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リアクション
◆
孝高たちの提案により、もう一度ウォウルの部屋へと戻ってきた一同は、しかし此処で大きな障害にさいなまれる事となる。
「嫌よ、離しなさいな。今度はちゃんとその額に誰もが惚れる様なイカした穴をあけてあげるから」
ラナロックが――ゴネていた。
「まぁ落ち着こうってば…ラナロックさん」
「落ち着いていられるか? ウォウルさんを助けるまでは誰が落ち着けるものかっ!」
託の言葉に牙を剥き出し、今にも暴れそうな彼女はしかし、アキュートと孝高によって両側から腕を抑え込まれている為、足をバタつかせて声を荒げる。
「せ、先輩! ご近所さんの目が痛いですって……」
「柚、突っ込みはそこじゃないと思うけど」
「天禰、何とかこの人を部屋の中に放り込む良い方法はなかろうか」
「えっ!? 我……?」
「ラナロックさんの好きなもので……その、釣ってみる、とかはどうでしょう……?」
「夜舞……誰も聞いてないよ……?」
「うぅ……」
そのやり取りの最中である、四人が一行に近付いてくる。
「おーい、何の騒ぎだ?」
その声に振り返った一同。そこには健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)、熱海 緋葉(あたみ・あけば)、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)、紅守 友見(くれす・ともみ)の姿があった。ラナロックの大声やら、わいわいやっているのを聞いた彼等が一同の様子を見に来た様である。
「ってちょっとちょっと! あんたたち何してんのよ! その女の人を強引にどこに連れてこうってのよ!」
緋葉が指を指し、ラナロックの両腕をホールドしている二人に向かって叫んだ。が、アキュートと孝高の二人はその言葉を聞くや、ため息をつく。
「なぁ、嬢ちゃん。だったらこのねーちゃんの腕を離しても良いのかい? それはとんでもねぇ行為だし、それを嬢ちゃんたちだけで止めるってのは、些か難しい話だと思うぜ。少なくとも、俺ならそんな危ねぇ事はごめんだが」
「……は? 何を言って――」
「兎に角、良いのか? この腕を離して。離したら俺たちは逃げるぞ。生憎と虎の折の中に一緒に籠城するつもりはないからな」
「……え?」
アキュートと孝高の言葉を聞いた緋葉が思わず固まる。自分が言った言葉のどこに間違えがあったのか、懸命に考えながら。
「どうやら事情がありそうですわね」
「の、様です」
「よし、そのまま話を聞かせてくれないか。それでいいだろ? 緋葉」
「………何だかわかんないけど、良いわ」
セレア、友見、勇刃の言葉に俯きながら、緋葉は不承不承、と言った具合に返事を返す。
「此処に居る雅羅を含めて、我たちもね、現場は目撃していないんだけど……この女性(ヒト)のパートナーのウォウルって人が、今日誰かに誘拐されたそうだよ」
まず、と、薫が言葉を始めた。
「それで、ラナロック先輩が怒っちゃって、皆で先輩の暴走を止めながら犯人を捜し出そうって話に、なったんです。ですよね? 三月ちゃん」
「うん。そういう事」
柚と三月がそう呟くと、申し訳なさそうに夜舞が三月の返事に続く。
「そ、それで……その、一旦ウォウル先輩の部屋に行って、犯人の足取りを掴もう――」
「それで、皆はこれからどこに行こうとしているんだ?」
「うぅ………」
「ドンマイだよ、夜舞」
「そんなに落ち込まないで」
ざっくりとスルーされた夜舞に、樹と雅羅が苦笑ながらに彼女を励ます。そのまま斎が夜舞の言った言葉を再度述べた。
「連れ去られた先輩……ウォウルって先輩の部屋にみんなでこれから向かうところ。何か犯人の足取りが掴めるかもしれないでしょ」
「それもそうですわね」
セレアが成程、と言った具合に返事を返し、顎に手を当てる。
「で、そのウォウルさんって先輩の家は? 此処から遠いの?」
緋葉が尋ねた時、雅羅たちはそのまま全員、すぐそこにあるアパートへと目をやる。
「あぁ……此処なんですねぇ…」
笑顔を硬直させながら友見が呟く。
「ならばさっそく入るとしよう」
勇刃の言葉に、今度は全員ラナロックの方を見やる。今もなお唸っているラナロックを見やる。
「……成程な」
言うや、勇刃はラナロックに近付いて、真剣な面持ちで彼女に声を掛け始めた。
「ラナロック先輩、でしたね。貴女の気持ちはよくわかる! 早く犯人を見つけたい! それはわかる。ならば此処で暴れるではなく、みんなで効率よく犯人を捜した方がいいと、俺は思った。先輩はどう、思いますか?」
「…………」
いきり立っていたラナロックがしかし、彼の顔を見て暫くすると、ふっと瞳を閉じる。
「……確かに、そうですわね」
アキュートと孝高が持っていた彼女の腕の力が抜け、思わず二人がその手を離した。ラナロックはその足をウォウルの部屋がある方へと向ける。
「こちらですわ、皆様」
唖然とする一同。勇刃、緋葉、セレア、友見はさておき、四人以外の全員がラナロックの豹変ぶりに唖然とするのも、無理はない話だ。だからこそ、なのだろう。
託は小さく呟いた。
「彼――ビーストマスターとかってクラスがあったらぴったりかもねぇ……あはは……はぁ」
誰に聞こえるでもないその呟きが虚空に消え、一行はラナロックの後を追ってアパートへ向かう。最後尾に位置していた雅羅も例外なく足を進めようとした途端、何者かに呼び止められる。
「雅羅ちゃん――」
「え?」
突然自分の名前を呼ばれ首を傾げる彼女の後ろには綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の姿があった。どうやら彼女たち、今までのやり取りを見ていたのは、神妙な面持ちのままに立っている。
「なんか大変な出来事に巻き込まれたんでしょ?」
「さゆみにアデリーヌ……話、聞いてた?」
「ええ、最後の方だけでしたが……あの先輩のパートナーが連れ去れらた、と。そして貴女方がその助けを行う、と」
「うん……」
心配そうな面持ちで、しかし何処か決意を固めた様な表情で持って二人は一歩前に出る。
「私たち、何か力になれる事、ないかな」
「力不足かもしれませんが、同じ学校の貴女方が困っているのであれば、出来ればご助力したいのです」
「……ありがとう」
二人の申し出に雅羅の表情が明るくなる。
「さ、二人も中に行こう。これから少し状況を整理したいから話し合うのよ」
雅羅に連れられ、二人もウォウルの部屋へと向かうのだ。
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