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遅い雛祭りには災いの薫りがよく似合う

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遅い雛祭りには災いの薫りがよく似合う

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第5章


 皆の尽力で、一般市民を襲った刹苦人形たちを辛うじて撃退し続けてはいるものの、やはり相手は人形、その体力は無尽蔵だ。
 防戦一方では限界がある。そろそろ撃って出なくてはならない。誰もがそう思っていた。

 そこで五人囃人形へと向かったのが、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)である。彼女は影野 陽太(かげの・ようた)のパートナーであるが、陽太は今ここにはいない。彼は今頃ナラカへと向かった想い人に付き添って爆走する列車の中にいるはずであり、

「もう誰にも環菜を傷つけさせるものか……!」

 とか言っている最中であろうが、まあこの場においては何の関係もない。
「おにーちゃんがいない間は、わたしががんばるんだからっ!!」
 勇ましくも五人囃人形に向かってビシっと指を差し、ノーンは宣言した。
 ノーンは氷結の精霊だ、その傍らには冬の精霊、ウィンター・ウィンターの姿がある。
「同じ精霊のよしみで助太刀とはありがたいでスノー! やってしまうといいでスノー!!」
 ノーンの横でシュッシュッとやる気を見せるウィンターだが、彼女自身に戦闘能力はまったくない。ノーンの連れて来た武者人形と剣竜の子供の後ろから声援を送る。
「あなたたちも音楽の人たちでしょ、だったら――『ろっくんろーる』で勝負よ!!」

 今のノーンは歌姫だ。取り出したエレキギターをかき鳴らし、五人囃人形を演奏で牽制する。震える魂!!

「いくよーっ!!」
 ノーンは歌った。幸せの歌を歌った。
 その歌声は風に運ばれて、敵である刹苦人形だけでなく、避難を続ける一般市民の耳にも届いた。

「……これ……」
「ああ……なんか、元気が出るな……」

 ノーンは歌った。
 この場で今、大事なものを護るために奮闘している人々。
 冥界ですらも必死に目的を果たそうとしている、大切な人たち。
 そして、この世界に生きる全ての者に幸いがありますように――

 その歌声は人々に希望を与え、理不尽に立ち向かう勇気を与えた。

 だが。

「危ないっ!!」
 ノーンの背後から轟雷閃が放たれ、五人囃の一体が飛ばした何かを弾いた。
 見ると、それは口にした笛から発射された吹き矢だった。
「ノーンちゃん、大丈夫!?」
「う、うん。どうしてここに?」
 轟雷閃を放ったのは師王 アスカのパートナー、オルベール・ルシフェリア。ノーンの友人だ。ジェイダス校長の護衛をしていたアスカだったが、オルベールは五人囃人形に向かうノーンを見つけ、手助けに駆けつけたのである。
「あなたのお兄ちゃんから頼まれてるのよ、ベルはノーンちゃんの保護者だからね!!」
 オルベールはノーンの前に立ち、殺気看破で五人囃人形の出方を覗った。
 五人囃人形は、その手に笛や鼓といった楽器を持っているものの、先ほどの吹き矢といい、何かがおかしい。

「吹き矢で邪魔するなんて、ひきょうだよっ!! どうして歌で勝負しないのっ!?」
 ノーンの抗議を一笑に付す五人囃人形。
「ケケケケケ……音楽で勝負なド笑わせるな……我らは姫にお仕えすルお庭番……、この姿ハ仮の姿よ!!!」
 五人囃人形は一斉にその装束を解き、手にもった楽器を打ち捨てた。
 そこに現れたのは黒装束に身を包んだ五人――ニンジャだ。

「我らは楽士へト身をやつし、敵地に潜入シて情報を探り、敵を闇へと葬るお庭番五人衆。その我らニ歌で勝負など、片腹痛いわ!!」
 高らかに宣言するニンジャ五人衆に、ノーンはあからさまな落胆の声をあげた。
「えーっ!? そんなぁっ!!」
 ノーンにしてみれば全くアテが外れた形で仕方ない事とは言えるが。


「ケケケケケ!! さぁ、今度はこちらノ番だ!!」


 一気に攻勢に移ろうとする5体のニンジャ。オルベールの実力には一定のものがあるが、性格的には戦闘に不向きなノーンを庇いながらでは5対の相手はさすがに無理だ。
 どうやって5体のニンジャを振り切ろうかとオルベールが考えたその時。

「――っ!?」
 突然、ニンジャ5体が見えなくなった。突然煙幕ファンデーションが投げ込まれ、視界を遮ったのだ。
「おノれ、何奴だッ!?」
 視界を奪われつつも、気配を探るニンジャたち。その集団に向かって、煙幕の中へと飛び込んだ影があった。
 八神 誠一(やがみ・せいいち)である。

「ふん、何か隠しているとは思っていましたが、こういうことだったとはねぇ」
 煙幕が晴れるまでは間がない。誠一は殺気看破で相手の位置を探りつつも手にした両手刀で次々とニンジャたちに斬りつけていく!
 やがて霧が晴れた時、ニンジャたちはすでにかなりのダメージを負わされていた。
「とはいえ、まだまだ油断ならない相手ですからねぇ――」
 と、誠一は用心深く懐から数本のタガネを構えた。
「おノれ人間!!」
 今にも誠一と、その後ろのノーンたちに襲いかかろうとするニンジャたち。

 だがその時、雛祭り会場の方からもの凄いスピードでやって来る人物がいた。藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。
 黒檀の砂時計でスピード上げた彼女は、着込んでいた十二単をものともせずに突進してくる。
「――なかなかの殺意ですね!! 是非買わせていただきましょう!!」
 問答無用とはこの事だろうか、敵をニンジャ5体と定めた彼女はノーンもオルベールも誠一も通り越して、ピクニックセットと日曜大工セットから釘やカンナ、ナイフやフォークを強力なサイコキネシスで弾き出した!!

「うオぉぉッ!?」
 ニンジャたちに襲いかかる数十本の金属類。そのうちの幾つかは人形たちの体に突き刺さり、何本かは地面に落ちる。
「――こいつは頼もしい助っ人ですね……っと!」
 振り返った誠一に、ニンジャの内の1体が忍刀を向けて襲いかかる。誠一は、両手刀『ゆる村』でそれを受け止めた。
「どコを見ているッ!!」
「ふん、こいつは失礼しましたねぇ。思う存分お相手してあげますと――っとぉ!!」
 鍔迫り合いから敵の腹を蹴り上げて距離をあける誠一、相手は軽やかな身のこなしで着地する。

 それぞれの相手へと散っていくニンジャたち。
 そのうちの1体がノーンとオルベールに襲いかかった。
 忍刀による漸激を、華麗な身のこなしで避けていくオルベール。多くの冒険を通して身につけた高い技術、歴戦の防御術だ。
「ノーンちゃんは下がってて!!」
 どうにかノーンを戦闘の場から遠ざけようとするが、敵もさるもの、さすがにそこまでの隙はない。互いの実力は伯仲していた。
「――っ!!」
 オルベールとて、今日はあくまで雛祭りイベントの参加が目的だったのだ、手にしているのは剪定鋏。それでもどうにか敵の漸激を受け止めてこらえている。
「ぬっ!?」
 敵にニンジャが呻いた。見ると、漸激の傍らで隠し持っていた手裏剣を投げようとしていたのだろう。だが、その手裏剣の持った手が氷に包まれ、投げる事が出来ない。
 ノーンだった。直接戦闘に参加してオルベールの邪魔をしてはいけないと思っていたが、ニンジャの動きで暗器の存在を察知したノーンは、オルベールを助けるために氷術で手裏剣ごとニンジャの手を凍らせたのだ。

 オルベールが手にした剪定鋏がくるりと翻り、忍刀が宙を舞った。

「ありがと、ノーンちゃんっ!!」
「おノれぇぇぇッ!!!」
 無防備なニンジャの胴体に、渾身の轟雷閃が炸裂する!!

 オルベールの攻撃はニンジャ人形の胴体を豪快に貫通し、人形はガラガラと崩れ落ちた。
「――ふぅ、ちょっとヤバかったわね」
 と、オルベールは額の汗を拭く。その傍らにノーンがやって来ると、オルベールはその頭をポンポンと撫でるのだった。


                              ☆


「おノれぇぇっ!!!」
 ニンジャの内の1体は、優梨子がサイコキネシスで飛ばす金属類に苦戦していた。
 一定の距離を空けて次々と飛来するナイフやフォーク、釘やハンマーなどを飛ばす優梨子。見た目にはコミカルなシーンだが、実際にハンマーやフォークという金属類を必殺の気合と共に投げつけられる方にはたまらない。
「さあさあ、この程度ではないしょう?」
 ニンジャ5体の中から最も殺気の鋭い相手を狙って優梨子は攻撃を仕掛けていた。彼女の直感が告げていた、こいつがニンジャの頭だと。
「――ふざけルでないわぁぁぁっ!!!」
 業を煮やしたニンジャは鎖鉄球で優梨子が飛ばしていた金属類を弾いた。鎖鉄球は扱いこそ難しいが、威力の高い暗器だ。
「……あらあら」
 さすがに優梨子が持っていた金属類も尽きたらしい、ニンジャは一気に距離を詰め、優梨子の顔面に向けて鎖鉄球を飛ばした!!

 だが。

「――ハイ、残念でした」
 優梨子の手前で鎖鉄球は動きを止めた。彼女が非物質化させて隠していたパワードアーマーが鎖鉄球を止めたのだ。
「ヌううぅっ!?」
 パワードアーマーに食い込んだ鎖鉄球はそう簡単には抜けない。
 その瞬間に武器を捨てるという行動を取れなかったニンジャ人形。

 その時点で、もはや勝負は決まっていた。

 サイコキネシスで周囲に散らばされたナイフやフォークなど、数十本の金属類。単純に考えればそれらは的を外した弾なのだが、実はそれこそが優梨子の布石だった。

「そぉれ!!」

 優梨子がカタクリズムを発動すると、ニンジャを囲むように地面に落ちた金属類が、一斉に敵に向けて発射された!!
 無数の金属の刃がまるで高速ミキサーのようにニンジャ人形を切り刻み、砕いていく。

「ギギギ、ギヤアァアァァッ!!」

 断末魔の叫びをあげて、ニンジャ人形は沈んだ。ニンジャ人形が弱かったのではない。優梨子が強すぎたのだ。
「さて」
 完全に破壊され、倒れたニンジャ人形に優梨子は近づき、その頭部に手を掛けた。

 無光剣がニンジャ人形の首を一閃する。ごとりという音がして、胴体だけが地面に落ちた。


「左様ならば――それまで」


                              ☆