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【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

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【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

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 その頃、本堂では、沙 鈴(しゃ・りん)デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)東雲 いちる(しののめ・いちる)石田 三成(いしだ・みつなり)織部 律(おりべ・りつ)、シャンバラ教導団の大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)とパートナーのヴァルキリーヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)らが水塔婆を書いていた。師王 アスカ(しおう・あすか)のパートナーの蒼灯 鴉(そうひ・からす)も、こちらに回っている。
 「こんなもんでいいっすかね?」
 ようやく最初の一枚を書き終えたデゼルは、一緒に水塔婆を書いている僧侶に、出来た水塔婆を見てもらっている。
 「あら、なかなか上手いではありませんの。……時間は随分かかりましたけど」
 横から鈴が水塔婆をのぞき込む。デゼルの書き方は書道ではなくレタリングで、字の形に外枠を取ってからちまちまと塗っている上に、字を間違えてはいけないと慎重になっているので、どうしても時間がかかるのだ。
 「間違えるよりはいいだろ……」
 デゼルはちょっとむっとして言い返す。
 「それに、これ、結構書きにくいですよ。木の板だし、小さいし」
 筆の穂先を直しながら、いちるが言った。墓所に立てる大きな卒塔婆と違って、水塔婆は短冊サイズだ。細い筆を使っても、字がつぶれたりはみ出したりしないように気を使いながら書かなくてはいけない。
 「私は、大きさはともかく板なのがな……。筆がすべりにくくて書きにくい……」
 「マホロバの字と似ているのも、良いような悪いような……うっかり間違えてしまいそうですわ」
 毛筆には慣れているはずの三成も、いちるのパートナーになる前はマホロバで書や絵を書いて生計を立てていたという律も、だいぶ悪戦苦闘しているようだ。
 「ヒルダ、墨はまだでありますか!?」
 「ちょっと待ってーっ!」
 墨がなくなり、筆を止めて催促をする丈二に、ヒルダが必死に墨をすりながら叫び返す。
 「はぁ……はぁ……お待たせ」
 すれた墨が入った硯を空の硯と交換する頃には、息が上がっていた。
 「自分の部下の不手際なんだから、墨するくらい手伝ってくれてもいいのに……閻魔大王のケチ……」
 無限 大吾(むげん・だいご)のパートナーの魔女廿日 千結(はつか・ちゆ)が、唇を尖らせて呟いた。
 「だよなー。ああくそ、おかげさまで最悪の修学旅行だぜ。手が痛え……」
 蒼灯 鴉(そうひ・からす)は筆を置いて、ぶらぶらと右手を降った。
 「すぐに戻らないといけないって言うんだから、仕方ないだろう」
 聞き取った名前のメモを持って来ていた大吾がなだめる。
 「修学旅行は本来、遊びや単なる物見遊山ではないのですから、こちらの方が人生勉強になって有意義、という気もしますしね」
 鈴が微笑む。
 「まー何か、修行っぽい感じはするけどな、写経とかみたいで」
 (特に、殺し屋だった俺にとっては、この名前ひとつひとつが人一人の命に直接結びついてると思うと、無心にならなきゃやってられねえし)
 心の中でつけ加え、鴉は再び筆を握った
 「それにしたって、今あたいたちがやってることって鬼のミスの尻拭いですよぉ? もうちょっと協力的でもいいと思うんですけどね〜。思ってたより墨の消費が多くて、するのが大変です……」
 ぶつぶつ言いながら、千結は硯に水を足し、墨をすり始める。
 「墨が少ないとかすれてしまうし、多すぎると垂れるし乾かないし、難しいところですよね」
 律がため息をつく。
 「何かコツってないんですか?」
 いちるが尋ねると、律は首を左右に振った。
 「こういうカンは、数をこなさないと身につかないものですから、簡単に出来るようになる方法はありません」
 「すぐに上達しようなんて、考えが甘いですか……」
 いちるはまだ何も書いていない水塔婆を睨んでため息をつく。そこへ、
 「どうだ、進んでるか?」
 薔薇の学舎の冴弥 永夜(さえわたり・とおや)とパートナーの強化人間凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)、ドラゴニュートイレギオ・ファードヴァルド(いれぎお・ふぁーどばるど)が、名前のメモを持ってやって来た。
 「現在、絶賛苦戦中であります。外の様子はいかがでありますか?」
 丈二が尋ねる。
 「まあ、ぼちぼちかな。ただ、とにかく人数が多いし、間違わないようにと思って慎重にやっているから……」
 メモを差し出しながら、イレギオが答えた。
 「暴力行為に出たり、変に反抗的な亡者が居ないのはありがたいですが、それでも、かなり時間がかかると思います」
 亡者たちが良からぬ行動に出ないよう、ずっと警戒を続けていた白影が言う。
 「持久戦になりそうねぇ」
 千結が盛大にため息をついた。
 「さて、墨が乾いたものから仏前に供えて、読経を行いましょうか」
 住職が、生徒たちに声をかけた。
 「あー、乾かすのにドライヤーとかあれば良かったかも!」
 ヒルダが叫ぶ。
 「せめて、うちわか何かであおぎますか?」
 僧侶の一人が言った。
 「お願いします! 墨が乾かなかったら、積んだら汚れちゃうものね。まずいわ……」
 ヒルダが答えると、僧侶はばたばたとうちわを取りに走る。


 「ねえ、もう飽きた、あーきーた、ってば!」
 蒼空学園の魔女パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)は、相槌を打ちながらひらすら亡者の話を聞いているパートナーの北郷 鬱姫(きたごう・うつき)の服を引っ張って叫んだ。
 生徒たちが六道珍皇寺に到着してから、既にかなりの時間が経過している。その間ずっと、鬱姫は若い男の亡者の話を聞き続けていた。
 「はぁ、そうなんですか……、はい……」
 相槌を打ちながら、上目遣いに、困ったような、何かを訴えかけるような表情で、
 「あの、お名前を……」
 などと言ってみたのだが、
 「その前に、お嬢さんの名前を聞かせてもらえまへんか? ご趣味は? お好きな食べもんは?」
 と逆に質問攻めに遭って、すっかり相手のペースにはまってしまっている。
 「せめて、きれいなおねーさんとか可愛い子供とか、あ、イケメンでもいいけど、とにかく見るのが楽しいような外見の亡者ならいいんだけど、何だか冴えない格好の人ばっかりだし」
 パルフェリアは周囲を見回してぷう、と頬を膨らませた。普通の市井の人々なので、服装も地味だし(中には地味を通り越して「ぼろ」も居る)、とりたてて美形に思える顔立ちの亡者も居ない。
 「せめて誰か恋バナでもしてないかなー……」
 パルフェリアはふらふらと、鬱姫の側を離れて歩き出した。
 「ああもうっ、主もパルフェも、情けなくて涙も出ぬわ!」
 鬱姫のもう一人のパートナーの悪魔タルト・タタン(たると・たたん)は、こめかみに青筋を浮かべて叫んだ。まず、鬱姫と亡者の間に割って入り、亡者の顔を睨み上げる。
 「貴様に名乗る名などない! そこへ直れ、そしてまず名前を教えるのじゃ!」
 それから、振り向いて今度は鬱姫に向かって叫ぶ。
 「主も、だらだらと話につきあっておらずにしゃっきりせんか!」
 「ええと、その……ごめんなさい……」
 鬱姫はとりあえず謝る。
 「で。貴様の名は何と言うのじゃ?」
 タルトは亡者の方へ再び振り返った。ところが、
 「今度はまた、強気なかわいこちゃんがおいでやしたなぁ。お嬢さん、お名前は?」
 亡者はにこにこと笑ってタルトに尋ね返す。
 「こやつ、無念と言うより雑念がだだ流れじゃな……。質問を質問で返すでない、こちらが先に聞いておるのじゃ!」
 「あ、あの、タルト、落ち着いて……」
 押し問答になるタルトと亡者を、鬱姫はおろおろと見比べるばかりだ。

 「くそーう、ああ、いらいらして来た!」
 亡者の長話につきあわされていたデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)のパートナールケト・ツーレ(るけと・つーれ)は、突如としてガシガシと髪をかき回した。中年男性の亡者が驚いて後ずさる。
 「ああ、ごめんごめん。で、何だって?」
 「娘の花嫁姿を見なかったのが、心残りで心残りで……そうだ、あなた様、うちの娘の婿になって頂けませんかな」
 「……何だとーっ!!」
 その言葉を聞いたとたん、ルケトはキレた。
 「あらあら、地雷を踏んでしまいましたわね……」
 フランソワ・ラブレー ガルガンチュワ物語(ふらんそわらぶれー・がるがんちゅわものがたり)は軽くため息をついた。
 「おじさま、この子は男の子ではございませんの。『汝の欲するところを行え』がモットーの私ですが、さすがに、そのお話はお受けするわけには参りませんわ」
 デゼルに八つ当たりして来る!とどかどか去って行ったルケトを見送って、ガルガンチュワ物語は苦笑しながら亡者に言った。
 「そうでしたか。いや、それは悪いことをしてしまいました……。で、わしは娘の花嫁姿を見なかったのが、心残りで心残りで……」
 また同じ話を始めた亡者の言葉を微笑みを浮かべて聞いてやっていたガルガンチュワ物語は、周囲に居る亡者たちの姿が一人、また一人と薄れていくのに気付いた。
 (やっと供養が始まったようですわね……)
 ルケトが水塔婆を書いている方々の邪魔をしなければ良いのですが、と思いつつ、ガルガンチュワ物語は視線を目の前の亡霊に戻した。