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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 時を同じくして、ここは森の中の別の場所。
 やはり食料調達員として森を彷徨う一行がいた。
 しかし、今やその一行の食料調達の旅は軽く終わりを迎えようとしていた……。
「ガウウウゥゥ……」
 低い唸り声をあげるのは、森に住むパラミタウルフである。
「あ、あたしの方がみすみよりすごいのよ!」
 救世主の種もみ戦隊タネモミジャーの6人に護られながら、足をガクガク震わせ、そう声高々に宣言したのは、所々にひっかき傷が見える姿のエリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)である。
「あのね……エリヌース?」
 背後の空飛ぶ箒シーニュに手足をくくり吊るされたパラミタイノシシをチラリと見た後、鬼崎 朔(きざき・さく)がちょっと声にドスを利かせて唸る。
「何? 朔? この期に及んで、覚悟決まってないの?」
「殺気看破で警戒しつつ、獲物が出てきたら戦うよ!……とは、言ってたけどさ……」
「あらあら? 朔。大丈夫よ、あなたが傷ついても、あたしが治してあげるわ」
 焦茶の長い髪をなびかせて、朔に振り向いたアテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)が微笑む。
「私は?」
「……正直、他はどうでもいいわ」
 エリヌースの問い掛けにアテフェフがプイとそっぽを向く。
「酷ッ!! 差別だわ!!」
「残念。区別よ」
 二人のやり取りを聞いていた朔の袖が引っ張られる。
「……朔さん、私はどうなるのでしょう?」
 朔の隣にいた千種みすみ(ちだね・みすみ)がプルプル震えながら、朔を見上げる。
「大丈夫! みすみは助かるよ! 私があげた禁猟区のお守り、持っているでしょ?」
「う……うん」
「それに、アテフェフもいるし……」
「あのー……誰か忘れてませんかー?」
 割りと近くで聞こえた声を無視した朔がアテフェフを見ると、彼女は朔に何かを期待する眼差しを向ける。
「(ホラ? お願いする時はどうすれば良いのかしらね?)」
 朔の頭の中に、精神感応でアテフェフの声が響く。
「(やっぱり……やらなきゃ駄目?)」
「(クスクス……あたしの力、借りたいんでしょう?)」
「(うぅ……確かにアテフェフに色々と頼んでる故に多少の事は聞くけど、ちょっと恥ずかしいよ…これ)」
「ねぇッッ、私はッッッ!?」
 エリヌースが叫ぶ。
「平気よ」
「て言うか、こうなったの、エリヌースのせいでしょうがああぁぁッ!!」
 朔が絶叫するやいなや、全方位から一斉に洪水の如く押し寄せる獣。
 その数およそ二十匹。
 朔達はパラミタウルフの群れにすっかり取り囲まれているのであった。


 遡ること、1時間前。
 ズゥンッという音と共に、倒れるパラミタイノシシ。わりとサイズが良い巨体である。
「はぁ、はぁ……見た!? みすみ!! これがあたしの力よ!」
 エリヌースがビシィッとみすみを指さして勝ち誇る。
「エリヌースさん……凄いよ! 種もみ戦隊タネモミジャーの6人を攻守完璧に操るなんて!!」
と、パチパチと拍手をする。
「どうやら、指揮能力はあたしの方が上だって認めたみたいね!!」
「え……と、そこなんだ?」
 ちょっと離れた場所で、朔がハァハァと息を整える様を、アテフェフが見ている。
「則天去私での切り刻むような剣舞……流石ね、朔?」
「バ……バレないように援護する、って、シンドイよ……でも、アテフェフがいるから、私の疲労も半減しているのかしら?」
「クスクス……頼りにされて嬉しいわ」
 今回、アテフェフには食材調達員が怪我した場合の衛生兵役として、朔がお願いして同行して貰っていた。応急手当にリカバリ、治療、そして蘇生術でどんな重体でも苗床になった奴でも生かすアテフェフのスキルが無ければ、あの不幸属性を持つみすみが食料調達員に成るのを朔は全力で止めたであろう。
「ガサリ……」
「!?」
 朔が近くの茂みが揺れた音を聞きつけ、バッと振り返る。
「獣……? いや、私は人の心、草の心で植物と会話し、周囲の情報を得ながら警戒しつつ行動しているんだ……あり得ない」
「でも、これで無事に帰れそうね。朔? 私は、まだあなたにお願いされていないからちょっと残念だけれど」
「……そうだね。パラミタイノシシの良いサイズだから、これで今日の食料調達は終わ……」
 朔の言葉がそこで、エリヌースに遮られる。
「ええぇぇーッ!? まだ、完全なる負けを認めないっていうの? みすみ!!」
「私もこのイノシシを狩るのに協力したから、負けってわけじゃ……」
「往生際が悪いわね!! なら、もう一狩り行くわよ!! ちょうど向こうの方に獣の気配を感じるわ!」
「……えっと……」
 躊躇うみすみを置いて、エリヌースが森の奥へと駆け出していく。
「あ……行っちゃった」
「みすみ!」
 朔が笑顔でみすみの肩をポンと軽く叩く。
「朔さん……」
 安心したような表情を見せるみすみ。
「帰ろう!!」
「……え?」
「もうエモノは狩ったんだし、無理をしちゃいけないよ?」
「ウギャアァァァァーーッ!!」
 森の奥から絶叫が聞こえる。
「あの……あの声って……」
 朔とアテフェフが顔を見合わせ、同時に頷き、
「猿よ」
「猿ね」

と、口を揃える。
「え……、いえ、でも……」
「みすみーッ!! 一人で戦ってたら意味ないじゃんーーッ!! きゃああぁぁ!!」
 みすみが朔とアテフェフを見る。
「頭のいい猿よ?」
と、朔がみすみに微笑む。
「言葉の喋れる霊長類ね」
と、アテフェフが遠くを見つめる。
「ぅぅ……や、やっぱり、エリヌースさんを助けなきゃッ!!」
 みすみが森の奥へ駈け出していく。
「どうするの?」
 アテフェフが見ると、朔がガックリと肩を落とし、
「やっぱり、みすみは不幸属性なんだよね」
と、溜息をついて跡を追い始めるのであった。
 その後、茂みからピョコンと飛び出し、ジィーと朔達を捉えていたレンズが引っ込む。
 不思議なことに、その茂みは、カニ歩きでゴソゴソと移動を開始していくのであった。