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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
『ナイトサバゲーnight』 『ナイトサバゲーnight』

リアクション

―――来ましたね。
 身を隠しながら相沢 洋(あいざわ・ひろし)は鼓動が高鳴ってゆくのを感じた。それでも平静を装ってティセラに言った。
「貴様等はそこで高みの見物でもしているが良い」
 この場所を確保したのも戦線を構築したのも甲陣営である、後から来た者にオイシイ所を横取りされてなるものか。
「さぁ、来るであります」
 先に向かい来るシルフィーナのすぐ先には散弾散布式地雷が仕掛けてある。踏んだ途端にペイント弾が跳ね上がる仕組みだ。
「いいぞ、さぁ、来い。来るでありますよ」
 走る速度は落ちるどころか上がっている。罠に気付いている様子はない、このまま、このまま駆けてくれば確実に罠にかかる―――はずだった。
「加減はしませんわ」
 両手を強く握りしめると、『凍てつく炎』をデタラメに撃ちながらに駆けた。
 罠に気付いたわけではない、ただ溢れる衝動のままに放っただけなのだが―――
「ぬぁっ! 私のトラップがっ!!」
 炎熱と氷結の衝撃に次々と発動する罠。対象者が誰も居ないというのに地雷は爆ぜてゆく。人はそれを不発という。
「だ、だがっ、まだある…」
 香住が直線で駆けてくる先にも地雷を仕掛けてあるのだ! 今度こそ―――
 『レビテート』で浮いていた。香住は地面から少し浮いた状態で向かってきていた。故に罠はスルー。
「し、しかし、私にはまだこの『番宣うちわ』が残っている」
 は腕を伸ばして『番宣うちわ』を突きだした。
「番宣うちわの防御力はラウンドシールド以上―――」
 言い終える前に『番宣うちわ』の両脇から現れたシルフィーナ香住によっては墜とされた。
「2手に別れての同時攻撃とは…見事……」
 崩れ落ちるを視界に映して、
「しかしその死は無駄には、ならない」
戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は銃を構えていた。
 地から浮く香住を。
「ここまで接近していては、」
 続けて狙撃に気付いたであろうシルフィーナに『スナイプ』。
「外しようがありません」
 2人の頭部を撃ち抜いた。それらはあっと言う間の出来事だった。
「ゴム弾です。安心してください」
 小次郎が銃を下ろすと同着に2人は地に体を横たえた。
「シルフィ! 香住! くそっ!」
 ジェラールがエアガンで小次郎を撃ち狙ったが、その銃声が突然に止んだ。銃を鳴らす指が、突然、動かせなくなったからである
「なんだ……? なんだこれは!」
「(くすくすくす)」
 メルセデス・カレン・フォード(めるせですかれん・ふぉーど)が右の掌を向けていた。
「指が動かないんじゃ仕方が無いわよね?」
 必死に抵抗してもどうしても指は動かせなかった。
「あなたもよ」
 左の掌を向けられた朱音もまた、『サイコキネシス』によって手を止められてしまった。
「動けない動かない何もできない。(くすくすくす)。そこでじっとしてなさい」
 撃てない銃を握らされたままに。それでもジェラールは顔を歪めて笑んでみせた。
「なにが可笑しいの?」
「へっ。分からないか? 両手を使えないのは、お前も同じだろ」
「何っ?」
 彼女のすぐ脇をパッフェルが駆けてゆく。
「行かせない、なの」
 とっさにエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が進路に飛び出し、大型ハンドガンを構え放った。
 狙いを定めて……しかしそれでもパッフェルはそれを軽々と避けた。
「うゅ…凄ぉい……」
「感心してないの!」
 溜息を漏らすエリシュカ・ルツィアに渇を入れて、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が加勢した。
 パッフェルが狙撃した直後の瞬間に彼女の手首を狙い撃ったが、パッフェルは素早く手首を返すと、もう一丁のモデルガンの腹でこれを受けて防いだ。
 ローザマリアは『バーストダッシュ』を使って彼女との間合いを頻繁に変えた。エリシュカは『サイコキネシス』で彼女の指を狙うが、捕縛できても片手のみ。反射で放たれる銃弾を避けているうちに縛は解けてしまう。2人は攪乱と現避を繰り返す、対するパッフェルは経験と先読みで2人の攻撃を避けている。
 一見すればパッフェルが押されているが、この戦いを遠目に見ているセイニィには、まだまだパッフェルは倒れないように思えていた。
「見て見てティセラ! 2対1なのにパッフェル頑張ってるよっ!」
「……えぇ。そうですわね」
 ティセラは不機嫌そうな声で応えた。パッフェルだけでなく、眼前では甲陣営と乙陣営の戦いも繰り広がっている。そしてそのどちらもが今の段階では互角に見えた。
「セイニィ」
 ティセラは少しも苛立ちを隠さないままに言った。「サバゲーとは、こんなに時間のかかるものなのですか?」
「えぇっと………どうかな」
 『さっさと終わらせてパッフェルを連れ戻す』、その為にわざわざイルミンスールの森まで出向いたわけだし、そうしなければ事態を秘密裏に処理する事も難しくなる。ティセラはそう言っていたし、今のセイニィにはそれも理解できた。
「で、でもさ、ゲームって言っても殆ど実戦に近いよね。戦術だって必要だし、戦う場所だって考える必要があるよね」
 それらが上手くいっているからこそ、人数の劣る乙陣営は互角に戦えているのだろう。パッフェルと戦うべく、その機をうかがう者も居るというのもまた、現状の一部であるようだが。
「あの子、さっき私に気付きましたよね?」
「えっ!! そう?! 遠いし暗かったから……それにほら! いつもの服と違うじゃん、こっちを見ただけじゃあティセラだって分からなくても―――」
「いいえ! 私がどんな格好をしていようとも、あの子が私のことを見間違えるはずはありませんわ」
 着ぐるみを着たり、腹巻きハゲ親父みたいな格好をしていても気付くのかな? なんて思ったら笑いそうになったが、ティセラがおもむろに星剣を握りしめるのが見えて、嬉は吹き飛んだ。
「ちょっちょっと待ってティセラ! 何してるの?」
「決まってますわ。私が決着をつけます」
「待って待って私が! 私が言ってくるからっ!」
 そんな血走った瞳で戦場になんて出たら、間違いなく加減なんて出来ない。戦場が……焼け野原になる。
「ティセラはそこで見てて! いい?! 来ちゃダメだからねっ!!」
「ちょっと、セイニィ?!」
 最後までティセラを抑えながらにセイニィは戦場へと飛び出していった。