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古来の訓練の遺跡

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古来の訓練の遺跡

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第四章 機晶姫の襲撃

 部屋に入る直前で笹野 朔夜(ささの・さくや)は、我に返った。ずり落ちかけた眼鏡をかけ直して周囲を見る。見知らぬ面々ばかりに囲まれていた。
「(朔夜さん、トレーニング、頑張ってくださいね)」
 パートナーで奈落人である笹野 桜(ささの・さくら)の声が頭に響いた。
「ト、トレーニング? どう言うことなんです!」
 不意に叫ぶ朔夜を、周囲は訝しげに見る。慌てて声をひそめた。
「ここは、どこなんですか?」
 また桜の声が頭に届く。
「(あら、覚えてないんですか? 古来の遺跡の訓練施設が発見されたニュースを)
「ああ、そんなのあったような。それがここだって言うんですか?」
「(はい、朔夜さんのトレーニングにはちょうど良いと思って、勝手に申し込んで連れてきちゃいました、エヘ)」
「エヘッ、じゃないですよ。僕の承諾もなしに、何をさせるんですか」
「(勝手だから、承諾なしは当たり前です。これも朔夜さんに強くなってもらいたい親心ってものです)」
「いつから親になったんです?」
「(見た目は若いですけど、ずっと年上なんですよ)」
「知ってます。ところで冬月さんはいないんですか?」
 朔夜はもう1人のパートナー、笹野 冬月(ささの・ふゆつき)の名を挙げた。
「(冬ちゃんは面と向かって反対はしないでしょうけど、同意も得られないかなと思って、置いてきました)」
「ああ、そうなんですか……」
「(冬ちゃんがいると朔夜さんは頼ってしまいがちですし、冬ちゃんもなんとなく朔夜さんをかばってるようなところがありますしね。今日はお留守番です)」
 桜の言う通り、朔夜がこんなところにいるとはつゆ知らず、冬月はイルミンスールの寮にいた。自室にこもって考え込んでいる。
『前々から朔夜が実戦に近い形でトレーニングをしたいと思っているのは知っていたんだが、どうやら俺は、好きなようにさせてやりたい反面、その、やはり、家族として危ない事はして欲しくなくてだな、無意識にそういう所に行かせないようにしているらしいんだ』
 青い髪をかきながら、ハァとため息をつく。
『朔夜だってそれを分かっている筈なのに、何時も気がついたら危ない所をフラフラフラフラ。怪我をしない程度に(戦闘の)実力を上げさせようとしてもヘラヘラしてるだけでこれっぽっちも真面目にやろうとしないし……どうしたら良いんだろうな』
 冬月が思い悩んでいる分、桜が暗躍している。
「ところで朔夜はどこに行ったんだ? 桜の姿も見かけないが……」

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、雷電ffの部屋を前に、他のメンバーに頼んだ。
「実は合体型の機晶姫について調べているところなんだ。機晶姫に対する攻撃は最小限にして、部屋と機晶姫への調査に重点を置いて欲しい」
 笹野 朔夜(ささの・さくや)は了解したものの、派手に暴れることが目的のゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は、難色を示す。
「面倒はゴメンだよ。こっちはやりたいようにやらせてもらう」
「合体型だけで良いんだ。攻撃を控えてもらえたら……」
「分かった分かった。だがあっちから攻撃してきたら、こっちも手加減はできないよ」
「なるべく……頼む」
 しかしその願いは早々に破られた。
「雷電フォルテッシモでも、窓際デスパレートでも何でもいいから、調べるなら調べようぜ」
 そう言ったものの、ゲドーは部屋に入るなり、スキルサンダーブラストを放つ。真正面にいた機晶姫が一体スクラップになった。
「ちょっと待ってくれ!」
 エヴァルトの静止も聞かず、ゲドーは暴れるのを止めなかった。
「こいつらだってやる気だよ。やられる前にやるのが、俺様のセオリーなんだよ」
 ゲドーの言葉通り、機晶姫もレールガンを撃ってくる。威力はさほどと思われなかったが、機晶姫の数が多いだけに避けるのもひと苦労だ。
「それにしてもやりすぎだ!」
「へぇ、俺様の邪魔をしようってのか。面白い! 機晶姫より先に、お前から片付けてやるよ!」
 言うや否や、エヴァルトに向けてサンダーブラストを撃ってきた。エヴァルトもかわして反撃するが、ゲドーが圧倒的に有利な状況だった。
 エヴァルトは機晶姫のレールガンを避けつつ、それでもなお部屋や機晶姫を傷つけずに戦っているのに対し、ゲドーはそんなことに一切頓着せずに攻撃する。機晶姫をそのままエヴァルトにぶつけてくることもあった。
「だーひゃっはっは!! 俺様以外、みんな不幸になぁーれ!!」
 その差が逆転したのは、パートナーの存在だった。
 エヴァルトのパートナー、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)は、機晶姫のレールガンを容易に避けながら、エヴァルトの意を汲んでゲドーを追い込んでくる。
 一方、ゲドーのパートナー、ジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)は、そのレベル故に機晶姫のレールガンを避けることすら難しかった。
「ゲドーさーん、ボク、不幸になっちゃってます。助けてくださーい」
 ジェンドは、スキルスウェーでレールガンを避けようとするものの、圧倒的な数にかわしきれていない。やむなくゲドーに助けを求めた。
「なんだよ、こっちはもうちょっとだってのに……」
 ゲドー1人であれば、状況の利を活かして、エヴァルト達3人を相手に暴れることもできたが、ジェンドがくっついているのでは、そうも行かなかった。
「チッキショー、この借りは必ず返すからな」
 ゲドーはお決まりの捨てセリフを吐くと、ジェンドを引っつかんで、部屋から飛び出していった。
 エヴァルトは、ロートラウトとローランダーに部屋と機晶姫の調査を任せると、自らはレールガンをかろうじて避けている朔夜の元に向かった。
「おい、大丈夫か?」
「あー、なんとか」
「すなない。俺の無理な頼みを聞いて、機晶姫への攻撃を控えてくれたんだろ」
 朔夜はバーストダッシュ殺気看破を駆使しつつ必死で答えるものの、エヴァルトの方を見ることもできない。
 エヴァルトは、遠目ではなんとかかわしているように見えたが、近づいて見れば、何発かかすったような跡が見受けられた。
「いやー、控えたと言うか、逃げるのでいっぱいいっぱいだったと言うか……」
「ここへは1人で来たのか? ちょっと無茶だったな」
「1人と言うか……2人と言うか……。無茶なのは我ながら同感です。ハハ」
 作り笑いも必死で答える。
「よく見てろ」
 朔夜の腕を抱えると、無数の機晶姫に相対する。
「数は多いが、レールガンの威力はそれほどでもない。やはり訓練施設ってことだ。軌道も読みやすくなっているから、無駄な動きをしないで、ギリギリにかわせば……」
 エヴァルトは朔夜を抱えたまま、レールガンを避け続けていく。
「格好の修行になるぜ」
 コツを伝えて朔夜を離す。いくらかマシになった朔夜は、先ほどよりもいくらかスムーズな動きでレールガンをかわした。
「(やれやれ、冬ちゃん以外にも、おせっかいはいるのですね)」
 桜は呆れたが、朔夜の成長そのものはうれしかった。
 エヴァルトは朔夜をカバーしつつ、機晶姫の調査を続ける。
 調査に関しては、ロートラウトとローランダーも活躍していた。部屋の機晶姫を上回る能力でレールガンを避け、かわし、時には「これも訓練であります」とばかりに、わざとくらいながら機晶姫と部屋を調べ回っていた。

 やがて機晶姫はピタリと動きを止める。どうやら攻撃時間が決まっているらしい。一旦、動きを止めると、突っついても引っ張っても動かない。
「エヴァルト、部屋にも機晶姫にも、めぼしいものはなかったよ」
 ロートラウトが戻ってくる。
「施設に準じて、機晶姫も古いものではありますが、合体型についての情報は未発見であります」
 ローランダーの報告も同じだった。
 汗だくになりながらも落ち着いた朔夜が、3人の話に加わった。
「なるほど合体型ですか、そんな噂を聞いたことがあります。ただその反対に、合体型は存在しないとの話もありますね」

「ところでエヴァルト、あれは何だと思う?」
 ロートラウトの指し示す先には、天井付近に開けられた穴があった。
「この部屋に入った時には、あんな穴はなかったはず」
 ローランダーが付け加える
「それなら自分が見ておりました。機晶姫が動きを止めると同時に、あの穴ができたであります」
 4人で手分けして調べたものの、空気穴以上の発見はなかった。