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リアクション
7,花道は誰のために
砂地に隠れていたモンスターも退治され、最後の防衛ラインももうほぼ機能してはいない。正門側の部隊の役目はほぼ完了し、残すは内部の敵―――指揮官を残すのみとなっていた。
そんな中、少し遅れて小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は多くの兵士を引き連れて戦地にやってきた。
「まだ戦っているみたいですね」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が言う。
「すごいね………あれだけ数の差があったっていうのに」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は素直に驚いているようだ。
「けど、まだまだやらないといけないことはいっぱいあるよ」
そう言って、美羽は振り返った。彼女が率いてきた兵士達は、アイアルと共に今日まで戦ってきたカナンの人たちだ。補給基地に運ばれた人の中で、傷も浅くまだ戦う意思のある人たちを集めた部隊である。
命のうねりや驚きの歌である程度は回復しているが、完全回復とまでいってない人の方が圧倒的に多い。それでも、戦いたいという気持ちが彼らにはあるのだ。
「よーし! みんな聞いて! もうあんな感じで、砦はボロボロになっちゃってるし、たぶんもう放っておいても勝てるかもしれない。ぶっちゃけて言っちゃえば、これって最後のおいしいとこだけ貰っちゃおうっていうことなんだけど、でも、みんなは今日まで一生懸命頑張ってきたもん。最後のおいしいとこぐらい、全部もらっちゃっても誰も文句は無いよ。絶対。だから、胸張っておいしいところを取りに行こう! それじゃ、気合を入れて………突撃ぃ!」
負傷兵の寄せ集め突撃部隊ができたのは、補給基地を用立てたフレデリカの影響があった。カナンを再興するのは、この国に住む一人一人の想いがなければいけないと考える彼女の言葉に立ち上がった兵士達を、負傷兵を護衛してきた美羽達が引き受けたのだ。
補給基地で負傷兵の気力をあげるために歌を歌い、大人数を引きつれて戻ってきたら戦況はだいぶ変わっていたが、まだ戦いは終わっていない。
「こっから大仕事よ。絶対に、一人も犠牲者なんて出さないんだから!」
「あれは………」
城壁の上に立っていた月島 悠(つきしま・ゆう)は、こちらに向かってくる集団を見つけた。
「味方の兵士みたいですね、援軍の話しは無かった思いますけど」
麻上 翼(まがみ・つばさ)が首をかしげる。
「いや、あれは違う。あれは―――」
向かっている集団は、美羽が引き連れている部隊だ。恐らく、補給基地から戦える兵士を引き連れてきたのだろう。
「なぜあんな事を………?」
もう大勢は決している。まだ指揮官を捕えたという報告は無いが、正門で戦っていたものは内部に突入できている。今更兵を引き連れてくる理由が見当たらない。
「どういう事なんですかね?」
「今は、援軍な必要な場面ではない。むしろ、ここで彼らを引き連れてきてしまっては余計なけが人を増やすだけ………ん、いや、彼らだから連れてきたわけですか」
「なんかわかったんです?」
「たぶんだけど、あの人達に花を持たせてあげたいんですよ………翼、あの部隊を援護します。彼らの道を塞ぐものは、容赦なく撃つ」
「わかりました!」
「これじゃ先に進めないよ」
「もうっ、邪魔しないでよ」
美羽とコハクの前には、ゴブリンの部隊が道を塞いでいた。数にして、三十体ぐらいだろうか。随分とボロボロだが、戦う意思は捨てていないらしい。どこかで戦いを切り抜けてきたのだろうか。
「もうあと少しですのに」
ベアトリーチェのほんのすぐ前に、崩れた城壁がある。もうほんのあと一歩のところまで迫っているのだ。
「こんなところで戦ってる場合じゃないのに!」
兵士達も、武器を構えている。怪我人を出したくないし、こんなところで消耗させたくもないが仕方ない。そんな彼女達の目の前で、突然ゴブリン達が崩れていった。
「え? え?」
「行け。我々が援護する。行けっ!」
「露払いはお任せください」
悠と翼が城壁の上から援護を行ったのだ。無骨なガトリング砲がものすごく頼もしい。
「ありがとっ! よーし、道は開いた、いっけぇ!」
「なんだなんだ? なんの祭りだ?」
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は突然わらわらとやってきた軍団に目を丸くした。
「援軍? 今更?」
王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)も不審な様子でその集団を見つめている。
「ありゃ、最初に撤退してたゲリラの奴らじゃんか。今頃手柄でも欲しくなったのか?」
「さぁ?」
「広場もほぼ制圧したし、あとは指揮官をとっ捕まえるだけだが………ってか、未だに指揮官捕まえた報告無いってのも凄いよな。もう逃げ出しちまったんじゃねぇの?」
「逃げるぐらいなら最初から戦わなければいいのに。外の大物はまだ手ごたえあったけど、中に入ってからはもうダックハントもいいところじゃない。あーあ、つまんなぁい」
「喧嘩売ったのはうちらだと思うけどな、元をたどりゃ向こうのせいかもしんないが。つまんないなら、今からでも指揮官でも探しに行くか?」
「嫌よ、一体何人行ったと思ってんの? 狭い場所で攻撃しちゃいけない味方がいっぱいとか、やってらんないわよ」
「さいですか。んじゃ、どうしますかねぇ」
まだ全てが制圧しきったというわけではなく、二人から距離の離れた砦の方はまだ戦闘を続けている。自分の戦いに精一杯で、砦の中に入っていく人を見逃している時点であちらももう時間の問題だろう。今から参加するには少し遅いかもしれない。
「そーだな、だったらあのお祭りにでも参加するか?」
「はぁ?」
「嫌そうな顔すんなよ。だってほら、あいつらは今回の雇い主。もし、あいつらに何かあったら俺らの仕事は失敗って事になるかもしれないだろ。ま、今更あの人数をなんとかする戦力は残ってないだろうけどな。それにあそこは目立ってるから、一緒にいれば獲物も寄ってくるだろ、たぶん」
「ゴブリンやコボルドが増えたところで、なんとも思わないわ。行きたいなら、行けば?」
「言うと思った。だったら少し見物するか、もうあとは指揮官捕まえればお祭りも終わるだろうし、ちょーっとばかしはしゃぎ疲れたわ」
「あたしは満足してないんだけど?」
「あれだけやってそう言いますか………」
二人が通った道は、それとわかるぐらい凄い事になっている。凄いというか、おぞましい事になっている。現に綾瀬の服は元の色が思い出せないぐらい返り血で真っ赤に染まってしまっていた。
「何か………凄いことになってますぅ」
「兵隊さんがいっぱい来たね」
美羽が引きつれてきた部隊は、今まで部隊を細かくわけて戦わせていたこともあってかなりの存在感があった。如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)も、いきなりのこの援軍には少し驚いたようだ。
「あれだけ、わーって人が入ってくると、勝ったぁって感じだね」
「あとは………指揮官さんを………捕まえられれば………いいんですけどねぇ」
「そうだね。もういっぱい人が入ってったから、もう捕まえてるかな?」
「そうであって欲しいですねぇ」
日奈々は周囲を見渡し、もう戦っているところが無いのを確認した。建物の中はまだ戦闘を続けているかもしれないが、この状況で逆転されることなどありえないだろう。
あの援軍も、戦力としてどうかよりも、その存在感が心強い。
「さすがに………今日はちょっとハードでしたねぇ」
この場面にたどり着くまで、日奈々は何度もSPリチャージのお世話になった。次から次へと向かってくる敵をひたすらなぎ倒してきたのだ。こうして、ほぼ勝利が確定した状況になると、今まで気力で押し留めていた疲労がどっと出てくる。
「大丈夫?」
「大丈夫ですぅ。ちょっと………疲れが出ただけですよぅ」
まだ気を抜くにはちょっと早い。ぐっと足に力を入れて、座り込まないようにする。
「ちゃんと………勝ったという報告があるまでは………お休みするのは我慢ですよぅ」
「そうだね! はやく指揮官が捕まえられるように、ここで応援しようね」
「はいですぅ」
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