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イコンVS暴走巨大ワイバーン

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イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション



【8・団結戦1】

 再び学院に向かってくる巨大ワイバーンと、それを取り巻いている小ワイバーンたち。
 そこへ一匹、人間を背に乗せたワイバーンが近づいていた。
 乗っているのは七尾 蒼也(ななお・そうや)。ワイバーンの名はレーゲンボーゲン。蒼也は自分のワイバーンで戦いに臨んでいるわけなのだが。
 ドラゴンライダーである彼は、生物知識から巨大ワイバーンの状態をおおまかにだが把握していた。
(ひときわ大きいけど、まだ二歳か三歳くらいか……? かなり苦しんでるみたいだし。急がないと)
 事を急いているのには理由があった。
 じつはここに至るまでに「なりはでかいがあれはまだ子供だ。きちんとしつけてやれば更生できる」と、根回しで倒すのを待ってもらおうとしていたのだが。
 ほとんどの人は「あの巨体に無理を言うな」とか「言いたいことはわかるけど、約束はできない」とか、頼みをあまり聞いてくれない状態だった。中には応じてくれた人もいたが、天御柱学院が窮地になればやむをえず……ということもあり得る。
 だからこそ、ちゃんと協力を得られた『仲間』と協力するため急いでいる。
「レーゲンボーゲン、焦らず、それでも急いでくれ!」
 途中、ブレスの余波がきたので空中戦闘ですばやく回避していく。ファイアプロテクトで防御をしたものの。やはり、生身でいるとかなり熱波に煽られる。あらゆる意味で長期戦はできそうもないと悟った。
(ついさっき情報通信で聞いたエリザベートの話だと、解毒薬を作れるかどうかは五分五分らしいし。やっぱり俺たちでなんとかしないと!)
 やがて蒼也は『仲間』であるところの8機のイコンと合流を果たした。

 彼らは、すでに天御柱学院を死守すべく、攻防を開始している。
 先陣にいるのは御剣 紫音(みつるぎ・しおん)のイーグリットゲイ・ボルグ アサルト。パートナーの綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)も共にコックピットにいる。
「ちょっと狭いが、ワイバーンを助けるためだ皆がんばろうぜ」
 先陣にいるといっても真っ向から突撃しているわけではなく。慎重に殺気看破でブレス攻撃を回避し、行動予測で攻撃対象に入らないように死角をついて近づいている。
 そして彼の機体の接近を感づかせないよう、巨大ワイバーンの周囲には数多くのイコンが配置されていた。
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の乗るクェイルシャーウッド
 ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)の鋼竜、晃龍オーバーカスタム
 祠堂 朱音(しどう・あかね)須藤 香住(すどう・かすみ)ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)のイーグリットフォーチュン
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)のイーグリット・アサルト、フォイエルスパー
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)のイーグリット、イクスシュラウド
 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)のイーグリット、ミッシング
 師王 アスカ(しおう・あすか)蒼灯 鴉(そうひ・からす)のアルマイン マギウス、ツァラトゥストラ
 かなりの戦力ではあるが、相手が相手だけに気は抜けない。
 紫音もそれがわかっているからこそ、慎重に動いているのだった。

 そのとき。同じように聡も慎重になっていた。
 なにしろ。十匹近い小ワイバーンが飛び交って邪魔をしてきているのだから。
 さっきあれだけ追い払ったというのに、こいつらは再び集まりはじめているらしい。
「小サイズのワイバーンたち……数が増えてきてないか!? やっぱり大元を叩かないと、何度も集まってくるのか」
「きっとあれですね。ゲームでよくある、ボスキャラを倒さない限り延々と脇に出続けるタイプの敵なんでしょう」
 サクラのわかるようなわからないような理屈を聞きながら、聡は焦る。慎重にいきたいものの、ぐずぐずしている暇もない。
 どうすればいいかというところに、通信が入った。
『どぉもぉ、さぁとし君〜』
 声の主はアスカだった。
『山葉先輩、怪我してないっ? お手伝いにきたよ!』
 その次に、水鏡和葉も回線に入ってきた。
『えっとぉ。時間ないからまず私達の作戦を伝えるね〜。完全な鎮圧が難しそうだから、紫音さんやユーベルさんが相手にとりついて、清浄化をかけて正気に戻そうって作戦なの』
『先輩の戦い、見てましたよっ! ここからはボクたちも頑張るからね!!』
「え、あ。うん」
『それでできればこの作戦に協力して欲しいんだけどぉ、いいですかぁ?』
『うーん、それにしてもあのワイバーン、大きいよね(じー)』
「お、おい」
『『あえれ、だなけん大できすいかと。普よ段くな聞にこ食えべまてせるんんよだぉろ〜う』』
「ちょ、ちょっと待て。回線がこんがらがってわけがわからない」
 聡は一旦回線を切って話を整理し、数秒後にまた繋ぎなおした。ちなみにさっきの混合会話は、ひとつ置きに読むと意味が伝わることを理解した。
「とにかく、皆の作戦はわかったけど危険すぎないか。イコンでも危険な相手に、生身で肉薄するなんて。さっきも同じようなことした生徒が振り落とされていたし」
『でも、もうこの作戦しかないんですよぉ?』
『先輩もこれからどうするか、困っていたんでしょう?』
 それについては言い返せない聡。
 学院はもう目と鼻の先にまで迫っている。もう余裕も猶予もない。
 サクラが話に入ってこないところをみると、どうするかは任せてくれるつもりらしい。ならばもう、迷う時間も惜しかった。
「わかった。それでいこう」
『それでこそ、聡君!』
『山葉先輩、頑張りましょう!』
 その後。いくつか取り決めをして、通信で全員にその旨を理解させたあと。
 それぞれの機体は、それぞれの役割を果たすため行動を開始しはじめた。
「さぁ。今日はワイバーンのスケッチも我慢して、ちょっと本気を出していこうかな〜」
「よし、俺も気合入れていくぜ!」
 アスカは小ワイバーンにみんなが邪魔されないよう、マジックカノンで蹴散らしていく。攻撃に集中できるよう、操縦は鴉が担当している。
 魔力やエネルギーの残量は考えず、攻撃の手をゆるめないよう猛攻をかけていった。
 和葉は操縦をルアークに任せ。自分自身に、血と鉄のスキルをかけておく。そのうえで、ミッシングに持たせたスナイパーライフルとアサルトライフルを構えた。
「御剣先輩達の、邪魔はさせないよ!」
 と言ったものの。正直言えば、余計な殺生は避けたい和葉としては、
「無理やり従わせられてるだけならかわいそうだしね。……それに、生かしてあげられるならそれに越したことないよ(ぽそり)」
 そんなことを呟いていたが、ぼやぼやしている暇もない。
 巨大ワイバーンのブレスが危うくこちらにまで届きそうになり、機体が急速に傾いた。
「悪いけれど、あたる訳にはいかないよねー」
 ルアークが殺気看破を使用しているのと、高性能のレーダーが搭載されているのでそう簡単に直撃はないとわかっているものの。油断は禁物。
 和葉は気を引き締めなおし、じっと時を待った。
「和葉、チャンスじゃない? 正面のあいつ!」
「わかってるって!」
 やがてルアークの合図がかかったところで、一匹の小ワイバーンめがけてアサルトライフルの弾を撃つ。相手は上昇してかわした。が、今のはあくまで囮弾。
 すかさずスナイパーライフルに装備を変え、シャープシューターを使用しての精密射撃を放った。すると見事に側頭部に命中し、ふらふらと降下していった。
「よし! 御剣先輩達を通すのが、ボク達の役目だしねっ! この調子で気合入れて頑張るよ、ルアーク!」
「ああ。わかってるって」

 皆の活躍で小ワイバーンは次々追い払われていくが。本命に辿り着くには、まだそこそこの数が残っており。次に動いたのは祠堂朱音たちのフォーチュンだった。
「さあ、ボクらも出撃だよ!」
「おいおい……最初から飛ばすな、ここぞって時に、一気に行くんだ」
 鎧形態で朱音と一体化しているジェラールが、一応の注意をするが。
 メインパイロットの朱音はエネルギーの残量確認などは香住に任せ、積極的に相手に近づいていく。
 ただ、無理に攻撃するのではなく連中をひきつけるようにして機体を動かすあたり、無策でやるつもりもないようだった。
 やがてセンサーが死角からの小ワイバーン急襲をとらえる。不意をついたつもりだろうけれど、殺気看破も併用していたため慌てずに軽く機体を動かすだけで避けることができた。
「……天学パイロット科をなめないでね!」
 避け際に、ビームサーベルで軽く薙ぎ。そこからまた一旦距離をとる。
 こちらを無視するようなら、大形ビームキャノンをお見舞いし。近寄ってきたら回避にまわり、さっきの要領でヒット&アウェイを披露する。これこそ、遠距離攻撃のカスタムをしてあるイーグリット、フォーチュンだからこそできる作戦だった。
「朱音。また別のワイバーンが近づいてきたわ。気を抜かないようにね」
 時折サブパイロットの香住が、注意と操作を行なっている功績も大きい。もちろん朱音もそれを知っているからこそ、自由に動けているというものだった。
 ただ、
(……それにしても、ワイバーン……一匹貰って帰るのはありなのかな? こんなにいっぱいいるし……)
 彼女が密かにそんなことを思っているのは、誰が知るところでもなかったが。