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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
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第三章 戦は荒れる

 集まり立つ木々の陰。
 乙陣営の面々は、束の間の休息を取っていた。
 甲陣営の襲撃で受けた傷の回復と武器と戦力の確認を急いで行った。休息と言っても多くの時間を割けるわけではない、敵はおそらくすぐ近くまで迫ってきていることだろう。
「だいぶ、やられたねぇ」
 七刀 切(しちとう・きり)はメンバーの顔を見回した。単純に頭数が減っている。加えて、甲陣営が予想以上に戦力を分散させることなく集団で行動していた事、そしてそれらが再び襲いかかってくる事を考えると、無理にでも笑わないと頬は緩みそうになかった。
「音穏さん、あれ出して」
 魔鎧としてに装している黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)は、包みの中から『ショコラティエのチョコ』を取り出した。
「チョコは疲労回復に良いんだよ」
 真っ先にパッフェルに手渡して、後は陣営の面々に砕いて配った。
 に促されて音穏も食べてみたが、なるほど確かに頭が軽くなったような気がした。に無理矢理に持たせられていたものだし、正直邪魔にしか思っていなかったが。音穏少しだけのことを見直した。
「誰か来る」
 の『チョコ』が緩めた緊張の糸が、イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)の言葉で一気にテンションを強めた。
 『殺気看破』で周囲を警戒していたイシュタンが何か不穏な気配を感じ取った。明確な殺気という訳ではないが、何か、誰かしかが歩み寄ってくる。
「もう追いついたのかな」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は瞳を凝らして茂みの先を見つめみた。イシュタンは確かに何かを感じると言うが、人影を発見する事はできなかった。しかし何者かはほぼ確実に迫り来ているようだとイシュタンは言った。
「よぉし、こういう時こそこーちゃんの出番だね」
 ミルディアは『名古屋コーチン』のこーちゃんの頭を撫でると、気配の元へと歩ませた。
 歩み離れてゆく『名古屋コーチン』の背を見つめながら、ミルディアは必死に笑いを堪えた。
 甲陣営の面々も自分たちの気配は感じてるはずだ、歩み寄ってくる気配も。ドキドキしながら身構えていて、現れたのがこーちゃんだったら―――。目を丸くして驚く様を考えただけで可笑しくて可笑しくてたまらなかった。
 ようやく人影が見えてきた。木々の傘が月明かりを遮っていて、はっきりと姿は見えなかったが、歩み寄ってくるのは数名だった。
 真っ直ぐにこーちゃんに向かってくる、こーちゃんも真っ直ぐ歩んでゆく。
 人影とこーちゃんが今、対峙した!
 予想通り足の止まった人影めがけてミルディアは突進した。
 『ビーチパラソル』の槍術で先制する為に、否! 驚きおののく顔を見るために!
「すきありぃ〜! ってあれ? …………!!!!!!!」
 人影の懐に飛び込んで、見上げ見た。
「ヒィ!!」
 目を丸くして驚いたのは彼女の方だった。
 彼女と目があったのは人に非らず。歩み来た人影はエレナの『アンデッド』たちだった。
「みるでぃ!!」
 イシュタンが『アンデッド:ゾンビ』に『遠当て』を叩き込んだ。
 腰を抜かしたミルディアの盾となるように、イシュタンは『三節棍』と拳をふるった。
「ねぇ、レオナ
 雨宮 渚(あまみや・なぎさ)は頬を強ばらせてレオナに訊いた。
「あれなら、殺っても良いわよね」
「渚……今も怒り心頭なのですか?」
「当たり前でしょう! パッフェルを守るとか言ってたカイはあっさり『脱退』しちゃうし、去り際に何て言ったと思う? 『自分の代わりにパッフェルを守ってやってくれ』よ! 冗談じゃないわ、守りたいなら最後まで自分でやれってのよ!」
 これはもう、止まりませんね。レオナGOサインを出した。
 が弾けるように飛び出すと、それと同時に突如に『アンデッド』の数が劇的に増えた。
 エレナの『アンデッド』は全部で4体。それに並べるように夜霧 朔(よぎり・さく)が『メモリープロジェクター』で自身の影を生みだし、後方から『光術』で照らしたのだ。影は薄れて黒く見え、離れ見ていたレオナには『アンデッド』が増えたように見えたのである。
 がゼロ距離の『サイコキネシス』で『アンデッド:グール』の首を折りもいだ事には勇気をもらったが、『アンデッド』の増加はそれ以上に乙陣営の戦意を削いでいた。
 その隙をカリン・ウォレス(かりん・うぉれす)は見逃さなかった。…………のだが。
「きゃっほうっ! 行くよー!」
 その方法が悪かった。彼女は『バーストダッシュ』で飛び出した。
 甲陣営に属した彼女のパートナーは、サバゲー開始直後にバイクを爆走させて突進した。一人で突っ込んだ彼の行動に呆れ顔を見せた彼女だったが、そんな彼女が取った行動も『敵陣営に正面から突っ込む』だった。
 意識は無くとも、パートナーは似る、という事だろうか。敢えなく、あっけなくカリンパッフェルに迎撃されて倒れたのだった。
 しかしこれが事実上、両陣営の戦いの火蓋を切った。そして何よりも大きな功績は、パッフェルを引きずり出した事にある。
「結果オーライノ……何が悪いノ?」
 パッフェルの目の前にもう一人、パッフェルが現れた。
 『シャウラヘッドドレス』に『ゴスロリ眼帯』、『シャウラロリィタ』に『エアーガン/パッフェルカスタム』を装しており、腰には『ティセラ人形』まで付けていた。何より驚くべきは身長までパッフェルと同じ事であった。
 突然目の前に自分と同じ姿の者が現れたなら誰だって、そう、例えパッフェルであっても隙ができるはず。ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)の思惑通りにパッフェルは体を硬直させたが、彼が瞬いた次の瞬間には彼は肩を撃ち抜かれていた。
「そんな……なぜ……」
 なぜ動ける……。思考回路は完全に停止していたはずだ、それなのに。
 反射で撃ったという事か、いや、それよりもなぜ俺がニセモノだと分かったのか。
「そりゃあ、本人の前に現れれば、即バレでしょ」
 パッフェルの背からヒョコッと顔を出して騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が冷静にツッコんだ。
「な、なるほど……」
 以前の教訓を生かして『ちぎのたくらみ』も修得したというのに。彼女の思考を止めた所までは良かった、そこを狙って攻撃しようという狙いも。しかし目の前に現れた畏怖なる物を排除しようというパッフェルの反射狙撃がそれらを上回ったのだ。本人を前にして変装がバレないと思っていたという点については、追及しないでおくとしよう。
「さて、そろそろ、わしらの出番じゃけんのう」
 詩穂の胸元で、装着状態の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が言った。「まずは『神速』で一気に間合いを詰めるかのう」
「あのアンデッドは、わてらが引き受けるわ」
 が名乗り出た。彼も音穏を装している。詩穂、魔鎧を装した2人が共に飛び出した。