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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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第1章 準備「倉庫番のトリオ」

「それにしてもやたら物が多いな。しかも乱雑だし。こりゃ見つけるのに時間かかるぞ」
「見渡せばあるのはマジックアイテムがほとんど、か。魔剣は……、見当たらないな」
「校長先生が校長先生ですからね。どこまで管理が徹底されているのか見当もつきませんよ……。っていうかランディさん、何探してるんですか」
「決まってるだろう。さっきダンドリオンが言っていた羽子板型の――」
「万が一、いや億が一にもありえませんよ。いい加減諦めてください」

 パラミタ、シャンバラ地方は北東、ザンスカールに存在するイルミンスール魔法学校、その倉庫の1つにて物漁りをしているのは、同学校に所属するフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)、シャンバラ教導団のレオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)、そして薔薇の学舎のフェンリル・ランドール(ふぇんりる・らんどーる)の3人だった。
 物漁りとは非常に聞こえが悪いが、要するに彼らはイルミンスールでちょっとしたゲームを行うのに必要な道具を探しているのだ。そのゲームとはハイブリッド羽根突き、道具はもちろん羽子板と羽根のセットである。
 事の発端は、レオンが「何か正月っぽい遊びでもしないか?」と誘いをかけたこと、そしてフィリップが「ハイブリッド羽根突き」を案に出したことであった。自前の特技や必殺技を羽子板や羽根に上乗せして打ち合う、もはや血で血を洗う死闘寸前の「遊び」である。これで遊ぶのだからそれなりの道具もあるはず。しかもその遊びの発祥はイルミンスール魔法学校にあるというのだ。当然道具もそこにあるはずだと考えた3人は、今こうして倉庫に入り浸っているというわけなのである。
 ちなみにフェンリルがいるのは単に誘われただけであり、羽根突きもどちらかといえば「お付き合い」という意識が強い。
「教導団流の新年祝いは、手榴弾や刃のついた巨大ゴマがやってくるだけで、全く面白くない。スキル上乗せの羽根突きの方が面白そうじゃねえか」
 などとのたまうレオンに、フェンリルは最初はこう反対していた。
「スキルがどれほど強力なのかわかって言ってるのか? 場合によっては爆弾で吹き飛ばされる、もしくは剣で切られるのと大して変わらんだろうが」
 この意見はあながち間違いではない。
 基本的にパラミタで生きる契約者は、そうでない者と比べて身体能力や頭脳に雲泥の差がある、というのは割と広く知られている。どんなにひ弱な者でも、契約さえすればほぼ例外なくオリンピック選手並みあるいはそれ以上の体力を手に入れ、どんなに頭脳がマヌケな者でも、契約さえすればほぼ例外なく学者並みあるいはそれ以上の頭脳を手に入れる――しかしそうなると数字を4以上数えられないというパラ実生はどうなのかという疑問が生まれるが、多分彼らは契約の恩恵を受けることを拒否したか、あるいはその恩恵に気づいていないか。もしくは「契約者にしては頭が悪い方」なのかもしれない。
 しかも契約者はほとんどが生きるための術として、一種の修行を行い、それに即した「技」を身につける。俗にクラスやスキルと呼ばれるそれを持った者は、それこそ爆弾並みの破壊力を手に入れているも同然なのだ。
 フェンリルが気にしているのはまさにその点であった。いくら羽根突きという「ルールに則った遊び」であるとはいえ、契約者同士が遊べば、さてどの程度の被害が予想されることやら……。
 そんな彼が羽根突きに参加することを決意したのは、この後のレオンのセリフが原因であった。
「あのなランディ、今から行くイルミンスール魔法学校は、言ってみればマジックアイテムの宝庫だ。で、世の中には『戦闘用羽子板』なるものがあってだな。マジックアイテム+羽子板。羽子板型の魔剣なんてものもあるかもしれないだろ?」
 要するに、魔剣集めが趣味という点をつかれて「ノせられた」のである。もちろんフェンリル自身、そのような魔剣の存在を信じているわけではなかったが、一応参加する動機にはなった、というわけだ。もちろん「羽子板型の魔剣」など存在しないのだが……。
「それにしてもよ」
 倉庫内を漁りながらレオンは呼びかけた。
「それにしてもイルミンも変わってるよな。ここって確か、ほとんどがドイツ系だろ? それなのにほとんど日本の蒼学を相手に羽根突きをやったって? 蒼学が持ちかけたならともかく、なんでイルミンが誘ったんだろうな」
 それに答えたのは、片方の学校に所属するフィリップだった。
「確か、イルミンスールにいるっていう日本人系の英霊が道具を持ってきたのが始まりで、それで両校の校長先生がライバル心をむき出しにして、それがいつの間にかハイブリッドになった、って流れだったって聞いたことがありますね」
「その英霊さんって誰だよ?」
「さあ。その時僕はここにいませんでしたし、当の本人にも会ったことは無いのでなんとも……」
 その当時、フィリップはまだイルミンスール生ではなく、パラミタに来てもいなかった。そのため誰がネタを振ったのか、その時の試合風景はどのようなものだったのかということについては「噂話で聞いた程度」にしか知らない。
「ただわかっているのは、『ハイブリッド羽根突き』はやたらド派手だった、ってことですかね。本当に大丈夫なのかなぁ……」
 何しろ攻撃スキルの全面使用が許される遊びなのだ。どちらかといえば文系で、体力勝負に自信の無いフィリップが不安がるのも無理は無いだろう。
 だがレオンは至って恐怖を感じなかった。ド派手は大歓迎、いくらなんでも殺傷沙汰にはならないだろう、と楽観視していた。
「大丈夫だろ。特にフィリポは見た目からしてひ弱だからな。手加減くらいしてくれるだろ」
「だといいんですけど……」
「……おい、この箱は何だ?」
 倉庫の一角でフェンリルは複数の段ボール箱を発見した。箱の表面には「羽子板」や「羽根」と書かれている。
「どうやら、お宝を見つけたみたいだな。でかしたぜランディ」
 早速レオンが箱の蓋を開ける。果たしてそれぞれの箱の中には、色とりどりの絵が描かれた木の板と、羽の付いた木製の小球が大量に詰まっていた。
「あったあった。これだけ大量にありゃあ十分遊べそうだな」
 言いながらレオンは羽子板を1枚手に取った。軽い長方形の板はその手にしっくりとなじむが、見たところこの羽子板はどこにでもある木材で作られているようだ。
「……なあ、これどう見てもただの板だよな。何か特別な処理がされてるってことは無いよな」
「防護魔法がかかってる様子はありませんね。本当に何の変哲も無い羽子板のようです」
「こっちの羽根も特に変わったところは無さそうだ。ハイブリッドというからには、何かしら特別なものを想像していたんだが……」
 そう、ハイブリッド羽根突きで使われていたのは「ただの羽子板と羽根」だったのだ。
「いやいやいやいや、これ間違いなくまずいだろ。こんな普通の道具でスキル上乗せしたらどれだけ弁償する破目になるんだよ!」
「せ、せめてこれが頑丈なパラミタの木材でできていることを祈りましょう」
 彼らの心配は結果から言えば杞憂に終わる。
 箱の中に入っていたのは「去年のハイブリッド羽根突き」で使われたのと同じ物で、それはつまり「それなりの耐久力は持っている」ということなのである。それ以前に羽子板と羽根は大量にあるので1つや2つ紛失したところで、特に痛手にはならないのだ。

「ところでダンドリオン、ルールはどうするんだ?」
 倉庫から道具を運び出し、イルミンスールの修練場に向かう道すがら、フェンリルがレオンに問いかけた。
「ルール?」
「基本は羽根突きのそれと同じだろうが、俺たちの技が関わる以上、ある程度はルールを決めておかないとまずいんじゃないか?」
「……言われてみりゃそうだよな」
 その場の勢いで物事を決めてしまったせいか、細かいところを考えていなかったらしい。箱を抱えながらレオンは眉を寄せる。
「まず基本は羽根突きのそれと同じだろ。そこに追加するものがあるとすれば……」
 歩きながらレオンは以下のルールを決めた。

1、飛んできた羽根を打ち返せない、または明らかに相手が届き得ないポイントに打った場合、負けになる
2、使うのは原則として用意された羽子板のみ
3、羽子板の二刀流、三刀流は可能。ただし羽根は1つのみ
4、基本的に1回勝負。場合により何回でも可能
5、基本は1対1。ダブルス可能
6、対戦相手へのスキルによる妨害は可能。ただしスキルによる直接攻撃は禁止
7、故意に羽根を対戦相手にぶつけるのは禁止。ただし、打った羽根がたまたま相手に当たってしまった場合は不可抗力となる
8、羽根を打っていいのは一度に1打のみ。連続して2打以上は禁止
9、打った羽根に後からスキルを乗せるのは可能
10、ダブルスの場合、同じチームの者が連携して打つのは可能(Aが羽根を打ち上げ、同じチームのBがそれを打っても反則にはならない)

「ま、こんなところだな」
「なるほど、妥当な判断だ。だが……」
「だが?」
「特に1番、6番、7番は、一体誰が判断するんだ? 俺たちが審判をやるのならそれでもいいが……」
「…………」
 誤算であった。彼らは「誰が審判をやるか」というところを全く考えていなかったのである。
「……誰も審判役に名乗り出なかったら、オレらが交代でやる。それしかねえ……」
「そこは祈るしかない、か……」
 詰めの甘い男だ。フェンリルはそう思わざるを得なかった。