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リアクション
「怒りで我を忘れるとは、甘いぞ。王大鋸!!」
王が見ると、どこかの国旗っぽい柄のプロレスマスクを被ったヘクススリンガーのトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、闘技場の二階の観客席の壁から出っ張っている獅子の彫刻の上に仁王立ちで立っている。
「この愚か者!! 思い出せ!? お前が何のために戦っているかを!!」
やがて冷静さを取り戻した王がトライブをじっと見つめる。
「何のため……」
「子供達のためであろう!! 大義なき力は、ただの暴力だという事を忘れるな!!」
ハッと観客席の子供達の顔を見る王。
「(そうだ……俺は何をやっていたんだ……これじゃ、キマクの穴と同じじゃないか……)」
トライブが「うむ!」と力強く頷く。
別に正体を隠す理由は無いけれど、何となくノリで覆面を被っているトライブが王に活を入れたのには訳があった。
キマクの穴はルール無用の悪党集団、この先、もし王が敗れれば子供たちを守る者がいなくなる。故に王大鋸は勝ち続けなければならない、という理由である。それ故にトライブは、正統派の戦士でありながら試合には出場せず、王の動向を注意深く見守っていたのであった。
「誰だか知らねえが、助かったぜ。もう少しで俺様は俺様じゃなくなるところだった」
「それでこそ王大鋸だ! ……むっ!」
トライブに放たれた六黒の闇黒ギロチンが、彼が立っていた獅子の彫刻を粉砕する。
六黒を睨むトライブ。戦闘態勢をとるが、すぐに外す。
「ふん! 本来なら俺が相手をしてやるが……王! あとは任せたぞ!!」
トライブは軽い身のこなしで闘技場の奥へと退散していく。
「観ましたか? 孤児院の皆さん。あれが貴方達にランドセルを贈った男の本性です」
悪路が優しく這い寄るような口調で、孤児院の子供達に声をかける。
「……」
「彼が、王が、正義の味方だなんて思っていましたか? どうです?」
「……」
子供達の表情をひと通り見渡した悪路が大きな声をあげる。
「王大鋸!! 貴方の今の姿! この少年少女達の目にどう映ったのでしょうかねぇ?」
「……」
悪路には王をこれ程執拗に身体的・精神的に追い詰める真意があった。
それは、王の努力に報いを与えるのは、やはり彼が想っている相手からの感謝と応援。それを背に受け、戦う王の姿を孤児院の子供達に見せたい、というモノである、
キマクの穴の悪人商会としては、王の姿を見て正統派に傾く孤児の中から、それでも尚ルール無用に傾倒する『悪のエリート』たる子供を選出することこそが、真の狙いであった。
簡単に言うと、将来のキマクの穴を担う戦士の選別である。
勿論、この事は六黒を含め、ほんの一部しか知らない。故に、シー・イーを人質としたリリィとウィキチェリカの行動は彼の想定外であった。
悪路の言葉に、孤児院の子供達の前で本性をさらけ出されてしまった事に絶望の表情を見せる王であったが、顔を伏せる暇はない。六黒を倒すまでは……。
水をうったように静まり返った闘技場に、トライブとは違う男の声が響く。
「王!! 負けるな!!」
ノーンが傍で大声を張り上げた影野に驚きの顔を見せる。
「……おにーちゃん?」
「君は負けちゃいけない!! 誰かのために命を掲げて戦う……それを間違いや愚かな事だと言う人もいるけど、俺は認めます!! だから、負けるな!!」
影野の声に、徐々に観衆から再び応援の声がポツンポツンと聞こえ出す。
悪路が周囲の声に冷ややかに笑う。
「フ……だが、こちらには人質がいるのです!」
「おぉっと、王大鋸の味方はまだここにも居るぜ!」
「そうよ! だから貴方達悪党は負けるのよ! 優男!!」
「何者です!?」
先ほどトライブが現れたのと違う方向の彫刻の上に、ベルフラマントと目の部分だけを隠すマスクの様なロイヤルマスクを付けたフェイタルリーパーの葛葉 翔(くずのは・しょう)と、ロイヤルガードのマントとミニスカートをなびかせたジャスティシアの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が共に腕を組み背を合わせて立っている。
「颯爽登場、ロイヤル美少年!」
「……と美少女! 王大鋸とは一緒に孤児院を作ったり、子供たちの面倒を見たりした友達! だから助けてあげるよ!!」
新たな正統派の助っ人の登場に盛り上がる闘技場。
翔は、王を助けてやりたいがロイヤルガードなので下手に動くと問題になりそうだからと考えて正体を隠すこの姿になったが、同じロイヤルガードの美羽が素顔で登場すると言い、翔はロイヤルマスクを渡そうとして丁寧に辞退されていた。
加えて、トライブが先に王に活を入れるため登場したので、ちょっと出待ちな感が二人にはあった。
「ロイヤル美少年て……葛葉翔でしょう?」
「俺はそんなイケメンで主人公っぽい奴ではない!」
悪路に指摘された翔が声高々に否定する。
「……と、とにかく、孤児院の子供達を人質にするなんて、許せないんだから!!」
冷えかけた空気に、美羽がすかさずフォローの声をあげる。
「王の味方はここにもいるぞ!!」
翔と美羽が声の方向を見ると、変身用パワードスーツのマスク部分を模したマスクを被り、レスラーらしい格好をしたコンジュラーのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)もやはり高いところに腕を組んで立っている。
「福祉に生きる者を、寄ってたかって潰すとは非道の極み! それを許す俺ではない!」
「……誰?」
「悪しき野望を叩いて砕く、誰が呼んだか名付けたか、我が名はネクサー、『ネクサーマスク』ッ!」
エヴァルトは最初、ランドセル等関係ないかと思っていたが、彼パートナーで魔鎧のモンクベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)が今年で六歳になる事を思い出し、王への恩返しとばかりに助けるため登場したのである。
そして、ランドセルを贈られたそのベルトラムは観衆として闘技場にいたが、やがて、どこで拾ってきたか、みかん箱とマイクを用い、自主的に実況を始めていた。
「(おおー、あのモヒカンのあんちゃんが、ランドセル送ってくれたのかー! ありがとなー!)」
贈り主の王を見てちょっと感動を覚えたベルトラムだが、すぐにマイクに向かい絶叫する。
「さぁ! ここに来て謎のヒーロー達が大集合だぜ! 悪党側もタジタジだぁー!!」
突如現れた三人の刺客にも悪路は顔色一つ変えない。
「……この子供達を助ける気ですか? ならば、お相手しますか……戦闘員の皆さん!!」
悪路が片腕をあげると、観客席に座っていた観衆の一部がスッと立ち上がり、その衣装を脱ぎ捨てる。策略に長ける悪路は戦闘員を紛れ込ませていたのだ。
エヴァルトが翔と美羽に呼びかける。
「正義の戦士達よ、ここで怯んだらシャンバラの新一年生はどうなる! 今こそ、強敵を打ち倒し、未来を勝ち取るのだッ!! 行くぞ!!」
「おう! とうっ!」
身につけていたベルフラマントを投げ捨てて、悪路のいる観客席へと飛び降りる翔。
美羽も翔に続く。
「王、向こうは私たちに任せて、勝負を決めちゃってよ!!」
「てめえら……ありがたい!!」
場外乱闘が開始される闘技場で、再び王が六黒を見る。
「最後の決着、つけようぜ? 六黒?」
「是非もない」
六黒が剣を構える。
ベルトラムが叫ぶ。
「畜生! 貴賓席のシー・イー、観客席の子供達、そして闘技場の試合と見所が多くてオレもみんなも困っちゃうけど、いよいよ、決着の時が来るぜ!! お見逃しなくーッ!!」