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リアクション
第四章
第四章
雲の向こうにぼんやりとした影、大きなアジトでした。
そしてどこから乗り込むべきかと窺うように目を凝らす面々の、眼前の雲を切りさくように向かってくる何かが一つ。
「な……!?」
ヘイリーが驚いたように声を上げて、ワイルドペガサスを旋回させました。
その横をすり抜ける砲弾。
「……随分な歓迎ね」
そんなサプライズな歓迎を受けたのはリネンやヘイリーだけではありませんでした。
和輝やスノー、つぐむたちの飛空挺。皆撃墜させられることはありませんでしたが、随分と狙いの正確な立て続けの砲撃でした。
予期せぬ迎撃に足は止まり、緊張が走りわずかではありますが操舵が乱れます。
「気取られていたとはね……」
「あんまりにも大所帯で追いすぎたか?」
「はっ、やりがいがあるじゃねーか!」
「行くぞ!!」
皆が警戒するその横をすり抜けて、物怖じせずに向かっていったのはフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)と立花 眞千代(たちばな・まちよ)、そしてエレノア・ファーレンハイト(えれのあ・ふぁーれんはいと)でした。
確かにじっとしていても仕方がありませんし、人質の安否も心配でしたが、あまりにも考えなしに見えるフィーアたちの行動に、つぐむたちは瞬時言葉を失いました。
けれどすぐに意を決して次々と乗り込む手筈を整え直します。
空賊にはどうせ遅かれ早かればれてしまうのですし、早々にばれてしまうほどには人手がいるのです。
つまりそれはこちらが優勢である可能性もあるということです。
そう思えばこそいくつも実践を踏んできた彼らがためらうことなどありませんでした。
むしろこの程度で怯んで帰るわけにはいきません。
「だからおとなしくしてろっていったのに!」
「人のことはいえないでしょ! だいたいばれたのはボクのせいじゃないもん!」
そんな中、聞こえてくるのは蔵部 食人(くらべ・はみと)と魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)の口論。
あろうことか互いを攻撃しあいながら、八つ当たりのように空賊を殴りとばし、さらには蹴りとばしていきます。
そんな隙だらけに見える二人ですから、当然空賊の格好の餌食になってしまいました。
四方八方から一斉におそってくる空賊を、二人はキッと睨みつけました。
「邪魔しないでよ!」
「邪魔するな!」
二人声を揃えての攻撃は、それはそれは見事に決まりました。
「……さーて、来たな」
「程々に守らせていただきますかね」
「だな」
魔鎧となったベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)を纏ったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がおもむろに武器を構える横で、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が帰ってきた船を守るように誘導しながら頷きました。
それを手伝って船をつなぎながら、アウレウスは小さく首を傾げます。
「しかし……追っ手が来てもまだ黒髭は姿を現さないのか?」
「変って言えば変だよな」
「まぁいい。それよりも今は攻め入ってくるあいつらに備えてアジトの守りを固めるぞ」
そう言ってグラキエスは中へ行こうときびすを返しました。
止めようと手を伸ばしかけたベルテハイトでしたが、すぐに真意を悟ってグラキエスに倣いました。
「ああ、そうだな。表の人手は充分だ。俺たちは中を固めよう。捕まえてきた奴らを連れていく手伝いもしなきゃいけないしな」
ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)も頷きながら、空賊が降ろした少女たちを囲むようにして歩き始めます。
先導する空賊に気取られないように後ろを固めながら、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)は道を覚えようと辺りを見回しました。
逃走経路はそんなに複雑ではなさそうでしたが、如何せんどこもかしこも空賊が配置されているようで、このままでは逃げ出せそうにないでしょう。
罠でも仕掛ける必要がありそうだとロアに目くばせすると、小さな首肯が返ってきました。
「よし、お仲間のところについたぜ、嬢ちゃんたち」
暫くして、空賊が足を止めたのは、地下にある一角でした。
どう見ても書斎や遊技場などではない、誰かを留め置くための施設。
そこの物々しい扉を開くと、数名の少女の声がしました。どうやら先につかまっている百合園生たちがそこに拘留されているようでした。
空賊たちの視線を受けて、木本 和輝(きもと・ともき)は目の前の少女たちを次々と牢に押し込みます。
そして仕上げとばかりに、傍にいた四季 椛(しき・もみじ)もどんっと牢に押し込みました。
「お前もこっちな」
「ふえ!?」
「いやぁ、せいぜいキリキリ働けよ!」
「ちょっ、うらぎりものおおおお!!」
ガシャン、と無情に閉まる牢の錠の音をかき消すように、椛の叫びと和輝の高笑いが響くのでした。
一方その頃。
地下の別室では何やら不穏な空気が流れていました。
じゃらりと大仰な鎖で繋がれているのはアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)。
その前に立ちふさがっているのはレアル・アランダスター(れある・あらんだすたー)です。
レアルは顔を背けて少しでも逃げようとするアリアの頬を掴んで、自分の方を向かせました。
「や……やめて……」
「ふざけんな、やっとチャンスが巡ってきたんだ。コレを逃してたまるかよ」
「そんな、やめ……っ」
レアルの手がわきわきと動き、アリアのやわ肌に触れよう
とした、その瞬間。
「――そこまでだ!」
ばったーん!!
と、大きな音を立てて何者かが飛び出してきました。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「は、はい……」
言いながらアリアを拘束する鎖を解いたのは、黒髭 危機一髪(くろひげ・ききいっぱつ)でした。
その横ではクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がレアルを捕まえようと得物を向けてきます。
「な、何だてめぇらは!」
「お前この俺を知らねえのか? 正真正銘本物の黒髭だ!」
「何だと!?」
まさかの黒髭の登場にうろたえるレアルを横目に、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)はアリアの足の拘束も解くと、ぽん、と彼女を促しました。
「他のみんなも助け出されてるころだ……。ほら、早く……」
「あ、ありがとうございます……!」
逃げ道を示唆してアリアを逃がすと、七緒はレアルに向き直って口角を歪めました。
「女の子にこんなことするとは、な……」
手甲からすらりと得物を抜き放ち、七緒は静かに呟きました。
「……覚悟しろ」