なし

リアクション

　花祭りを訪れた雪花　かなで（ゆきはな・かなで）は、まずは辺りを見回した。
　色とりどりの花が咲き乱れ、それらに囲まれながら、様々な人がその大事な人と共に、花を愛で、菓子を食べ、雑貨を買い求めるなど、思い思いの時を過ごしているのが、視界へと飛び込んでくる。
　彼らと同じ空間に居る――その事実に、独りで訪れたかなでも幸せな気持ちになれた。
　菓子の屋台も気になったけれど、まずは雑貨の屋台の方へと足を向ける。
「きれいに作れるといいな……」
　一通り雑貨を見終わった後、作成コーナーへと足を運んだかなでは、ペンダントトップに小さめの桜花を選んだ。
　ネックレスの鎖を受け取って、作業台で金具を合わせていく。
　簡単な手順で出来るようになっていて、あっという間に、鎖とトップの金具を合わせることが出来る。
「うん、きれいに出来ました……！」
　出来上がったネックレスを目の前で掲げて、仕上がりを確認したかなでは、笑みを浮かべた。

　空京での買い物帰りに、花祭りのことを知ったキリエ・エレイソン（きりえ・えれいそん）は、パートナーたちと共に、公園へと入った。
「花の展示に、花をモチーフにした食べ物、雑貨……それに、アクセサリーの作成コーナーかぁ……」
　入り口で貰ったパンフレットを一通り眺めながらキリエが呟く。
「お揃いのアクセサリーなんて良いなぁ〜面白そう！　せっかくだから記念に皆で作ろうよ！　ねぇねぇキリエも欲しいよね？」
　キリエの横からパンフレットを覗き込んだラサーシャ・ローゼンフェルト（らさーしゃ・ろーぜんふぇると）が、声を上げる。
「そうですね、ラサーシャ。せっかくですから皆で何か作って行きましょうか〜♪」
　ラサーシャの言葉に頷いたキリエは、彼と共にセラータ・エルシディオン（せらーた・えるしでぃおん）とメーデルワード・レインフォルス（めーでるわーど・れいんふぉるす）の手をそれぞれ引いて、作成コーナーへと向かった。
「うわぁ、色んな花をモチーフにした飾りがありますね」
　ネックレスの作成コーナーを訪れたキリエが一番に声を上げる。
　台の上に所狭しと並べられた様々な花のペンダントトップを順に見ていった彼は、ある花のトップで目を留めた。
「あ、ブルースターもあるのですね……この花にしませんか？」
　その花の名前をぽつと呟いた後、パートナーたちを見回して訊ねる。
「そういえばこの花の鉢植えが家にもありますね。私もこの花好きです……とても可愛らしくて、色も天上の蒼の如く美しいです」
　トップを見たセラータがふと思い出して、応えた。
「ブルースターの花言葉は『信じ合う心』……なので、誕生花ではありませんが贈り物には素敵な花だと思います」
「そのような花言葉なのですか……ではその花をペンダントにしましょうか」
　キリエの言葉を受けて、セラータが応えると、ラサーシャやメーデルワードも異存ないと頷く。
　人数分のトップとネックレスの鎖を受け取った彼らは作業台の方へと移動して、金具を合わせ始めた。
　キリエやセラータ、ラサーシャの３人が次々と作り上げていく横で、メーデルワードは手間取っていた。
「くっ……意外と難しいではないか。子供にでも出来るような簡単な作成方法のはずなのに……いくら私が不器用だからといってありえん……失敗するなど！！」
　力を入れすぎたことで潰れてしまった金具を手に、思わず声を荒げてしまう。
「もう一度だ。店主すまんがもう１つキットを貰おうか……」
「金具を替えれば直せる範囲だ。全部買い換えずとも」
　彼の言葉に、その手元を覗き込んだコーナー担当の男は金具の替えを差し出した。
「む、そうか……」
　差し出された金具を受け取って、再び挑戦するメーデルワード。
　その後、幾度か金具を潰し、替えて、パートナーたちの何倍も時間を掛け、漸く、ネックレスを完成させるのであった。

「見て見て！　ネックレスや花冠が手作り出来るんだって。わー……凄く綺麗っ」
　パートナーの月崎　羽純（つきざき・はすみ）の手を引いて、作成コーナーを訪れた遠野　歌菜（とおの・かな）は、並んでいる材料の花々やペンダントトップに感嘆の声を上げた。
「ん？　手作り？　……素人に上手く作れるものなのか？」
　手を引かれて行きながら、羽純は首を傾げる。
「ね、羽純くん、作ってみようよ」
　誰でも出来るよう簡単な手順なのだと確認した歌菜は、彼を見上げて告げた。
「……どんな出来になっても文句は言うなよ？」
　苦笑交じりに応えながら、ネックレスを作る彼女とは別に、羽純は花冠を作ることにする。
「プラタナスをテーマに作ろうっと♪」
「俺は、スノーフレークをテーマにするか」
　それぞれテーマにする花木は違えど、どちらも１２月２３日――２人の誕生日の誕生花だ。
　材料を揃えた後、作業台に向かい合って座ると、２人は作り始める。
（羽純くんの様子はどうかな？）
　歌菜はふと手を止めて、正面の彼のことを見た。
　何やら真剣に作成に取り組んでいる。
　その様子が微笑ましく思えて、彼女は微笑んだまま、暫し見入ってしまった。
「歌菜、何で俺ばかり見てるんだ？　手を動かせ、手を」
　ふと。彼女の視線に気付いた羽純は、彼女にじっと見られていたことに照れてしまい、それを隠すかのように、彼女の作業を促した。
「わ、分かってるよ」
　見つめてしまっていたのがバレてしまい、恥ずかしさに強気に応えながら、歌菜も作業に戻る。
「はい、羽純くん！　羽純くんにネックレスを掛けてあげよう」
　鎖とトップの金具を合わせるだけの簡単な作業は、集中してしまえばあっという間に出来上がって、歌菜はそう言いながら、彼の首へとネックレスを付けた。
「うんうん、似合う似合う♪」
　嬉しそうに微笑む彼女に、羽純は出来上がった花冠を乗せる。
「に、似合うかな？」
「似合う」
　訊ねる歌菜に、彼は優しく微笑んで応える。
　思わぬ彼の言動に歌菜は頬を朱に染めた。
「ありがとう、宝物にするね」
「あぁ、俺も大事にする」
　告げて、頷き合うと、２人は手を繋ぎ、作成コーナーを出た。

「ユーリカさん、イグナさん、近遠さん。せっかくでございますし、あちらで何か記念品の様な物を作っていくのはいかがでしょうか？」
　雑貨の屋台が並ぶ通りを抜けた後、作成コーナーの幟を見つけたアルティアが、近遠たちへと声を掛けた。
「アクセサリーの作成コーナーですか」
「面白そうですわ」
　近遠とユーリカが近付いて、他の者の作業風景を見る。
「簡単に出来るのであろう？　作っていってみてはどうだろうか」
　イグナも２人に続くように様子を見て、頷いた。
「では、いきましょう」
　アルティアは、３人より先駆けてコーナーへと近付くと、何が作れるのかを確認した。
「花冠にブーケ、ネックレス……普段から身に着け難いものでございますね。……あら？」
　順に見ていった後、ストラップも作れると知り「これにしましょう」と皆に告げる。
「花は何にします？」
「桜の花びらを封入いたしましょう」
　訊ねる近遠に、アルティアは迷いなく応えた。
　桜を見に来たのだから、記念の品も桜に関するものにしたいのだ。
　樹脂の中に桜の花びらを閉じ込めたトップを見つけると、それを選んで、ストラップのパーツに合わせていった。