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古来の訓練の遺跡

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古来の訓練の遺跡

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 幸いなことにセレンスの他にも、空飛ぶ箒や翼、もしくは小型飛空挺を持った者は少なくなかった。それが無いものも、同乗させてもらったり、家具の上に上がるなどして難を避ける。
 時間と共に床はどんどん熱くなっていく。多くのメンバーから滝のような汗が流れ始める。
「これが炎熱♯ってことですか……」
 小型飛空挺で浮かぶ御凪 真人(みなぎ・まこと)は汗をぬぐう。セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)ファイアプロテクトなどをかけてもらっているが、熱はしっかり伝わってくる。
「ブリザードを使ってみましょうか?」
「それより解除する方法を探そうよ」
 セルファに言われて、そろそろと飛空挺を動かす。あまり広い部屋ではないので、派手に飛ぶわけには行かなかった。

「セレンス! 気をつけろ!」
 ウッドの叫び声で、セレンスは飛んでくる家具をかろうじて避ける。それまで鎮座していた石の家具が、どんな構造になっているのか、部屋の中を飛び回り始めた。
 床から逃げるために、家具に乗っていた者もいたが、急きょ飛んでいる誰かに引っ張りあげてもらう。もちろんウッドはセレンスの箒に乗せてもらうが、慣れてないために飛び方が危なっかしい。
「平気か?」
「任せてくださーい」
 そうは言うものの、飛び交う家具を避けるのに一生懸命だ。石造りなだけに当たれば大怪我してしまうかもしれない。
 同じく空飛ぶ箒にまたがっているマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)がフォローしなければ、墜落してしまいそうだった。
「助かる」
 安定を取り戻したウッド・ストークは、スピアを石造りの壁にねじ込む。突き刺さったスピアの柄に飛び乗った。
「こっちの方が動きやすいぜ」
 柄の上に器用に立つと、次々に飛んでくる家具を蹴り飛ばす。
「ウッド、すごーい! 私も部屋の謎解きを頑張るよ!」
 セレンス同様、他のメンバーも部屋のどこかにあるかもしれない仕掛けを探している。しかしそれらしいものは見当たらなかった。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の空飛ぶ魔法で一緒に浮かんでいるニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)はイナンナの加護で危険を避けながら、トラップ解除を使うチャンスを探っている。しかし肝心の仕掛けがどこにも見当たらない。時計で家具の飛ぶ速度を遅くして易々と調べることはできるものの、どこからもそれらしい鍵は見つからなかった。
「ルカ、例えば家具を全部破壊すれば収まる……とか」
「だとしたら、訓練の度に家具が新しくなるよね。それに壊すの、結構なホネだよ」
 ルカルカは飛んできた家具に剣を突き立てるが、わずかに欠けるくらいで壊すにはほど遠かった。
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)のファイアプロテクトだけで熱さを避けきれなくなった御凪 真人(みなぎ・まこと)がブリザードを使う。それなりに冷えるものの時間は短い。床からの高熱はますます強くなる一方だった。
「熱くなるだけで、燃えるわけではなかったのですね。道理で焼かれた痕跡が見つからないわけだ」
「壁のどっかに仕掛けが埋まっているのかも」
 セルファが考えを述べると、「家具ばかりに気を取られた俺達のミスですね 今からでも間に合いますか?」と御凪真人は小型飛空挺を壁に向けた。
 当初、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)も小型飛空挺に乗っていたが、避けるだけでも不安定になってるのを見たルカルカ・ルーに抱きかかえられていた。
「すみません」
「いいよいいよ。かわいいんだもん」
 ぎゅっと抱きしめられて、ミーナの後頭部に柔かな感触が伝わる。
「ルカ、こうして避けているだけでも良い訓練になりそうです」
「そうだよね。それだけなのかも」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)アム・ブランド(あむ・ぶらんど)が飛び交う家具から守りながら、ダウジングやトレジャーセンスで本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)早見 涼子(はやみ・りょうこ)が探る。しかしそれらしい仕掛けは見つからない。
 あまりの熱さにアムが氷術を使うものの、これも御凪真人のブリザードと同じく効果は長続きしなかった。
「解除スイッチはあるのでしょうか」
 早見涼子に聞かれてマーゼンは首を振る。
「あるかもしれない、と言うだけだな。もしかしたら根本的に対処方法が違うのかもしれない」

 次第にメンバーはウッドの周囲に集まり、飛んでくる家具を避けることだけに専念しはじめた。身を守る対処をするのであれば、無理に飛ぶよりもこの方がはるかに効率が良かった。
 交互に入れ替わりながら、飛び交う家具を打ち返す。家具の軌道は推測しやすいので単純ではあったが、部屋の温度だけはどうしようもなかった。
「ウッド、ごめん。こんなところに連れてきて」
 しょげるセレンス。しかしウッドは生き生きしている。
「いや、なかなか面白いぜ。ちょっと単調だが、結構な訓練になる。しかし終わったらシャワーが浴びたいな」
「そうだね。その時は私が背中を流してあげるね」
「だからなんでそう言うことをしゃべるんだよ。俺が危ない野郎に見られるじゃないか」
 ルカルカ・ルーやセルファ・オルドリンの視線が厳しい。ミーナなどは、ウッドに見つかると危ないと言わんばかりに、ルカルカの背中に隠れる。

 いつまでも続くと思われた家具の迎撃戦は、突然鳴り響いたチャイムで終わりを迎えた。
 家具は元の場所に落ち着き。床の熱は徐々に下がっていく。
「もう、大丈夫ですわ。多少、熱が残っていますが」
 早見涼子が確認すると、一同は床に降り立った。
「これで終わりのようだな」
 マーゼン・クロッシュナーは時間を調べる。どうやら一定時間切り抜ければクリアになるのだと分かった。 
「ただ、あれはなんでしょう?」
 早見涼子が見上げる天井には、穴がアチコチに開いていた。飛べる者がそれぞれ手分けして調べたが、穴以外に何も見つからなかった。

「よかったら、サンドイッチをどうぞ」
 ニケ・グラウコーピスがサンドイッチを勧める。
「いただきまーす!」
 空腹に耐えかねたメンバーは、一斉にかぶりついた。