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【カナン再生記】東カナンへ行こう!

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第20章 野生馬捕獲でヒャッハーしよう・3日目(3)

「へぇ。本当に捕まえられたのか」
 夕刻。
 今日のキャンプ地で待っていたセテカが、グラニを連れて戻ってきた彼らを見て、感心しきった声でそう言った。
「本当ってどういう意味ですか? 信じてくれてなかったとか?」
「ははっ。ごめんごめん」
 今日もまた、野生馬捕獲に走り回っている面々が捕らえた馬を放しているサークルの横、まだ馬が1頭も入っていないサークルへ案内する。
 グラニは、捕獲された自分の群れの牝馬たちのほか、彼との交配を望む者が入れたペガサスや白馬たちに囲まれたおかげで、落ち着いているように見えた。
 馬の交配は、まず牝馬が発情しなければどうにもならない。
 交配が成功しているかどうかは、今後を待たないと分からないだろう。
「皆さんにはすっかりお世話になりましたから。お礼がわりにこれぐらいはねぇ」
 ランサーの1人、ティアスはすっかり笑み崩れた顔で、サークルの中のグラニを見ていた。なにせここ数年追ってきて、一度も捕まえられなかった馬を、ついに捕らえることができたのだ。喜びもひとしおだろう。
「あ、あのー……ティアスさん」
 彼が上機嫌なのを見計らって、ベディヴィエールが近づく。
「はい?」
「昨日私たちが捕まえた牡馬についてなんですが……譲っていただくわけにはまいりませんでしょうか?」
「――うーん。困りましたねぇ」
 牡馬で、しかもあれだけみごとな栗毛はそうはいない。
「あれはわたしどもも種牡馬にしようかと思っていたんですが…」
 ちら、とベディヴィエールを見る。
「……お引渡しするとなれば、去勢して、人を乗せるトレーニングをしてからになります。あのままではとても人様にお譲りすることはできません。それでよければお譲りいたしましょう」



 セテカは遭難していたコトノハと夜魅のことを知ると、さっそく2人を町へ降ろして薬師に診せる手配にとりかかり、ほかのみんなの大半は、まだ陽があるからと野生馬捕獲の手伝いに出払ってしまった。
 忙しく立ち働いているのは、縁を助手として馬の健康チェックを行っている孫と、サークルを組み立てているランサーたちぐらいだ。残った者はグラニを捕らえられたことで一気に緊張の糸が切れてしまったのか、ぼへーっとしている。
「……それで、あのグラニを本当にバァルさんに引き渡すのが正しいんでしょうか…」
 柵で頬づえをついたみことがつぶやいた。
「何を言うておる。そのために来たのじゃと、おぬしも言うておったであろうが」
「うん。それはそうなんだけど……いろいろ考えちゃって」
 いきいきと仲間たちと駆け回っているグラニを見ていたら、こっちの方がグラニにとっては幸せなのかなー? なんて思ったり。
「もっと単純に考えたら?」
 祥子が、やはり柵にもたれて頬づえをついた。
「そんなの、会わせてみなきゃ分からないじゃない。こんなのお見合いと同じよ。会うまでしぶっていた人たちが、会ったとたんに意気投合して俄然乗り気になるって話はいくらもあるわ。ねぇ、イオテス」
「そうですね…。
 わたくしは、いろんな所へ行くのが大好きです。そこにはそこの良さがあり、それを知るのは楽しくて、うれしくて、幸せな気分になります。
 このグラニもそうなのではないでしょうか。ここしか知らない、ここが楽しい、ここで幸せ……けれど、だからといって彼にとってここ以外で楽しい場所が見つからないわけではないでしょう。ここしか知らないというのは、ここだけ知っていればいいということではありませんもの。それを知る機会を与えてあげるのは、いいことではないでしょうか」
「そっか」
 うん、と頷いて、みことは柵からめいっぱい腕を伸ばす。
「そうじゃ。そしてもし、バァルの器を見抜いて主従の誓いを良しとせぬならば、われらで連れ戻ってやればよい」
「そのときは微力ながら僕も力を貸そう」
 少し離れた所でグラニを見守っていたシグルズがこちらを向く。
(器か…。でも多分、そうはならないんじゃないかな)
 ふと、バァルを思い、みことはにっこり笑った。