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第二章 守護者ゴーレム

 さほど長くない通路。明かりはないものの、すぐ先の部屋の照明が反射して、歩くのに不自由はない。
「ストップ!」
 通路を先行する四谷 大助(しや・だいすけ)が、全員を止める。そっと部屋を覗き込むと、天井が高めのホールのような部屋。無数のゴーレムが壁際に直立している。
「ふわー、いっぱいいますねー、マスター」
 大助の黒いコートに変身した魔鎧の四谷 七乃(しや・ななの)もつぶやいた。
「さっさとやっちまおう。これだけいりゃ何とかなるだろ。何だったら俺達だけで相手したって良いんだぜ」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)が、パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)獅子神 刹那(ししがみ・せつな)を連れて前に出る。レイナも刹那もやる気に満ち溢れている。
「遺跡の調査ってのを忘れちゃダメだよ!」
 かく言う小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も、先ほどまではカウンター云々を口にしていた。
「こうしたらどう?」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の提案で、主にゴーレムに対するものと主に調査を担うものとに分けられる。
「ボクは空中からの攻撃を考えてるんですけど……」
 九条 風天(くじょう・ふうてん)が言いかけると、「奇遇だな。俺達もだぜ」とクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)とパートナーのクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が宮殿用飛行翼を見せる。
「3人いれば牽制にもなりそうですね」
「上からの攻撃なら楽勝だろ、って言いたいところだが、p(ピアノ)は気になるな」
 クリストファーの言葉にリカインも同意する。
p(ピアノ)は、音楽記号で‘弱く’のはずだから、大方腕自慢が苦労するってところかしら」
 腕っ節に自信のありそうな面々が、渋そうな顔つきになる。
「逆もあるぜ。試練の強弱を表してるなら、ここは比較的弱めだろ」
 静麻の言葉に大半がうなずく。同じように考えている学生が多いようだ。そこに大助が反論した。
「ゴーレム達がワザと脆く作られていて、オレ達が触れたり攻撃したりするとアウトって可能性もあるよ」
 どこからともなく「むぅ」とうなり声があがる。確かにその可能性もゼロではない。強引に行動して、この部屋だけ調査が失敗すれば、他の部屋を調査する面々に迷惑がかかりそうだ。
「じゃあ調査第一で行こうよ」
 リカインの提案に、美羽が修正を加えた。 

 まず九条 風天(くじょう・ふうてん)クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、上空からゴーレムの注意を引きつけつつ、ゴーレム自体の調査も行う。
 次に四谷 大助(しや・だいすけ)らスピードに長けた者や、閃崎 静麻(せんざき・しずま)ら調査能力に優れた者が、部屋とゴーレムを調べる。
 それで何も見つから無ければ、全員でゴーレムを倒す。

 風天、クリストファー、クリスティーが飛び立った。センサーのようなものでもあるのか、部屋のゴーレムが反応する。両腕を精一杯伸ばして3人を捕まえようとするが、3人はギリギリの高さで届かせない。
「クリストファーさん、さすがドラゴンライダー、とてもお上手です」
「ありがとよ、しかし普段乗りなれてるレッサーワイバーンに比べるとイマイチだな」
 スキル軽身功イナンナの加護を順に発動させたクリスティーは、ゴーレムの攻撃を余裕で避けながら、背後に足元にと飛んで注意を誘う。たちまちゴーレムが混乱する。
「行くぜ」
 静麻の言葉に、大助がうなずき、右と左に分かれて突入する。 
 バーストダッシュトレジャーセンス博識超感覚など、使えそうなスキルを持ったメンバーが2組作られる。四谷大助をリーダーとするグループが右壁から調べ、閃崎静麻率いるグループが左壁の調査を任せられた。双方が突き当たりまで行って、何も見つからなければ、ゴーレムそのものを調べる手はずとなった。入り口に残った者達は、仲間の万一に備えて、いつでも飛び出せる準備を整えていた。

 風天ら上空の3人も、地上グループの行動開始を見た。
「動き出したみたいです」
「よし、もっと派手に行くぜ」
 クリストファーがゴーレムの目をより引きつけるべく大胆な飛翔を続けた。
「しかし……どうも鈍いです。ゴーレムの動きが」
 風天にクリスティーが同意する。
「ボクが足元をくぐっても、明らかに反応が遅かった。逆にこっちが戸惑うくらいだよ」
「やはりここは初歩的な部屋なのか、それとも何らかの罠なのか」
 考え込む風天に、クリストファーが呼びかける。
「おいおい、悩んでたって始まらないぜ、こっちはこっちで上からの見落としがないか、しっかり調べようぜ」
 
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は、調査に集中する閃崎静麻を巧みにガードする。今のところ調査メンバーに気付くゴーレムはいないようだが、混乱で倒れ込んでこないとも限らない。
「チッ、見つからねぇな」
 静麻は怪しそうな箇所を次々に調べていくが、これと言って手がかりになりそうなものは見つからない。装備してきた籠手型HCも今のところ出番なしだ。
「あっちに行くぞ」
「はい」
 レイナは静馬の背中をきっちりガードする。普段、きまぐれで面倒くさがりな静馬の世話をしていると、『契約相手を間違えたかも』と考えることがあるものの、こんな時ばかりは頼もしく感じて、気付かないままに頬が赤くなる。
「大ちゃん、何か見つかった?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が大助に話しかける。
「これと言って……、そっちはどうですか?」
「うーん、普通に壁だけなんだよねぇ」
 話し合う2人にサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が駆け寄る。
「いろいろ調べたんですが、とりたてて何もなさそうです」
「そうか」
 考える大助をよそに、美羽はサビクの一点を見つめる。
「ねぇねぇ、サビク……さん、牛乳好き?」
 サビクは「いきなり何を?」と思ったものの、美羽の視線にピンときた。
「そうですね。好き嫌いなく、適度な運動と睡眠ってところかも」
 意図的に胸を張って、2つの膨らみを揺らした。
「マスター、ドコ見てるんですか!」
 黒コートとなって大助を補助している四谷 七乃(しや・ななの)が、強い口調になる。
「オ、オレ、あっちを調べるよ」
 コートをひるがえして、美羽とサビクから離れた。
「マスター、あーいうのが好みなんですか。七乃や戌子さんがこんなですから、その趣味はないと思ってたんですが。でもグリムさんは……、それなら七乃もなんとか頑張ってみますけど……」
「もう良いから、気にするな! 行くぞ!」
 美羽は真っ赤になってサビクの言葉をメモしていた。
「マッサージのコツは…………」
「ええっ! そんなところを!」
「いろいろあるものです。でもそろそろ追っかけますか」
「はい」
 美羽とサビクは、大助を追っかけて部屋の調査を続けた。
「どうだ?」
 静馬の問いかけに大助が首を振る。
「こっちは何も」
 入り口のちょうど反対側で2つのグループが出会う。互いの成果──どちらもゼロの──を見せあった。
「残るはゴーレムそのものか」
 壁沿いに向かうよりも危険は数倍に跳ね上がるが、そのくらいで引き下がる者はいない。一斉にゴーレムの足元をすり抜けて行った。

 部屋とゴーレムの足元を調べていた面々が戻ると、上空を飛んでいた3人も帰ってくる。全員が部屋から通路に出ると、ゴーレム達は何事もなかったかのように壁際に戻る。
「結局、何もなかったんですね」
 レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)が、皆の成果を取りまとめる。
「こうなったらやるだけだろ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がそう言うと、他のメンバーの多くがうなずいた。
「上から見た限りでは、ゴーレムはかなり弱そうでした。やはりp(ピアノ)が、それなのかもと」
 クリストファーとクリスティーも風天の発言に同意する。
「よっしゃ! 行こうぜ、美緒!」
 シリウスが泉 美緒(いずみ・みお)を誘って飛び出すと、他のメンバーも次々に部屋へと飛び込んで行った。