天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

遅い雛祭りには災いの薫りがよく似合う

リアクション公開中!

遅い雛祭りには災いの薫りがよく似合う

リアクション




第4章


 ヴィナ・アーダベルトと崩城 亜璃珠の尽力もあって、校長の護衛と一般市民の避難は比較的順調だった。
 まずは一般市民優先で運動公園へと避難をさせ、その間ジェイダス・観世院と桜井 静香の両校長は会場付近で待機しながらも、白百合会とイエニチェリで護衛するという段取りだ。
 刹苦人形の狙いが不明瞭なこともあり、市民の避難には充分な数のコントラクターがついたことを確認したうえでのジェイダスの判断であった。
 ジェイダス自身は腕に覚えもあるし、戦闘力のない静香も白百合会とイエニチェリの精鋭でガードしきれないとは思えない。

「うんうん、二人ともドンと構えて動かないでね! 将がうろたえると兵の士気が落ちるからね!!」
 と、ルカルカ・ルー(るかるか・るー) は主に静香に向かって言った。ジェイダスはもともとこういう局面でうろたえる人物ではないし、やはり心配なのは静香であろう。
「う、うん……」
 と、静香は自信なさげに頷いた。そこに、ルカルカのパートナー、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が苦笑しながらも口を添えた。
「おいおいルカ、確かにこれは不測の事態ではあるが戦争ではないぞ」
 あ、そうだったと舌を出すルカルカ。
 ダリルは双眼鏡で常に敵の様子を覗っていたが、数組のコントラクターが接触したにも関わらず、辛うじて撃退はできているものの退治は出来ていない。

「それにしても、お二人とも素敵なお姿ですねぇ」
 だが、ルカルカはまるで緊迫感のない声を出した。
 確かに、ジェイダスは凛々しい束帯姿、静香は可憐な十二単姿と、普段見られない格好ではある。
 そんなルカルカに、ダリルは呆れた声をあげた。
「……今はそんなことを言っている場合ではあるまい。まずは敵を鎮圧しなくては」
 まるで面白みのない台詞を吐くダリルに向かって、ルカルカは軽く抗議した。
「えー? そりゃあ戦闘の最中にのほほんとしているワケにはいかないけどさ、ダリルったら美への感動とか、趣への感慨とか、そういう感情はないわけ?」
 言われたダリルは、成程と両校長の姿を見直す。

「ふむ。一般的に平安時代と呼ばれる昔の日本の衣装の再現、アレンジだな。確かに材質も上等、仕立ても良いようだが」
「……他には?」
「……戦闘時には動きにくそうだ」
「……もういい」
 大きく肩を落とすルカルカであった。


 余裕のある二人と違って、他のメンバーはそうもいかない。特に静香はイザという時に自分の身を守る自信がないので、その不安もひとしおだ。
「大丈夫ですよ静香校長っ。私たち白百合会がしっかりとお守りしますからっ!」
 と、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は静香を励ました。
「う、うん……ごめんね……僕も自分くらい守れるように頑張るから……」
 静香はそう言うが、青ざめた唇は震えていた。
「……大丈夫」
 ネージュは、そっと静香の手を取った。
「……え」
 静香は、ネージュの瞳を見る。幼い外見ながらも、その瞳は真剣そのもの。きりっとした緊張感を感じさせる表情で、しかしネージュは微笑んで見せた。

「大丈夫っ! 静香校長の回りにはたくさんの人がいますっ! それは他でもない静香校長のお力なんです、だからもっと自信を持って下さい!! 自分にはこれだけの力があることを自覚して下さい――私たちも白百合会も、イエニチェリの皆さんも校長先生たちのために精一杯頑張るんですから!!」

「……ネージュさん……あ、ありがとう……」
 少しだけ涙ぐんだ静香は、すぐにその涙を拭い、前を向いた。背筋を伸ばして、胸を張って。

 その様子を見て満面の笑みを浮かべるネージュ。万が一傷ついた者が出た時のために準備をしつつ、襲撃に備えた。
 ネージュの携帯が鳴る。
「……刹苦人形3体が接近中っ!! 応戦中だけどもうすぐ来るよっ!!」


「変身っ!!」
 キラキラとした光が『光輝の指輪』から放たれ、秋月 葵(あきづき・あおい)を十二単の姿から魔法少女へと変身させていく。
「華麗に参上! 愛と正義の突撃魔法少女、リリカルあおい!!」
 葵は空飛ぶ魔法で上空から一般市民の避難誘導を行なっていた。
 白百合会の班長でもある彼女は、市民の誘導と校長警護との連絡役をしながら、刹苦人形への応戦をする予定だった。

 そして今、一般市民の誘導から校長警護メンバーへの連絡の途中で、校長たちがいる会場方面へ向かう三人官女と交戦中だ。
「どんな事情があるにせよ! 罪なき人々を襲うことは、この突撃魔法少女リリカルあおいが許さないよ!!」
 このままでは程なくして校長たちがいる会場へと到達してしまうだろう。白百合会のメンバーであるネージュに連絡をして、少しでも時間を稼ぐために三人官女へ警告を行った。
「ふ、許さヌというならばどうすルのですか?」
 だが、その警告をあっさりと無視して官女たちは笑う。
 その行く手を遮るように降り立った葵は、マジカルステッキを構えた。
「――決まってるよ、ここで食い止める!!」

「できルものなら、やってみなさイ!!」

 一気に距離を詰めるべく、葵へと跳躍する官女人形。
 その3体の攻撃をマジカルステッキで次々と受け流しつつ、葵は官女人形をヒプノシスで眠らせようとした。
「ばかメ!! 人形が眠ルと思っていルのですか!!」
 3体の官女人形は一気にスピードを上げて、葵への攻撃を激化していく。

「――くっ! 思ったより……早い……!」

 可愛らしい外見に反して実戦経験は豊富な葵、だがその彼女でも3体を同時にするのはさすがに無理があった。
「――あっ!!」
 わずかな隙を突いて、官女人形のうちの1体が葵の横をすり抜ける、また1体。
「ま、待ちなさい!!」
 反射的にその2体に対して警告を発する。が。

「――どこを見ていルのです?」

 目の前の1体が葵の懐に入り込み、鋭い爪で切り裂いた。
「あうっ!!」
 相手の動向を予想し、察知する事で適切な攻撃を行なうことができる。コントラクター達が言うところの『至れり尽くせり』の技術であった。
 葵を大きく跳ね飛ばした1体も、防衛線を突破して校長たちがいる会場方向へと向かう。
 怪我は負ったものの、まだまだ戦える葵もその後を追った。

「ま、待ちなさい――っ!!」


                              ☆