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古来の訓練の遺跡

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古来の訓練の遺跡

リアクション

 クー・フーリン(くー・ふーりん)東雲 いちる(しののめ・いちる)の肩を叩く。
「我が君、あそこの炎が消えました」
「そう」
「あそこも」
「ふぅん」
「今度はあちらが……」
 クー・フーリンが指摘する間に、炎が次々に消えていく。
「ねぇ、ちょっと寒くない?」
 酔いの覚めかけた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が肩を震わせた。
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が「そんな格好してるからだ」と言おうと思ったが、彼自身も冷え込みを感じていた。
「つぐむ様、ホントに寒くなってきたー」
 ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が、十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)に抱きついた。ここまでくると、誰もが部屋の異変に気付く。
「やっぱり「氷結♭」か。つまり火が消えると部屋の温度が下がる仕掛けになってのか」
 ミゼを背負ったまま、つぐむが判断する。
「出口は?」
 既に竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)が向かっていた。
「……開かないよ!」
「おろらく何らかの形で閉じられているのであろう」 
 つぐむの肩を橘恭司が叩く。
「訓練施設なんだから、逃げるのは最後の手段だ。まずは切り抜けることを考えようぜ」
 火術に類するスキルをもつ者は燭台の再点火を、それ以外の者は部屋に何らかの仕掛けがあるかを再度調査することになった。

 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)は懸命に点火を行う。
「慎重に点けないと安定しませんよ」
 ルーツの言う通り、確かにツキが良くない。
「手伝います!」
 東雲 いちる(しののめ・いちる)が、確率2分の1で凍てつく炎を使う。しかしまだまだ足りない。
「ワタシもお役に立てるかも……」
 ソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)の申し出に、いちるもうなずく
爆炎波ですね。やるだけやってみてください」
 火の消えた燭台を集めると、ソプラノ・レコーダーが爆炎波を放つ。しかし火のついたのは10のうち2つか3つ。しかも燭台には傷ひとつついていない。
「どうして……」
 4人が奮戦するものの、消えた燭台の数は徐々に増えていった。

「部屋には何も無さそうだし、やっぱり燭台そのものに秘密があるのかしらねぇ。消えた燭台をシンメトリーにしないとダメとかねぇ。すると思い切ってもっと消さなくちゃいけないのかぁ。じゃあますます温度が下がっちゃうねぇ」
 師王 アスカ(しおう・あすか)が、まだ点いている燭台を手にする。途端に火が消えた。
「あらぁ、これも消えちゃったぁ」
 
 クー・フーリン(くー・ふーりん)メアリー・グレイ(めありー・ぐれい)は、消えた燭台を集めることに専念していた。その方が火をつける役目の者が、それだけに集中することができる。
 しかし消える燭台の数に比べて、再点火する数はあまりに少ない。2人が集める燭台がそのまま残る事が多くなってきた。

「おい、こんな所で寝ると死んじまうぞ!」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、座り込んだ霧雨 透乃(きりさめ・とうの)の頬を軽く叩く。
「うーん、燃料切れなのよー」
 一升瓶が何本も転がっている。
「私が……」
 クー・フーリンがアイスプロテクトをかける。いくらか効果があったようだが、透乃の眠気を払拭するには足りないようだ。
「こっちへ!」
 つぐむが持ち込んできたテントを張って手招きする。睡魔の虜になった透乃をクー・フーリンとメアリー・グレイが運び込む。そこには同じように震えるビキニ姿のミゼがいた。
「後は頼みます」
 透乃をつぐむに託すと、クー・フーリンとメアリー・グレイは戻っていった。 
「俺も」とテントから離れようとするつぐむを、ミゼがテントに引っ張り込む。
「つぐむ様ぁ、こんな時は裸で温め合いましょう」
 元から裸同然のミゼがビキニを脱ぎかけると、「何やってるんだ!」とつぐむが怒鳴る。
「つぐむ様、縛って罵って蔑んで下さい」
 こんな状況にもかかわらず、怒鳴られてますます興奮したミゼにつぐむは捕まってしまった。
「お、おい、横に霧雨もいるんだぞ」
「構いません。ミゼは複数プレイも、だーい好きです」

「どうなんだ?」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)は扉に悪戦苦闘するガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)に声をかける。
「ダメだな。凍り付いてますます動かなくなっているようだ」
 ガランのソニックブレードを扉はやすやすと跳ね返した。
「私達も手伝います」
 消えた燭台を集めるのを諦めたクー・フーリンとメアリー・グレイも扉に取り掛かる。しかし騎士の槍もソルジャーのショットも跳ね返す。
「私は強くなりたいの。別にいちるの為じゃない…自分のため」
 夢中で打ち続けるメアリーをクー・フーリンが止める。
「クー、今日は……笑わないんだな」
「命の危険はないんじゃなかったのかよ」
 橘恭司が愚痴るが、もはや成す術はなかった。
「遺跡ですから、どこか壊れているのかもしれませんねぇ」
 師王アスカは見込みの甘さを後悔する。調査前に「今回の依頼は部屋の調査、成功例も失敗例の報告も必要な筈よー」などと言っていたことを思い出した。
「失敗例かぁ」
 ルーツ、竹野夜真珠、そして東雲いちるとソプラノ・レコーダー。4人は火をつける努力をしているが、他のメンバーはアイスプロテクトフォースフィールドを使うことで、寒さをしのぐのに必死だった。
 寒さに耐性のあるガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)は、変わらず扉と格闘していたが、隙間すらできる気配もなかった。

『もうだめか』と全員が思い始めた時、突然、部屋中にチャイムが鳴り響く。
 全員があっけに取られている中で、消えた燭台の火が次々に点きはじめる。もちろん誰の火術でもない。やがて全部の燭台が点いた時、部屋の温度は元通りになっていた。
「終わった……の」
「そうなのだろうな」
 繰り返し使った火術でヘトヘトになっていた竹野夜真珠とルーツが顔を見合わせる。いちるとソプラノ・レコーダーは抱き合って喜んだ。
「どうやら、一定時間寒さに耐えれば合格らしいな」
 橘恭司は大まかな時間を思い出す。次に挑戦する人の助けになるだろう。
「あそこに穴が開いてるのねぇ」
 師王アスカが指差す先には、ぽっかり開いた大穴があった。
「それも伝えとくか」
「つぐむちゃん! こんな時に何をやってるんですか!」
 真珠の大声に全員がテントに集まる。素っ裸になったミゼが十田島つぐむに抱きついていた。傍らでは霧雨透乃が大いびきをかいている。
「俺は無実だぁぁぁぁー」