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またゴリラが出たぞ!

リアクション公開中!

またゴリラが出たぞ!

リアクション


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「俺の頭の中から、あの銅鑼の音が消えないんです……。あの銅鑼の音が脳内で鳴り響くんです……」
 次の相談者は久多 隆光(くた・たかみつ)、教導団に所属する生徒である。
 カルテによれば、銅鑼と言うのはリアクション『さばいぶ!』に出てきたもののようだ。
「なんか衝動的にジャーンジャーンしなくちゃあ……いけない気がするんですよ。しますよね先生。絶対しますよね。むしろジャーンジャーンするからこそ俺達はげぇっ関羽が出来るんですよね。魂がジャーンジャーンを求めてるんですよね」
「君、すこし落ち着きなさい」
 だんだんと隆光の様子がおかしくなってきた。
 それはもうアルコールの切れたアル中、もしくはアカウントを停止されたニコ中の如き、禁断症状の片鱗。
 幽鬼のごとき形相で目をらんらんと輝かせている。
「先生! 何か鳴るもの持ってませんか? 持ってないの!? 持ってるの!? はっきりしてくださいよ先生ぇ!!」
「……これは重傷だな」
 学会に提出された奇妙なレポートのことをふと思い出す。
 件の『さばいぶ!』なるシナリオに参加した人間が、ことごとく精神を蝕まれて帰ってきたという調査記録だ。中には最初から蝕まれていた人間もいたようだが、この島に蔓延するHAGIウィルスによるものとの説が現在有力である。
「いいから出せよオラァ、ジャーンジャーンと鳴るものをよぉッ! 出さないとジャーンジャーンしちまうぞぉ! 早くジャーンジャーンするものを出せ! 持ってないのか!? 持ってないなら死ねぇい!! 持ってるならだせぇい!!」
「うるさいなぁ……」
「はぁぎますたぁーだぜーい!! ジャーンジャーン! ジャーンジャーン! ジャーンジャーン!」
 次の瞬間、完全にパッパラパーになった隆光のみぞおちにドスッと正拳が刺さった。
げぇっ関羽!!
「はーいはいハイ、暴れないでねー」
 そう言って、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)はばきぼきと拳を鳴らし、パッパラー隆光を威嚇する。
「初めまして梅せんせー」
「ありがとう。危うくジャーンジャーンされるところだった」
「気にしないで。それより、あたしをボディガードに雇ってみる気ない?」
「ボディガード?」
 それは思いもかけない申し出だった。
「蒼空大学に進学の予定だから、高名な梅せんせーのお仕事を間近で見たいの。ファン子さんの休暇のときとか人手が足りないときの臨時ってことでいいから……、ファン子さんも看護に集中できるようになるし、いいでしょ?」
「あらいいじゃない。たまには長いお休みをとってバカンスに行きたいと思ってたの」
 ほろ酔いのファン子は言った。
「……ファン子君のためだ、許可しよう」
「えへへ、やったー! それじゃファン子先輩よろしく!」
「スーパードクターの現場は大変だけどしっかりね、授受ちゃん」
 和民でファン子と握手。
「あの……、その流れでお願いしたいのですが、わたしもこちらで社会勉強させていただけないでしょうか……?」
 おずおずと申し出たのは、授受のパートナーのエマ・ルビィ(えま・るびぃ)(人妻)である。
 うすい桜色のナース服を着た彼女は秘書志望とのこと。
「よろしい、まとめて面倒をみよう。しかし、接点を作ってもそう頻繁に出てくるNPCじゃないぞ、私は」
 そう言うスーパードクターを尻目に、パッパラー隆光はまたもや暴走し始めた。
「むむむ……、なんだか知らないが邪魔するならジャーンジャーンしてやるぞぉ!!」
「しょうがない、患者さんだなぁ……」
「あらあら、あまり酷いことをしてはいけませんよ?」
 授受の医学に基づいたグーパン一閃、すかさず肘鉄と言う名の治療を施し、かててくわえて飛び蹴りを処方。
「せいっ!」
 医学の名の下に、重病患者は倒れた。
「うう……、ジャーンジャーン……」
「……それで梅せんせー、この患者さんはどうしましょう?」
「簀巻きにして外へ。ああ、あとまた暴れないように銅鑼を握らせておこう」
「お大事に、ですわ」
 ぐるぐる目を回す彼を授受が引きずっていく。
 テーブルの横を通り過ぎる異常事態に、パートナーとごはんタイムだった葉月 ショウ(はづき・しょう)は驚いた。
「なんだなんだ……ん、あそこにいるのはスーパードクター梅じゃないか。なぜここに……?」
「どうしたんですぅ?」
 コスプレ大好き魔導書リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)が尋ねる。
「スーパードクター梅のもう一つの顔と言えば、スーパーハンター象山って話だ。今はたしかシャンバラ大荒野で『自演・喪ー乱』を狩りに行ってるって聞いたんだが……、よしたしかめてみよう」
 ショウは大きな声で呼びかける。
「ひと狩り!」
 すると、
「行こうぜ!」
 真のハンターならば反応せずにはいられない、スーパードクターも思わず反応してしまった。
「……同僚の前でちょっと恥ずかしいじゃないか。なんだ少年、君も診察してほしいのか?」
「診察……、そういや前にしてもらえとか相棒に言われたな……、んじゃ折角だからしてもおうか」
 それから、実は……と切り出した。
「なんか『ゲーム脳』とか言われてんだよ。リアクション『冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)』の7ページ目が原因だと思うんだけど……、あ、そういや、タクシャカの落し物を拾い忘れたけどドロップ何だったんだろ?」
「タクシャカが落とすのは龍のナミダと邪龍の鱗だろ、常識的に考えて」
「さ、流石、スーパーハンター」
「他に思い当たるふしはあるかね?」
「参加してねーけど『しっぽ取り宝探しゲーム』のガイドを見たら、効率よく尻尾を切断する方法を考えちまったな」
「なるほど」
「あとさっきも……、そうそう、あいつ」
 ショウは奥の座敷にいるアゲハを指差した。
「あの頭部は部位破壊報酬手に入れるのに何回破壊すればいいのかとか、一緒に居たゴリラっぽい奴は氷と水の耐性は高くて炎耐性は低そうだよな、とか思ったぐらいかなー。でも、ハンターなら当然考えることだし普通だよなー」
 たぶんアゲハの頭は二段階破壊で報酬確定だろう。
「ぐらいじゃないですぅ、ぐらいじゃ」
 危機意識がなく底抜けに明るいショウに、しびれを切らしてリタが突っ込む。
「なんだよ、そう言うおまえだって……」
「わらわを一緒にしないでくださぁい。こんがりタクシャカGが焼けなかったのは心残りですけどぉ……、あ、やっぱりグッズのパン焼き結界を手に入れてユニークアイテムで肉焼き結界とかにした方がいいんですかねぇ?」
 こだわるならそれも良しだろう。
「そう言えば、フェルもゲーム脳が進んでる気がするですぅ」
「にゃ?」
 黒猫の獣人葉月 フェル(はづき・ふぇる)は首を傾げた。
 スーパードクターはカルテに視線を落とし、彼女のこれまでの履歴を洗っていく。
「ふむ、『ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!』の11P目で何かしでかしているようだが……?」
「隠密行動する時はダンボールが基本だって教えてもらったにゃ」
「むしろ目立つ気がするぞ?」
「そんなはずないにゃ、伝説の傭兵もダンボールのお陰でさまざまな危機を乗り越えたって聞いたにゃ」
 フェルははっとする。
「あ、やっぱり『待たせたな』って、渋い声で言っとくべきだったかにゃ?」
「……君、どこでそんな知識を得た?」
「リタから聞いたにゃ。あとはショウがゲームやってるのを見てたからその辺で覚えたにゃ」
「言っておきますけどぉ、わらわの知識はショウが勝手に禁忌の書に書き込んだものですよぉ?」
「なるほど……」
 ショウに向き直る。
「結局、すべての元凶は君じゃないか」
「お、おれ!?」
「すこしはゲームを自重したまえ。ゲームは一日一時間、オーバーしたらセーブデータ消すから厳守するように」
「そ、そんなぁ〜、へたすりゃひと狩り行ったら終わっちゃうじゃんかぁ〜」
 死刑宣告にも等しい診断に、おおお……と頭を抱えてうずくまるショウなのであった。