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【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

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【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

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 そして、橋の上では。
 「主様、援護は任せるのがよいのじゃ」
 「主よ、こちらは任せるがよい」
 「さあ、ダンスパーティーの始まりだ!」
  パートナーの魔道書アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)の魔法と、人形を取った魔鎧アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)の援護を受けて、天御柱学院の御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は、最近覚えた『銃舞』を使い、飛んで来る石つぶてをひょいひょいと避けながら、曙光銃エルドリッジで亡者を狙い撃っていた。しかし、動きが激しいため、他の生徒から見るとどうしても射線の予測が難しくなる。
 「おうわっ、危ねえ!」
 ブライトグラディウスを構えて突っ込んで来た葦原明倫館の棗 絃弥(なつめ・げんや)が、欄干を足場に飛び上がって器用に攻撃を避ける。そのまま空中で身体をひねり、狙っていたのとは別の亡者に斬りつける。そこへパートナーの源 義経(みなもと・よしつね)が駆け寄って、七枝刀でとどめを刺す。
 「すまん!」
 絃弥に声をかけた紫音を、
 「紫音! あまり無茶はだめどすぇ。銃なのにあまり前に出すぎたら、幾ら紫音でも誤射する可能性はゼロではありまへん」
 紫音のパートナーの強化人間綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がたしなめる。
 「気にしてねーよ、それよりさっさと片付けようぜ!」
 絃弥はふっと笑って手を振った。
 「そうそう、今夜は祇園で芸者遊び体験の予定なんですよ。その前に風呂に入って着替えて、こざっぱりしたいですからねぇ」
 義経も微笑む。
 「わかった。みんな、頼むぞ!」
 紫音はパートナーたちを振り返った。アルスもアストレイアも、風花もうなずく。


 「京都だからてっきり、弁慶のような強い力を持ったラスボス的な亡者が居るかと思えば、雑魚ばかりか」
 シャンバラ教導団のケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、薙刀型光条兵器を肩に担いでフンと鼻で笑った。既に何人かの亡者をナラカに送り返しているが、斬り付けてもまったく手ごたえがないので、いささか期待はずれかつ欲求不満に思いつつ、次の相手を探していると、
 「きゃーっ!」
 背後でパートナーの剣の花嫁天津 麻衣(あまつ・まい)が悲鳴を上げた。
 「どうしたっ……うぉう!?」
 振り返ったケーニッヒは、目の前に白い大きな茶巾寿司状の物体が出現したのを見て、思わずのけぞった。
 「いやーっ、やめてえっ!」
 巨大茶巾寿司はもそもそと動いており、中から麻衣の悲鳴が聞こえる。そして、茶巾寿司の下には……
 「ぱ、ぱんつ、と、足……?」
 呟いたケーニッヒは、鼻血で鼻の下が真っ赤に染まった顔を覆った。
 つまり、麻衣は亡者の力によって純白のドレスの裾をめくられ、茶巾寿司状態にされてしまっていたのである。当然、スカートに覆われていた下半身はウエストから下がむき出しになっていて、足と下着が丸見えだ。
 この光景は亡者よりよほどケーニッヒにダメージを与えたらしく(主に精神的に)、よろよろとその場にしゃがみ込んでしまった。足元のアスファルトに、鼻血がぼたぼたと落ちる。
 「えっ!? あ、や、やだっ!! 見ないでっ、見ちゃダメ!! 見てないで早くどうにかしてーッ!!」
 麻衣は自分の状態に気付いて涙声で叫んだが、パートナーのケーニッヒは座り込んだまま立ち直れない。
 「ふむ、しかし、やっている亡者がわからんと、これは助けようがないな」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、くいっと眼鏡を持ち上げて、麻衣を取り囲む亡者を見回した。
 「まあ、このままの状態よりはマシ、か……」
 呟くと、大佐は転経杖をくるくると回しながら、呪文の詠唱を始めた。
 「そーれっ、食らえ!」
 サンダーブラストが、麻衣とケーニッヒを中心として降り注ぐ。
 「うごっ!?」
 「ぎゃああああッ!」
 二人は悲鳴と白煙を上げてその場に倒れた。が、とりあえず周囲の亡者は一掃され、麻衣は巾着状態から解放された。
 「全部こうやって倒せば早いのに……ほれ、同じ学校のよしみで回収してやるのだ」
 側で戦っていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に向かって顎をしゃくる。
 「今の場合は仕方が無いかも知れませんが、くれぐれも、橋や建物に被害がないようにお願いします」
 ため息をついて、小次郎は麻衣とケーニッヒを引きずって戦線から離脱した。


 「あーやっぱり、『盛夏の骨気』は有効なのね。良かった〜」
 亡者を一人、その拳でナラカへ送り返した葦原明倫館の霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、ゆらゆらと陽炎のような気をまとった拳を見て、ほっと息をついた。
 「それにしても、スカスカ通り抜けちゃって、何だか戦いにくいなぁ……」
 「そうですね、弱点もあるのかないのか良く判らないですし。とりあえず当たればいいっていう感じで」
 パートナーの剣の花嫁緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が同意する。
 「血が出ないしねぇ。どうせなら肉体つきで蘇って欲しかったわ。あんまり苦しそうな様子にもならないし」
 パートナーの、エリザベート・バートリの英霊月美 芽美(つきみ・めいみ)が残念そうに言う。
 「果たして亡者がカメラに写るのか、実験できるのはいいけどね」
 芽美の右手には、デジタルビデオカメラがある。わざと威力を弱めた雷術で攻撃をし、その様子を撮影しているのだ。
 「念動力も、石つぶてくらいでたいしたことはな……いいぃ!?」
 言いかけた透乃は、後ろから何かが飛んで来る気配に振り向いた。慌てて避ける鼻先を、一升瓶がかすめて飛んで行く。
 「あーっ、私のお酒!」
 「そんなもの持って来たの?」
 芽美が呆れ顔になった。
 「移動中に陽子と飲んでたのよぅ。まあ、でも、一升瓶なんて動かされてもそんなに危なくない……よね……っとお!?」
 Uターンして来た一升瓶が、再び透乃に向かって飛んで来た。
 「一升瓶で思い切り殴られたら死ねる、と思いますけど……」
 陽子がため息をつく。
 「陽子だって飲んでたでしょ! あ、こら、待て、かーえーせっ!」
 透乃は慌てて一升瓶を捕まえようとした。しかし、そこへさらにもう一本、一升瓶が飛んで来て、透乃の後頭部にクリーンヒットした。
 「ぐぅ……」
 透乃は白目をむいてアスファルトに沈む。
 「だから言ったのに……」
 陽子はもう一度ため息をつくと、『奈落の鉄鎖』を使って一升瓶の速度を下げた。とりあえず遅くなった1本を芽美が捕まえる。だが、もう一本はあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
 「待ちなさい!」
 陽子はもう一本にも『奈落の鉄鎖』を使ったが、芽美は暴れている酒瓶から手が離せず、今度は捕まえる者がいない。一升瓶はそのまま、
 「『今宵の虎徹は血に飢えておる』な〜んてねぇ。うん、せっかくの京都だし、これは言っておかないとねぇ」
 などと言いながら、亡者を倒して刀を片手に格好をつけている蒼空学園の八神 誠一(やがみ・せいいち)の方へ飛んで行った。
 「うおおっ!?」
 『スウェー』で身を反らして避けつつ、誠一は反射的に一升瓶を虎徹で思い切り叩き落してしまった。
 「あ、危なかった……」
 日本酒の香りが立ちのぼる中で、誠一はほっと息をついた。
 「あーあー……もったいない……」
 陽子はがっくりと肩を落とす。
 「うわ……何これ、酒? 宿に戻ったらシャワー浴びないと……」
 誠一が濡れてしまったチェインメイルを見回していると、
 「危ない!!」
 誰かの怒鳴り声がした。誠一は慌てて前を見た。一升瓶の破片がこちらに向かって飛んで来る。しかも、一つや二つという数ではない。さっき叩き落して割れた一升瓶一本分の破片が全部だ。身をかわし、虎徹で叩き落して破片を避けるが、幾つも繰り返し飛んで来るものを避け続けるのは限界があった。一応、龍騎士の面や怪力の籠手、スカーミッシャーレギンスなどを装備して出来るだけ露出部分を少なくしてあるが、何もつけていない部分に破片が刺さって行く。
 「大丈夫でありますか!?」
 顔をしかめる誠一の前と後ろに、パワードスーツで全身を覆った相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)が、誠一をかばうように立った。
 「ここは俺たちに任せるであります。貴様は向こうを!」
 洋は誠一をその場から離れさせた。
 「伊達に装甲を纏っているわけじゃないんでね。その程度の攻撃!」
 誠一を悩ませていた破片も、さすがにパワードスーツは貫けない。洋は不敵に笑い、みとを振り返った。
 「動かしている奴を追い払えばいいんだよな。みと、直接火砲支援攻撃、弾種氷術! 周辺施設への被害を抑えるために火術、雷術使用厳禁! そこらに居る亡者に対し、手当たり次第撃ちまくれ!」
 「直接火砲支援攻撃了解しました。周囲に対する配慮も確認」
 腕をすっと伸ばしたみとの指先から、氷のつぶてが亡者たちに向かって飛ぶ。洋も碧血のカーマインの引金を引く。銃についての噂が暗示のようになってしまっているのか、乱れ撃ち状態だ。
 「撃ち応えはないが、亡者には効くじゃないか! たまんねーなおい!」
 攻撃が、氷術が当たるたびに、亡者の姿は少しずつ薄くなって行く。十分も撃ち続けると、二人の周囲の亡者は完全に姿を消した。同時に、瓶の破片が地面に落ちる。
 「おーい、戦闘が終わったらちゃんと掃除しておくであります!」
 透乃を引きずってこそこそと逃げようとしていた陽子と芽美に、洋は声をかけた。
 「あ、そうですね……」
 「とりあえず、彼女を安全な場所に移したら戻ってくるわー」
 陽子と芽美は引きつり笑いを浮かべて答えた。


 多少の負傷者は出したものの、一条戻り橋の戦闘は三時間ほどで終了した。生徒たちは僧侶たちと協力し、道路にちらばった石や木の枝、それに一升瓶の破片などを片付ける。
 「他の場所も上手く行ったのでしょうか……」
 他の三か所にそれぞれ友人たちが行っている島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が首を傾げる。と、クレーメックの上着のポケットで携帯電話が鳴った。
 「……うむ、こちらは今、後片付けをしているところなのだが……わかった、では西福寺に向かえばいいんだな?」
 西福寺で何かトラブルとか、人手が必要なことがあったのだろうか、とパートナーたちがクレーメックを取り囲む。
 「西福寺は決着がついたそうだ。六道珍皇寺はもう少しかかるが時間の問題なので、我々は先に西福寺に向かって欲しいと言って来た」
 「なぜ西福寺に? 決着はついたのですわよね? 旅館に戻るのではないのですか?」
 問い返すヴァルナに向かって、クレーメックは肩を竦めた。
 「供え物の菓子は、亡者が実際に食べるわけではない。本来は焚き上げるべきなのだろうが、昨今は街中で物を燃やすことには厳しくて難しいので、我々に食べに来て欲しいそうだ」
 大鍋入りのお汁粉など、宿舎へ運ぶのが難しいものもあるのだ。
 「……六波羅蜜寺はどうなったのでしょう?」
 「さあ、そちらについては何も言っていなかったが……確かに、ただ音楽を聞かせるだけにしては時間がかかっているな……」
 クレーメックは眉を寄せ、首をひねった。

 六波羅蜜寺に行った生徒たちが、アンコールに次ぐアンコールで声をからして連絡して来たのは、それより更に一時間以上も後のことだった。

担当マスターより

▼担当マスター

瑞島郁

▼マスターコメント

 修学旅行京都編をお届けいたします。お待たせして申し訳ございませんでした。
 楽しんで頂ければ幸いですが、「普通の修学旅行を!」という声も多く見受けられましたので、次にこういった企画を担当することがありましたら、怪奇現象の起きない普通のものをやってみたいと思います。
 それでは皆様、良いクリスマスと良いお年を。新しい年にまたお目にかかりましょう。