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美緒と空賊

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美緒と空賊

リアクション


第五章


「皆さん、大丈夫ですか!?」
おぼろげな光の下、案ずるような声に崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は辺りを見回しました。
よく見れば、心配そうに駆け寄ってくるのは件の後輩、那由他でした。
「那由他!」
「皆さん!」
「無事でよかった!」
美緒がわっと駆け寄って那由他を抱き締めます。多少やつれた様には見えますが、大きな怪我はないようでした。
美緒はほっとしたように胸をなでおろして、改めて地下牢を見渡しました。
「流石黒髭……と言うべきでしょうか……」
「地下牢も広いものね」
そんな純粋な感想が零れるくらい、意外にも地下牢は広いつくりでした。
なるほど多くの百合園生がつかまっていたとしても充分に閉じ込めておけるだけの広さはあります。
亜璃珠はぐるりと見回し、牢の入り口で泣いている椛へ声をかけました。
「貴方のパートナー、空賊側についていたようだけど……皆何処へ行っているのかしら?」
「へっ? わ、わかんないよ……。でも追手が来てるって言ってたからそっちに行ってるのかも」
「なるほど……思ったより早かったのですわね。いいことですわ」
言いながら亜璃珠は、おもむろにマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)を喚びました。
「作戦通りよ、マリカ。首尾はいいわね?」
「はい、ちゃんと此方に手はずを整えてあります」
喚び出されたマリカは亜璃珠の装備品をそっと差し出します。
それを身につけながら、亜璃珠は美緒に言いました。
「さて、美緒。脱ぎなさい」
「へっ!?」
「勘違いしない。人手は多い方がいいでしょう」
「え、でも」
疾しい意味ではなく、人手の確保としてラナ・リゼット(らな・りぜっと)を必要としているのだという亜璃珠に、美緒は困ったように眉を寄せました。
ビキニアーマーを脱ぐ美緒のために布で目隠しを作ろうとしながら、マリカは申し訳なさそうに言います。
「美緒様……着るものがなければ私のメイド服を用意しますので……」
「はうう……」
「ほら、早くなさい。空賊が戻ってきてしまうわ」
亜璃珠に強く言われ、美緒は渋々頷きました。
皆で逃げるには確かに人手は多いに越したことはありません。
美緒が制服の下のビキニアーマーを外していると、牢の外で足音が響きました。
一同に緊張が走ります。
けれど、少しの間を置いて顔を出したのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)でした。
桜葉 忍(さくらば・しのぶ)マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)らと共に助けに来てくれたようです。
「やっと見つけた。……無事ですか!?」
「ええ、何とかね」
「よかった。美緒さん、無理はしていませんか? 怪我は?」
「大丈夫です」
「そうですか……早々に申し訳ないですが、君は怪我をしているみんなの手当を」
「え、でも……」
「何も戦うことがすべてではないわ。あなたはあなたの出来ることで協力すればいいの」
「……はい!」
「逃げるために怪我をしている人間の手当てを優先的にお願いするよ。このまま空賊が来れば弱った人間は最初に狙われるからな」
マクスウェルの言葉に美緒も頷きます。
忍は捕まっている皆の腕や足の縄を切ってやりながら、東峰院 香奈(とうほういん・かな)織田 信長(おだ・のぶなが)に声をかけました。
「大丈夫か、香奈?」
「うん」
「よかった。信長も大事ないな?」
「無論。それより空賊たちは?」
「ああ、けっこうな数だったよ。おいそれと帰しちゃくれないだろうなぁ」
「ふん、洒落臭い、どれだけいようと全て屠ってくれるわ」
「程々にな」
香奈から光条兵器を受け取りながら、忍も言います。
「皆がドックで脱出用の船を用意してくれてる。俺たちが空賊の相手をしている間に逃げるんだ!」
伏見 明子(ふしみ・めいこ)も牢の外を窺いながら少女たちを促しました。
「はいはーい。助けに来たんだからちゃんと助けられてね」
「此方ですよ、みなさん!」
「レイ、誘導は頼んでもいいですか。ドックまで皆を送ってあげてください」
明子はレイ・レフテナン(れい・れふてなん)に誘導を任せると、踵を返そうとしました。
けれどその背をレイが呼び止めます。
「えっ、どうするつもりですか」
「いやぁ……何とかしなきゃいけないのがそこにいますからね」
明子は苦笑しながら、先を指差します。その先には、のんびりとトランプに興じるアルコリアとラズンの姿がありました。
シーマやナコトたちの説得もむなしく、彼女たちは今日もやりたいようにやっているようです。
「あの人たちを連れたらすぐに行きますから」
「さぁ、時間がない! 足元に気をつけて、こっちへ!」
マクスウェルたちが少女たちを誘導しているのを見ながら、亜璃珠が那由他たちにふと尋ねました。
「……ところでモナミはどうしたの?」
「それが……おかしいんですの。モナミさん、まるで」
姿が見えないわ、と訝った亜璃珠に、行動を共にしていたという氷川 陽子(ひかわ・ようこ)は言いにくそうに口を開きます。
その瞬間――。
短い悲鳴と、轟音。爆発音のような音でした。
「随分と大漁だと思ったら……余計なのまでいるみたいだな」
低い声と共にゆっくりと現れた人影、それは――。