天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション公開中!

乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

「あーつーいっ! もう! なんだってこんなに暑いのよ!」
 美羽、ベアトリーチェ、衿栖、レキとカムイのいる場所から蒼空学園を挟んで反対側。
とある用事を済ませようと蒼空学園に向かう御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、汗だくになりながら歩いていた。
「それはセルファ、貴女だけじゃないですよ……俺だって充分に暑い」
「……知ってるわよ。でもこんなに暑かったら言いたくもなるじゃない!」
「“暑い暑い”と言ってたら余計に暑く感じますよ。もっとこう、ほら。別の事を考えるとか」
「例えば何よ……」
 むすくれた顔でセルファが言い返し、返答に困る真人。が、何かをひらめいたのか、彼は人差し指を立てて隣を歩く彼女に提案した。
「例えばこうです。今晩、セルファが家に帰ったら――」
「帰ったら、何さ」
「本当ならば誰もいない部屋に――」
「……へ、部屋に……?」
「電気が灯っていて、そしてそこには――」
「!!!!!!!!!」
「ウォウル先輩がいるっていうのは、どうで――」
「キモい! いやぁぁぁぁ! 絶対無理!  無理無理無理無理! 考えただけで鳥肌物よ!」
 突然の大声に、人差し指を立てたままに固まる真人。勿論、彼はセルファによって言葉をかき消され、更には真横で大声を上げられ、硬直を余儀なくされる。
その数秒後、漸く体に自由が戻ってきた彼は、遅いとわかっていても立てていた指を耳へと差し込む。それほどに吃驚したらしい。
「セルファ! いきなり大声を出さないでくださいよ!」
「違うもん! だって今のは真人がいけないんだもん! 私が苦手な物トップ2を平然と言うあなたが悪いのよ! もう!」
 言い終るや、彼女は肩を落とした。
「確かに涼しくなるわ。って言うか、涼しいとか暑いとかって問題じゃなくて鳥肌が凄いって……今度からそれはなしね」
 指での簡易耳栓を外し、苦笑ながらに真人は「はいはい」と呟いた。
「って、やっぱりそうでしたね」
 そこで二人に声がかかる。声の方を向いた二人は、見知った顔に挨拶をする。
「あら、あなたたち。珍しいじゃない」
「こんにちは。お二人とも」
 二人の言葉の先、その対象は清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)
北都はにこにこ笑いながら二人に近付いてくる。
「突然大きな声が聞こえてねぇ、どっかで聞いた事があるなぁ、なんて思ってリオンと話してたのさ」
「それで、まぁ声からしてセルファさん辺りかな? と言う私の見立てが見事に的中したわけなんです」
 穏やかな笑顔の二人とは対照的に、少し恥ずかしそうな表情を浮かべる真人とセルファ。が、それは特に北都、リオンにしてみればなんて事はない事らしく、すぐさま話題を切り替えた。
「ところでお二人とも、此処で何をしていらしたのです?」
「だよねぇ、二人とも蒼空学園の生徒じゃない訳だし――……」
「俺たちは今日、ちょっとこっちに用事がありましてね。今から蒼空学園に向かうところだったんですよ。それを言うならお二人こそ」
「そうよね、二人も学園の生徒じゃないし……」
「私たちはお散歩、ですよ。ね? 北都」
「うん。今日も相変わらず天気が良いしねぇ」
 確かに、とでも肯定する様にして、四人は空を仰いだ。雲が疎らにはあるが、何とも綺麗な空の色が、視界一面に広がっている。
「えっと……みんなで何してるのかなっ!?」
 いきなりの声に、思わず視線を今までの場所に向ける四人。と、四人のちょうど真ん中に一人、少女が立っている。堂島 結(どうじま・ゆい)
四人の真似をしたまま空を仰ぐ彼女の姿を捉えた四人は、驚きながらも声を掛けた。
「結ちゃんっ!?」
「やっほー!」
「な、何してるのよあなた……」
「何って? みんながこうやってたから、何か見えるのかなぁって。でも何にも見えないよ? おっかしいなぁ……私まだ目は悪くなってないとも思うんだけど」
 四人は苦笑しながらに結に言った。それこそ代わる代わる、今までの話の経路を説明する。
「なぁんだっ! 天気が良いねって話だったんだね! うんうん、今日も天気良いよねぇ」
「ま、暑いんだけど」
「それは言わない約束でしょう? セルファ」
「………」
 再びむすくれた顔をするセルファは、はっと思い出して結へと向いた。
「そう言えば結ちゃん、今帰り?」
「うん、今日はちょっとね。色々あったの」
「そうだったんだぁ、それにしても、最近僕たちよく会うよねぇ」
 顔を見渡しながら北都が呟くと、リオンが笑顔のままに返事を返した。
「もうお友達なんですから、それは不自然な事ではないと思いますよ」
「だよね! みんな仲良しっ! だもんね!」
「そうだぁ、今度さ、みんなでどっか行かない? ピクニックとかさ」
「良いですね、最近何だかんだでゴタゴタしてましたし。のんびりするのも悪くない」
 うんうん、と、満面の笑顔で真人が頷き、結は「ピクニックピクニック!」とはしゃぐ。
セルファもそれには賛成らしく、「行くとしたらどこが良いかしら……」と、真剣に悩みながら呟いていた。
「この五人で行くのですか?」
 リオンが何処か、何か含みのある言葉を発した。四人はその言葉で暫く考える。
「雅羅ちゃんとか愛美ちゃんとか呼んでも面白そうだよね」
「ウォウル先輩とか、どうですかね」
 真人が何処か、悪戯っぽくそんな事を言うとセルファが声を荒げた。そして懸命にウォウルの話から引き離そうとしていたセルファが不意に、そこで言葉を止める。
「――……ねぇ、あれってさ」
 一同がセルファの指差す方へと顔を向けると、通りの向こう――声は届かない程の距離に、雅羅とラナロック、そして数人の姿を見つける。
「……雅羅さんにラナロックさん。どうしたんですかね」
 真人が首を傾げた。
「また何か問題事でも起こってるんじゃないのぉ?」
 のんびりと、特に何と言った様子もなく北都が呟く。
「それにしても、あの方たちは常に賑やかでいいですね。と、言う事は、その辺りにウォウルさんもいるって事でしょうか。雅羅さんならまだしも、ラナロックさんがいるとなると――……」
 微かに風の流れがあったからだろう、一同がふと、セルファの方へと顔を戻す。が、そこに彼女の姿はない。彼女は近くの電柱にその身を隠し、辺りを執拗に伺っている。
「…………」
「な、何もそこまで毛嫌いしなくてもいいじゃん。セルファさん……」
 結が苦笑を浮かべながらに言うと、三人が笑った。が、暫く向こう側を歩く一行に目をやっていた北都が首を傾げた。
「あれ……でもウォウルさん、いないよ?」
「え?」
 この言葉には彼等も少しではあるが、驚いたらしい。
「しかもなんか――此処からじゃ細かい事はわからないけど、ラナロックさんの様子、おかしいと思うんだよね。なんかこう――殺気立ってるっていうか、なんていうか」
 北都の言葉を聞いた四人が思わず更に不思議そうな顔をし、首を傾げる。
「ねぇ、なんか……結構困った事とかあったんじゃないの?」
 セルファが電柱から出てくると、そんな事を言った。どうやら彼女としても、それなりには心配らしい。
「行ってみて、損はないんじゃないですか?」
 思わずリオンも真顔のままに一同へ提案する。
「確かに。事が大事だったら人数要りようだろうし、ちょっと行ってみましょう」
「だね、あの先輩の近くいると、面白いし」
 笑顔を浮かべる結ではあるが、ラナロックを知っている五人だからこそ、その様子がおかしいとなれば心配になるのだろう。だからセルファも、その提案を推した。
「何があるか、まだわからないからねぇ。一応少し離れたところから様子、見ててみようよ」
 北都の言葉に頷くと、彼等もラナロックと雅羅の後を追う事にする。