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1章 海賊との戦い
 雲のトンネルを抜けると、眼下に青い海が広がりました。そのまま海の上を飛んでいくと、やがて遥か彼方に小さな島が浮かんでいるのが見えてきました。
「あれが、ネバーランドよ」
 ウェンディが指さします。
 近づくに連れはっきりと見えてくるそれは、緑色のとても美しい島でした。島の中央には大きなお城があり、滝の流れる辺りに大きな虹の橋が渡っているのが空の上からも見えます。入り江は日差しを受けてキラキラ輝き……。
「うわあ……きれい!」
 アゾートが珍しく大きな声を上げました。
「本当にきれい……昔のままよだわ……」
 ウェンディが懐かしそうにつぶやきます。
 しかし、ゆっくりと懐かしんでいるヒマはありませんでした。なぜなら、その時、ズド……-ン……という音ともに、大砲がこちらをめがけて飛んで来たからです。
「危ない!」
 アゾートはとっさにウェンディを守りました。幸いな事に弾は一行の遥か下を通り過ぎていったようです。その代わり、大きな船が帆を広げてこちらに向かってくるのが見えました。マストには髑髏マークの旗がかかっています。海賊船です!
「フック船長の船だわ!」
 ウェンディが叫びました。
「あいつらは、侵入者を許さないの。きっと、あたし達を捕まえる気だわ!」


 その頃、船の上では、ジェームズ・フックことフック船長が望遠鏡片手に叫んでいました。

「撃てー! 侵入者を1人たりとも逃すなー!」

 その脇では、甲板長ののスミーが大砲のロング・トムを立て続けにぶっ放しています。

 と、その時、どこからか声がしました。

「子供達の救出を邪魔する海賊共! この私が相手よ!!」

 フック船長はぎょっとしました。
「なんだ? いまの声は?」
 どうやら、声は上から聞こえてくるようです。海賊どもが見上げると、マストの上に黒髪をなびかせて立ちはだかる少女の姿が見えました。永倉 八重(ながくら・やえ)です。

「なんだ? あの娘!」
 どよめく海賊達の目の前で、八重は「とうっ!」ジャンプ!
 その途端、八重の全身は魔力の輝きに包まれ、漆黒の髪と瞳は情熱の紅へ、制服は魔法少女服へと変化して……
 そして驚く海賊達の目の前に華麗に着地!
 ポーズを決めて叫びます。

「夢と希望を守る魔法少女ヤエ、登場!」

「なんだあ? このアマ!」
「やっちまえ!」
 海賊達は、八重めがけて怒濤のように押し寄せてきました。
 襲いくる敵を前に八重は愛刀・紅嵐を構えます。
「魔法少女ヤエ……押して参ります!」
 そして、愛刀・紅嵐を構えて雑魚敵を蹴散らしていきました。

「どうしよう。八重さんが1人で行っちゃった……!」
 アゾートが海賊船を見下ろして、おろおろしています。
「あたし達も行かなきゃ!」
 ウェンディはそういうと、猛スピードで海賊船に向かっていきました。
「ああ!……ウェンディさん! まって……」
 アゾートも慌てて後を追いかけます。

 和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)がその後ろ姿を見つめてつぶやきました。
「ああ……! 二人とも行ってしまいました……」
「俺らもとっとと乗り込もうぜ!」
 ジャック・メイルホッパー(じやっく・めいるほっぱー)が言いました。
「けれど、こんな夢のような美しい世界で流血沙汰なんて……なんだか気が進みません」
 その言葉に和泉 猛(いずみ・たける)がうなずきました。
「妹よ。確かに、お前の言うとおりだ。このように夢と希望に満ちた世界に暴力沙汰は似合わない」
「なあにが『こんな夢のような美しい世界』だ!」
 ジャックがゲロを吐きそうな顔で言いました。
「なあにが、ネバーランドだ! この世にパーフェクトもハーモニーも夢も希望もないんだよ!!」
 どうやら、彼は夢と希望にあふれたネバーランド『自体』にキレているようです。ジャックは、絵梨奈に向かって言いました。
「おい! 何ぼさっとしてるんだ? さっさと、俺を装備しろ!」
「え?」
「船に乗り込むって言ってんだよ!」
 そう言うと、魔鎧ジャックは半ば強引に絵梨奈に装備され、
「憂さ晴らしじゃあああああ!」
 と、マッハで船に向かっていきました。
「ああーー! 待って下さい! ジャックーーーーーー!」
 絵梨奈の悲鳴が青空に尾を引いていきます。
「行っちゃいましたね……」
 ベネトナーシュ・マイティバイン(べねとなーしゅ・まいてぃばいん)がつぶやきましたす。そして、猛に尋ねました。
「僕らも行きますか?」
「それより他にないであろう」
 そう言うと、猛は自らも魔鎧ベネトナーシュを装備し、ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)とともに後を追いました。
 

 そのころ、船上では……。

「なんだ? なんだ?」
「船長! こりゃ何の騒ぎですかい?」
 尋常ならざる気配を嗅ぎ付けたのか、船内のあちこちから、荒くれ男達が武器を手に飛び出してきます。


 そこへ……

 ズゥ……ン!

 恐ろしい音とともに、何かが飛び降りてきました。
「なんじゃあ? 今度は」
 海賊達が振り返ると、そこにはジャックを装備した絵梨奈が、俯き加減で立っています。
「何だ? てめえは?」
 海賊が尋ねました。
 すると…
「貴様ら今俺の事笑ったろ?」
 ジャックが言いました。
「はあ?」
 海賊達が首を傾げます。
「貴様ら今俺の事笑ったろ? って言ったんじゃあ!」

 そう言うと、ジャックを装備した絵梨奈が恐ろしい勢いで海賊達に襲いかかっていきました。
「俺の事笑った奴は誰だあああああ!」
「言いがかりだあ!」
 その迫力に、さすがの海賊達も悲鳴を上げて逃げまどいます。
「なぜ、逃げる!」
 そういうと、絵梨奈は、『ホッパー』=飛蝗のように飛び跳ね、海賊達を蹴って蹴って蹴りまくりました。
「といっても、体を動かしているのはジャック・メイルホッパーなのですが……」
 海賊達を蹴りまくりながら絵梨奈はつぶやきます。
「普段からやさぐれてネガティブ発言が飛び交う人だから、こうなる事は、まぁ予測は出来てましたけどね……」

「あーあ……」
 その惨状を見て猛がつぶやきます。
「妹のLC日ごろの鬱憤が溜まってるのかなんかはしらんが大暴れしてんなぁ……まぁ降りかかる火の粉は払わんといかんし……ここは俺達もこの海賊狩りの手伝いしておくかな…」
 そういうと、猛は乱闘の中に飛び込んでいきました。

 一方の絵梨奈は快調に敵を倒していきます。ところが……
「ええかげんに、さらせよ! ワレェ」
 と、関西弁のやくざ風の白人が絵梨奈の片足を掴んで動きを封じてしまいました。
「いちびっとったら、足へし折るで姉ちゃん」
「ちくしょう! 動け絵梨奈!」
 ジャックが叫びます。
「無理です! 力の差が大きすぎます……い……いやああ……」
 男は、ものすごい力で絵梨奈の両足を捻りました。……そこへ。

 グヮシ!

 猛の拳が男のあごに入りました。
「妹に、何をする!」
 さらに腹に入ります。
「ハガ……ガガガガガ」
 男はあごを押さえてのたうち回ります。

「大丈夫ですか? 絵梨奈さん」
 男の手を逃れた絵梨奈に、ルネが駆け寄り、『慈悲のフラワシ』で絵梨奈の傷を癒しました。絵梨奈の体はみるみる回復していきます。

 一方、男は甲板の上にタンを吐き出し言いました。
「やってくれるやんけ、兄ちゃん。けど、これで終わりと思うなや。ワシ。こう見えても、魔法もつかえんねんで。魔法やで、魔法」
 そして、男は雷術を唱えました。暗雲が湧き起こり、稲妻が猛を撃ちます。
 しかし……
 稲妻が消えた後も猛はけろっとして立っています。
「な……なんで、無事やねん?」
 顔面蒼白の男に向かい、猛に装備されたベネトナーシュが言いました。
「僕に属性攻撃はあまり意味ないですよ?」

「ど……どちくしょーー!」
 やけになって襲いかかって来た男の後頭部に、絵梨奈の蹴りが入ります。
「船上に、タンを吐いてはいけません」
 前のめりになった男の頭上を猛の拳が襲います。
「その通り。道ばたで吐いてもいけない」
 そして、倒れた男の上に馬乗りになり、猛は拳を連打しました。
「君が泣くまで殴るのを、やめない!!」