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カラーゴーレムゲーム

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《8・なんでもありのルールにすると、逆にゲームはつまらなくなる》

 リカイン・フェルマータは困っていた。

 その理由は隣で息を整えているリカインのパートナー、またたび 明日風(またたび・あすか)にある。
 ゲーム開始当初は一緒ではなかった筈の明日風が、なぜ今一緒にいるかというと。
 明日風はいつものように、ひとり気ままな旅をしており。その途中、珍妙なこの建物を発見し興味本位でなかへと入り込んでみれば。内部は迷路で、色々なゴーレムがうろつき生徒達と戦っている戦場で。
 それを理解して今更のように慌てても時既に遅く、どっちへ行けば出口なのかもわからぬまま大弱りでひたすら逃げ回っていると。不幸中の幸いにもリカインと遭遇したのである。

『で? せっかくフィスのほうは虹ゴーレム倒して核を3個も破壊したっていうのに。リカインはもう勝負をやめちゃうと?』
「そう言われてもしょうがないじゃない。とにかく私は明日風を連れてドロップアウトに励むことにするから。じゃあね」
『あ、ちょっとリカイン! まだ話は終わってないわよ!』
 途中、自分の成果をテレパシーで自慢してきたシルフィスティと口論になりかけたものの。
 彼女も明日風のためであれば、許してくれるだろうと期待して。リカインはモニターでチーム登録をし直し、さっさとコピーを倒してゲームから降りようとしたのだが。

 ある意味運の悪いことに、赤、青、茶、桃×2とゴーレムを5体も撃破したというのにことごとくコピーにはヒットせず。
 いつの間にか開始から2時間半も経過して、ゲームも折り返しに入ってしまっていた。
「ホントに困ったわね。もう」
「そうだねぇ。拙者のために、申し訳ないよ」
 明日風はこうべを垂れているが、じつはリカインが困っていると発言したことの真意は別にあった。
 明日風と行動を共にするにあたり、リカインは激励で彼を元気づけたのがそもそもはじまりだった。
 リカインの主な攻撃が『咆哮』だけだということも問題で。クラスが歌姫なので仕方ないとも言えるが、これがゴーレムに対して相性が悪く思ったように倒すことができなかったのだ。
 そこからは当然の流れとして「自分が頑張らないといけないなぁ」と、情に厚い明日風が立ち上がり。なにげにやるときはやる実力を持つ明日風は、上質な釣り竿と硬焼き秋刀魚や雷術などを駆使してゴーレムとのバトルに挑み。勝っていったのだ。
(勝ってくれるのはいいんだけど、すっかり明日風頼りになっちゃってるのがなんだか申し訳ないのよね……)
 何度か戦闘を避けるべく、核をゴーレム近くで壊し。コピーでないなら放置して逃げようともしたのだが。ゴーレムのほうがやる気満々で襲いかかってきて。リカインを守るべく明日風がしっかり頑張ってくれて。

 そんなこんなでそこそこ好成績を叩き出してしまい、リカインは困っているのだった。
「一刻も早く、(明日風が)怪我なんかしないうちにリタイアしないと」
「そうだねぇ。(リカインが)怪我をするのは拙者も嫌だからねぇ」
 かみ合ってないようで、何気に互いを心配しているふたり。
 そんなところへ背後から青色ゴーレムがにじりよってきて。
「「あぶない!」」
 ふたりはほぼ同時にそのことに気がつき、咆哮とアルティマ・トゥーレを振り返りざまにくらわせる。
 突然だったので、どちらもさほど狙いは定まらなかったものの。明日風のアルティマ・トゥーレがゴーレムの足を氷で縫いとめたところへ、リカインの咆哮が決まったものだからゴーレムの背筋がガゴリという妙な音を立ててひんまがった。
 おかげで青ゴーレムはまるでリンボーダンスでもしようかという体勢から立ち直れず、その隙を狙い明日風は渾身の雷術をお見舞いしてやった。
 するとその拍子にゴーレムの核が壊れ、
『アナタはコピーの核を破壊してしまいました。残念ながらゲーム終了です。手持ちの核とメガネはその場に置いて、こちらの案内に従い一旦ここから退席をお願いします……』
 ついに待ちに待ったアナウンスが流れてきた。
「やったわ! とうとうコピーを引き当てたのよ!」
「ふぅ〜長かったねぇ」
 ふたりは歓喜して、そのまま意気揚々と退場していき。
 偶然通りかかった朝霧栞と鷹村真一郎は、意味がわからず首をかしげるのだった。

 ところで。
 リカインのもうひとりのパートナー、シルフィスティことフィスはというと。
 スタート後、いきなり虹色のゴーレムを倒す快挙をしたものの。パートナーへ意気揚々と自慢してみれば、そっけなくリタイア宣言をされて。
「まったく。リカインには、なんていうか熱血性が足りないわ」
 それでもやめるつもりはなく、現在は迷彩塗装を施し強化光翼を使って空を飛んでいた。
 適当なゴーレムを見つけると、ロングハンドを使って、もしくは真空波での攻撃で基本一方的にできるよう距離をとりながら乱獲していた。
 乱獲、とは言っても。じつはここまで核を破壊したのは虹色ゴーレム二体ぶんだけで。
 ほかの色はコピーの危険もあるからか、せっかく倒しても核はほったらかしにしていたりする。ほぼ彼女の中では、目的がゲームに勝つことよりゴーレム破壊に変わっていた。
 時折、チーム【カイゼレグ】の面々とニアミスしそうになったりもしているが。そのときはうまくスルーして、取り立てたピンチもなくここまで生き残っている。
「それにしても、さすがにゴーレムの数が目に見えて少なくなったわね」
 空から確認した限り、赤、緑、紫あたりはもうほとんど見当たらなかった。
 見つかるのはやはり黒か白。たまに茶色も見かけるが、単独のシルフィスティでは倒せないので放置して。
 それから五分近く目をこらして探し回り、ようやく破壊可能な桃色を発見できた。
「さあて。それじゃあ、登場早々退場してもらうわよ!」
 フィスはロングハンドを操り、ゴーレムの脇下を掴んで思い切り持ち上げる。
 ゴーレムを倒す過程でわかったのだが、かなり楽々と持ち上げることができるほど軽量なので。それなりの高さから落とすのは単純ながら、効果的な戦法だったりする。
 ただ。それゆえわずかながら油断が生まれたのも確かだった。
 ゴーレムを地面に叩きつけようとしたとき、
 なにかがコロコロと転がってきたことに上空のフィスは気づけなかった。
『アナタはコピーの核を破壊してしまいました。残念ながらゲーム終了です。手持ちの核とメガネはその場に置いて、こちらの案内に従い一旦ここから退席をお願いします……』
 直後、鳴り響くアナウンス。
 タイミングからしてどう考えても自分だとわかり唖然とするフィス。
「ええ!? なんで? まさか倒した拍子に核も壊れちゃったとか!? 最悪だわツイてないな……」
 落ち込みながらも、渋々地面に降りて退場していくのだった。

 それを陰から眺めていた人物は、
 フィスが見えなくなってから転がった桃色の核を拾い上げ、笑みを浮かべる。
「ふふ〜。うまくいったなぁ。これで核をゲットだぜぇ〜」
 なんだか若干妙なテンションのその人物。開始当初から変わっていないそのノリ。
 実はさきほどコピーの核を意図的に転がして破壊させたのは朝霧垂だったのである。
 悪だくみが成功して上機嫌な彼は、またふらふらとどこかへ歩み始めようとしたが。
「あっ、垂! やっと見つけた!!」
「やれやれ。ようやく合流ですか」
 そこへ駆け寄ってきたのは、しばらく離れ離れだった同じチームの栞と真一郎。
「おお、ふたりとも。たっだいま〜」
「ただいまじゃないでしょう!? おまえ今までどこふらふらしてたんだよ!」
「そんなにメガネひとつを手に入れるのに、時間がかかったんですか?」
 しかし感動の再会なんてことにはならない。
 垂が勝手に単独行動をしたので当たり前だが。
「え? ああ、メガネ自体はすぐ発見できたんだけどな」
 垂の話はこうだった。
 ダッシュローラーで迷路を駆け回りながら、周囲を触ってサイコメトリを使用して痕跡を探していき。開始から30分足らずで助手と出会うことができたのだった。
 が、そこからが大変だった。
 垂が勝手に出てきたので待ち合わせ場所は当然決めていないし、ほろ酔いなのでどっちへ行けばいいのかまるで見当もつけられず。仕方なくひとりでゴーレムと戦いながら迷路を回っていたのだという。
「まったくもう。それで? 核のほうの成果はどうなんだ?」
「ん〜。いま手元にあるのは桃色のぶんが1個と〜。コピーは1……じゃなくて0だけど」
 期待薄ではあったものの、実際たいした核を所持していないことにテンションがさがる栞と真一郎。
 もっとも、ふたりとて垂を待つ間は向かってきた相手に立ち向かうばかりだったので。核はろくに手に入れられず。倒したのは茶色のゴーレム一体だけ。しかもその一体も真一郎が酔ったままだったので、同時攻撃するのに栞が相当に苦労したという苦い思い出つきだった。
「ま、過ぎたことを言ってもしょうがないし〜。ここから巻き返していこうぜ!」
「一番の問題児がそれを言うか」
「はは。まあまあ」
 かなりのスロースタートとなったが、ようやく三人は本意気でゲームをはじめるのだった。