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またゴリラが出たぞ!

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またゴリラが出たぞ!

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 戦士にも休息は必要である。
 日夜、医学の進歩と苦しむ患者のため戦う空京大学病院のドクター達もこの日ばかりは安らぎを得ることが出来た。
 奇しくもその会場となったのは、和民の空京センター街店。しかも、アゲハ達の座敷のすぐそばである。
 医局長の音頭で乾杯が終わると、それぞれわいわいと楽しく宴に興じ始めた。
「どうも、去年はお疲れさまでした。今年も一年ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますよ、先生方!」
 空大所属の豪傑医学生ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)もジョッキを掲げて新年の挨拶。
 大学病院は医療の最先端、よってここにいるドクター達も一線で活躍するスペシャリストばかりである。天才外科医・切り裂きニコルソン先生、超小児科医・チャイルドプレイ小島先生。肛門科の鬼・菊ノ門意地流蔵先生……などなど、医者マニアが見たらショックで心停止するほどのメンツなのだ。そんなマニアがいるかはちょっと知りませんけど。
 ラルクは酌をして回ったりサラダを取り分けたりと、先輩達への気配りを怠ることなく動き回っている。
 と、そこに高名なドクターを見つけた。
「お会い出来て光栄っす。噂は耳にタコができるほど聞いてるっすよ、梅先生」
 そう。
 彼こそ空大病院が誇る精神科権威、レジェンド・オブ・ホスピタルにして……、アゲハシナリオなのに美味しいところを持ってってしまう恐るべき非登録NPC【スーパードクター梅】そのひとなのだ。
 その横にいるのは右腕と呼ぶべき看護士、ピンクの象型獣人【アエロファン子】である。
「当然だ。語り継がれるからこそ、私はレジェンドとなっている」
「なんと言う曇りなき自信……やっぱ権威ともなると違うぜ。で、どうっすか、昨今の医学界は?」
「毎日発見の連続だよ。ラルク君。地球とパラミタ、異なる生態系が出会う過渡期は新たな病が生まれるものだ」
「ははぁ。パラミタの病気が地球に来て変異したり、またその逆とかもあったりするっつー話ですしねぇ……」
「だから早く一人前になって、我々とともに戦ってくれ、ラルク君。我々は君を待っている」
「そ、そりゃどうも。なんか面と向かって言われると照れますね」
 とか言いつつも、期待されて嬉しくない訳がない。
 上機嫌になった彼はスーパードクターと乾杯して、豪快にビールを飲み干していった。
「……ところで何故シャツのボタンを外している?
「うえ!?」
 はっと気がつけば、無意識に脱ごうとしていた。
 あぶねーあぶねー酒が入ると脱いじまうんだよな、俺……、この場で醜態は見せられねぇぞ……!
 慌ててボタンを留める。
 ロイヤルガードのクローディスメンバーご乱心、とか言う朝刊の見出しは壮絶にして超絶に不名誉だ。
「大丈夫っす。梅先生にご迷惑はかけないんで、安心してください」
「む……、ならよろしい。じゃあ何か料理でもオーダーするか……」
 そう言いかけたところで、テーブルの上にタイミング良く焼きジャガイモが置かれた。
「ご無沙汰してます、ドクター」
 話しかけたのは、ミス・ポテトヘッドこと五月葉 終夏(さつきば・おりが)である。
 彼女は『ポテト同一性障害』なる奇病に冒されており、以前スーパードクターの診察を受けたことがあるのだ。
「ここでお会いしたのも何かの縁! ドクター、私のポテト同一性障害の進行具を診断してくださいよ〜!」
「今は非番なんだが……」
 困ったように眉を寄せる彼だったが……、すぐに鞄からカルテを取り出した。
「しかし、どんな時でも患者を第一に考えるのがスーパードクターだ。診察いたしましょう、五月葉さん」
「ありがとうございます! あ、そのほかほか焼きジャガイモ食べてください、今日は丸のままにしてみました!」
「今回は変な場所で栽培してないだろうな……? 診察が終わったら頂こう」
 医師の鏡のような超カッコイイスーパードクターの姿に、ラルクはいたく感動し手伝いを申し出た。
「スーパードクター節ごっつぁんっす! 病状の記録は俺がやるんで、梅先生は診断に集中してください!」
「頼んだぞ、ラルク君。ふむ……、とは言え、カルテには特に症状が発症したと言う記録はなさそうだな……。ジャガイモが好きなのは相変わらずのようだが、その程度なら日常生活に支障はないだろう。脅し文句が『煮っころがすぞ!』とかになってきたら、ちょっと治療法を考えなければならないが……まあ、今の状態なら大丈夫でしょう」
「そうですか……、ほっとしました」
 天才ゆえの神速診察である。
「では、先ほどの焼きジャガイモを……」
 ところが、さっきまでそれがあった場所にそれがない。煙のようにジャガイモは消失してしまった。
「……私のポテトが!?」
 怪訝な顔で辺りを見回す。
 終夏の頭に乗った蛙のぬいぐるみ型機晶姫シンフォニー・シンフォニア(しんふぉにー・しんふぉにあ)が目に留まった。
「けろけろ」
 疑惑の視線を浴びても知らんぷりで鳴く。
「貴様……、私のポテトを食べたな……?」
「けろけろ」
 鳴き声を意訳するとこうなる。
 精神科医……つまり心理戦が得意ということ。ならばここはひとつ私も心理戦を仕掛けさせて頂きましょう。
 スーパードクターの目を盗んで料理を食べる……、それがシンフォニーの仕掛けた戦いだった。
「つか、自分で料理頼めよ!」
 スーパードクターにしてみれば嫌がらせ以外の何ものでもなかった。
「まあまあ、落ち着いてください。あ、そうだ。またあれやってくださいよ」
 終夏はそう言って、アエロファン子から余命宣告ルーレットを借り、それにペタペタと細工を施した。

・余命プラス
・梅先生が語る初恋の人!
・梅先生が新人だった頃のお話!
・種モミ剣士でじゃがいもは育つ!?という講座
・タワシ

「お願いします、ドクター」
 そう言えば、彼女は前回スーパードクターを怒らせ、このルーレットで『余命5年』を宣告されてる。
「ふん、余命プラスとか付けて。こんな細工で私の医学にケチをつけようと言うのかね?」
「そんなこと言わないでくださいよ。てか、このルーレット、ホームセンターのパーティーコーナーで売ってるレベルの医学じゃないですか。別にいいじゃないですか。あと、本命は余命じゃなくてドクターの恋バナとか新人の頃の話です」
「……なんで私が身を削らにゃならんのだ」
「ブツブツ言ってないでどうぞ。パッジェロ! パッジェロ!」
 スーパードクターは諦めダーツを放る。弧を描いて矢はストンとタワシに刺さった。
「あちゃ〜。うわあ、やっちゃったよ、この人……」
「な、何か問題でもあるのか……?」
「ええー、別にないですけどー。そこはちょっと空気読んでほしかったっていうかぁ、はい、タワシタワシ」
 口を尖らせながら言うと、終夏は大学病院の新年会に混ざって、勝手にオーダーを始めた。
 しばらく呆然としていたスーパードクターだが、だんだんと怒りが込み上げてくるのを感じた。
……余命3年、と
 さりげなく終夏のカルテに復讐を果たす。