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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

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 シー・イーを助けに向かった正統派の戦士達が、数に勝るキマクの穴の戦闘員達の突破に苦戦している頃、ドラゴンライダーの御剣 紫音(みつるぎ・しおん)、強化人間のテクノクラート綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)、魔道書のメイガスアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)、魔鎧のパラディンアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)達は、リリィ達に拘束されたシー・イーを不信に思い、一足早く戦闘を開始していた。
「闘技場での試合以外で王を狙ってくるやつらもいるだろうから、キマクの闘技場の暗黒面を払拭するためにもそいつらをやっつけよう」と読んでいた紫音の読みが的中していたのである。
「さてと此処から先は通行止めだ! お帰り願おうか……それでも通るならば強制的にご退場願うぜ?」
 シー・イーを連れて、戦いの場がよく見える闘技場の最上階へと上がろうとしていたリリィとウィキチェリカ達の前に、ウルクの剣を構えた紫音達がその上段より姿を現す。
「わたくしたちの前にやはり障害となって現れるのですね、あなた方は……」
 魔鎧となったアストレイアが声をあげる。
「当たり前であろう。我々は貴公のようなならず者を排除するため、身をひそめておったのじゃ!」
「アストレイアの言うとおり、怪我をしたくないならば素直にシー・イーを開放して帰った方がいいぞ?」
「どうダ? ワタシを早く開放した方がよいのではないカ?」
 紫音の問いかけに捕縛されたシー・イーが同調し、ウィキチェリカに言う。
「リリィならきっと、頼まれたらすぐ帰しちゃうから大丈夫だよ。あなたは巻き込まれただけ。王さえ降参すれば帰れるよ」
 そう言いつつもウィキチェリカは心の中で本心を愚痴る。
「(本当は無事に帰しちゃ駄目なのに。……リリィは甘いよ。本当に組織を甘く見てる)」
「王さんは、そんな簡単に負けるようなヤワな人やないどすえ?」
 魔道銃を構えた風花がのんびりとウィキチェリカに反論する。
「俺は試合で汚い手を使うのはエンターテイメントとしてまだ許せるが、裏から狙うのは許せない性格でね」
「……困りましたわね。シー・イーを人質に取り、戦いを優位に進めさせるというキマクの穴からのオーダーを、こんな所で破るわけにはいきません」
 パワーブレスで強化した腕力で槌を握るリリィ。
「やる気か、リリィ! 2対4だぜ?」
「ご冗談を……。こちらには人質がいますわよ?」
「……」
 紫音がリリィ達に気付かれぬよう風花とアルスに目配せし、「紫音が斬りかかり、風花がサイコキネシス、アルスが天のいかずちで援護」という当初の作戦通りの行動に移す事を決める。
 リリィの黒い瞳がスッとウィキチェリカに移動するのを紫音は見逃さなかった。
「行くぜ!!」
 ウルクの剣を持ち、階段の上からリリィに向かって飛びかかる紫音。
 リリィが槌で紫音の剣を受け止めつつ、叫ぶ。
「チーシャ!!」
「ごんたくれ(注:京都弁で『困った人』という意味)さん、ちょっと眠って貰いますえー」
 風花がサイコキネシスで氷術を唱えようとしたウィキチェリカの動きを止める。
「うぇっ!?」
 振り上げた腕をサイコキネシスで止められ、小さく悲鳴を出すウィキチェリカ。
「貴公、裁きの天のいかずちを喰らうのじゃっ!!」
 紫音の背後にいたアルスが術を使い、薄暗い階段に閃光がはしる。
「きゃあぁぁ!!」
 リリィに当たる雷、紫音が剣でリリィの武器を弾き飛ばす。
「畳み掛けるぞ!!」
 紫音がリリィに向かい、突進し……動きを止める。
「ウィキチェリカ……驚きの歌か!」
 ひるんだ隙を見逃さない、腕の捕縛を解いたウィキチェリカが氷術を唱える。
「凍っちゃええぇぇーーッ!!」
 慌てて紫音、風花、アルスがガードの姿勢を取る。
「!? ……来ない?」
「紫音!! 違う! 下じゃ!!」
 魔鎧となって紫音を守っていたアストレイアが声をあげる。
「下だと?」
 紫音が見ると、強烈な冷気が急速に階段を氷漬けにしていき、やがて段差も消えた氷の坂へとなる。
「す、滑る!?」
「そ、そんなぁぁ!?」
 紫音の横をフレアスカートの裾を押さえたアルスと風花が、ツーっと滑ってリリィ達のさらに下へと落ちていく。
「アルス! 風花!!」
 氷の上に剣を突き刺してなんとかバランスを保つ紫音に、リリィが槌を笑顔で振り上げる。その腰には数十キロの重さにも耐えられる登山用のザイルがくくりつけらており、その先端は階段の壁に備えられたロウソクを置くための燈台へと伸びていた。
「……そうか、シー・イーを縛っている登山用ザイルで……」
「剣を離せば落ちますわね、でも離さないと、わたくしの槌が参ります? さぁ、どうされますか?」
「……流石だぜ、キマクの穴は」
 行動予測でリリィの次の手を読んでいたため、諦めの笑みを見せつつも剣を引きぬく紫音、だが、それより早くリリィの槌が彼を階段下へと弾き飛ばすのであった。



 闘技場で行われている王、コウ組と六黒、冴王組との戦いは熾烈を極めていた。
 目まぐるしく変わる戦況を、観客席から応援しているのは、バトラーの影野 陽太(かげの・ようた)と精霊のドルイドノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)である。
「ワーン! ワーン! ワーン!」
 決して泣いているのではない。エンドレスに王の名を叫んで応援するノーンを横目に見ながら、影野はちらりと会場の大きな時計を見つめる。
「(随分、遅くなっちゃったけど、大丈夫かなぁ?)」
 つい先日ようやく恋が実った恋人が自分の帰りの遅い事を気にするのではないか? という不安が影野に時計を気にさせていたのだ。
 ノーンが観戦したがってたために今宵の試合へと一緒に訪れていた影野は、恋人も誘えば良かったかなと思うのだが、人の多い闘技場へ色々と敵が多い彼の恋人を連れて来るのは、ちと抵抗があった。それほどまでに影野の恋人は『やんごとなき人』である。
「ほら、ノーン。あんまり立ち上がっちゃ焼きそばをこぼすよ?」
 ノーンの小さな膝の上から落ちそうになっていた焼きそばを、ヒョイっと取り上げる影野。
 ちなみにこの焼きそばと先ほど平らげたたこ焼き、フランクフルト、ジュース2杯は全て影野のお金である。別にどうという事はない味であるが、こういった場で食べると格段に美味しく感じられるのは何故だろうか? ……それはさておき、当のノーン事態は試合に目がいって、それどころではない。
「ガンバレー!! ワーン!!」
 既にノーンが全力で応援し続けてはや10分。影野はこの小さく可愛いパートナーの力が続く限りまで応援させてあげようと、暖かい目を彼女に向ける。どちらにしろ、帰る頃にはノーンは疲れて眠ってしまうはずである。
「ほら、おにーちゃんも応援しようよー?」
「え? あ、あぁ……」
 ノーンに促された影野も王に声援を送る。
「負けるなー!! 君を応援している人はここにいるぞーーッ!!」
「ガンバレー!!」



 影野とノーンの王への応援を聞きながら、冴王と対峙する、幽那のドリンクの効果か、いつもより頑張れてる気がするコウが愚痴る。
「オレは頑張らなくてもいいのかよ……」
「あんたも物好きだな。何が悲しくて、王の味方なんてしようと思ったんだ?」
 コウが赤いセミロング髪をなびかせる獣人の冴王を睨む。
「この姿を見てわからない? 王ちゃんを助けたい! それだけだ!」
 自分のモヒカンを指さすコウを、冴王が鼻で笑う。
「それは嘘、タテマエだ。本音を言えば、結局みんな暴力が好きで、傷ついて血反吐ぶちまけ倒れる人間を見るのがもっと好きなだけなんだぜ!!」
「黙れ! ……頭にきたぜ!! 早く王ちゃんを助けるため、まずはあんたを倒して前座を終わらせてやるぜ!!」
 プロレスマスク越しに怒りをぶつけるコウ。
「威勢がいいな。けど! アレを見てもあんたや王が戦えるとは思わないけどなッ!!」
 冴王がバッと、観客席の一点を指差す。
「!!」
 コウと王が同時に手を止めて見つめるその先に……六黒のパートナーにしてマホロバ人のテクノクラートである両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が、孤児院の子供達を連れて現れたのであった。
「あ、あの子供達は……見覚えがあるぜ……。俺様が、ランドセルをあげた……」
 王の手に握られた血煙爪がダラリと垂れる。