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リアクション
★ ★ ★
「仕切り直します。エントリーナンバー10。イルミンスールからお越しの、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)さんです」
シャレード・ムーンの紹介にのって、カレン・クレスティアが元気よくステージに駆けあがってきた。
「この写真はいいものだよ!」
「ええと、待ってくださいね。今、お宝をお持ちしますので。――早く早く」
いきなり核心に入るカレン・クレスティアに、シャレード・ムーンがあわてて日堂真宵を急がせた。
「まったく、人使いが荒いんだから……」
文句をぶーたれながら、日堂真宵が布に被われたパネルを大谷文美と一緒に押してきた。
「それでは、お宝、オープン」
シャレード・ムーンが布を剥ぎ取る。
「あららら、せっかくのお宝なのに、なんで曇りガラスの衝立があるんですか?」
スケッチブック片手に、観客席のシャーロット・スターリングが首をかしげた。
「ええっと、今回のお宝はあまりに過激なため、そのまま放映するどころか、鑑定士の方々以外にもお見せすることができません。申し訳ありませんが、雰囲気だけでお察しください。さて、カレンさん、このお宝はいったいなんなのでしょうか」
「はい、ボクが今までこつこつと撮りためたり、さる筋から買い取った写真集です」
カレン・クレスティアが自慢げにシャレード・ムーンに答えた。
曇りガラスで見ることはできないが、パネルにはエリザベートのときめき写真、エリザベートのひみつ写真、アーデルハイトのひみつ写真、水着のエリザベートの写真、桜井静香の生写真、秘蔵プロマイドなどが貼られていた。
これらの写真のほとんどは密かに盗撮されたもので、いわゆる闇流通の物である。あまりにも過激な内容なので、東朱鷺が曇りガラスがずれたりしないように横でしっかりと見張っている。
実際にその写真を見られるのは、鑑定士のイグテシア・ミュドリャゼンカとラピス・ラズリと土方歳三とプラチナム・アイゼンシルトだけであった。
「悪いね……でもこれが、ボクの伝説の始まりなんだ」
鑑定の間も、カレン・クレスティアは自信満々だった。
「こ、これは……!!」
鑑定のために写真を見たプラチナム・アイゼンシルトが、逃げるようにして曇りガラスの衝立の外側に出てきた。顔は真っ赤で、息も荒い。意外と純情だったようである。
「ふむ、このポーズは……。知り合いの十八禁本のデッサンの参考になるかもしれないが……」
衝立の中からは、ちょっと困惑したような土方歳三の声が聞こえてくる。さすがにこちらはいい大人であると同時に、感覚が麻痺するほど同人誌即売会でこの手の物は目にしているので今さら動じることもない。
「えっとお、なんで校長センセーたち……もがもがもが……」
ラピス・ラズリが無邪気に写真の詳細を口にしようとしたので、あわててシャレード・ムーンに口を塞がれた。
「そうですね。芸術的見地からであれば、普通に個展などで展示されているレベルですけれど、被写体が……。この撮影者って、今も生きていらっしゃるのでしょうか?」
イグテシア・ミュドリャゼンカがちょっと怖い疑問を口にした。
「さて、そろそろよろしいでしょうか」
シャレード・ムーンが、写真に再び布を掛けながら言った。
「では、先に希望金額をお聞きしましょう」
「うん、ほしい人なら多分100万は出すと思うよ」
「はい、100万ゴルダですね。さて、鑑定結果はどうなりましたでしょうか。オープン・ザ・プライス!」
600!!
「これは、はたして、高いのでしょうか安いのでしょうか。ミュドリャゼンカ先生、いかがでしょう」
「そうですね。一応協議の末に600ゴルダということになりましたが、オークションになった場合はこの限りではないと思います。ただし、これで、依頼者がこれらの写真を持っていることが分かってしまいましたから……死なないでくださいね」
「えっ、えっ!? ああー」
イグテシア・ミュドリャゼンカに言われて、カレン・クレスティアはようやく分かったようだ。写真をほしがる誰かに狙われるのはだいたい想定内ではあったが、被写体のことまでは考えていなかった。まして、被写体はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)や桜井 静香(さくらい・しずか)という校長たちである。真面目に、このまま無事でいられるのだろうか。
「それでは、次の依頼者……」
「ちょっと待ってよ、スルー!? スルーなの。ああっ、待ってえ〜」
シャレード・ムーンに何か訊ねようとしたカレン・クレスティアであったが、さっさとお宝が楽屋に運ばれていくのを見て、あわててその後を追いかけていった。
★ ★ ★
「では、エントリーナンバー11番、蒼空学園からお越しの鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)さんです。どうぞ」
シャレード・ムーンに呼ばれて、ブラックマントを羽織った鬼龍貴仁がステージに現れた。だが、ステージを注視していなかった者はそれに気づいていない。
「いらっしゃいませ。今日お持ちいただいたお宝は何でしょうか」
シャレード・ムーンの言葉で、初めて鬼龍貴仁に気づいた者もいたようだ。
「はい。今、俺が着ているブラックマントです。俺といったら黒マント、黒マントいったら俺ですから」
鬼龍貴仁が、ちょっと自慢げにブラックマントの裾をひらひらと翻した。
同時に、日堂真宵がハンガーに掛けられたもう一着のブラックマントを載せたワゴンを運んでくる。
ブラックマントは、ブラックコートの姉妹品として試作されたものである。コートと比べて密封性は低いものの、軽量であるということと、一枚布として広げることができるために意外と使い勝手はよい。だが、需要はあまりなかったようである。そのため、現存数は極めて少ないとされている。一説には五着といわれているが、なんと、依頼人はそのうちの二着を保有しているというのだ。これは、高額鑑定が期待できるかもしれない。
「では、筑摩先生、アイゼンシルト先生、鑑定、お願いいたします」
シャレード・ムーンに呼ばれて、筑摩彩とプラチナム・アイゼンシルトがでてくる。
「なかなか、いい仕事しているよね」
鬼龍貴仁が着ているブラックマントをぴらぴらとめくったりしながら筑摩彩が言った。
「だが、まったく同じ物というのはいかがなものです? こういった物は、量産されないことに価値があるんじゃないですか」
飾られている方のブラックコートの材質を手で確かめながら、プラチナム・アイゼンシルトが言った。確かに、飾られている物と、鬼龍貴仁が着ている物とは寸分の違いもないように思える。
「二着だけというのも充分に少ないと思うんだもん。それに、大量生産でなく同じ物があるというのは、結構凄いんじゃないかな」
「鑑定士先生方の意見は割れているようです。さあ、依頼人は、いくらをつけますか?」
「そうですね。二着あるんで1000ゴルダはいきたいと思います」
「では、オープン・ザ・プライス!」
100!!
「おおっと、意外とのびない。アイゼンシルト先生、これはいったいどういうことでしょう」
シャレード・ムーンが、プラチナム・アイゼンシルトに訊ねた。
「やはり、ブラックコートの改良品というところが大きいですね。あまり変わっていない。ほとんど売れないので作られなかったというのもうなずける。ただ、物はいい物です」
「あちらの先生はああ言ってるけど、スペルマスターにとってはコートよりもマントの方がステイタス的には似合うんだよ」
否定的なプラチナム・アイゼンシルトに、筑摩彩が割り込んだ。
「いつも魔法使いが着るとは限らないでしょう」
「分かってないですね。マントは格好いいんだよ!」
「ええと、もう鑑定結果は出たのでもめないでください」
なんだか喧嘩になりそうなので、あわててシャレード・ムーンが止めに入った。どうやら、鑑定結果はプラチナム・アイゼンシルトのごり押しらしい。
「結果は低めでしたが、これは一つの評価ですから、もしかしたら1万ゴルダで譲ってほしいという人が現れるかもしれません。そのへん、期待してお帰りください。ありがとうございました」
「はい。でも、譲りません」
シャレード・ムーンにフォローされながら、鬼龍貴仁がそのまま楽屋には行かずに観客席の方へと移動していった。この後は、他の依頼品を見て楽しむつもりのようだ。
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