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リアクション
私の最高の友達
破砕したコンクリートの亀裂から、カノンが飛び出した。破砕時に耳をそばだてていたヴィクが衝撃に巻き込まれたのは不幸としか言いようがない。
続いて、優梨子がゆっくりと出てくる。その片手に【ヴァジュラ】を弄んでいた。
「あらあら、逃げられちゃいました。《カタクリズム》で壁を壊すなんて大胆。あと少しであなたの干し首が出来上がりましたのに――」
残念そうに、嬉しそうに言う優梨子に、カノンも狂喜に呵った。
「あはっ! 残念だけど、あたしの首をあなたになんて差し上げられないわ。代わりにあたしがあなたの首を切り落として、天沼矛の頂上に飾ってあげる!」
赤褐色に錆びた鉈取り出し、カノンが構えた。
「ふふ、カノンさんもいい趣味ですわ。流石は私の最高の友達です。でもそうなるのは私とあなた。どっちでしょう?」
カノンの大振りを避け、優梨子が【香水】を地面に落とし割る。続けて【煙幕ファンデーション】でカノンの視界を遮った。風向きはいい方向。煙幕がカノンの姿を覆った。
カノンは辺りに立ち込める煙幕と、【香水】放つ強烈な薔薇の匂いに顔を顰めた。優梨子の姿見えない。
優梨子もカノンの姿を捉えられないが、《殺気看破》があるので問題ない。煙幕の中、【魔女のフラスコ】と《しびれ粉》を散布。風向きはカノンへと流れ、自身には影響ない。
白い視界の中。カノンは優梨子の位置を探る。しかし、自身の体の変調に気づいた時には遅かった。体の感覚が麻痺していた。筋肉が弛緩して動かない。
「ふふ、《しびれ粉》が効いてきたころでしょうか? 斬首してあげましょうか? 何、痛覚も麻痺しているはずですから痛くないですよー」
医者が子供に注射をする時のような口ぶりで、優梨子は【ヴァジュラ】を振りかざした。刀身がカノンの首に喰い込み、ガツンと音を立てた。
「あららぁ?」
カノンの頸骨に刃が引っかかったのかと思ったが、そうではなかった。奏音の【サイコシールド】優梨子の【ヴァジュラ】を止めていた。優梨子は斬首を失敗したことに残念そうな顔をした。
「……私以外に倒される何て、認めませんよカノン」
カタクリズムで麻痺煙幕を吹き飛ばす。
「あら、誰かと思えばカノンさんのスペアですか……。ああでも、カノンさんと一緒に干し首にして、髪を結んで【さくらんぼ】にするのもいいですね? そうしましょう」
「そういったスプラッターシーンは困ります。優梨子さん」
火村 加夜(ひむら・かや)が《迷彩塗装》で隠れているのを解き、《ミラージュ》による幻影と同時の《真空波》で多角的に背後攻撃を仕掛けた。本物の加夜と攻撃は一組。
トイレ以外は完全にカノンの真後ろを付けていた加夜だが、彼女の背中を守ると決めていた手前、優梨子の襲撃を見抜けなかった自分を心で叱咤した。それに報復するための攻撃でもある。
《殺気看破》により攻撃を特定、優梨子が躱す。「まだです!」と立て続けに加夜の《ヒプノシス》が襲う。眠気が優梨子の気力を削りとるが、《肉体の完成》で耐える。《吸精幻夢》で加夜の生命力を奪おうとするも、マクフェイルが《エンデュア》で自らを盾にして防いだ。が、防ぎきれずに膝を着く。
頭上よりエヴァルトの《神速》蹴りが降ってくる。高高度落下の衝撃がタイルを砕く。
「ち……! 外したか」
「そんな大攻撃をしたなら隙が大きいですわ」
着地の衝撃を吸収できない内のエヴァルトを【ヴァジュラ】が薙ごうとする。
と、イグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)がエヴァルトの眼前に現れた。
「エヴァルト……君が……。そうか、……確かに……間違いないようだ……」
イグナイターが《鋼鉄の鎧》で優梨子の薙を受ける。しかし、《鋼鉄の鎧》は上手く発動しなかった。攻撃を受けきれずに吹き飛ぶ。
「無茶をしやがって――!」
「ふふ。今日は干し首候補が沢山でてきてくれますね。みんな一緒に、殺してバラして並べて揃えて晒してあげましょう」
優梨子が愉しそうに哂う。自分一人にこんな大勢の人が首を刈られに来ていると思うとゾクゾクした。
「そこまでにしとけよあんた――、それ以上あんたの首が晒しモノだぜ」
黒須 ケイ(くろす・けい)の【ヴァジュラ】が喉元に――、
「その前に、頭がぶっとぶですぅ」
宗家橘 麻美(そうけたちばな・あさみ)の【孤独のカーマイン】が右側頭部に――、
「動かないでくださいよ。優梨子さん――」
天司 御空(あまつかさ・みそら)の【灼光のカーマイン(曙光銃エルドリッジ)】が左側頭部に付きつけられていた。
優梨子は下手に動けなくなった。御空に【手錠】を掛けられ、生け捕りにされてしまった。
カノンの麻痺はクラウディア・ウスキアス(くらうでぃあ・うすきあす)が《獣医の心》で直した。
「断っておくが、俺にとってお前は奏音の天敵に過ぎん。これ以上の手助はしない」
「ツンデレね。私のヤンデレに対抗してるのかな?」
手当のお礼は言わずにカノンが挑発する。
「でも、白滝さんがカノンちゃんを助けるなんて思わなかったよ。なんで襲われるってわかったの?」
和葉は奏音がカノンを襲撃すると思って冷や冷やしていた。
「いつものようにカノンを追跡していたら、私と同じように変装して追跡している人がいたから怪しいと思ったのよ」
彼女もまたストーキングしていたのだった。自慢にならない。
「あれ? みなさん。私を捕まえて、どうする気なのでしょうか? 殺していただけるのでしょうか?」
と、手錠を掛けられて動きを封止されている優梨子が不安気に答える。カノンを殺せないなら、自分を殺してくれと切望する。
「自分の意思で死ねるなんて思わないで下さい。“強化人間狩り”さん」
御空がそう牽制した。ここで自殺されても困る。
「まあでも、“強化人間狩り”の犯人を生け捕りにできたことだし。ブラウに報告して、生け捕りの報酬をゲットだぜ!」
「ちょっとケイさん……、学校の為にやったことですしぃ……」
犯人を捕まえたことによる報酬を得ようとするケイを麻美が恐る恐る止めようとする。
「えーっと? “強化人間狩り”ってなんのことでしょう?」
優梨子の不思議そうな顔をする。ケイと麻美たちは沈黙する。
「え? あんたカノンを狙う犯人じゃないの? それなら、誰かに頼まれて襲ったとか……」
ケイはてっきり優梨子が“強化人間狩り”の犯人ではないかと思っていた。
「私はカノンさんと親睦を深めたかっただけですわ。まさかこんなにもカノンさんの周りにいるとは思いもよりませんでしたけど。ふふ、そうですか。私は勘違いで囚えられているのですか」
殺し合いが親睦の深め方とは倫理的に大丈夫かと思われる。“強化人間狩り”の犯人ではなくても優梨子は危険だ。拘束しておいたほうがいいだろうと、皆思う。いや、排除して置いたほうがいいかと考える者もいる。
「ここであなたを放っておいても、またカノンを襲うよね? なら僕がいっそ――」
円が、親指に《光条兵器》のコインを乗せる。優梨子を殺ろうとする。しかし――、
「このまま殺されるのが不本意に思えてきましたわ――。カノンさん、また今度殺しあいましょう。今度はどちらかが首を落とすまで――」
残った【弾幕ファンデーション】を懐から落として、視界を白く染める。煙幕の中優梨子は自分の親指を脱臼させ、【手錠】を無理矢理外す。【黒檀の砂時計】で自らを加速させて、《光学迷彩》でその場から逃げた。
「なんて事……、あんな危険人物。警察とかに渡せば金一封くらい貰えたかもしれねーのに!」
逃がした獲物の皮算用にケイが嘆いた。
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