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美緒と空賊

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美緒と空賊

リアクション


第二章


「うわあああああん、たすけてえええええ!!こわいよおおおいたいことしないでぇえええ!!」
一方その頃。
「ええいうるせぇ!」
「おとなしくしろ!」
桐生 円(きりゅう・まどか)高務 野々(たかつかさ・のの)のもとに連れて来られます。
「ったく、てめぇはここで掃除でもしてろ!」
「おい、お前面倒見てやれ。うるさくてかなわねえ」
「は、はい」
野々が円を助けるように膝をつくと、下っ端らしき空賊はふんと鼻を鳴らして踵を返しました。
完全に足音が消えると、ぴたりと涙を留めた円が野々を見上げます。
「ふぅ……行ったわね」
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ。ちょっと手荒だったけど」
「怪我がないならいいのですけれど……」
「平気だよ、想定内だし」
「もしかしてあなたもわざと捕まったのですか?」
「も、って……もしかして君も?」
「そうです」
「みんなはどうしてるの?」
「皆さんは……」
あそこです、と野々が指差した先は厨房でした。
円が視線を向けるとちょうど冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)がため息をついていました。
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)和泉 真奈(いずみ・まな)と並びながら、大きな鍋をかきまわしたり、野菜の下処理をしているようです。
「はぁ……皆さんの分の、食事をつくるのは……結構、大変……ですね」
「どれだけ食べるのよ、もう……」
「まあまあ、ミルディ。少なくともこれは捕まっている皆さんの分の食事でもあるわけですから」
「それはそうだけどぉ……」
「それに皆さんのところに届けるふりをして船内を見て回ればいいのですわ」
「確かに……今のうちに……船内の、構造を見ておけば……役に立つ、かも……」
「そんなに骨が折れるなら私も何か……」
ぱたぱたと動き回る少女たちを見ながら、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が申し出るも、イルマ・レスト(いるま・れすと)が笑顔で止めました。
「千歳は時が来るまで休んでいてください」
「いや、蕎麦くらいなら打てるし、野菜の皮剥きくらい……」
「リツがいるから大丈夫ですよ。わざわざ千歳のお手を煩わせなくても」
「しかし……」
千歳がいい募るも、イルマや朝倉 リッチェンス(あさくら・りっちぇんす)も生温かい笑みを向けました。
「千歳、それより味見をして?」
「あ、ああ。……うん、うまい」
「よかったぁ。自信作なの」
「リツ、先ほどから味見ばかりではないですか」
「だって、ダーリンに手料理を……」
「出来上がってから堪能していただけばいいのです。今はおとなしくして機を窺っていなくては」
皆さん頑張っているのですから、とイルマは人差し指を立てました。
リッチェンスはちょっとだけ唇を尖らせましたが、千歳が頷いて見せると渋々作業に戻りました。



「結構此処って広いのね……」
「これだけ掃除するとなると骨が折れるねぇ」
「あいやー。私の麻婆豆腐が気に入らないからって掃除させるとは言語道断あるよ!」
「そりゃ美凛の麻婆豆腐はからいもんねぇ」
「空賊さん火を吹いてたしね」
桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)は、モップを片手に先ほどの光景を思い出していました。
奏 美凜(そう・めいりん)が命じられて空賊たちの食事をつくったのですが、美凛の作った麻婆豆腐が辛すぎて空賊が火を吹いてしまったのです。まるで漫画のように。
けれどそんなことをして空賊が黙っているわけがありません。怒られた挙句に掃除をいいつけられて今に至るわけでした。
「あっ!!」
未だに憤慨している美凛に、どこかから叫び声が聞こえました。
「えっ?」
「逃げてください!」
叫んだのは稲場 繭(いなば・まゆ)でした。
繭の叫びの後、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の投げたトランプが目の前を飛んでいきます。
「何これ」
「トランプ?」
「狙いが外れたわ」
「もういっかーい」
無邪気にラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が煽ります。
「何あれ……」
「危ないあるよ!」
「あら、そんなところに突っ立っているから悪いのよ」
「なっ、何をいうある! そっちがおかしいあるね!」
とりすましたアルコリアに、美凛が肩を怒らせます。
はぁ、と繭がため息をつきました。
「ずっとあんな調子で掃除が終わらなくて……あっ怪我はないですか?」
「ないあるけど…」
「もー、これじゃモナミちゃんを捜すどころじゃないわ」
追いついてきた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が呆れたように腰に手を当てる。
「はぁ……空賊さんたちに怒られないといいんですけど…」
「大丈夫よ。こうやってメイドとして働かせてるってことは随分監視も緩いみたいだし」
「エミリアちゃん……」
のんびりしたエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)に、繭がはぁ、とため息をつきました。
「可愛い女空賊とかいないのかな〜掃除がてら探してこよっと」
「あ、俺も俺も。掃除なんてかったるくて」
「あっ、タクミ! だめだよ!」
ふらりと立ち去るエミリアにくっついていこうとする吉良 巧珠(きら・たくみ)猫咲 ヒカル(ねこさき・ひかる)が慌てて窘めました。
「いいからいいから。適当なの誑かしてみんなの居場所聞いてくるわ」
「そんなこといって掃除がいやなだけだろ!」
ヒカルが止めるのも虚しく、巧珠は煙に巻いて何処かに行ってしまいました。
すぐにヒカルが追いかけますが、なかなか見つかりません。
「どこいったんだよも〜」
ぼやきながら角を曲がった瞬間。
「って、モナミさん!?」
思わず小声で叫んで身を隠してしまいました。何故ならその視界の先には、捕えられているはずのモナミがいたのです。
見知った姿が空賊とともにあることへの驚きと、何をしているのだろうという訝しさから、ヒカルは声をかけることも出来ず見入ってしまいました。
「あれぇ、何をしているんですか〜?」
「――!?」
その背に声をかけたのは南雲 アキ(なぐも・あき)でした。
のんびりとしたその声に、けれどヒカルは肩を跳ねさせました。
思わず姿勢を正して、後方のモナミと空賊たちを気にしながら、
「タクミを探していて……」
としどろもどろに答えます。
「タクミさんですか〜?」
「は、はい。あいつすぐどっか行っちゃって……」
「そうですか〜。でもきっとすぐに見つかりますよ〜。私も探すのを手伝いますから〜」
ケセラセラ、ですわ〜。と。
のんびりおっとり微笑むアキに、ヒカルも曖昧な笑みを浮かべます。
こっそりと窺いみたときには、すでにモナミの姿も空賊の姿もどこかへ消えてしまっていました。