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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 セルシウスが回想をしている間に、久と祥子の頼んだメニューがテーブルを続々と埋めていった。
 串揚げ、餃子、半熟卵のシーザーサラダ、エスカルゴ、唐揚げ、ほっけの塩焼き……。
 和洋中入り乱れた料理を見て、セルシウスが溜息を漏らす。
「エリュシオンでは、これだけの種類を一気に注文できる店はないな」
「あ、因みに私がさっきから頼んでるのは地球の……というか日本の居酒屋にあるメニューがメインね。異国の食材で食べる地球の料理もオツなものよね」
 唐揚げにレモンをかけながら祥子が言う傍では久がシーザーサラダを手際よく混ぜている。
「地球か……」
「見聞を広めるためにも、日本に行ってみたら? 案外面白いと思うわよ?」
 祥子が先ほど運ばれてきた茹でたての枝豆を一つ摘み、空になったビールジョッキを見て、また注文機へとそのよく通る声を発するのであった。


 久と祥子と会食を楽しんでいたセルシウスが、手洗いに席を立った時、彼にまた声をかける人物がいた。
「おや? お久しぶりですね」
 セルシウスが振り返ると、共にウェスタンの保安官風の衣装に身を包んだ相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)が並んで立っていた。
「貴公達は……確かコンビニにもいた……」
「ええ、やはり今回も店内の警備をしております」
「そうか。だが今回は大変だろう?」
「いえ、それほどは。ああ……今日は騒ぎを起こさないでくださいね。気になることがあれば説明いたしますから」
 洋の腰にあるホルスターに収まったマシンピストルを一瞥するセルシウス。視線に気づいた洋が笑う。
「ああ。これはあくまでも警告用ですよ。一応、暴れだすまではどんな人でも当店のお客ですしね」
 洋の隣にいたみとが一歩進み出てセルシウスに話しかける。
「風の噂ではどうやらエリュシオンにコンビニを開店なされたようで。今度は酒場の切り盛りを学びに来たのでしょうか?」
「フッ……私は隠してきたつもりなのだが、もうどうやらすっかり皆に知れ渡っているようだな」
「……隠しておられたんですか? ま、まぁ、エリシュオンとはまた違った酒場、どうぞご堪能ください」
「貴公は銃を持たないのか?」
「ええ、みとは保安官助手ですから。銃を使う事なんてありませんよ」
「でも、わらわも未成年がお酒を頼もうとしたら注意くらいしますわ」
「未成年が酒を……?」
「はい。当店のソフトドリンクの飲み放題ですか。我々、契約者は統計学的傾向として未成年者が契約することが多いのです。それゆえに酒類は年齢確認をした上での販売となっております。とは言え、昼間等は圧倒的に未成年のお客が多いのですけどね」
「昼? 酒場なのに、昼も営業しているのか?」
「昼間は基本的に食事、夜は酒類がメインになりますね。ここは土地柄、冒険者や発掘品を扱う商人のあつまる場所、当然、ガラが悪い、もとい血気盛んな猛者がいますし」
 そう言う洋の胸には金色に輝く小さな星のバッジが、五つ並んでいる。
 店内警備の仕事にあたる彼は、喧嘩が始まれば表でやれと諭し、それに応じなければ決闘に持ちこむというスタイルを通していた。
 決闘ではウェスタン風にクイックドローを実施する。つまり、サイコキネシスで相手の動きを鈍らせた隙に銃を早抜きし、マシンピストルで弾幕を張ってみる、というモノである。
「き……キタねぇ……」
「汚いとは言わせない。契約者の能力を使った決闘だ。みと、身ぐるみ剥いで放り出せ」
「喧嘩は駄目ですよ。さもないと……武装解除しちゃいますから」
 洋にやられて倒れこむ客に、金のロングウェーブの髪を揺らしたみとが、にっこりとほほ笑んでアシッドミストを使用する。その濃度は服、及び武装が溶ける程度に加減しておくものだ。
 そうやって武装解除をみとが行った後は別の警備員に一任するというシステムである。
 洋の胸に光る金色の星は、その迎撃数を示していた。最も、荒くれ者達の間にもこの星の数は程良い威圧感を示す良い抑止力になっていた。


 洋がセルシウスに続ける。
「チェーン店方式ですから食材はやはり補給拠点となる配送センターから輸送してもらい、ここで調理します。そうすることで、どこの系列店でも同じ味、同じ品質を出せるのです」
「ですが……コンビニもそうですが輸送能力が問題となるのが現状ですね。ここは辺境の荒野です。配送センター、もしくは輸送部隊がやられれば店は開けませんね」
 みとが軍人から見たシステムの脆弱さを説明する。
「成程な。だが、それが我が帝国の産業の脅威とも成りうるのだ」
「は? それはどういう事でしょう?」
「いや……何でもない。だが、便利さの追求は果たして幸福の追求と同意なのであろうか?」
「……非常に難しいご質問です。確かに私達軍人は、場面の収拾に効率性が求められます。場合によっては相手を殺める事もあるでしょう。ですが、それを疑っては私達の存在意義が問われます」
「情と規律は相反するモノ、と言うことか」
「ええ……」
 セルシウスは洋のつり目がちな青い瞳を見つめて苦笑する。
「貴公とは戦いたくないものだ」
「『その時』が来ない事を祈りましょう。……おっと、ですが、ここは酒場です。どうか楽しんで行って下さい」
「ああ、そのために貴公達がいるのだからな」
と、セルシウスは洋に手を振り、手洗いへと向かう。
 その姿を見送る洋に、みとが声をかける。
「あの男……ただの設計士ではないようですわね」
「はい。何があったかはわかりませんが、その昔は相当の武人である気がします。最も、今は……」
 廊下ですれ違いざまにぶつかったモヒカンに頭を下げるセルシウスを見て洋がそう述べる中、手洗いへ向かうセルシウスの後を怪しい影が追うのであった。
 音もなくセルシウスを追う影は、これから始まる波乱の息吹なのであろうか?