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【カナン再生記】砦へ向かう兵達に合流せよ

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【カナン再生記】砦へ向かう兵達に合流せよ

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6,壁を乗り越えた戦士達


「ふふふ、ははは、はーっはっはっはっはっは」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は城壁の上にあった一際高い見張り台の、そのまた上に立って見事な三段笑いをしてみせた。
「一番乗りは頂きです!」
 実際は中に既に潜入している部隊があるので、厳密には一番乗りではないかもしれない。しかし、砦を攻めるために外から攻撃を仕掛けた部隊では、確かに彼が一番乗りだった。
「うむ」
 クロセルに肩車されているマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)も、大変満足そうな顔をして頷いている。
 二人は、正門攻略部隊として作戦に参加し、そしてきちんと敵陣を突破し、城壁の一部が崩れていく混乱に乗じて一気に城壁を這い上がったのだ。城壁が崩れていくことに驚いていたモンスターを蹴散らすのは難しくなく、見張り台はあっという間に落とす事ができた。
「やりましたね。まさか、こう素晴らしいチャンスが巡ってくるとは思いませんでした。名実共に一番乗り、これで俺の名前はカナンの地にとどろく事になるでしょう」
「高いところを取って颯爽と登場するのはヒーローにこそ許された演出であろう。うむ、よくやったぞ」
「ふふふ、褒めても何もでませんよ」
 と、二人は大変気分よくその光景を楽しんでいた。何せ一番乗りなのだ、それはもうヒーローでありスターと言ってもいいだろう。このフロンティアで、新たなヒーロー伝説の幕開けにこれほどうってつけの演出は無い。
 そんな二人の居る見張り台へ、砲撃もとい、空から女の子(と、レッサーワイバーン)が降ってきた。
 もともと見張り台が古いから、もしくは先ほどの城壁の一部が崩落したからか、見張り台はまるでジェンガのように脆くも崩れ落ちた。幸い、城壁そのものは壊れなかった。
「いったーい。もうっ、あのワイバーン人の進路に突っ込んでくるんじゃないわよ」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は瓦礫の上に立ち上がる。少し着地には失敗したが、大きな怪我は無さそうだ。もっとも、隙を見て潜入という彼女の目的もこれでは失敗だ。
「あいたたた………うちの子は大丈夫?」
 霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)はここまで彼女達を運んできたワイバーンを心配そうに見つめる。ワイバーンは翼を広げて健在を示してみせた。
「大丈夫みたいね。よかった」
 二人は上空からなんとか砦に侵入できないか、と機会を伺っていたのだが防空戦力のワイバーンの層があつく中々近づけないでいた。こちらも飛行部隊が相手をしていたが、近寄らなければ襲ってこない事に気づいてからは、地上の支援に回っていた。
 戦争をしているのだから、相手にしなくていい相手は無視するのが道理である。彼女達も地上の支援を行っていたのだが、先ほどの城壁の崩落はワイバーンにも衝撃を与えていた。そりゃ、自分達の巣が崩れ落ちたら驚くのは当然のことだ。この一瞬なら突っ込めるかもしれない、と二人は一気に砦に近づいたのだ。
 結果は、ワイバーンの迎撃に進路を妨害され、それをなんとか方向転換で乗り切って見張り台に突撃、というわけである。
「大丈夫ではありません。まだ名乗りもしていないというのに、見張り台が残ってないじゃないですか!」
 瓦礫の中から、クロセルとマナが飛び出す。
「あ、人が居たんだ」
「居たんだ、じゃ、ないですよ! 先ほどの俺の姿は見ていなかったんですか!」
「ごめんごめん、こっちも必死でね」
「全く、せっかく一番見晴らしのいい場所をゲットしたのに。ただの城壁の上と変わらなくなってしまっているではありませんか。どうしてくれるんですか」
「だったら、あそこを取ればいいんじゃない?」
 シンベルミネが示した先は、砦の天辺である。先ほどまでは見張り台が一番高かったが、たった今崩れ去ったのであそこが一番高い場所となっている。
「あの子の言う通りかもしれないぞ。なにせ、あそこには恐らくここのボスが居るだろう。あそこを取ってしまえば、一番目立ち、そして一番の活躍になるではないか」
 何故か煽るマナ。
「むむ、言われてみれば、確かに今はあそこが一番高く、そして一番の敵が居る場所ですね。ふふふ、あそこを落とせば、この戦は終わったようなもの。その大役を俺がすれば、新聞の一面に載るほどの大活躍間違いないですね」
「そうとなれば、このような場所で無駄な時間を費やす暇などなかろう。行くぞ」
 マナは、クロセルの肩に収まるとさっそく二人は砦の天辺目指して城壁の向こうへと進んでいった。
「ボク達はどうする、主殿?」
「新聞の一面には興味ないけど、こんな戦いは速く終わらせないとね。それに、今更隠密って状況でもないし、真っ直ぐ進みましょ」
「うん、わかった」



「セシリア様、ステラ様をお願いします」
「う、うん」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、武器を構えた。その後ろでは、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が不意の一撃を受けたステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)を助け起こしている。
「あの二人はモンスターなんですかねぇ?」
「わかりませんわ………けど、人間ではないように思えますわ」
 四人はまだどこかに居るかもしれない捕らわれた人を探して、砦の中を探索していた。すずなの話ではいないと言われた人質が、石像の形で見つかったなんて報告もあった。確認するまでは絶対に居ないとは限らない。
「申し訳ありません、足をひっぱってしまって………」
「そんな事ないよ。だって、あんなの予想する方が無理だもん」
 四人は見つからないように徹底して進んでいた。人質のために食料なども少量ながら持ち込んでいたのも理由の一つだ。今は戦闘も佳境に入ってきたこともあって、ほとんどの敵は外の迎撃か、中で暴れている潜入部隊の撃退に借り出されている。
 そんな中、突如彼女達を襲ったのは壁からの一撃だった。全身に分厚そうな鎧を身に纏い、人の背丈よりも大きく無骨な斧を持った二人組みが、壁を破壊して彼女達の前に現れたのである。壊された壁に近かったステラが被害を受けてしまった。壁を壊すために振られた斧ではなく、壁の瓦礫に当っただけというのは不幸中の幸いだろう。
「壁を壊しながら前進していたみたいですねぇ」
 どうやら、この二人組みはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達を見つけたからやってきたのではなく、壁を壊しながら直進していたら偶然出会ってしまったらしい。壁を壊して進むなど、敵地を攻める時ならまだしも、自分の領地で行う方法とは思えない。それが、ただ進むためならなお更である。
「メイベル様………ここは引くべきだと思いますわ」
「そうねぇ」
 とは言うものの、ステラは当たり所が少しわるかったのか、立ち上がってはいたが足ともが少しおぼついていない。それに、この鎧の二人組みから感じる威圧感は相当なもので不用意に背中を見せるわけにもいかないだろう。
「困ってしまいましたわ」
 戦うという選択はなるべく避けたい。最善策としては、誰かが囮となって足止めを行うというものだろうか。だが、この二人組みの前に囮をするのはかなり危険だ。手練というよりも、獰猛な獣のようでまともにやり合いたいとは思えない。
「来ますわ―――速いっ!」
「これは逃げられないわねぇ………」
 一撃は避けたて間合いを取り直す。
 この鎧の二人は、予想を上回る速度で動いてくるらしい。この速度で斧を振り回したら、爆弾を仕掛けられたように壁が吹っ飛ぶのも納得である。
「ますます困ってしまいますわ。どうしようかしら」
 やはり最善手は、誰かが囮になることしかないかもしれない。フィリッパがそう考え、自分が囮になると言おうとした、その時、斧を持った二人組みのうち一人の頭が吹き飛んだ。遅れて、声が響く。
「初弾、命中確認」
「まだ気を抜くな!次弾装填、目標頭の残っている方、放てー!」
「ファイアー」
 さらにもう一撃、残っていた一体も頭を吹き飛ばされる。
「命中確認」
「よくやったであります」
 二人組みがぶち抜いて作った、新しい道の奥に相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)の二人が立っていた。距離はさほどないが、ヘッドショットをニ連続で成功させたみとの頭を洋はしっかりと撫で回した。
「しかし、頭を吹き飛ばされて倒れないのはすごいな。これが話しに聞く、立ち往生というものか」
 感心しながら洋がたった今倒した二人組みに近づいていくと、
「わ、わ、まだ動いてますよ!」
 みとが驚きの声をあげる。
「くっ、何者なんだこいつらは!」
 咄嗟に洋は後ろにさがる。頭を失った二体は、乱暴にひたすら斧を振り回している。
「目も耳も聞こえてないみたい」
 セシリアの言葉通り、二体は感覚器官の詰った頭を失って敵の場所を見失っているようだった。乱暴に斧を振り回した結果、味方同士で武器を打ち合いそして防御も何もできない戦いは互いに致死の一撃を打ち込み、やっと沈黙する。
「恐ろしい敵だったな。主に、最後が」
 強い弱いというよりも、最後の様子が強烈に記憶に残った。しばし様子を見て、もう完全に動かないと確認してやっと全員は息をついた。
「助かりました、ありがとうございますぅ」
「私からも、お礼をいいますわ。不意打ちを受けてしまいまして、どうしようかと思っていたところですの」
「なに、友軍を助けるのは当然の勤めである」
「けれど、どうやってここまで来たのですか? 潜入部隊のメンバーではなかったと思うのですが」
 四人が居たのは、砦のかなり奥である。指揮官のいるであろう場所からは離れているし、正門側からも距離がある。壁は崩れて中に仲間が攻め込んでいるのだが、まだここにたどり着くには少し早い。
「トナカイさんで空を飛んできたんです。うちのトナカイさんはすっごく優秀なんですよ」
「うむ、思いのほか空の防衛はきびしかったが、突破してここまで来たのだ。これよりここの指揮官に挨拶に行くところだ」
「そうなんだ。だったら、あっちに階段があるからそれを使うといいよ。中央の階段は、途中で落とされてたんだって」
「貴重な情報感謝する。よし、行くぞ、みと」
「はい!」
 洋とみとの二人は、挨拶もそこそこに、セシリアに聞いた階段に向かって走っていった。
「私達も、行きましょう。まだ助けを求めている人がいるかもしれませんし」
「ステラちゃん、大丈夫なの?」
「もう大丈夫です。次はこのような失敗は絶対にしません」
「ふふ、頼もしいですわね。では、行きましょうメイベル様」
「ええ」



「凄い人数が守ってるから、何かあると思ったのに………」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はがっくりとうなだれる。
 砦の中でモンスターを蹴散らしながら進むうちに、一定の方向に必ず何体もモンスターが待ち構えている事に気づいた彼女は、敢えてその方向に向かって進んでいた。最初は、どんどん援軍が来るから詰め所みたいなものかと思ったが、途中から増援の来る方向が進路とは別になったので何かを守っているに違いない、という発想に至ったのである。
「食べ物は大事ですよ」
 フォローなのかわからないが、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)がそんな事を言う。
「そうよ、食べ物は大事よ! でも、こんな場所にある砦なんだから、すっごい秘密があると思うじゃない!」
「こんなところとは言いますが、今は降りそそいだ砂で不便な土地ですが、かつては大きな街道などが通っていたのかもしれませんよ。砦というのは、本来そういう要所に置くものです」
「だってぇ」
「しっかし、ひっどいもん食ってんだな。このパン、カビが生えてるぞ」
 キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が見つけたパンは見事にアオカビの巣になっていた。とても食べられるものには見えない。
「カナンの人は私達より胃が強いのかもしれませんね」
「いや、どう考えてもゴミだろ、これ」
「ですが、大事に守っていたのですよ? ねぇ?」
「いきなり俺様にそんなつまんねー話題を振ってんじゃねぇよ」
 禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)興味無さそうにそう答え、ふわふわと本の姿で飛び回っている。
「何か探してるの?」
「別にぃ………うわ、ほとんど保存食ばっかじゃねぇか。もっとせいのつくもん食えってんだよ………まさか、せいふく王って奴は自分の部下のせい活も制限かけてるってのか………許せねぇ、ぜってー許せねぇ」
「なんであいつ、あんなに一人で燃えてんだ? ちょっと気味が悪いぞ」
「まぁ、燃えてるんならいいじゃないですか」
 狐樹廊はくすくすと笑っている。
「おい、てめぇら、何くっちゃべってんだ。とっとと行くぞ!」
「行っちゃった………。よくわかんないけど、河馬吸虎があんなに張り切ってるのに私ががっかりしてる場合じゃないわね。よーし、私達も行くわよ。まだまだ戦いは終わってないんだから!」
「確かに食い物眺めてても意味はないわな」
「そうですか、文化を推し量るのに意味はあると思いますよ?」
「空気を乱す発言すんなよ。そんなのあとでもできるだろうが」
「冗談ですよ。さあ、行きましょうか」