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リアクション
かつて、古代の人類は石を尖らせたものを木の棒にくくりつけ、それを槍と見立てて狩りをしたそうである。また、落とし穴に落として石を投げつけることで、自分よりはるかに大柄な獲物を仕留めたとも言う……。
そして、現代のシャンバラ国境地帯では、イコンによるマンモス狩りが熾烈を極めていた。
「このぉッ……いい加減、沈めェェッ!!」
パラミタマンモスとがっぷりよつの相撲の様な押し合いを、淳二と芽衣のクェイルが続けていた。
ギギギギッと、クェイルの足関節が軋む音がする。
「淳二、力押しやと無理や!! そろそろこっちが音を上げるで!!」
「じゃあ、どうしろっていうんだ? コイツの突進受けたら蒼木屋はペシャンコだぞ!」
「それより……ルーシェリアさん、はよ離れて!!」
芽衣が外部スピーカーを使って呼びかけたのは、パラミタマンモスの首に突き立てた深緑の槍にぶら下がっているルーシェリアであった。
「すいませんー。まだ、抜けないんですぅ」
「こんなことなりゃ、対イコンライフルとかビームサーベルを持ってくるべきだった」
淳二はルーシェリアを見て、愚痴をこぼす。
「淳二、来るで!!」
芽衣が叫ぶと同時に、一瞬、後退のフェイントをかけたパラミタマンモスが、その牙でクェイルのボディを突き上げる。
コクピットが揺れ、芽衣が短い悲鳴をあげる。
途端、普段は優しい淳二の顔つきが険しくなり、
「この象……調子に、乗るなぁぁ!!」
クェイルが牙を掴み、そのままパラミタマンモスの側面に回り込んで土手っ腹に蹴りを叩き込む。
「パオォォォオオオー!!」
バランスを崩し、倒れこむパラミタマンモス。
丁度、その衝撃で深緑の槍が抜けたルーシェリアが空中を舞い、淳二のクェイルが受け止める。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうですぅ」
ルーシェリアが無事なことを確認した淳二がホッと一息つく。
「淳二!! また来るで!!」
芽衣が叫ぶ。
「離れていて……」
と、クェイルがルーシェリアを下ろす。
再びクェイルと対峙するパラミタマンモス。今度は相当怒りが見えるかのようである。
「肉弾戦か……下手な脅しが通じる相手じゃないね」
「しゃあないやん。私らは警備員なんやから」
「クェイルの修理代がバイト代を上回りそうだよ……」
と、淳二が愚痴り、操縦桿を握る。
「じゃ、行こうか……芽衣?」
「付き合ったるわ」
「……ありがとう」
クェイルとパラミタマンモスが同時に相手に向けて走りだす。
「右に避けろ」
「え?」
淳二が背後から聞こえた声に咄嗟に反応し、右に機体をずらす。
クェイルの背後から一筋の光線が走り、パラミタマンモスのやや右手前をかすめていく。
「大型ビームキャノン!?……猛か!!」
クェイルの光学モニターに映しだされる闇夜を走るイコン。
和泉 猛(いずみ・たける)とルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)のネレイドである。
「ビームキャノンがズレました。でも、さっきの照明弾で戻ってきて正解でしたね、猛さん?」
コクピットのルネがそう言うと、焦げ茶のボサボサの髪で顔に傷跡のある猛が言う。
「まさか、俺達が探していたパラミタマンモスがこんなとこにいるなんてな……」
猛はコンビニの時と同様に、今回もイコン乗りの警備員として働いていた。
だが、今回の警備の理由はちょっと違う。
そう、巨獣狩りの為である。
近々、巨獣が襲撃してくるという話を聞き、知り合いの巨獣ハンター達の憩いの場として確立しつつあるこの場所を維持する為にも、今回イコンで巨獣狩りを行なうことにしていたのである。
その目的にしていた大物の巨獣の一つこそが、パラミタマンモスであった。
「でも、マンモスで良かったですね?」
ルネがクスリと笑う。
「ルネ?」
「ネレイドは遠距離から近距離とバランスの良い武装選択になってはいるものの、巨獣が空中戦主体の種だったら流石にこのイコンだと相手にしにくいなぁ……って」
「確かにな。よし、淳二のクェイルを援護するぞ、ルネ!」
「了解です。猛さんは砲撃の修正及び作戦指揮をお願いします」
ネレイドのメインパイロットであるルネに、猛が静かに頷く。
「わかった」
ルネの操るネレイドがクェイルの傍まで走り、再び大型ビームキャノンを発射する。
「機体のダメージはどうだ、淳二?」
「ああ。結構食らったけど、まだいけるよ?」
「そうか……では俺に腹案がある。乗るか?」
「面白そうだ……いいよ」
「よし……聞いたな、ルネ。例の場所までこいつを誘導する。なるたけ形を保ったまま狩りたいからな」
「はい、猛さん!」
猛が直ぐ様、コンソールを操作する。
「淳二。俺達のネレイドより身軽なおまえが囮役だ。ポイントのデータを送ったからそこまで共に走るぞ」
「了解。ただし、ヤバくなったら砲撃の援護をよろしく頼むよ?」
「わかっている」
クェイルとネレイドがそれぞれ走りだし、パラミタマンモスが追いかけていく。
残されたルーシェリアがフゥと溜息をつくも、
「あら?」
またしても蒼木屋に向かうオークやゴブリンを見つけ、仕事に戻るのであった。