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《2・助け助けられてするうちに絆は作られる》

 この迷路は、ほとんどの通路に天井がない。
 壁は鉄製だが高さはせいぜい数メートル程度なので、のぼってのぼれないこともなさそうだが。
 ヘタにそんなことをすれば、飛行機能のある赤ゴーレムから狙い撃ちにされる危険があるかもと踏んで、小鳥遊美羽、夜月鴉、御剣渚、白羽凪(黒羽和)の一行は全員フツーに通路を歩いて捜索を行なっていた。
「そこそこ歩いたけど、まだゴーレムに会わないね。不意をついて一斉に襲い掛かってくるなんてことないかな?」
「さすがに開始早々、参加者をピンチにさせる配置にはしてないだろ」
 美羽と鴉が談笑していると、

「キャアアッ!」

 T字路の左側から、甲高い悲鳴が。
「なんだかいきなりピンチらしい声が聞こえたよ!?」
「言ってる場合じゃない、行くぞ!」
 いち早く駆け出したのは鴉、次いで美羽。渚と和は、やれやれと嘆息しつつ後を追いかけていった。

 悲鳴をあげたのは、佐野和輝のパートナーのアニスだった。
 和輝たちとしても、いきなりそうハードな展開にはならないだろうと高をくくっていたのがいけなかった。
 直線状の通路の前方に、緑色のゴーレムを発見し。地球人の攻撃で倒せない相手なので、和輝が気をひいてアニスが攻撃という手はずで倒すつもりだったのだが。
「えっ!? か、和輝!」
 そこへいつの間にか通路の後ろ側から、二体のゴーレムが迫ってきたのである。
 しかもそいつらの色も緑。挟まれる形になり焦った和輝は、対応が遅れゴーレムの一体から硬い感触の拳をくらい軽く膝をついて。
 和輝がやられたのを見て先程の悲鳴をあげてしまったアニス。
「俺は大丈夫だから! 落ち着いて一体づつ倒していくんだ!」
 和輝はなんとか態勢を立て直そうと指示を出しながら防御に徹するも、平常心を失ったアニスは火術、氷術、雷術をあさっての方向へ乱発してSPを消費するばかり。彼女の繊細さが悪い方向に転がってしまった。
(どうする。逃げようにも完全に囲まれたこの状態じゃ……なっ!?)
 しかも事態の悪化は止まらない。
 和輝の視線の先にいるアニス。その更に背後に――
「アニス、逃げろ!!」
「え」
 アニスが振り返ったときには、追い討ちをかけるように現れた新たなゴーレムの拳が迫っていて。
 このときアニスの思考はスローモーションのようになった。
 避けないと、と思いながらも足がうまく動かない。反撃、と考えてもすでに無駄撃ちで魔力は少ない。なにより、相手の色はあろうことか地球人以外では倒せない紫色のゴーレム。アニスではなすすべがない。
(そんな。こんなに、あっさりやられちゃうの?)
 アニスがせめてできることは、目をつぶらずに攻撃に備えることくらいだった。
 が、
 ここでようやく事態は好転した。
 鴉によるバーストダッシュの体当たりが紫ゴーレムに直撃し、ぐらりとバランスを崩したところへ追いついてきた美羽の飛び蹴りが頭部にクリーンヒットし、一気に地面へと倒された。
 ふたりがそのまま紫ゴーレムを集中攻撃していくなか。助けられたアニスのほうは、そちらのふたりよりも新たに顔を出した渚のほうに目を奪われていた。
「渚、お姉ちゃん……?」
 アニスには、かつてとある研究所で過ごした過去があり。そのときに自分に優しくしてくれていた相手がいま目の前にいることに、驚愕するばかりで。
 渚は渚で、さきほどから叫ばれていたアニスという名前にひっかかりを感じ。実際に白髪の少女と顔を合わせ、なにか懐かしさを感じ無くしていた記憶の一部が断片的にフラッシュバックして。
(強化されるより以前、親しくしていた、あの少女が……)
「渚! なんだか知らないけど、呆けるのはあの岩人形共を壊してからにして!」
 しばしぼぅっとしてしまった渚だが和の声で我に返り、
 和輝に群がっている三体の緑ゴーレムへと、ハンドガンを片手に向かっていった。

 さきほどの通路から離れ。
 見通しのいい三叉路まで着いたところで和輝&アニスと鴉、渚、和、美羽の一行は一旦腰をおろしていた。
「はぁ、はぁ……。助かった、ありがとう」と、和輝。
「なに。気にしなくていい」と、鴉。
「それにしても、勢いで倒しちゃった二体がコピーじゃなくて良かったよね。危うくはやばやと退場になっちゃうところだったもん」と、美羽。
 先の戦闘でひとまず紫を一体、緑を一体倒して、核も破壊できたものの。
 コピーが混じっているかもしれない状況では、これ以上不用意に倒すのも危険だということで和輝たちを連れて逃げてきたのだった。おかげで、和は戦い足りなかったのか不満そうにしている。
 そしてアニスと渚はというと。
「にひひ〜っ♪ この良い匂い、やっぱり渚お姉ちゃんなんだね!」
「おいこら。そんなに私にひっつくんじゃない」
 アニスはさっきから渚に抱き着いて離そうとせず。
 渚は照れながら、どうにかほどこうするものの。アニスのことを思い出した今となっては、無理に引き剥がすこともできず。結局寄り添いあったままでいるのだった。
「ふたりは知り合いみたいだね。なんだか見てるだけで嬉しくなるくらい仲良しみたいだけど、どういう関係なのか気になるね? ねぇ?」
「さぁ。ワタシはべつに昔話に興味ないですから」
 興味津々な美羽と、興味薄な和。なんとも対極なふたりだが。
 和としても、渚の記憶がすこしでも戻ったことについては喜んでいたりする。
「それはそうと、これからどうするんだ?」
 鴉からの質問に、和輝はわずかにアニスのほうに目線を移動させて。
「情けない話だけど、このまま二人だけでの行動には限界がありそうだからな。アニスと御剣の関係も少し気になるから、俺たちをチームに加えてもらえないか?」
「たしかにこのままじゃ、あのふたりに離れろと言ってもその言語だけ耳を素通りしそうだしな」
「待て。私はべつにひっついていたいわけじゃない」
 渚の反論をよそに、アニスは早くも一緒にチーム組むことが決定のようで。
「渚お姉ちゃんといっしょにいられるの? わぁい! やったね♪」
「じゃあ決まりだね! そういえば、チーム名も決めてなかったけど。どうしよっか?」
「最優先で考えるところがそこなのかあなたは……」
 美羽もそれに同調し、和もべつに反論ナシで。
「まあこれも何かの縁だ。じゃあ、リーダーは和輝で頼むぞ」
「なに? どうして俺がリーダーに?」
 さも当然のように鴉に任命され、
 和輝は困った様子で他に適任がいないかとチームの面々に目をむけるが。
「チームを指揮するのって、意外と目立たないから嫌なんだもん」by美羽
「アニスにそんなむずかしいことできるわけないよ〜」byアニス
「俺がリーダーなんて面倒だから断固拒否する」by鴉
「私はそういうのは苦手なのだよ」by渚
「ワタシ壊すだけだもの」by和
 すぐに諦めて、しぶしぶリーダーを承諾するのだった。
「それで、結局チーム名はどうする?」
「やっぱりそこにはこだわるのか」
「まあ、そこのガキンチョが決めればいいだろ」
「え? アニスがチーム名、決めて良いの? なら【和輝と愉快な仲間たち】で♪」
「…………アニス。もう一回そのチーム名でいいのかどうか慎重に検討してみる気はないか?」
 一同がにぎやかに盛り上がるなか、渚はモニターへと近づいていって。
「主催者。聞こえているのであろう? そういうことだから、私達のチームにふたり加入だからな」
 するとモニターに、カップラーメンを食っている博士の姿が映り。
『あ、うんズズズズズ了解了解。ズズズじゃあ改めてチーム【和輝と愉快な仲間たち】としてズズズズズ認証しとくよ。じゃズズズズ』
 こうして、麺をすする音とともに新チームが正式に承認されたのだった。
「…………いやだから。もうそのチーム名で決定なのか!?」
「そんなことより、これから戦闘でどう動いていくかとか決めようぜ」
 鴉に言われ、肩を落としつつ和輝はもう一度この場にいる面々を見つめる。
 しかし今度はさっきまでに比べてかなり真剣な眼差しに変わっていて、
「全員の能力を踏まえて……前衛は夜月、小鳥遊、白羽。中衛は御剣、俺。後衛はアニスという陣形でいこうと思う」
 すこし考えた末に、的確な隊列を叩き出して。
「急造のチームでは、細かい連携は難しい。前衛は最低限の連携を取りつつも、比較的自由に戦ってくれ」
 個人のアクの強さを考慮し、あまり縛りすぎない作戦を立てていく。
「御剣は俺と、前衛のカバーを頼む」
「ああ。了解した」
「アニスは俺と【精神感応】で連携し合うぞ」
「はーいっ♪ りょーかいです、リーダー!」
 渋っていたわりにはてきぱきと指示する和輝に、場の全員が感心していた。
「よし。それじゃあ出発する!」
 こうして。チーム【和輝と愉快な仲間たち】は、行動を開始するのだった。