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えすけーぷふろむすくーる!

リアクション公開中!

えすけーぷふろむすくーる!

リアクション

――教室棟3F、廊下にて。

「きゃー! いやー!」
 金元 ななな(かねもと・ななな)は逃げ惑っていた。その背後に迫るのは、夥しい数の虫だ。
「ほら、早くしないと追いつかれますよ?」
 その後ろを追うのは水橋 エリス(みずばし・えりす)。追いつこうと思えば追いつけるのに、嬲るかのようになななを追い立てる。
「はい、ここから先は通行止めー」
 そして、先回りしていたニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)が行く手を遮る。
「え、えっと逃げ道は……きょ、教室!」
 すぐ横の教室へとなななが逃げ込もうとすると、
「させませんよ」
矢が、なななの足元に刺さる。エリスの手に握られた【リカーブボウ】から放たれた物だ。
「う……ほ、他に……他に何か……!?」
 その時、なななの目に入ったのは、ニーナの手前にあるトイレだった。
「……よ、よし!」
 なななが、ニーナに向かって駆け出す。
「だからこっちは通行止めだってー!」
 ニーナがなななに手を伸ばす。
「ならそっちは行かないよ!」
その手が届く直前、軌道を変えなななはトイレに飛び込もうとする。
(よし、後は何か逃げる策を……!)

「……今です、アーシュラ」

 エリスの言葉とほぼ同時に、
「え?」
トイレから、アーシュラ・サヴェジ(あーしゅら・さう゛ぇじ)が飛び出し、なななを捕まえる。
「……しまったぁー」
 落ち込んだような声を出すなななに、エリスとニーナが歩み寄ってくる。
「これでよろしいのですか、マスター?」
「ええ、よくやりましたアーシュラ。さて、あなたは確保されました。無駄な抵抗はしない方が身のためですよ」
「そうそう、身のためだよ?」
 エリスとニーナの言葉に、「あうー……」となななの体から力が抜けた。
「さて、これからあなたにペナルティを与えるわけですが……って何をそんなに暴れてるんですか」
『ペナルティ』という単語に反応したなななは物凄い力で暴れだした。
「くっ……お、大人しくしてください!」とアーシュラが必死でなななの体を押さえ込む。
「い、いや! 虫は! 虫はいやぁぁぁ!」
「……誰も虫なんて使いませんよ」
「え? そうなの?」
「流石にそこまでは……でも丁度いいですね。アーシュラ、そのまま抑えていてください……ニーナ」
「はいはーい、私達のペナルティはこれだよー♪」
 そういうニーナの手にあるのは、白いクリームが大量に塗られたパイだった。
「……え? それってあのよくあるバラエティのお約束のアレ?」
 ななながそう言うと、ニーナが意地悪そうに笑う。
「んっふっふっふ〜、それじゃーいくよー!」
 そう言うと、ニーナは高くパイを掲げると、
「んぶっ!?」
なななの顔面めがけ、叩き付けた。
「普通のパイってシェービングクリームとか入れるらしいけど、今回は贅沢に生クリームとバタークリームを半分ずつ使用したものを使ってみました!」
 誇らしげにニーナが胸を張る。
「はい、それでは終了です。そろそろ離してあげてください」
 エリスが声をかけるが、アーシュラはなななを離そうとしない。
「……アーシュラ?」
 エリスが訝しげな声を上げる。アーシュラは、なななをじっと見ていた。正確にはなななに叩きつけられたパイを。
「……アーシュラ、どうしました?」
 エリスが肩を叩くと、はっとしたようにアーシュラが立ち上がる。
「み、見てなんかいませんよ!? このクリームがいっぱいな物が美味しそうだなんて思ってもいませんからね!?」
「アーシュラ、涎」
「はぅあっ!? こ、これはその……!?」
 ニーナに指摘され、慌ててアーシュラが口元をぬぐった。
「……終わったら何か食べさせてあげますから」
「……はい」
 ため息を吐きつつエリスが言うと、アーシェラが赤くなり俯いた。


――特別教室棟3F、倉庫前にて。
 
 特別教室棟の3階は、大半が体育館で占められている。廊下を挟んで、向かいに倉庫がある。
 その倉庫の前で探索者達が集まり、話し合っている。
「……というわけだ、いいな?」
 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が自らの作戦を語る。それは倉庫内で自らが囮になり追跡者をおびき寄せるというのだ。
「……気が進みませんね」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)が呟く。倉庫を探索する、というのでリブロと同行しているが、彼は交戦をできれば避けたいと思っていた。
「まあまあ、何か手がかりが手に入るかもしれないだろ?」
 宥める様に世 羅儀(せい・らぎ)が言う。
「ですが……」
「それに、いい物見れるかもしれないしな」
 羅儀がそう言ってリブロを見ると、白竜が仕方なさそうにため息を吐いた。恐らく、彼はリブロの肢体を見たいだけなのだろう。
「しかし、リブロ様……」
 レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)がリブロに耳打ちする。
「なんだ?」
「信じていないわけではないのですが……もし、もしも捕まえた者が脱出方法を知らなかったらどうするのですか?」
 その言葉に、リブロは笑みを浮かべた。
「その時はその時。知っている者を締め上げればいいだけだ」
「その前にちょっと中を調べていきたいんだが、いいか?」
「俺も。欲しい物もあるしな」
 クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が言った。
「ああ、構わない」
 リブロの言葉の後に、クローラとハインリヒ達が倉庫内を物色し始める。
「我々も入りますか」
「そうだな」
 白竜と羅儀も、続いた。

――倉庫内。

「……で、何を探すの?」
 ハインリヒに天津 亜衣(あまつ・あい)が聞いた。
「ああ、石灰粉とか肥料とか、粉末の物を探してくれ」
「どうするの、それ?」
「どこか別の場所で撒いて粉塵爆発を起こす。そうすりゃガラスくらい割れるだろ」
「……あるとは思えないけど、了解」
 倉庫内を見回し、亜衣が探し出す。
「俺達はこれでいいかな」
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が指差したのは、跳び箱だった。
「ああ、いいだろ。この一段目をもらっていこう」
 クローラが跳び箱の一段目を外す。
「後は縄と棒状の何かがあればいいんだが……」
 クローラが辺りを見回す。これらの道具で即席の槌を作ろうとしていた。
 その時だった。
「……クローラ、ここに俺達以外に誰か居るぞ」
「本当か?」
「ああ……しかし何処かまでは――」
「ここだよ♪」
 クローラ達の耳に、少女の声が入った。
「しまっ――!」
 気づいたときには既に遅く、縄で縛られていた。
「確保ー!」
 そして【光学迷彩】を解いた如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が現れた。
「追跡者……! ここでは狭すぎて分が悪い……一旦引きますよ!」
「了解!」
 白竜と羅儀が体育館に駆け込む。
「むぅっ!?」
「おわっ!?」
が、2人は足を引っ掛けて転倒。足元には大縄が転がっていた。
 そして、その大縄でシャルロッテ・マミルナ(しゃるろって・まみるな)シェリオ・ノクターン(しぇりお・のくたーん)が2人を巻いて動けなくしてしまう。
「はい、捕獲」
 捕獲された白竜達の前に、花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が現れる。
「……これは!」
 リブロとレノアが体育館内部に入ってくる。
「あれ、まだ居たのか。弱ったな……仕掛けは一つしかないんだがな」
 そう言いつつも、秋羽は隙無くリブロ達を見据える。
「けど、俺も大人しく逃がす気は無い」
 そう言うと、体育館の出入り口に炎が現れた。【降霊】で降ろしていた【アマリ】の炎だった。
「塞がれましたね」
「ああ」
 レノアの言葉に、リブロが頷く。
「逃げ道は断った。さて、どうする? 大人しく捕まるか、それとも……」
 秋羽が薄く笑みを浮かべる。その横に、シャルロッテとシェリオが立つ。
「ふーむ、おいしそうなやつがいないのが残念ですが……シャルちゃんの嫌いなタイプですね」
 シャルロッテがリブロ達を見て言った。
「俺は好みで嬉しいぜ?」
 シャルロッテとは対照的に、シェリオが嬉しそうに言う。
「女好きは女であればなんでもいいから困ります。女っぽければ男だろうとかまわず惚れちまうんだからタチがわるいですね」
「俺にも好みくらいあるわ! ……まぁいいか、さあ大人しくっていたたたたたたた!」
「……退路が無い? 好都合だ」
 何処からか取り出した【機関銃】をリブロが構える。
「最初から引く気など無いからな……吐いてもらうぞ、色々とな。行くぞレノア!」
「はっ!」
 レノアが【バスタードソード】を構える。
「「ぎゃあああああああ!」」
 シャルロッテとシェリオが悲鳴を上げる。
「あ、秋ちゃん助けてです! このアマっ娘達マジです! 殺る気満々です!」
 シャルロッテが秋羽に泣きつく。シェリオは既に半分死にかけだ。
「そうか……仕方ないな」
入り口の炎を消すと、秋羽は捕獲した白竜達を引っ張って駆け出す。
「逃げるのか!?」
「こっちはやりあう気は無いんでね……では失礼」
「待て!」
 リブロが機関銃を撃つが、秋羽はそれを避けつつ体育館から出て行く。
「……ちぃッ!」
 悔しそうに、舌打ちする音が体育館に響いた。

――倉庫。

「……で、何時まで隠れているのよ」
 跳び箱の中で亜衣が声を潜めて言う。
「居なくなるまでだろ……」
 ハインリヒも声を潜めて言った。
 2人が今居るのは倉庫の跳び箱の中だ。現れた玲奈の目を盗み、咄嗟に入り込んだのだ。
「あーもう、最悪……どうしてこんなとこに一緒に入らなきゃならないのよ……」
 うんざりしたように亜衣が呟く。
「仕方ないだろ……よっと」
 外の様子を確認しようと、ハインリヒが動いた。
「ちょっと! 何処触ってるのよ!」
「さ、触ってない! 断じて触ってないから!」
「ドサクサに紛れて変な事する気なんでしょ!? いい、もしそんなことしたらブッ飛ばし――」
「みーつけたー」
「「あ」」
 跳び箱の一段目を開けた玲奈が、笑顔で2人を見ていた。

「と、いうわけでペナルティタイムの始まりー!」
 そう言うと、玲奈は手に【ねこぱんち】をはめる。
「そぉーれ!」
 そして掛け声と共にまずクローラを殴った。
「う……な、なんだこのふにゃふにゃしたのは……」
 殴られているのに、クローラの顔が綻びだす。
「ほぉら殴られて喜んでるの? ねぇどんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち!?」
 そんなクローラを見て、悦に浸る玲奈。
「さて、次は誰にしようかにゃー……」
 そう言って、玲奈はグローブを構える。

「……俺、あっちの方が良かったな」
「奇遇ですね、私もですよ」
 羅儀と白竜が、殴られて悶えるハインリヒを見て呟いた。
「ってか、何でこっちだけこんな拷問みたいなんだよ……!」
 忌々しそうに羅儀は自分の足に乗っている石像を見る。秋羽のペナルティは【膝に石像を乗せて正座1時間】というものだった。
「耐えましょう……油断していた我々が悪いんですから」
 苦痛に顔を歪めながら、白竜が言う。
「し、しかしだな……」
「まだまだ余裕ありそうだな。シャルロッテ、シェリオ」
「余裕なわけねぇ……ってぐおぉぉぉぉぉ!」
 羅儀の石像の上にシャルロッテとシェリオが乗る。
「苦痛に歪む顔は見ていていい物です」
「男なのが残念だがな」
「ぐおぉぉぉ……好き勝手言いやがって……あ、後どんくらいあるんだよ……」
「後30分くらいだな」
「や、やってられぐおぉぉぉぉぉ!」
 この後、約30分にわたり羅儀は苦痛の声を上げ続けた。