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第二章 追いコン  〜 卒業、オメデトウ! 〜

「この招待状に書いてある場所って、ここでいいの?」
「ハイ!ようこそいらっしゃいました、先輩方!」
「あと、何すればいいんだ?」
「あとは、紙コップ並べれば終わり!」

 日下部と終夏が手分けして配布した招待状と、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が卒業式の記念品として配った、蒼空学園の校章入り時計を手にした卒業生たちが、追いコン会場にやってくるのと、会場の準備が終わるのとは、ほとんど同時だった。
 サプライズを期待して、敢えて差出人の名を書かずに投函したので、正直何人集まってくれるかわからなかったが、予想に反して、会場が一杯になるくらいの卒業生が集まった。
 風祭たちの開会の辞もソコソコに追いコンが始まり、すぐ会場は和気あいあいとした雰囲気に包まれる。

 宴もたけなわになった頃、会場の一角に設けられた舞台の上で、メッセージが読み上げられ始めた。
 始めの内は、課外活動でお世話になったことに先輩への感謝の言葉や、女生徒があこがれの人の思いを打ち明けたりなど、在校生から卒業生へ向けてのメッセージが多かったが、その内に、「みんなに内緒で付き合っている〇〇君と〇〇さん、卒業後もお幸せに!」だの、「〇〇先生のヅラを隠したのは僕です!でも先生はハゲの方がカッコイイと思います!」だの、「〇〇君、卒業おめでとう。先生から、君に一つ行っておくことがあります。おまえ、オレの授業でいっつも早弁してただろう!いいか、朝飯はちゃんと食え。社会に出たら、早弁してる暇なんか無いんだぞ!」と、一大暴露大会に発展していく。



「皆さん、卒業オメデト〜!」

 すっかり歯止めの効かなくなった暴露大会のさなか、突然怪しいアクセントの日本語が、大音量で響き渡りった。
 壇上には、フサフサの毛に覆われた気ぐるみが、ダルマのような体躯を晒している。キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)だ。ろくりんピックを通して、各校の生徒たちと真の友情を結び合ったと思い込んでいるキャンディスは、卒業生にエールを贈るべく、一人この追いコンに参加していた。パートナーの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は百合女に置き去りである。

「皆さんが一生懸命ガンバテくれたおかげで、女王陛下も復活できたヨ〜!アリガトウネ〜。デモ、シャンバラの復興は始まったバッカリヨ!アイシャ女王を敬い、両代王を補佐して、シャンバラに繁栄をもたらしてネ!」

 会場は、水を打ったように静まり返っている。見た目と違い至って全うなスピーチに、みんな面食らっているのだ。
 その様子を、『ミンナ、ミーのスピーチに感動してるネ!』とさらに勘違いしたキャンディスは、さらに熱弁を振るう。

「蒼空学園は、シャンバラに進んだ技術を伝え、色んなトコロでリーダーシップを執る事を期待されてるヨ。でもそれは地に根のはったものじゃないと駄目ネ。一足飛びに成果を求めるあまり、ドーピングに手を出して試合に臨むような真似はイケナイノヨ。短期的に成功しても体を壊すダケヨ〜。急がず慌てず、まずは、冬季ろくりんピックの成功を目指して、一緒に頑張りマショウ!!」

「パチパチパチ……。」

 初めまばらだった拍手は、すぐに割れんばかりになった。壇上から降りたキャンディスの周りに、たちまち人の輪ができる。
「いいスピーチだった!オレ、感動したよ!」
「私たち、卒業してもシャンバラのために頑張るね!」
 生徒たちの言葉に、キャンディスは、『ヤッパリ、遠くから来てよかったヨ……』と思うのだった。



 舞台の様子を横目で見ながら、樹月 刀真(きづき・とうま)は、皇彼方と、これまでの徒然を語り合っていた。会場の反対側では、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、テティス・レジャと話しているのが見える。男は男同士、女は女同士、と言う訳だ。彼方の傍らには、月夜が贈った【花束】が置かれている。

「彼方、あなたの苗字ですけど、当て字だそうですね。実家を勘当されたからだって聞きましたけど……。本当ですか?」
「ん?あぁ。本当だぜ。ウチの実家って田舎でさ。なんかこう時代錯誤っていうか、すごい閉鎖的なんだ。それで俺が『テティスと一緒に、蒼空学園に行く』って言ったら、すごい怒ってさ。『こんな得体の知れない娘と、訳の解らんトコロに行かせられるか!』って。それでアッタマきて、家飛び出したんだよ。俺のことならともかく、テティスのことを悪くのは許せなかったからな。勘当でも何でも、勝手にしやがれってんだ!」
 その時のことを思い出したのか、彼方の語気が自然と荒くなる。

「そうだったんですか……。それで、その後ご両親とは?」
「それっきりさ。ただの一度も連絡をとってないし、向こうから連絡が来たこともない。もっとも、俺の居場所も連絡してないから、取りようがないのかもしれないけどな」
「……彼方。この機会に、一度連絡を取ってみても良いのではありませんか?」
「え?な、なんで……」
 彼方は、露骨にイヤそうな顔をする。
「これから先、もしシャンバラと地球の関係が悪化するようなことがあれば、連絡も取りづらくなります。俺たち、いつ死んでもおかしくない立場でしょう?俺、肉親とか親戚って一切いないから、そういう人がいるなら、できるだけ仲良くしておいた方が良いんじゃないかと思って……。すみません、気分を害したのなら、謝ります」
「あ!い、いや、いいんだ。気にしないでくれ。俺も、別に気にしてないから」
 ブンブン手を振って、否定する彼方。
「樹月の気持ちは嬉しいけど、俺、実家に連絡を取る気はないよ。もう、地球に戻るつもりもない。地球より、テティスやアイシャ様、それに樹月や漆髪たちがいる、このシャンバラがいいんだ。下手に連絡をとったりして、また『帰ってこい』とか言われるのはゴメンだよ」
「でも、彼方。あなたは、昔のままのあなたではありません。以前はクイーン・ヴァンガード、そして今はロイヤルガードとして、立派に働いています。今なら、ご両親も認めてくれるかもしれません」
「それは、どうかな……」
 頬杖をついたまま、じっと考えこむ彼方。その脳裏を、家を出ていく時の激怒した父親と、泣き崩れる母親の姿がよぎる。彼方は、イヤなものを振り払うように、かぶりを振った。



「刀真が私を解放したときの第一声はね、『俺は、力が欲しい。お前の持つ、その剣が。お前はどうする、俺に従うか?それとも、俺を拒むか?』だったの。今考えると、スゴイ台詞よね……」

 月夜はテティスに、自分と刀真の馴れ初めを語っていた。
「それで?」
 興味津々、といった感じでテティスが訊く。
「私は、彼の手を取ったわ」
「迷ったりしなかったの?」
「ううん、全然。そしたら彼、こう言ったのよ。『なら、今からお前は俺の剣で、そして俺のモノだ』って。だから私、今でも彼と共にいるの。彼の右腕を預かる者として」

「ねぇ、テティス?テティスが彼方と知り合ったきっかけって、どんなだったの?」
 今度はテティスの番とばかりに、月夜が尋ねる。
「私は……」
 遠い目をして、語り始めるテティス。
「私が鏖殺寺院との戦いに敗れ、石にされたのは5000年前。地球に落とされた私は、それからずっと、助けを呼び続けた。私の声が聞ける人を、呼び続けていたの。そして現れたのが、彼だったわ」
 テティスの目が、彼方を捉える。
「彼は、私の汚れた顔を、優しくぬぐってくれた。そうすれば私が元に戻ると、直感的に悟ったのね。私の目に最初に映ったのは、心配そうに私を見つめる、彼の優しげな瞳だった。私たちは、すぐにパートナーになったわ」
「なんだ。自分だって、ちっとも迷ってないじゃない」
「あら……、それもそうね♪」
 二人は顔を見合わせて笑った。