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リアクション
『深海堂』と『ドリームウィーバー』を梯子する強者が居た。
嵯峨 奏音(さがの・かのん)と嵯峨 詩音(さがの・しおん)のふたりである。厳密にいえば、詩音が奏音を引っ張り回している、という構図が正しいのだが。
「あぁっ! こ、これはっ!」
アーヴィン作のBL同人誌を手にした瞬間、詩音の興奮度は一気にMAXへ。ぱらぱらと数ページを流し読みしただけで、速攻で『買い』だと決め込んだ模様。
更にそこへ、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)と奈月 真尋(なつき・まひろ)も現れた。もうそこは、男子禁制の腐女子ワールドともいうべき、恐るべき結界が張り巡らされていたといって良い。
いや、厳密にいえば秋日子は真尋に、半ば騙されるような形でここまで連れてこられた為、どちらかといえば詩音、真尋、そしてシーラの三人がトリオ・ザ・腐女子を形成していると分析せねばなるまい。
「やっぱりシーラさん、お見事ですわぁ〜。特にこの男ん子がなまらカッコええです〜」
真尋がシーラの作品をベタ褒めしてみせたが、しかしここで、秋日子の容赦無い突っ込みが。
「ねぇ……この本に描いてあるキャラ達と目の前にいるこの人達……どう見ても、同一人物じゃないの」
ところが真尋の鼓膜は、秋日子の突っ込みなど右から左へ華麗に受け流してしまっているようであった。実際その時の真尋はといえば、アーヴィンの作を手に取り、
「相変わらず絵だけはええですね」
などと、超上から目線で辛口の論評を下している真っ最中だったのである。
どうやらこの一見仲良しに見える男女達の間には、微妙な力関係というか、決して視界にはあらわれない複雑な人間模様が隠されているらしい。
こればかりは余人の測り知るところではないのだが、彼ら或いは彼女達の間では、絶妙なバランスを持って成り立っているようである。
すると、そうこうするうちに他の腐女子っぽい客達が、この場の妙な盛り上がりに釣られて、わらわらと寄ってきた。
ここで詩音がここぞとばかりに、用意しておいたプラカードを取り出す。そこにはこれ見よがしに、
『最後尾』
と大きく自己主張するかのように記されていた。
最早、何もいうまい。
詩音の人生は、今ここで、至福の頂点を迎えようとしていたのだ。
ところで、何をそんなに盛り上がっているのかと怪訝に思った壮太と大地が、シーラの作品を手に取って読んでみる。
そこに描かれていた内容とは――。
しばらくして、激怒した壮太と大地がシーラを問い詰めるも、シーラはしれっとした顔で、ふたりの紅潮した面を可笑しそうに見詰めて、曰く。
「この物語は、フィクションですわ〜。実在する個人や団体とは一切関係ありません〜」
白々しいとは、まさにこのことであろう。
* * *
ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)はひとり、スケブサーフィンを楽しんでいた。
色々なサークルを回り、絵柄が気に入ったところではスケブへのイラストをねだり続けてきている。実際のところ、相当な数のイラストがミーナのスケブ上で所狭しと踊っている状況であった。
「うひゃひゃ〜、大漁大漁♪ 今日はもう、何も思い残すことは無いかも〜」
すっかり上機嫌でふらふらと即売会会場を徘徊していたミーナであったが、ふと、気になるところで足を止めた。
そこは、祥子のサークル『下野毒電波倶楽部』のブース前であった。
同人誌自体は完売し、ブースは閑散としている。
ミーナが売り場のテーブル越しにブース内を覗き込むと、たまたま暇を持て余していた祥子と目が合った。
「あ〜、すみませ〜ん。このスケブ、お願いしても良いですかぁ〜?」
どこか甘ったるい響きを伴うミーナの懇願の声に、祥子は何故かデレっとした笑顔を浮かべて、差し出されたスケブを受け取る。
「なぁんだか調子が狂うわ〜……でも、オッケィ! 私が最高に可愛いのを描いてあげる!」
ミーナから受け取ったスケブの中身を見ながら、祥子はサムアップで応じた。
そこに描かれている内容に、妙なエロ画を描くのは祥子の絵師としてのプライドが許さない。
ここは他の絵師達が描いた可愛らしいイラストを遥かに凌駕する、超可愛らしい絵で対抗しなければならないのだ。安易なエロ画に逃げるのは、愚の骨頂というものであった。
絵師という人種は、他人との戦い以上に、己との戦いに打ち勝たねばならない存在なのである。
……なんて大層なものでものないのだが。
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