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2章 ピーターの隠れ家
 ピーターの隠れ家は森の中の木の穴をくぐった地下にあります。ウェンディやアゾートが訪れたときは、みな外に出てケーキを焼いていました。しかし、ピーターの姿だけは見えません。
「気をつけてね」
 木陰に潜んでその様子を眺めながらウェンディが言います。
「彼らは一見普通の子供に見えるけど、本当は『ナイト・メア』って呼ばれる悪魔の子供たちなの。侵入者には容赦なく襲いかかってくるわ。悪夢で人を惑わしたり……攻撃力も魔力もすっごく高いのよ」
「戦うしかないってことだよね……」
 アゾートが言います。
「いいえ。戦わなくて済む方法もあるわ」
 ウェンディが言います。
「あの子達、子供なだけに『珍しい遊び』が大好きなの。だから……何かおもしろい遊びで仲良くなるのが一番いい方法よ。でも、よっぽどおもしろい遊びじゃないと、すぐに飽きて暴れだしちゃうけど……」
「そういうことなら、俺にまかせろ!」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)が進み出ました。
「俺は、究極の遊びを知っている! あいつらを手懐けて、ピーター・パンの捕獲に協力させるぜ!」
「そんな、タンカをきって大丈夫なんですか? 隼人さん」
 ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)が心配げにたずねます。
「まかせとけって。二重の作戦を思いついたんだ。まずは、ウェンディ。俺にピーター・パンの外見や仕草、口調等を詳しく教えてくれ」
 ウェンディは言われたとおり、隼人にピーター・パンの癖や口調や服装などについて詳しく説明しました。聞き終わると、隼人は変身の実でピーターに変身しました。
「そうか! まずはピーターに化けて、さらわれた子供達の居所をさぐろうという作戦ですね」
 ソルランはうなずいて、そっと隼人の後を追っていきました。
 ピーター・パンに化けた隼人は、子供達の側まで行くと、
「たっだいまー!」
 と、陽気に叫びました。
 子供達が振り返って嬉しそうな顔をします。
「ピーターだ!」
「お帰りなさい」
「よお! 元気にしてたか」
「うん! 今みんなでドングリのケーキを作ってるんだよ!」
 子分達が無邪気に答えます。
「それはいいな。そうだ! そのケーキをあいつらにも食わせてやろう」
「あいつら?」
「この間『向こうの世界』からつれて来た子供達だ。ホラ、腹をすかしてるだろうし」
「いいよ」
 子分達は何の疑いもなくうなずきました。どうやら、隼人の作戦は当たったようです。
「よし! じゃあ、早速出発だ」
「うん!」
 ところがその時。
「騙されないで!」
 鈴を振るような声とともにティンカー・ベルが現れました。
「そいつは、偽物よ! その証拠に右手の小指にホクロがないわ」
 よく、そんな細かいところまで見えていたものです。しかし、ティンクの言葉で隼人の変装は見破られてしまいました。隼人は変身を解きました。
「バレちゃったね」
 ソルランとともに隼人を追いかけて来たアゾートがつぶやきます。
「やっぱり戦わなきゃいけないのかな?」
「いいえ。僕も暴力は反対です。隼人の次の作戦に期待しましょう」

「よくも騙したな」
「偽物め」
 子分達が怒って隼人に襲いかかろうとしました。
「ま……待て!」
 隼人は慌てて懐に手を入れます。
「慌てるな! お兄ちゃんとおもしろい遊びをしよう!」
「遊び?」
 その言葉に手下達の目が輝きます。
「何々?」
「どんな遊び?」
 隼人はポケットからスマートフォンを出して言いました。
「俺の提示する究極に面白い遊び……それは……『蒼空のフロンティア』だ!」
「『蒼空のフロンティア』? 何それ?」
 子供達がきょとんとします。隼人は言いました。
「まずは俺の端末(スマートフォン)からキャラクターを登録するんだ!」
 隼人はそう言って、子供達の目の前に画面を表示させてみせます。
「どうだ面白いだろう?」
 隼人は言いました。心の中ではほくそ笑んでいます。
 ……ふっふっふ。『つまらない』と言ってみろ。「天宮MSは蒼フロを『つまらない』とのたまっていますよ」とメールを入れてやるぜ!
 ……おお! なんという企みでしょう。まさに究極の二択です!
 しかし、子供達はきょとんとしています。彼らには、パソコンゲームなどという高度なものは理解できないようです。それで、1人の子供が不満げにいいかけました。
「なんだ、これ! つまんな……」
 そこまで言いかけたときです。にわかに天が明るくなり、不思議な声が響き渡りました。

……子供達よ……それ以上言ってはなりません……

 その言葉に子供達が石化します。

「な……なんだ? この声は」
 隼人は空を見上げました。
「隼人……。あなた……すごいわね」
 いつの間に来ていたのか、ウェンディが言いました。
「今のは、この世界でも千年に一回聞かれるかという伝説の声にして、最大の禁じ手……『天宮の声』よ。あなた……すごいものを呼び出したわね!」
「本当かなあ……」
 アゾートが、つぶやきます。
 それはそれとして、子分達はナイトメアに変化して襲いかかってきました。
「あっ!」
 ナイトメアがアゾートに襲いかかります。
「アゾートさん……危ない!」
 木陰にいたソルランは、密かに思いを寄せているアゾートの危機に、思わず木陰から飛び出しました。
「ぼ……暴力反対だけど、仕方がない!」
 そして、翼の剣を装備しました。その途端、温和だったその目つきがみるみる変わっていきます。
「死ね! カス共!」
 ソルランは、雄叫びを上げるとナイトメア達に向かって突っ込んでいきました。
「アゾートさんを、離せ! 爆炎波!」
 剣の先から爆炎がほとばしり、ナイトメアの体を焼き尽くします。
「うわ〜ん! 熱いよ〜」
 ナイトメアは泣きながら、アゾートの手を離しました。
「あ……ありがとう。ソルランさん……」
 アゾートが礼をいいました。その言葉にソルランの好戦モードはヒートアップします。
「オラオラ、他に相手になる奴は、誰だー?」
 その迫力にナイトメア達も引いているようです。

「ちょっ……ソルっち! 小さい子達相手にやりすぎだよ」

 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がソルランの前に舞い降りてきていいました。
「暴力反対! それより、みんな。お姉さんと一緒に遊ぼう!」
「遊ぶ?」
 その言葉に手下達の変化を解いて目を輝かせます。
「何々?」
「どんな遊び?」
「それはね、セクシー鬼との鬼ごっこよ!」
「セクシーな鬼?」
「セクシーな鬼って、おっぱいドーンな鬼の事でしょ?」
「子供のくせに……エロいわね……でも、そのとおりよ」
「いいなあ!」
「どこにいるの?」
「それはね、……うふふ、目の前よ!」
 ミーナは答えると、変身の実を使ってどろんと変身します。
 現れたのは、何かのマンガを彷彿とさせる、トラビキニの鬼娘。鬼娘に化けたミーナは、ポーズをとって色っぽく言いました。
「さあ、まずは『ウチがオニだっちゃ!』」
 すると、子供達が口々にいいました。
「おねえちゃん、おっぱいないー」
「全然ないー」
「うふふ☆からかわれたって、全然ヘッチャラよ!」
 ミーナは大人の余裕を見せました。
「小さすぎる!」
「ホント……がっかりだなあ……」
「ふ……ふふふ。平気、平気」
 まだまだ、余裕です。
「ホントに小さい」
「全然セクシーじゃないー」
 その途端に、ミーナの頭の中で何かがぷつんと切れる音がしました。我慢の糸が切れた音のようです。
「ふ……ふはははははは!! 君達は怒らせてはいけない人を怒らせたんだよ。まて〜〜!!」
「うわーーー!」
 子供達が散り散りになって逃げていきます。その後ろをミーナが本気で追いかけていきます。まさに、リアル鬼ごっこです。
「待ちなさーい! 捕まえた子は問答無用でほっぺすりすりの刑よ!」


「まったく、何をやっているんですかね」
 遠くからこの惨状を見てラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が肩をすくめました。その横には猫耳の相棒がやる気無さげに座っています。獣人のクロ・ト・シロ(くろと・しろ)です。
「夢の国ねぇ……オレがいた所とは随分毛色が変わってんなぁw」
 クロ・ト・シロはつぶやきました。彼は、元夢の世界の住人なのです。
「まぁいっか。どりあえず、カバディしようぜ!ww」
「はあ?」
 ラムズはいきなりとんだ話についていけず、クロ・ト・シロを眺めました。
「カバディだよ、カヴバディ。めずらしい遊びったら、他にないだろう?  だが、その前に、子供が大好きなマッチョになろうぜwww」

広場では、相変わらず子供達がミーナと一緒に鬼ごっこをして走り回っています。そこへ、天より二人のマッチョが舞い降りました。その正体はラムズ・シュリュズベリィと、クロ・ト・シロです。
「うわー! マッチョだ、マッチョだー!」
 喜ぶ子供達に向かい、二人は口々に言いました。

「我はカバディの神……カバディ!!」

「我はカバディの神……カバディ!!」

「カバディ? なんだ? それ?」
 尋ねる子供達に向かって、ラムズが説明しました。
「カバディとは、この世でもっともめずらしいと言われるゲームである。そのルールは、

1 攻守チームに分かれ、攻撃側からは「レイダー」を一人選んで守備側チームのコートに入る。
2 守備側コートには七人の「アンティ」が待機している。
3 レイダーが「カバディ、カバディ」と連呼しながら守備側のアンティにタッチして、素早く自分のコートに戻って来れれば、タッチした人数分の点数が入る。
4 アンティは点数が入るのを阻止するために、レイダーの四肢・胴体を捕まえたりして、レイダーが自陣に戻るのを防げば、守備側に一点が入る。
5 レイダーが点数を得たら攻守交替し、試合を続行する。
 ……以上だ」

「おもしろそう!」
「やろうぜ、やろうぜ!」
 子供たちが目を輝かせて叫びます。
 それで、さっそく二つのチームに分かれて、カバディが始まりました。

 赤組のレイダーはカバディの神(ラムズ・シュリュズベリィ)、白組みのレイダーもカバディの神(クロ・ト・シロ)です。

 まずは、白組みの攻撃です。

 カバディの神(クロ・ト・シロ)は守備側チームのコートに入って叫びました。

「カバディカバディ!!」
「カバディカバディ!!」
「カバディ?」
「カバディ!」
「カバディ!!」

「わー!!」
「捕まえろー!」
 子供達が飛びかかっていきます。しかし、カバディの神(クロ・ト・シロ)には指一本たりとも触れられません。
 次に、赤組の攻撃になりました。

 カバディの神(ラムズ・シュリュズベリィ)は守備側チームのコートに入って叫びました。

「カバディカバディ!!」
「カバディカバディ!!」

「わー!!」
「捕まえろー!」

 子供達がカバディの神(ラムズ・シュリュズベリィ)に飛びかかってきます。
「うわー!」
 ラムズは子供達に四方から飛びつかれて悲鳴を上げます。

 再び攻守が変わって白組みの攻撃!

「カバディカバディ!!」
「カバディカバディ!!」
「カバディ?」
「カバディ!」
「カバディ!!」

 クロ・ト・シロは巧みに攻撃をかわします。ムキになった子供達は必死に捕まえようと追いかけ回します。あまりにも必死になりすぎて、変化する者も出てきます。
 見境のなくなった子供達は、自分のコートにいる、もう1人のカバディの神にも襲いかかっていきました。どちらも、似たようなマッチョで、見分けがつかなかったからです。
「うわ! なんで、こっちに来るんですか!?」
 ラムズは悲鳴を上げて逃げ回りました。