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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

リアクション

 選手用の出入口付近で次の試合の出番を待っていたのは、サイオニックのトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)と、そのセコンドを務めるヴァルキリーでメイドのミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)である。
 吹っ飛ばされてきた久がトマスの目の前にいるも、ほぼ全身打撲の状態であり、ピクピクと痙攣している。
 しばし呆然と久の骸を見ていたトマスとミカエラであるが……。
「トマス、何をする気なの? あなたには次の試合が……」
 端正な顔立ちをしたトマスが久の装備、龍騎士の面と喪悲漢つけて二本の角飾りを剥ぎ、それを装着し始めた事に驚くミカエラ。
「ミカエラ、ここで負けたら、僕の試合の結果に関わらず終わりなんだぜ? 僕らはキマクの闘技場の暗黒面を払しょくして、王の施した善意が無駄にならないようにするため、ここに来たんだ」
「……そうは言っても、次の試合に出られなければもっとその意味がないわよ?」
「大丈夫さ。そのためにセコンドにミカエラがいるんだから」
 そう笑って龍騎士の面を被るトマス。
「次の相手……そう簡単な相手ではないわ」
 ミカエラは、メイドのスキルと医学の知識も有用に使いを活かして戦闘前のトマスの体調をベストに保っておいた。それは、次に待ち構える相手との戦いに備えてであり、更に事前に敵のデータを集めて戦闘傾向など調べていたミカエラが精悍な緑の瞳をトマスへと向ける。
「僕は、王くんがやった「参加費用としての上納金を納めない」というルール違反に対して、「だから戦闘にルール無用を持ち込む」というのは間違ってると思うぜ。ルール無視を批難する者が、次は自らルール無視をするのでは説得力がないだろう? ……む、ちょっと大きいな、この鎧」
「……わかった。もう言わない。その代わり、極力受けるダメージを少なくして勝つのよ? 私は敵味方問わず負傷者の治療には少なくとも1度は回るけれど、何度も自分から進んで怪我をするお方は、薬品の類にも限りがあるし、キリがないので途中でお断りするかも」
「うん。じゃあ、ちょっと行ってくるぜ!」
 ミカエラに手を振ったトマスが戦いへと赴く。
「……私は、とりあえずこの半分溶けかかった人を治療しなきゃ」
「……ふ、よろしく頼むぜ!」
 久が親指をグッとミカエラに突き立てる。


「ふざけるな!! おまえ、絶対先ほどのと中身違うだろうがぁ!! 中の人を代えたな!!」
 バルバロイの背に乗ったジャジラッドが現れたトマスを指差し、叫ぶ。
「中の人などいないぜ!!」
「……そ、そうだ! おまえに喰われてちょっと背が縮んだだけだ!!」
 椿も何かに感づきながら、そうジャジラッドに叫ぶ。
「く……まぁ、どちらでもいい。もう一度、潰してやるだけだ!!」
 バルバロイの手綱を引き、ジャジラッドが攻撃の姿勢を取る。
 構える椿に、トマスが小声でささやく。
「僕があのワイバーンの動きを止める。その間に君がジャジラッドを殴りに行くんだ。できるな?」
「……ええ、思いっきり横っ面を吹き飛ばしてやりたい気分だから!!」
 頷いた椿が全身に力を込める。
「(確かに、金を納めない王が悪い。じゃあ、あたしたちのファイトマネーを寄付すればいいんじゃねえのか? それか空大の学長にかけあって寄付くらいさせろよ。言えねえならあたしが学長に言ってやるよ……何も、子供を喰わせる事、ないだろうにッ!!)」
 大きく空を旋回したバルバロイが二人に迫る。
「喰らえ!! バルバロイ!!」
 再びバルバロイが口を広げて迫る中、椿とトマスが身構える。
「行くぞ!! 椿!!」
「了解ッ!!」
 横に跳ねた椿を見たトマスが【ミラージュ】により分身をし、バルバロイの攻撃のターゲットをぼかす。
「はぁッ!!」
 僅かだが、バルバロイの動きが止まる事に気付くジャジラッド。
「テレキネシス!? 動きを止めるつもりか!!」
「氷術!!」
 トマスが両腕に溜めていた魔力を一気に開放する。
 バルバロイを強烈な冷気が襲う。
「まだだ! 動け、バルバロイ!!」
「グゥウウォォー!!」
 翼が凍り始めても、尚、トマスに対しての突進をやめようとしないバルバロイ。
「だぁあああぁぁっーー!!」
 迫り来るバルバロイをトマスの氷術が徐々に固めていく。
「おまえぇー!」
 サッと飛竜の槍を手に取るジャジラッド。
「!!」
 トマスが片腕を腰に伸ばし、拳銃の灼骨のカーマインを取る。
「(……僕の方が遅い!! 殺られる!?)」
「死ねぇぇー!!」
 トマスに投擲される飛竜の槍……ガンッ!!
「やああぁぁー!!」
 空中でその槍を足蹴りしたのは椿であった。
「なっ!?」
「はぁッ!!! 軽身功!!」
 椿が半分程動きの止まったバルバロイの鼻の上に飛び上がり、上からその口を閉じるように足で踏みつける。
「グギュ!?」
 そしてそのまま首を走り、ジャジラッドの方へと接近していく。
「バルバロイ!! 振り落と……っ!!」
――ガンッ!
「!?」
 ジャジラッドのパワードマスクにトマスの放った弾丸がヒットし、バランスを崩す。
「この、死にぞこないがぁぁー!!」
 叫ぶジャジラッドに前に、椿が現れる。
「鳳凰の兼!!」
 椿が左右の拳から鳳凰の拳を繰り出す。
――ドゴ、ドゴッ、ドゴッ!!
 腕がちぎれんばかりに振り上げた両腕で幾度のジャジラッドのパワードスーツを殴打する椿。
「これで、トドメ! やああぁぁー!!」
 椿の華麗なアッパーがジャジラッドのパワードマスクごと、彼の巨体を虚空へと吹き飛ばす。
「「「おおおおおぉぉぉーっ!!!」」」
 観衆の大きなどよめきの中、勝負は決した。