰さないように気をつけながら警備しましょうか」
「おう」
 エヴァルトとロートラウトは同意するとイコンをゆっくりと動かして格納庫から移動させた。
「怪しい人影はないな……」
「まあ、こんなに人が多くちゃいかにも私は不審人物ですって格好でもしていない限りわからないよ」
「それもそうか」
 そう言いながら二人のイコンが会場内を練り歩いていると、門番よろしく直立不動している永谷のイコンとすれ違った。
「どうだ、様子は?」
「不審者はない。だが爆弾騒ぎもあっただけに、警戒は怠らないほうがいい」
 永谷がそう言うと、永谷から<禁猟区のお守り>を渡されていた熊猫 福(くまねこ・はっぴー)
「なんかうずうずするよね。嫌な予感が止まらないっていうのかな……一波乱あるような気がするよ永谷ちゃん」
 という。
「確かにな。先日の開放祭でも敵の襲撃があった。今回も広く一般に開放している。いつどこで潜入してくるか分かったもんじゃない」
「特にこっちは敵のイコンを鹵獲しているが、向こうはこっちのイコンを鹵獲していないっぽいからな。こっちのイコンの性能を知ろうと必死になってるだろうぜ」
「ふむ……」
 エヴァルトの言葉に永谷は考え込む。
「ならば格納庫の予備のイコンの警備も行ったほうがいいな」
「まあ、無線を回してみる」
 エヴァルトは無線で警備をしている生徒たちにイコンの警備を行うように告げるとその場を去っていった。
 そして、オーディションが始まる。

 一方、その陰影で暗躍するものが一人。
「ローザマリアさん、ローザマリアさん」
 富永 佐那(とみなが・さな)ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を物陰で呼び止める。
「な、なんだ?」
 前回のこともあってビクビクしていると、佐那が
「ローザマリアさーん、今回はこれ着てくださいねー」
 と言って格闘変身ヒロイン系のブルーのコスチュームを着せられる。
「やっ、やっぱりー」
「グロリアーナさんもですよー」
 と言ってグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)も同じ形のグリーンのコスチュームを着せられる。
「何でわらわまで……」
「エシクさんはこれを着てくださいねー」
「……」
 エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)はイーグリットの着ぐるみを着せられる。
「ブラダマンテさんのは用意するのを忘れてきました。ごめんなさい」
「……むしろ有難いくらいです」
 そうしてローザマリアとブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)がデモ飛行用のイーグリットに乗り込むと、グロリアーナは飛空艇で会場の警備に、エシクは歩いて会場の警備に出かけたのだった。


(味方の士気向上のためのアイドルか……戦争をさせるために歌うっていうのも皮肉な話だな。何かの物語みたいに歌うことで戦いが止まれば、これ以上楽なことはないんだろうけれど、現実にはそんなことは出来ないか。ただ、何事にも息抜きは必要だろう。歌を歌うことや音楽を奏でることが楽しいのは、あまり詳しくない俺でもわかるしな……今度椿を誘ってカラオケにでも行ってみようか)
 榊 孝明(さかき・たかあき)がそんなことを考えながらイコンで警備を行っているとパートナーの益田 椿(ますだ・つばき)が声をかけてきた。
「孝明……何考えてるの?」
「いや、歌って楽しいだろうなーってな。椿は歌は好きか?」
「……まあ、嫌いじゃないけど。別に人に聞かせるほど上手くないし……ってどうしたの?」
「いや、良かったら今度カラオケ行かないか?」
「……っ!」
「嫌か?」
「ううん。驚いただけ。孝明がカラオケで歌ってる姿が想像できなかったから。……ま、一回試しで行ってみても良いかもね」
 そう言うと孝明は喜んだ。
「そうか。それじゃああ行こう。このイベントが終わったら、打ち上げのつもりで」
「そうね……」
 そう言うと二人は警備に集中した。