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Trick and Treat!

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14.はろうぃん・いん・ざ・あとりえ。そのきゅう*腹話術師の活躍。


 街でたくさん、キャンディを買ってきた。
 それを抱えて、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は歩く。
 黒帽子と黒マント、お菓子のステッキも装備して。
 魔女の仮装で、人形工房までの道を。
 その後ろを、まるでミーナの背に隠れるようにフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が歩き。
 さらに後ろ、二人を見守る保護者のような立ち位置を高島 恵美(たかしま・えみ)が歩く。
 ちょっとした行列を作り、人形工房まで辿り着いたら。
 こんこん、扉をノックして、出てきたクロエに、
「くーちゃん♪ とりっくおあとりーとー♪」
「きゃ! ミーナおねぇちゃん! まじょさまなのね!」
「くーちゃんも魔女さん、かわいい〜♪」
 ぎゅーっとハグして、ほっぺたすりすり。
「くすぐったいのよ?」
「ん〜、でも、離さないー。お久しぶりだもん!」
「もう、げんきさんなの?」
「元気さんだよ! このとおり!」
 ひょい、とクロエを抱き上げて、くるくるーっとその場で回って見せる。「きゃはは!」と楽しそうな声で笑われた。
 そうしていると、クイクイ、スカートを引っ張られる感触に気付く。
「ん?」
 フランカだった。ミーナははっとする。
「そうそう」
 クロエを床に下ろし、後ろに隠れたフランカを前に押し出す。
 フランカは顔を真っ赤にして、あうあうと口を開いたり閉じたり、また後ろに隠れようとじたばたしたり。それをミーナは阻止した。代わりに、フランカの左手を繋いでおいてあげる。
「言いたい事、あるんでしょ?」
「う、う。だって、えっと、で、も、あう」
「自己紹介っ」
 あうあう、あうあう、どもるフランカを前にして、
「わたし、クロエ!」
 クロエが先に、自己紹介。
 それを受けて、
「ふ……ふらんか、まきゃふりー、ですっ」
 自分の名前さえつっかえつっかえに、フランカが言う。
「フランカちゃん! おぼえたわ!」
「あの、あの」
「なあに?」
「とっ……、ともだち、に、なってくだしゃい!」
 大事な所で噛んだ。
 真っ赤な顔をさらに真っ赤にして俯いて、繋いだ手に力がこもる。震えているその手を、きゅっと握り返した。
 少しの沈黙の後、
「おともだち。わたしのおともだち? おともだちがふえたわ!」
 クロエがその場でくるくる回った。
 嬉しそうに楽しそうに。
「な、なってくれます、か?」
「もちろんよ! うれしい!」
 おずおずと、フランカがクロエに右手を伸ばす。
 クロエがその手を掴む。
「なかよし!」
 楽しそうに微笑みかけて、フランカごしに繋がっているミーナにも笑いかけて。
「はっぴーはろうぃん!」
「は、はろうぃん!」
「ハロウィーン♪」
 楽しそうな三人の声が、工房に響いた。


 それを聞きながら、仲良くやれているようだと恵美は安堵する。ミーナが暴れて迷惑をかけるということも、なさそうだった。
 なので、本題に移る。
「クリスマスのプレゼント用に人形を作ってもらいたいのです」
「うん、いいよ」
 非常に、あっさりだった。
「……え、あの。……いいのですか?」
「え、なんで?」
 だって、店主であるリンスの前にある、その膨大な紙は、
「発注用紙なのでは」
「ああ、忙しいんじゃないのって? 大丈夫。俺、好きだから」
 ハードワークが? と疑ってかかりたくなるくらい、自らを追い込んでいるような量だというのに。
「心配しなくても、クリスマスまでに間に合わせるし。大丈夫だよ? プロは約束を守るってもんだ」
 ほら、と発注用紙を渡された。
「前日に突然持ってくるんじゃなければ、いつでもいいよ。どんな人形なのか決まってるなら今書いて出してくれてもいいし」
 恵美は、ミーナとフランカを見る。
 なんだか大勢で楽しそうに笑っていて、こちらには気付きそうもなかったので。
「では」
 机とペンを借りて、発注用紙に記入し始めた。
 二人は驚くかな?
 どんな人形だったら喜ぶかな?
 そんなことを考えて、自然と口元に笑みを浮かべながら。


*...***...*


 ハロウィンだ! お菓子をもらいに行こう!
 そう思い立った橘 カナ(たちばな・かな)が向かったのは人形工房。
 そこには夢の国のごとくお菓子がたくさんあって、人形もお客さんも大勢で。
 操り人形の福ちゃんを抱いて、きょろきょろと辺りを見回す。
 そして見つけた。
 クロエと、ミーナ・リンドバーグと、フランカ・マキャフリーが、
「ここのお人形、動くって本当?」
「うごくおにんぎょうもいるわ」
「でも、このお人形動かないです」
 なんてやり取りをしているのを。
 ここはカナの腕の奮いどころである。
「カナさん、あまりはしゃぎ過ぎないようにするッスよ」
 クマの着ぐるみ姿の兎野 ミミ(うさぎの・みみ)にストップをかけられても、
『はろうぃんノ日マデ細カイワネ! イイジャナイ楽シムノヨ!』
「そうそう、ハロウィンだもーん!」
 きゃっきゃ、笑って駆けて行って。
「トリック・オア・トリート!」
『とりっく・おあ・とりーと!』
 カナが、福ちゃんが、順番に言った。
「カナおねぇちゃん」
「お人形が動かないって?」
 福ちゃんを抱く右手とは別、左手にお人形を抱いて。
『どうして? わたし動ケルよ!』
 腹話術でお喋り。
「さっきまで動かなかったのに!」
「ほんとうにうごいた……」
 ミーナとフランカが、驚きの目でカナを見上げる。
 クロエも、すごいすごいとカナの周りをはしゃいで走った。
『ふふフ。トりっク・おア・トリーと!』
「きゃー! いたずらされちゃう! 飴あげるっ♪」
 楽しそうにミーナが言って、飴玉を渡してくる。とはいえカナは両手がふさがっているので、福ちゃんの着ている服――ハロウィン仕様に白装束である。カナもお揃いで、ミミの手作りだ――の袖に入れてもらい。
 くるり、フランカに向き直る。
「あう、あ。えっと、フランカ、おかしもって、なく、て」
 おろおろしだしてしまった。うっすらと涙目だ。可愛い。
『怯エナクテイイノヨ』
 福ちゃんで話し。
『そウソう。お菓子がナいなら、笑っテほしいナ!』
 工房の人形で話す。
 人形の言葉を受けて、フランカがぎこちなく笑う。
 うん、可愛い。
『くろえチャン! とりっく・おあ・とりーと!』
 きゃっきゃ、回っていたクロエにも言って。
「はい、ふくちゃん! おかし!」
 チョコレートを受け取った。
 それからカナは人形を陳列棚に戻し、
『ドウ? 人形ダッテ動ケルノヨ!』
 福ちゃんに喋らせる。
「うん! 動いた、すごかったー!」
「びっくり、した。です」
 ミーナもフランカも、信じてくれて喜んでくれて。
 腹話術師冥利に尽きる。
 カナが笑ったところで、
「どうぞ」
 そっと見守っていたミミがやってきて、三人にお菓子を渡して回った。
「本当は、人形にイタズラされない用に、って渡すつもりだったんスけど。遅くなっちゃったッス」
 でもカナさん、イタズラしなかったッスね。
 ミミが柔らかに、言葉にせずに言ってきて。
「ふーん、なんのことー」
『みみハ相変ワラズ変ネ!』
 笑い飛ばしてから、
「トリック・オア・トリート!」
『とりっく・おあ・とりーと!』
 ミミからもお菓子をもらった。
 もちろん、カナの分だけじゃない。福ちゃんの分も、である。
 欲張り? 知らない、なんのこと?
 だってハロウィンだもの。
 楽しまなくっちゃ、嘘でしょう?
 だから、また笑ってもらおうと、工房の人形を手に取って。
『まだマダ、喋れる子は居ルよ!』
 腹話術師は喋り続ける。