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サルヴィン地下水路の冒険!

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サルヴィン地下水路の冒険!

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 グラキエス・エンドロアの足取りは重く、ぎこちない。彼を狙って魔獣たちが傍らの水路を泳ぎ回っている。いつでも飛び出し、彼に飛びかかることができるだろう。気を抜けば首元にがぶり、は間違いない。かといって、逃げ出すわけにはいかない。アウレウスが助けを呼びに走っているのだ。
「出し渋っている場合じゃないか……」
 大きく息を吐く。壁を背にして、息を整えた。
「ぐ……おっ!」
 自らの魔力を体の中にめぐらせる。首筋に浮かぶ炎の印が赤く輝いた。
 動きが止まったその機に乗じ、魔獣が自ら跳び上がる。グラキエスの体に向けて飛びかかる鮫の眼前、空間が歪み、新たな姿が現れた。
「ようやく呼んでくれましたね。いやあ、良い姿です」
 血まみれのグラキエスを見下ろすエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が、掲げた腕から念力が放たれ、飛来する鮫の軌道をねじ曲げる。鮫は壁に鼻先をしたたかに打ち、身もだえしながら水の中へにが出して言った。
「できれば、この手は使いたくなかったんだがな……」
 グラキエスの体からはとめどなく血が流れている。すでに表情は青い。
「ようやく、貴方が死ぬところを見れるかと思いましたが、なかなかしぶとい人ですね」
 くくくとエルデネストの喉が鳴る。
「この状況を、なんとかできるか?」
「私が? 水の中で鮫に勝てるわけがないでしょう。だいたい、下水だった場所に飛び込むなんて考えたくもない」
「そうだろうな」
「ですが、助けに来たのはわたしだけではないようですよ。まったく、悪魔にも悪運にも好かれる人だ」
 エルデネストが水路の奥を示す。ざば、と水音がたち、パラミタイルカに乗ったレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、近づいてくる。鮫の気配が変わったのが肌で感じられた。
「まだ息はあるか?」
「なんとか、な」
「よし、ここは引き受けよう」
 グラキエスの返事を聞き、レンが銃を自然な動作で自分の下半身に向ける。たん、と小さな銃声とともに、自分の腿を撃ち抜いた。
「さあ、こっちだ。近づいて来い!」
 貫通した弾痕から血がにじむ。それを嗅ぎつけた鮫は、水中からおいそれと手出しできないグラキエスから、レンへと標的を変える。
「人間の戦い方を見せてやる……!」
 イルカを操り、壁際まで引き下がる。魔獣がレンの後を追い、うち一匹が一気に飛び出してくる。
「食らえッ!」
 レンの周囲で気流が乱れる。水の中を乱暴にかき乱した風邪は中心のない渦を形作り、彼の乗るイルカと魔獣を別々の方向に向けて押し流す。すんでのところでレンは攻撃をかわし、鮫は壁に鼻先をしたたかに打ち付けた。
 手にした水中銃から細い弾丸が放たれる。その弾丸に込めた冷気が氷を生み、魔獣の肌ごと凍り付かせる。
 無論、鮫は体を激しく揺すって氷から逃れようとする。大した量ではない、いずれ逃れられるだろう。が。
「その時間で十分だ」
 レンの呟き。素早く、だが正確に鮫の頭蓋へ水中銃の弾丸が突き刺さった。
「さあ、かかってこい!」
 サングラスを直すレン。さすがの脅威に、魔獣も距離を取って畏怖を露わにしている。
「あなたの言うとおり、相当悪運が強いつよいようだな」
「私としては、もっと苦しむところを見ていたかったのですがね」
 自嘲と頼もしさの混じった呟きを漏らすグラキエスに、エルデネストが答える。その耳は、近づいてくる足音を捕らえていた。
「グラキエス! 無事か!」
 方向に似た声をあげて、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が駆け込んでくる。その背後には、無論アウレウス・アルゲンテウスの姿もある。
「水路を飛び越え、ゴルガイスが二人に駆け寄る。グラキエスの傷を確かめる。
「出血以外は、大した事はないようだな……。だが、すぐに手当が必要だ」
「早かったじゃないか。出るのはともかく、ここまで戻るのは大変だったと思うが」
「潜入した契約者達が、HCを使って水路の地図を作っていてくれました。それに……彼女が案内してくれました」
 アウレウスが背後を示す。
「困っていたみたいだから……力を貸しただけよ」
 東 朱鷺(あずま・とき)が、ふっと視線を下げて答える。
「おい、無事が確認できたなら、少しは手伝ってくれないか?」
 イルカに乗って鮫を引きつけるレンが言う。
「少し待っていてくれ。片付けたら、すぐに安全な場所まで運ぶ」
 かぎ爪を振るわせ、ゴルガイスが告げる。そして、付け加えるように、
「……すまなかった」
 と、告げた。