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リアクション
★ ★ ★
「ふうっ。色々大変な今回の出張鑑定大会、次はエントリーナンバー6番、国宝防衛隊の緋桜 ケイ(ひおう・けい)さんです」
シャレード・ムーンが、次の依頼人である緋桜ケイをステージに呼んだ。
イルミンスール魔法学校では、内部構造がしょっちゅう変化する関係上か、色々なアイテムがなくなったり、あるいはひょっこりと発見されることが多いと聞く。特に、大図書室はそれ自体が迷路のようになっており、長らく閉じられていた禁書の書庫がひょっこりと口を開いたりと、色々な謎アイテムの発見も珍しくないのだ。さて、そういった中、今回依頼者によって持ち寄られたアイテムは、どれだけレアなのであろうか。
「では、お宝を見せてください」
シャレード・ムーンに言われて、緋桜ケイがワゴンの上の布を取り払った。その下から現れたのは、大図書室の鍵である。
「大図書室で見つけた謎の鍵だぜ。できれば、何の鍵だか教えてほしいんだが……」
「そうですか。では、鑑定士の先生方、お願いいたします」
シャレード・ムーンにうながされて、エリシア・ボック、ノーン・クリスタリア、エクス・シュペルティア、紫月睡蓮らが、大図書室の鍵を取り囲んだ。
「凄いね、ワタシ、初めて見たんだもん。ねーねー、おねーちゃん、これどう思う?」
ノーン・クリスタリアが、エリシア・ボックに意見を求めた。
「なかなかの逸品ですわね。でも、ノーンも知らないとなると、精霊関係の品ではないということでしょうか」
エリシア・ボックが首をかしげる。
「珍しい金属でできているのお。鍵というよりは、装飾品かタリスマンのようにも見えるが……」
「きっと、古代の御神体なのです」
材質を調べるエクス・シュペルティアに、紫月睡蓮が言った。
「でも、鍵の形をしていますが……。ああ、よく分かりません。ノーン、わたくしに知識を」
「難しいんだもん」
逆にエリシア・ボックに助けを求められても、ノーン・クリスタリアとしてはお手上げという状態だ。
「なんだか、雲行きが怪しいなあ……」
ちょっと心配になりつつも、緋桜ケイが鑑定の様子を見守った。
「さあ、結果は出たでしょうか。では、予想金額からいきましょう」
「ずばり、100ゴルダで」
まったく価値が分からないので、とりあえず緋桜ケイが切りのいい数字を出した。
「では、オープン・ザ・プライス!」
500!!
「おおっと、予想よりは高い金額が出ました。さて、これはいったい何の鍵なのでしょう」
「ええと、分かりません!!」
シャレード・ムーンの質問に、紫月睡蓮がどきっぱりと答えた。
「一応、鍵の形をしておるが、魔法防御力も備えており、本当に鍵なのかというのも分からないというところなのだよ。もしかすると、何かのワンドの一部とか、鍵の形をしたタリスマンかもしれぬ」
あわてて、エクス・シュペルティアが、説明をした。
「でも、こんなに大きな鍵なら、イコン用かもしれないよね」
「うーん、一応は、大図書室の鍵ということになっているんだけど」
ノーン・クリスタリアの言葉に、緋桜ケイがちょっと困った顔をした。大図書室にイコンをどうやって入れるんだということが、前提問題としてある。イコンでなければ、ゴーレムとか、マホロバ人という線もあるが、どれも確証がない。
「とりあえず大事にしておくといいですわ。いつか、役にたつかもしれませんし」
エリシア・ボックが、当たり障りのない言葉で纏めようとする。
「まあ、鍵型の杖を持った美少女戦士もいた気がするけど……」
紫月睡蓮が、よけいな一言をつけ加えた。絶対に、鍵として使わせない気らしい。
「鑑定士の方々、ありがとうございました。依頼人も、お宝ありがとうございました」
★ ★ ★
「さて、エントリーナンバー7番、苺おぱんちゅディフェンダーの……」
「なにっ、パンツだと!!」
「はいはい、回収!」
シャレード・ムーンの言葉に過剰反応した南鮪を、東朱鷺がステージに飛び出してくる前に回収していった。
「騎沙良 詩穂(きさら・しほ)さんです。どうぞ」
シャレード・ムーンに呼ばれて、ティーカップパンダをかかえた騎沙良詩穂がステージに上がってきた。
「お宝は、もしかして、そのパンダちゃんたちですか?」
「はい、パンティーです」
「なんだと、パンティーだとぉぉぉぉ!!」
「はいはい、おとなしくしなさい!」
再び乱入しようとした南鮪が、東朱鷺にどつかれてすぐに姿を消した。
「あれが、パンティー番長の底力……。パラミタパンツ四天王の後二人はいったいどんな能力を持って……」
「あのう、話が逸れてますよ。今は、パンダちゃんのお話です。そっちも、関係のないジャンルの鑑定士はおとなしくしていてくださいね」
何やらパンツ四天王に一家言あるらしい騎沙良詩穂を、シャレード・ムーンが本筋に戻そうとした。
「はい、このパンティー……」
「ですから、パンツの話はもういいです」
「だから、パンティー」
「しつこいですねえ!」
「このパンダの名前がパンちゃんとティーちゃんなの!!」
「……なんでそんな名前つけたんですか……」
会場がシーンと静まりかえった。
ティーカップパンダは、パラミタでも保護運動が起きるほど珍しい生き物である。シャンバラとコンロンの国境地帯に住むとされ、教導団がその繁殖を試みてはいるが、人工繁殖の結果はまだ思わしくないといったところである。
依頼者が今回持ってきたのは、そのティーカップパンダの双子。これは、高額が期待できるかもしれない。
「あっ、何やら、VTRがあるみたいですね。以前、イルミンスールの森で行われたペットレースのときの物のようです。では、VTRどうぞ」
「頑張れ、パンとティー。詩穂はずっと信じているよ。頑張れ頑張れパンティー、頑張れ頑張れパンティー!!」
「連呼していますね……」
ぽそりとシャレード・ムーンが言った。
会場中から注目されて、さすがに騎沙良詩穂が顔を赤らめる。
「ああ、あのときのパンダちゃんですか。小ババ様のいい遊び相手になりそうですね」
VTRを見た客席のフィリッパ・アヴェーヌが、いつぞやのことを思い出して言った。
「名前はあれだけど、かわい〜」
ルカルカ・ルーも、VTRに見入ってつぶやいた。
「それでは、紫月S先生、お願いいたします」
「えーっ、私、考古学が専門なんですが……」
シャレード・ムーンに呼ばれた紫月睡蓮がちょっと困った顔をする。
「ティーカップパンダは、考古学的にも重要な位置を占める生物ということですから。よろしくお願いします」
シャレード・ムーンがごり押しした。なにせ、今回生物の専門家として登録した鑑定士が少なかったので仕方ない。
「はい。とりあえず鑑定しました」
なんとか無理矢理、紫月睡蓮が鑑定を終える。
「それでは、希望価格をお願いします」
「ずばり、パン、ティーなので10ゴルダ」
「意味がよく分かりませんが、ずいぶんと控えめですね。では、オープン・ザ・プライス!」
230!!
「おお、そこそこの評価がつきました。理由はどのへんでしょうか、紫月S先生」
「かわいいから、このくらいです」
あっけらかんと紫月睡蓮が答えた。
「では、これからもかわいがってあげてくださいね。また、ペットレースでお会いしましょう」
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